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28. 翻弄される人

「探検に行きたい」

「ヨーナさんどうしましたの、いきなり?」

「あ、昨日のテレビ見たんだ」


 朝からラーメン、朝ラーを楽しんでいた時、リビングへとやってきたヨーナは目を輝かせ、うきうきした様子で言い放った。

 

 そう言えば昨日、特番で探検隊ものがやってたんだよね。私はその時、泥のように眠ってたから見てないけど。


 そんな私と違い、バッチリと見たらしいヨーナはその勇姿に感化されたのか、どこへか分からないけど行く気満々。


 こうなったら梃子でも動かないだろうから、早速準備に取りかかろうか。


「とりあえず、先ずは北を攻めようと思う。礼文島だな」


 なる程。裏を読むならば、もし気温という物が実装されたときの為に、快適に動ける今の内に北の地を攻略しようと言うわけですな。

 

 でも、島という物は探検するには良いかもね。このゲームでの島は基本、未開の地なのだし、草木が生い茂って探検をするにはもってこいなのだ。

 

 あ、そうだ。やっぱりお弁当は必要だよね。先生に用意してもらおう。


「ヨーナ隊長、おやつはいくらまで?」

「一億ぐらいで買っとけよ」

「やめて、もちの目が輝いてるから」


 いくら冗談でもその返しは危険だよ。そんなに買わないと言ったら落ち込んでしまったもちには、何かお土産を買ってこようか。


 島にお土産屋さんはないと思うけど。


「熊避けスプレーはありますの?」

「無いだろ。どーせ、鍋にするからいらねーよ」

「シャケベアー倒せるの?」

「タツノを連れて行くか」


 うむ、探検にはコーディネーターと言う名の用心棒は欠かせないからね。タツノの参戦は必須と言えよう。


 でも、既に安全な道中になりそうなこれは、探検と呼んでも良いのだろうか?


 そんな疑問をぶつける無粋なことはせず、準備も整い、草原で遊ぶジーヌを呼び寄せいざ出発。


 ジーヌが言うには一時間もあれば着くのだそうだけど、それは流石に速すぎない? まぁ、深く考えるのは止めておこうか。


 でも、それでは旅の醍醐味もないので、昼頃に着くようにしてもらうかな。折角お弁当を用意してもらったんだし、島から眺める景色を堪能しながら食べたいからね。


 そして、もう一つの醍醐味である移動時間。馬車の中では、弁当争奪四時間耐久しりとり大会を行ってみた。


 先生に作って貰ったお弁当は数種類あるから提案してみたんだけど、しりとりとしたのは失敗だったかな。


 なんせ、AIの知識量は凄すぎるのだもの。


「だからってさ、ネットを見ながらやるのはどうなんだ?」

「しりとりの限界が見たいのです」

「知識の限界が浅いのですわね」


 それは言わないでいただきたい。


 結局狙っていた一つだけある焼き肉弁当はタツノに奪われ、唐揚げ弁当もジーヌの物となり、悔しい醍醐味を噛み締めながら辿り着いた北の果ての島。


 その一番高い山の山頂に着陸し、祭り村で遊んでくると凄い勢いで去っていくジーヌを見送り、お昼のためにログアウト。


 この後はお楽しみのお弁当タイムだから、お昼は軽くカップ麺。勿論、タツノを待たせないようにって理由もあるけどね。


「お前、飯食った後に良く食えるよな」

「VRは別腹」

「まぁ、お腹に入ってる訳ではありませんものね」


 一足先にログインした私に掛けられる声に返しつつも、目の前に広がる空と海、そして緑のコントラストを楽しみながらタツノと食べるお弁当タイムも終了。


 いやー、尻尾を代償にお弁当を交換してもらえたのは良かったよ。うん、良かったんだけど……、端からこれを狙っていたわけではないのだよね?


