34. あいつを倒せ!
「ストライク!」
キャッチャーを務めるタツミの声が辺りに響く。
草原でしーちゃんとウォーセと共にボール遊びをしていたらタツノが参戦し、それを見ていたとっつぁんも混ざり、暇そうにしていたタツミを引き入れてと、段々野球のように変化していった訳なんだけど……。
ピッチャーを務めるタツノの変化球、ちょっと強力過ぎやしませんかね? もうすでにストライクは五回目、ボールを捕ろうと待ちかまえているモンスター達も少し寂しそうなんだけど。
このままでは埒があかなそうだし、少し細工をしてみよう。まぁ、細工と言っても念動力で操作するだけなんだけどね。
あのボールはログハウスに付いてる物で一応私の所有物の筈だし、念動力の操作対象についてはいまいち分からないけど何とかなると思うの。
なので実践ターイム!
タツノの投げる鋭いフォークボールを打ちやすい位置へと動かすように念じ、バットを振り抜く!
するとどうでしょう。放たれた長打は放物線を描き、待ちに待ったという勢いで駆け出すしーちゃんとウォーセが元気に追いかけていく。
対してとっつぁんは、こっちに来なかったと残念そう。次はちゃんと狙ってあげるからね。
「それは禁止じゃ! 代われ、妾が打つ」
流石に渾身のフォークボールを妨害されたのは悔しかったらしく、あえなくバッター交代となりました。
まぁ、一球位は念動力で翻弄しちゃおうかな。やりすぎると逆鱗に触れちゃうから一回だけ、ね。
そんな一回だけど決めつつも何度かやってしまい、じゃれ合いつつも昼まで野球を楽しみ、昼食を取った後は宇宙ステージで一日中採掘の時間。
サクラとヨーナはオリハルコン担当で、既にダンジョンから帰った後から向かい掘り続けている。
今の内に、分担して当面困らない分の素材を確保してしまおうという作戦なのです。
そんな訳で、しーちゃんを抱いたタツノとタツミ、そしてフィナという護衛を引き連れて昨日と同じ要領で採掘を進めていく。
ただ、それだけでは当然飽きてくるので、今の段階で龍星を倒せないかと考えてみることに。
一番の問題は火力不足だけど、これは時間を掛ければ何とかなるんじゃないかと思う。ただ、新たな問題である消費MPが出てくるけどね。
手持ちのMPポーションの回復量は1000で、これはトヤマさんがハイパー合成君を駆使して作り上げたものなの。
数は五つしかなく、試しに鬼ヶ島で使った限界までMPを消費する剣に炎を纏わせる魔法、言わば魔法剣を試してみても龍星は倒しきる事は出来なかったし、最低消費でも当然無理。
だから五つで足りるか不安なんだよね。はぁ、飛行魔法や神速通を併用する分、MP負担が多いこと。
そこで思いついたのが、岩に突撃させて自滅させる作戦!
これは、タツノの流れ弾が岩を破壊出来ていなかったのを見つけた事と、地面に潜れることからオブジェクトなんかに攻撃判定があるんじゃないかとの仮定から立てたものなの。
岩に魔法を纏わせる事が出来れば更に完璧。
これをやるには先ず、岩を集めることが大事だね。無重力なのを良いことにタツミと協力し、採掘のついでに岩を押して場所を整えていく。
その際に試したけど、魔法を纏わせる事も成功。
龍星には魔法と物理を同時に与えることが大事なんだし、威力は最低値で構わないから消費はそれほどでもないのが良いよね。
もし一度で自滅しきれなくても、他の岩の方へ誘導すればいいだけ。でも、それだと私が囮になって神速通を頻繁に繰り返さなきゃならないだろうし、結局MPは計画的に、が大事なのです。
「準備は出来たかの」
「うん、やってみるよ」
「ふふ、お手並み拝見じゃ。ああ、突撃を受けようとは思わんことじゃ、あれは物理だけの攻撃ではないからのう」
「頑張って下さいね」
《がんばってね! おうえんしてる!》
なる程、回避をミスったらお陀仏ってことだね。是が非でも避けなきゃいけないのか、って言っても、もとより当たらないように慎重に行動するつもりだしね。だって怖いし。
それより、大事なのはフィナが掲げる看板だ。ついにフィナがデレた! これは頑張らねば。
そう気合いが入ったのが良かったのか、作戦はひとまず成功と言えるかな。
岩に激突した龍星はダメージが入ったのか、体を震わせ少しの時間動きを止めていたもん。でも、焦って攻撃を仕掛けるのはダメだよね。
神速通を使わず、岩がビリヤードのように散らばらないよう気を付けながら誘導を繰り返し、着実にダメージを与えていく。
私の動きに関しては【鬼の弟子】の称号のお陰か、ギリギリの回避も出来ているし、かなり順調に来ているはずだよね。
だけど、一つ問題があった。
ブレス攻撃を忘れていた所為で、折角集めた岩が吹き飛ばされてしまうことがあったの。
その岩の回避に神速通を使うことにもなってしまったし、忘れていた焦りからか突撃を避けるタイミングを外し、失敗かと思ったけど、ギリギリのところでタツノが救助に来てくれて事なきを得たと言うね。
はぁ、やはり戦いに焦りは禁物なのです。
「焦るな、お主のやり方は正しい。自信を持つのじゃ」
「ありがとう。うん、頑張るよ」
うむ、タツノのフォローが温かいよ。
その後、順調に攻撃を躱していき、十回目のブレスの後の突撃を自滅させた後に変化が起きた。龍星の攻撃方法がブレスのみになったのだ。
既に準備した岩もなくなり、誘導に神速通を使い始めていたためMPも心許ない。もうかれこれ一時間、飛行魔法だけで6000の消費だし、ここは一か八か一撃に賭けるしかないね。
ブレスを避けながらもMPポーションを五本飲み干し、残りの全MPを消費する形で炎の魔法剣を組む。
後は神速通で近づいて斬るだけだ。景気づけにテンション上げていこう!
