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31. 初めての真剣勝負

 ログインした時、一瞬ここは何処なんだと思ってしまったよ。こんなに豪華な部屋に泊まることなんて、普通じゃ考えられないしね。

 

 今この部屋にいるのは私以外にはサクラとタツノの二人だけで、おそらくヨーナはもうすぐログインしてくると思う。


 そしてトヤマさんと小豆の二人は、チェスをしている二人によるとカジノへ行ったらしい。


 トヤマさんは昨日のことを吹っ切れたみたいでなによりだよ。

 

 よし、それなら後はヨーナを待って何をするかを決めるだけだし、とりあえずルームサービスで朝食を頼もう。


 和食、洋食、中華とよりどりみどりだけど、ここはハンバーガーだね。多分、本場だし。


「二人は今日一日、ここにいるそうですわ」

「そっか、私達はどうしようかな?」

「お主はよく食べるのう」


 本場のハンバーガーがここまで大きいとは思わなかったけどね。でも、美味しいから大丈夫。コーラも欲しいかもだけど。


 そして、食べ終わった頃にログインして来たヨーナに何をしたいか聞いてみると、真面目に戦闘がしたいみたい。


「今どのくらい戦えるか知りたいんだよ。出来れば心躍る戦いがしたいぜ」

「タツノ任せの人が言うことじゃないよ」

「そうですわね。まぁ、そんなに戦闘がしたいのなら、鬼ヶ島が良いんじゃなくて?」


 きっと何かに影響を受けてそんな事を言っているんだろうけど、何かと戦っても一回で満足しちゃう気がするよ。


 しかし、そんなヨーナの期待に応えられる場所が鬼ヶ島だそう。其処は鬼との一対一の勝負が出来るところで、鬼の強さはプレイヤーの強さによって変わるらしい。


 まさに力試しにはぴったりの所だね。自分が強くなれば、相手も変化してずっと楽しめる訳だ。


「お供は違うが鬼退治には人数がピッタリだし、良いかもな」


 桃太郎ポジションはきっとタツノだよね。一番強いし。


 そんな訳で向かうことが決まった鬼ヶ島なんだけど、それは各地に何ヶ所かあるそう。それで何処にしようかと悩んだ結果、どうせならとオカヤマ領に行くことに。


 一旦ログハウスへ戻ったら玄関を出てキービの街へ向かい、其処でお土産の意味も込めて吉備団子を買い、歩いて鬼ヶ島へ向かう。


 およそ四時間の歩き旅だけど、気分はまるで鬼退治の旅である。

 

 しかし、同じ気持ちでいたヨーナも一時間程経った頃にバテ始め、元気なのは最初からプカプカ浮いていたサクラと、タツノに抱えられている私だけ。


 鬼退治って楽じゃないんだね。


 てか、道行く人の視線が痛いから抱き抱えるのはやめてほしいんだけどなぁ。何で生け贄にクロを連れてきたのに、私を抱えるのかと。


「クロでは尻尾のボリュームが足りん」


 人選ミスでした。


 そんなそれぞれに苦しい道中を経て鬼ヶ島に着いた後、ひとまず昼食を挟んでから受付へ。鬼ヶ島って名前だけど、此処は大きな城があるだけみたい。


 城の一階が受付になっていて、そこから石畳が円形敷かれた舞台のあるフィールドへと移動できる仕様だそうで、受付の前にはそれなりの列が出来ているものの、流れは意外と速い。


 これならそんなに待たずに入れそうだね。


「いらっしゃいませ。団体戦でしょうか?」

「個人戦、同じフィールドでお願いしますわ」

「畏まりました。では、そちらの扉がフィールドへと繋がっております。相手は舞台の中央へ立つと現れ、その後開始のブザーが鳴るようになっております。制限時間等はありませんので、存分にお楽しみ下さい」


 そう受付の人に指示された扉を開けて入ってみると、其処は草原に石畳の舞台があるだけのシンプルなものだった。


 舞台があるといっても、そこから落ちたら負けなんてルールは無い。でも、草原よりは戦いやすいからってだけなんだそう。


「先ずはヨーナからだよね?」

「いや、アオイから行け」

「様子見するんですわね?」


 全く、あんなに張り切ってた割に慎重にはなるんだね。まぁ、いいか。戦闘となればタツノも放してくれるし。


「なるべく早く終わらせるのじゃぞ」

「なる程、時間を稼げばいいのか」


 そう言った直後、頬を光弾が掠めていった。怖いよ、どんだけモフモフ好きなのさ。


 これは早く終わらせないと後が怖い。そう思い駆け足で舞台の中央へ行くと、髪を後ろで纏め、着流しを着た美女が現れた。


 額に生える角と左目の傷が鬼らしい感じをだしているけど、胸元と足がセクシーでそこにしか目がいかないよ。


「神速通の使い手か、なかなか楽しい戦いになりそうだ」


 私の個人情報の行方が気になるね。そんなにモンスターの間では有名なのかな?


 そして聞こえるブザーの音。神速通で距離をとると、私の居た場所に振るわれる炎を纏った太刀。いくら物理攻撃無効だからってあれは無理だよ。


「やはり、厄介だな!」


 一瞬で詰められる間合いを再び、神速通で広げるものの、直ぐに詰められる。これじゃ鼬ごっこだ。


 ひとまず狐火を出して牽制、っと。


「甘いっ!」


 ああっ!? 狐火が消されちゃったよ。って言うか念動力も使えないみたいで、取り出した短刀は地に落ちるだけで何も反応しない。


 遠距離魔法は使えるみたいだけど、素早い動きで避けられるか、斬り伏せられてお終いだ。


 分身を出そうにも、本体と同時に動かせる程使いこなせてない以上、危険すぎる。


 かといってあの鬼と切り結ぶにしても、太刀を振るうスピードが早く対応出来そうもない。何か時間を稼いで新しい魔法を組んだ方がいいかな?