 そんな疑問には答えず、森の中へと歩き出すタツノを追い掛け探検開始。二人が食べなかったお弁当は後で美味しく頂こう。


 遭遇するモンスターは、先導する事に一瞬で飽きて私の尻尾を抱きしめながら歩くタツノに任せるとして、先ずは下山をする事を目的にてくてくと歩き続ける。


「どこに行きますの?」

「先ずは湖を目指す。北の方にあったはずだ」

「ところで、探検って何するの?」

「知らん」


 それが言い出しっぺの発する言葉かい? てか最早これってハイキングだよね? 戦闘すらしてないんだし。


 そんな道中、木々の間に咲き誇る綺麗な花に見とれながらも、たまに見かける素材を採集しながら進んでく。


 ヨーナはシリアスな表情を作ってるけど、モンスターはタツノが見つける度に倒していってるし、逆に間抜けに見えるよ、それ。


 あっ、木の陰になんかいる。


「がぁおぉぉぉっ!」

「「ぎゃぁぁぁ!?」」

「あら、原住民ですわ」


 び、ビックリしたよ、急に現れた存在に、と言うよりも急にヨーナが抱きついてくるから。


 そんな驚きの原因を作ったのは、顔だけだした熊の着ぐるみを着た男。

 

 そして着ぐるみ男はこちらが驚いたのに満足したのか、直ぐに去っていった。いや、何だったの?


「な、何だったんだよ、あいつ」

「原住民ですわ。現実で有人島の場合はいるんですの、アオイさんは八重山諸島に行ったとき、見ませんでしたの?」

「見なかったよ、あんなの」


 もしかしてこのドッキリ、この島にいる限り続くのかな?


「も、もう帰ろう。そうしよう」

「ヨーナさんこういうの苦手ですものね。でも、湖までは行きますわよ」

「探検するなんて言い出さなきゃ良かったのに」


 驚かされるのに弱いんだよね、ヨーナは。後ろから肩叩いただけでも、凄いビビりようだし。


 そのくせ、他の人が驚くのは好きなんだよなぁ。


「もっと安全に探検できるところは無いのか」

「島に来なければいいのですわ」


 そうは言いつつしっかりと湖へと足は進めるものの、ビクビクと辺りを警戒するヨーナが面白い。


 着陸する前、馬車から見てみても森ばっかりだったからね、原住民が隠れそうな所はいくらでもあるから仕方がないのです。


「なんでタツノは攻撃しないんだよ」

「人を攻撃しては駄目であろう?」


 うん、それは当たり前だよね。それに、やったら手痛いしっぺ返しが来ると思うよ。


 それはそうと、タツノにはそろそろ尻尾を放してもらいたい。歩きにくいのだけど。


「なら、こうすれば良いかの?」

「うわわ!? 抱っこはやめてよ!」


 そんな文句を言ってしまった所為なのか、子供のように片手に抱かれてしまった。


 いやいや、なんでこんな恥ずかしいことしなきゃならないのかって、うわっ、がっちりホールドされてる! お、降りられない。


「アオイちゃん疲れちゃったか?」

「アオイちゃん寝ててもよろしくてよ?」


 くそう。今だよ原住民さん、今が出てくるタイミングだよ! サクラも驚かすくらいの登場をどうかお願い致します!


「がぁおぉぉぉっ!」

「「ぎゃぁぁぁ!?」」


 私が恥ずかしさから俯いている間に、真上から逆さに降ってきたみたい。流石です、原住民さん。



 そんな風に何度か脅かされながらも、なんとか湖までやって来れたのだけど、まだ先住民の攻撃は終わらないみたい。


 なんせ、湖から人の両足が出てるからね。


「これは、どっちだ? 湖からか、それとも注意を向けておいて、別の場所からか」

「アオイさん出番ですわよ」

「駄目だ。妾は放さぬぞ」


 それは私にあの足を調べてこいってこと? でも残念、最早私に自由など無いのだ。タツノに抱きついていれば、驚くことはないと割り切ることも大事なのだ。


 あぁ、早く帰りたい。

 

 そんな中、自然と下がる目線に入る衝撃の光景。


「ぎゃぁぁぁ!? も、もう帰る!」

「な、なんですの? って、あぁ」


 地面から生えた手が、ヨーナの足首をがっちり掴んでいたのです。


 驚いたヨーナはもう限界だったのか、そのままログハウスに帰って行った。ピースサインをする手の主は、きっと満足したんだろう。


「私達も帰ろっか」

「そうですわね」


 はぁ、やっとこのホールドから解放されるよ。


 私達もログハウスに戻り、先生が淹れてくれた紅茶を飲みながらほっと一息つく。


 先に着いていたヨーナがソファーに倒れ伏し、見事にだらけきってるのを見るにさぞかし疲れたことだろう。


 これは、夕飯まで此処でのんびりしたほうが良いかもね。



 テレビゲームをのんびり楽しみ、夕飯も食べ終えログインしていた皆とこれから何をするか話し合ったところ、今も祭り村にいるらしいジーヌと合流する事に。


 先生に聞いたところ、あの子はよく祭り村に行っているらしいのだけど、一体何をしてるんだろう?


