29. 出費がかさむ
「探検がしたい」
「ヨーナさんも懲りないですわね」
今日も型抜きへ挑戦しにいくジーヌを送りだした後、ログインして来たヨーナが懲りずにそう言い出した。
寝ぼけているだけかもしれないので、とりあえずコーヒーを勧めておこう。
「先生ありがと。やっぱり探検は洞窟だと思うんだよな、島なんか邪道だ」
「負け惜しみ過ぎるよ」
「でも、良いところがありますわ。竜ヶ岩洞で隠しダンジョンが見つかったそうですのよ」
へぇ、それってなんだかドラゴンがボスとして出てきそうなダンジョンだよね。しかし、実際は出ると言うより入る為のものみたい。
何でも普段は普通の洞窟なんだけど、ドラゴンを連れて入ることで、中身が変わってダンジョンになるんだとか。
私以外にもドラゴンメイドを孵した人がいたそうで、その人が発見したらしいの。
鍾乳洞デートと洒落込んで中へ入ったら、モンスターに襲われて酷い目に遭ったとも言われているそんなんだけど……。
そういう話を聞くとどうしても、お化け屋敷で女の子を見捨てて真っ先に逃げる男みたいなのを想像してしまうよ。
「うーん、行くのは良いけど、ジーヌは祭り村行っちゃったよ?」
ドラゴンが必要というなら、ジーヌの存在は欠かせない。サクラとヨーナはまだドラゴンを持っていないしね。
となると呼び戻さないと駄目かな? あの子、今日は出来そう! なんて結構張り切ってたし、出かけて直ぐに呼び戻すと言うのはちょっと気が引けるのだけど。
「タツノで良いんじゃないですの?」
いやまぁ、たしかにタツノも龍なんだよね。進化して種族は竜神に変わってしまったけど。
でも、ドラゴンと竜神が同じ扱いになるかは分からないけど目的はあくまで探検だし、別にダンジョンに入れなくても支障はないか。
「んじゃ、早速行くか! 未知なる探検が私を待っているぜ!」
「待ってよ、先ずは私がトートミの街まで行ってくるから」
行くと決まれば早速行動。と、その前に玄関から近場の街へ行けるようにしておかないとね。
このままタツノに馬車を持ってもらって移動するのも良いだろうけど、洞窟探検にどのくらいの時間がかかるか分からないし、多少はショートカットしておきたいもんね。
そうしてやってきた竜ヶ岩洞には、熱気渦巻く集団がいた。
その人達に共通することは、皆それぞれドラゴンメイドを連れているところ。近寄ってみると、娘自慢の親みたいな言動も聞こえてくるから、関わらない方が良さそうかも。
だって、メイドは俺の嫁なんて謎のフレーズも聞こえてくるんだもん。
あの子達はあくまでドラゴンメイドだよ? ご奉仕するにゃんのメイドじゃないんだよ?
「ジーヌ、連れてこなくて良かったな」
「そうだね、私はあの中に混ざりたくないよ」
「洞窟へ行く人もいなさそうですし、早く行きますわよ」
そんな怪しい集団の脇を通り抜け、洞窟へと入ったら真っ先にタツノにあるものを渡す。
あの時の学習からタツノをフリーにさせてはいけないと思い、生け贄としてぬーちゃんとウォーセを連れてきたからね。
早速ぬーちゃんを胸に抱え、片手でウォーセの頭を撫でるタツノは幸せそうで、私の心もハッピーだよ。
そんな笑顔溢れそうな私と違い、今回足になってくれたフィナは少し寂しそう。
サクラとヨーナが連れてきた馬達は、流石に洞窟内は動き回れないからと、石に戻されてしまったからね。
馬仲間の代わりにはなれないけど、気休め程度にはなると思うから、手を繋いでおこう。
そうして各々が歩く体勢をつくり、のんびりと洞窟内を歩いていくと、岩肌が剥き出しだった壁が次第にクリスタルに覆われていき、どこか幻想的な雰囲気を醸し出してきた。
広さもなかなかあり、ゴーレムでなら楽に動けそう。馬は歩かせるだけなら大丈夫かな? 乗るとなると、武器なんかは振り回したりは出来なさそう。
「嫌な予感がするな」
そんな環境の変化から何かを感じ取ったのか、そうヨーナが呟くと同時に聞こえてくる、地響きとも思えそうな大きな足音。