「逃げるだけか!」


 確実に追いすがり太刀を振るわれる現状、神速通を使い続けるのもきついよね。MPだって当然有限なのだし、背後に回っても見えているかのように振り返り太刀が迫る。


 対応出来そうな魔法を組もうにも神速通なしじゃ時間稼ぎも……、ん? 神速通、神足通か! やってみよう!


「馬鹿の一つ覚えに神速通か! 後ろ……、居ないだとっ!?」


 こちら現場のアオイです。只今、地面の中にいます。神速通を目くらましにして潜ってみました。千里眼を使えば相手も見えるし、これは便利だね。

 

 いやぁ、透き通るような物理攻撃無効なら、サンドゴーレムの時の魔法で行けると思ったら、ホントに行けたよ。


 この異常な状況が攻撃と見なされてるってことなのかな? それとも空狐故か、神速通の隠れた効果か。でも、これなら!


「なぁ!?」


 テイムしちゃいました。こう、足の裏にぴとっとテイム石当てて。名前は師匠にしよう。ふふん、師匠の稽古で私も一人前の剣豪になるのだ!


「お前、何やってんだよ」

「剣術の師匠をゲットしました」

「戦いを楽しみにしていた鬼が可哀想ですわ」


 あ、そう言えばとても張り切っていたし、なにより楽しそうにしていたもんね。えっと、なんだか出すのが怖くなってきた。


 しかし、何時までも出さないと言うわけにもいかないだろうし、覚悟を決めるしかないかぁ。


「酒を所望する」


 そしてヨーナが熱戦を繰り広げる中、勇気を振り絞って師匠を出してみる。


 するとあぐらをかいて腕を組み、顔を背けてツンとした感じで出現し、開口一番に未成年の私に対して酒を要求して来たというね。


 やっぱり鬼ってお酒が好きなんだね。って、そうじゃないよ。やっぱり怒ってるっぽいなぁ。


「仕方ない、妾の酒をくれてやるか」

「お、サンキュー! いやぁ、野良だと酒なんて飲めないからな、テイム様々だ」


 あら、一瞬でご機嫌になった。いやいや、これ大丈夫? 一升瓶ラッパ飲みでもう飲み干しちゃったけど。


 甘味狂いに酒飲みが追加か、肴を要求するようなら先生が倒れるかもしれないね。


「いや、何でタツノはお酒なんて持ってるの?」

「ホテルに売っておったのを買っておいたのじゃ。モンスターはゴトーで酒が買えるからのう。ああ、お主等には飲ませんから安心すると良い」


 そんな設定があったんだね。残念なんて思わないよ、ホントだよ? 


 昨日、トヤマさんがかなり飲んでいたために大量に買い込み、その残った分がまだその分が大量にあるらしい。


 まぁそれは師匠に全部上げれば良いんだろうけどさ、トヤマさんはそれに甘えて飲みまくっていただけだと思うよ?


 あ、そうだ。そんなお酒事情よりも、師匠には聞いておかなければならないことがあったんだ。


「ねぇねぇ、師匠。何で狐火消されたの?」

「このフィールドでは、滞空する魔法なんかは使えないんだ。空だって飛べない。運営の奴らはプレイヤーを驚かせたくて黙ってるのさ。酷いだろ?」


 うん、酷い。何だって体感させれば良いってもんじゃないよ。いや、どうせ聞かれなかったからってだけ何だろうなぁ。


「それで、稽古だったか。早速やるか」

「うん、お願いします。タツノ、離して」

「仕方ないのう、手早く済ますのじゃぞ」


 うんうん、テイムしたのもこれが目的であるのだから、ちゃんとやらないとね。だからタツノ、稽古に手早くもなにも無いと思う。


 そんな若干楽しみになっていた師匠の稽古は、驚くほどシンプルだった。


 ただ打ち合うだけで、これが稽古なのかな? と思ったものの、一時間程打ち合うと【鬼の弟子】という称号が手に入った。


 効果は武器の性能アップや、移動系の魔法の効果アップ等があったけど、その中で戦闘行動超アシストを選んだ。


 だって、超とか格好いいし。


「やっと終わりか? もう私達帰りたいんだけど」

「タツノさんの目が険しいですわよ」

「もうちょっと待って!」


 流石に一時間は長かったらしく、十分なほど戦闘を堪能した二人から催促が来てしまった。


 タツノの目も険しくなっているし、私も早く帰ってぬーちゃんを身代わりにしないとこの身がとても危ない。


 それでもやりたいことがあるので、慌てて刀に炎を纏わせる魔法をもう一つ組んでおく。威力を最大限に上げるのだ。


 舞台に上がり中央に行くと、今度現れたのは二本の刀を持ったマッチョな男の鬼だった。


 喋る事もせず静かにブザーを待ち、鳴った瞬間に神速通で背後に回り、炎を纏わせた刀を鬼へと振るうと、一撃で光となっていく。


 うん、これが超アシストの効果かな。刀を振る速度が速くなったかもだし、この分だと戦闘に関する動作が速くなっているのかも。


「稽古の意味ありましたの?」

「あったよ。二人も稽古してもらうと良いかも」

「帰ったらな。甘いもんでも食いたいから早く帰ろうぜ」


 うんうん、甘い物は食べたいよね。がっちりと尻尾を掴んで離さないタツノから、現実逃避もしたいところだし。


 私達がのんびりしてる間、師匠にお金を渡して好きなお酒でも買ってきてもらおうかな? 好きなものを選んでもらった方が良いもんね。


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