 そんな疑問を解消すべく、祭り村に行きジーヌを探し歩いていると、型抜きと書かれた屋台の店先にて、一心不乱に針を打ち込むジーヌを見つけた。


「これは、無理でしょ」

「あ、ご主人様。そうなんだよねぇ、でも挑戦しちゃうんだよ」


 そう言って、失敗したそれを食べ出すジーヌ。


 いやいや、座布団程のサイズもあって、竜の絵が描かれたそれは成功するのも食べきるのも大変そうだよ。


 屋台の奥には景品であろうゲームがずらりと並んでいるけど、ジーヌはそれが目当てと言う訳ではなく、ただ挑戦してるだけなんだそう。


「ジーヌも見つけたことですし、鬼ごっこをしてみませんこと?」


 そうサクラが提案する鬼ごっこは、樹海の中で鬼に追われながら目的地を目指すものみたい。


 ジーヌも気分転換をしたい様だし、肝心の景品は転移マーカーらしいからやって損はないかな。


 サクラも転移マーカーが欲しいそうで、少しでも移動を楽にしたいらしい。楽なのは良いけど、馬車がある意味がなくなりつつあるよね。


 そこは少し勿体ないと感じつつも、今は楽しむことが先決。


 三人を引き連れて冒険者ギルドへ向かい、受付でチームとして参加し、鬼ごっこ専用の樹海フィールドへと転移。


 視界の片隅には常に付近のマップが表示されていて、行くべき目的地も直ぐに分かる様になっているみたい。


「目的地に行くだけなら、アオイで一発だな」

「少し慎重になった方が良いですわよ」


 まぁ、サバゲーの時のように落とし穴があるかもしれないからね。それはそうと、何故サクラはヨーナに気付かれないよう、私にチラチラと視線を送ってるのだろうか?


 その理由に気が付く様子を見せない私に業を煮やしたのか、サクラがこっそりと指差す先を見てみると、鬼だろう人が木の陰からこちらを見て、人差し指を口に当てニッコリしていた。


 あぁ、あの人の顔は覚えているよ。島で最初に驚かしてきた人だ。


「そうか? じゃあ、様子見ながら歩いてみるか」

「ええ、それが良いですわ。さ、行きますわよアオイさん」


 多分、私は喋んない方が良いかもね。直ぐにぼろが出そう。ジーヌも察したみたいだから、ヨーナの後ろに着いて先へ進もう。


 あぁ、こっそり背後を確認すると、鬼もじわじわと近づいてきている。


 そして、遂にヨーナの背後まで忍び寄り、その肩に手を置き声を掛けた。


「わっ!」

「ぎゃぁぁぁ!?」

「「「あはははっ!!」」」


 そんな見事な驚きっぷりを見せたヨーナは、鬼に捕まったからかフィールドから消えていった。


「鬼がこんな事をしていいんですの?」

「いいのいいの、どうせこの子は神速通が使えるだろ? だったら趣味に走るさ」


 なんだ、神速通は使っても大丈夫なんだね。


 そんな愉快に笑いながら話すお兄さんは、学生時代の文化祭でお化け役をやって以降、人を驚かせるのが好きになったんだとか。迷惑な人だ。


「じゃあ、ゴールしていいよ」


 そんなお言葉に甘えて、目的地まで一っ飛び。


 勝利判定を受け冒険者ギルドに戻ると、其処には立ち尽くすヨーナの姿があった。


「お疲れ様、ヨーナ」

「なぁ、今日はもう温泉でゆっくりしようぜ」

「良いですわよ。あ、山小屋でボードゲームをするのも良いですわね」


 うんうん、のんびり疲れを癒すと良いよ。


 そんな訳で一度ログハウスに戻り、温泉に向かい浸かったまでは良かったものの、どんなネットワークなのかドラゴンにまで驚かせられた可哀想なヨーナさん。


 そんな涙ぐむ彼女を必死に励まそうとするドラゴンの姿には、申し訳ないけど思わず笑いそうになってしまったよ。


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