その音に身構えていると、前方に見えた曲がり角からクリスタルでできたゴーレムがひょこっと顔を出した。
「あやつは魔法を倍増して跳ね返してくるでの。気を付けると良い。ああ、打撃しか効かぬからそれもな」
「ゴーレムとゴーレムって融合進化できる?」
「いや、それは出来ぬ。だが、テイムするなら妾を与えると良い。あやつなら譲ってくれるだろう」
なる程。うん、見るからに気が弱そうだし、タツノが主導権をとるのも簡単なんだろうね。よし、ならばテイムだ。
便利な神速通でサクッとテイムし、クーちゃんと名付けたその子にタツノを戻したテイム石を渡す。
するとゴーレムはグニグニと動き出し、透き通るような綺麗な青色の髪をしたタツノの姿になった。
名前は変更出来るみたいだけど、そのままタツノでいいかな。やっぱり、分裂するような融合進化だと名前の変更はなくなるみたいだね。
「うむ、やはり話が分かる奴であった」
「この戦力なら、アオイは魔王にだってなれそうだよな」
「世界の半分を下さいな」
それは違うと思うよ。
そんな探検らしさもない緩い会話を続けながらも先へと進み、昼休憩の後も再び探索。
ダンジョンは一本道の割にかなりの長さがあるようで、たまに見かける素材に使えるクリスタルを採取していたこともあり、昼までに奥まで行くことが出来なかった。
「飽きてきたな」
「なら、戦闘でもしたらどうですの?」
うん、歩くだけだと単調だもんね。でも、戦闘はタツノとフィナ任せていれば私達の出る幕なんて一切なし。
何でもタツノの光弾は打撃と魔法の合わせ技みたいなものらしく、それなら跳ね返されることはないみたい。
龍星を取り込んだフィナも同じことが出来るのだから、襲い来るクリスタルゴーレムは最早オーバーキル状態。
だから飽きてしまってもしょうがないのだ。かといって、戦うにしても私達は打撃武器なんて持ってないからね。
「ヨーナの大剣で殴れないの?」
「剣士のやることじゃねーよ」
いや、なんなのその謎の拘りは。意外とロールプレイでもやっているのかな?
「タツノさん、後どれ位掛かるか知ってますの?」
「このペースなら、夜になるのではないかのう」
「えっ!? えー、じゃあもう帰ろうよ」
「駄目だ。探検に後退は許されないぞ」
どの口がそんな事を言うのだろうか。あれか、昨日のが悔しかったのか。
だから、今日はどうしても完走したいんだね。
しかし、いくら称号のお陰で疲れにくくなっているといっても、歩き続けるのはさすがにしんどいから、フィナに馬モードになってもらって三人共乗せてもらうことに。
最早採取は諦め、移動に全てを懸ける所存。
タツノもウォーセに跨がり、ぬーちゃんを抱きしめてリラックスモードになっているけど、戦闘するのは忘れないでね?
「そうだ、どうせ暇だし誰が一番早くチャンピオン倒せるか、勝負しよーぜ」
「良いですわね。負けた人には明日、アオイの家で昼食を奢ってもらうと言うことで」
「絶対負けないからね!」
なんて言うか、車での旅行の移動時間みたいだよね。でも、ヨーナの言うとおり暇ではあるし、フィナには悪いけど息ぬきさせて貰おうか。
うん、だから集中して頑張ろう。きっと二人は高いものを頼む上に、デザートもドリンクも付けてくるからね。負けられないよ!
そんな負けられない戦いも夕食までもつれ込むことはなく、裏技を駆使したサクラとヨーナの勝利で終わった。
どうやら真剣勝負だと思っていたのは私だけみたい。なので、腹いせに嘘泣きしたらフィナが二人を滑り台のように落としてくれて、私は満足です。
それ以来ゲームは止めてのんびりと無駄話をしながら進んでいき、途中で夕食のためにログアウトしつつもひたすら地道に進んでいく。
そして、そろそろ眠くなってきたという頃、漸くゴールであろう広い空間まで辿り着いた。
その空間の中央には、クリスタルで出来たドラゴンが鎮座し、こちらの出方を窺っているように見える。あれには社員さんは入ってないのかな?