「豪炎猛狐斬!」
炎を纏った刀の一撃は無事、龍星を光とする事が出来た。その直後に聞こえる、アナウンスと表示されるウィンドウ。
それは【コスモパワー】という称号の取得を知らせるものだった。
この称号の選択肢は二つ。戦闘時でもMP自然回復と、自らの攻撃が相手の特性に左右されないと言うもの。神速通の事を考えると悩みどころだけど、ここは後者でいこうか。
ドロップは龍の首の珠で、どんな代物かはよく分からない。でも、最初はテイムするしかなかったモンスターのドロップ品なのだし、記念品にしたいくらい感慨深いよ。
「よくやったのう。しかし、その名前は何とかならんのか?」
「恥ずかしくないですか?」
そう言われると恥ずかしいんだよ、決めたときは格好いいと思ったのに。はぁ、胸に飛び込んできたフィナをぎゅっと抱きしめよう。
もう二度と技名なんて叫ぶものか!
「称号の効果はあれを選んだのじゃろう? 少し待って試してみるが良い」
タツノにはお見通しのようだね。でも、うん。MPが回復しきったらやってみよう。それまでは採掘の続きだね。
ところがどっこい、採掘なんてしている場合じゃなくなってきたのですが!
そう興奮しながらもトドメの一撃。
これで三体目の龍星を倒せたのだけど、称号のお陰か物理攻撃でも十分に攻撃が通るから、ちゃんと戦闘している気がして楽しいんだよね。
それに龍星も強いだけあって楽に倒せる訳ではないから、戦闘訓練をしているようで、段々と神速通での戦い方が様になってきてる気がする。
まぁ、戦えているのはオリハルコン製の武器のお陰でもあるけどね。
それ故に段々と戦闘中も余裕ができてきた為、狐火の威力も調べてみようと色々と試した結果、単に近づいた時に与えるダメージよりも、突撃時にすれ違いざまに触れた時の方が明らかにダメージが多かった。
龍星が震える程だから間違いない。やっぱり、防衛用だからかな?
よし、気分も鰻登りだから後一体倒したら一度休憩にいこうかな。ふふっ、今日一日は付き合って貰うから、覚悟しておくように!
そんな訳でログハウスに戻り、記念にと思い先生作のショートケーキをホール丸ごと頂く。しかし、甘味ハンターには気を付けないといけない。あの目は怖いよ。
「あの称号を得たなら、どこへ行っても大丈夫ですね」
そんなドキドキと共にケーキを頬張っていると、先生から謎の太鼓判を押されてしまった。詳しくは笑顔で流されてしまったけど、厄介な特性を持った奴がいるんだろうね。
あ、あぁ。遂にハンターにケーキを奪われてしまった。てか気が付かない間にごっそりとなくなったんだけど。天井を見ても張り付いていなかったんだけど。
はぁ、でもなくなったのは仕方ないから休憩も終わりかな?
しかし、タツノはキボリをソファー代わりにクロを撫で回してるし、フィナとタツミは小豆とゲーム中。
それならせめてゲームが終わるまでは休憩で良いかと、草原のモンスターの様子を見に外へ出てみる。
すると目にはいるのは、堆く積み重なったモンスターの塔。
一番大きなジープを土台にキング、ウォーセ、とっつぁん、ベイ、彗星号、ビッグの順だ。イースはジープのモコモコの中に閉じ込められているんだろうなぁ。
でもさ、頂点にいるビッグが鳳凰のように翼を広げているのは飛び立ちたい年頃だからだろうか? あの大きさで彗星号の上に片足立ちしているのは凄いけど、どうせモンスターから落ちない仕様だから感動はないよ。
それより、土台となってるジープの頭の上でしーちゃんとアトが誇らしげに立っているのが可愛い。
でもこれ、他のプレイヤーが見たらなんて思うんだろう? いや、手遅れか。この子たち積み重なるの好きみたいだし。サクラは掲示板でこのことを知ってるんだろうなぁ。
少し、ジープの上で癒されようかな。この後は夕食の休憩以外はずっと採掘と、龍星の相手だしね。
うん、当面の楽のため、戦いを楽しみながら頑張ろう。
「「ズルい! 私も行く!」」
夕食後、ログインしてみると二人が休憩していた為、龍星との話をしてみた。すると、二人も取りたがった為、私が代わりにオリハルコンの採掘へ行くことに。
神速通なしで大丈夫かな? まぁ、何かあったらタツノが何とかしてくれるか。