「あれはただのボスモンスターじゃ。存分に攻撃すると良い」
「攻撃効くのか?」
「打撃ならのう」
「じゃあ、よろしく」
諦めるのが早すぎるよ、ヨーナさん。
でも、攻撃手段が無いのも確かだしね。タツノの光弾みたいな魔法が組めれば良いんだけど、魔法に打撃効果を付けるなんて無理だったしさ。
うちのモンスターが便利なのが悪いのです!
「テイムしなくていいんですの?」
「ドラゴンはもういいかな。やっぱり可愛い子が欲しいし」
そんな事を言ってみたら、あからさまにドラゴンがガッカリしているのが目に入った。分かりやすくため息も付いてるし、もしかして此処にいるのが嫌なのかな?
そんな事はどうでもいいとばかりにタツノが攻撃を仕掛けようとした時、急にドラゴンが輝きだしたかと思えば、人型となってこちらにダッシュし、スライディング土下座をしてきた。
この展開に、私の頭はついて行けそうにないのだけど。ただでさえ眠気も襲ってきているのにさ。
「御願いします! どうかテイムして下さい。お噂はかねがね聞いております。どうか温かい生活を下さい。暇なんです。こんな長いダンジョンのせいで人が来ないんです。何でもします。宝箱もあげますからなんとか!」
噂って何さ。いや、それより青い鎧をまとった長い青髪の女性が目の前で土下座しているこの光景。
「私は、どういう顔で見ればいいんだろう」
「笑って下さって結構です!」
「この人必死だな」
うん、必死過ぎて流石に可哀想になってきた。
仕方なく、顔を上げて此処がテイムポイントだとアピールする喉元にテイム石を押し当て、ボスにあるまじきあっさり加減でテイム完了。
名前はタツミで良いかな。早速出してみると、まだ土下座をしていたのがなんだか切ない。
「有り難うございます! 宝箱は中央にありますのでどうぞお開け下さい」
「ふむ、妾の召使いに良いかもしれぬのう」
「ほどほどにしてあげてね」
うん、ドラゴンのことは竜神様に任せとけばいいし、私達は早速宝箱を開けてみよう。
《アギトの大剣を入手いたしました》
そうして開いた宝箱に入っていたのは、一振りの大剣だった。
アイテムボックスから取り出して見てみると、それは水晶で出来た綺麗な大剣で、敵に振るうと噛みつくようにもう一つの斬撃が発生する他、大剣を自分の意志で砕くと、牙のような破片となり自由に操れるようになるという効果があるみたい。
「砕いた後元に戻るんですの?」
「戻るみたいだよ。ヨーナにあげるね」
「サンキュー!」
この中身を見てふと思ったけど、宝箱って開けるグループで中身が変わったりするのかな? 丁度良いように使用武器が揃ったんだけど。
こうなると、次に開ける時は何があるか楽しみになってきたよ。武器の次はやっぱり防具かな?
さて、用も済んだのだし戻るとしようかな。だからウォーセ、土下座する人の頭に足を乗せるのは止めようね。
「いえ、肉球の感じが気持ちよくて良いですよ」
このドラゴンも特殊なのかもしれない。
そんなおかしな場所で肉球の感触を楽しむ人型ドラゴンを連れてログハウスに戻ると、いつも料理をしている先生が居おらず、その代わりにミスノが小豆と共にゲームを楽しんでいる珍しい姿があった。
「ああ、お帰り。先生なら買い物に出ているぞ。何でも、お菓子作りの材料が無くなったそうだ。金を換金すると言伝を預かっている」
なる程。よく見ると、ミスノの膝の上には原因が精気の抜けた顔でぐったりとしているね。
もちの甘いもの好きも、此処までくると甘くは見れないか。はぁ、こうなったらお金も家屋メニューの方に入れといた方が良いかもしれないね。




