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26. 逃げられなかった!

 早朝、早起きした私はアイアンキンギョが金属を産み出すところを見てみようと、頭の上に太郎を乗せて水槽の前に張り付いて観察中です。


 尻尾に抱きつくタツノはいつか離すだろうから無視するとして、どんな風に産み出すのかな? 金魚の糞みたいに出されたらちょっと嫌なんだけど。

 

 そんな不安を感じる私と違い、アイアンキンギョを捕まえようと、水槽の前で動きを追ってるクロがとても可愛いのだけど。


 猫のこういう動きが犬にはないところだよね。でも、犬も良いけど猫もいい。結局はどちらも選ぶのがジャスティスなのです。


 そんな光景は見ていて飽きないけど、なんとなく手元が寂しいからと、頭の太郎を掴んでニギニギと握る。


 あぁ、このプニプニ感がたまらない。


 なんだかんだ太郎も嫌ではないらしく、最初の時のように首を振ることはないし、遠慮なんてすることなく堪能しきってくれようぞ。


 そんな癒やしを醸し出す此方とは違い、水槽の中ではある変化が起きていた。


 風邪でも引いたのかと不安になるほどにアイアンキンギョがブルブルと震え出すと、体から一枚の鱗が剥がれ、それがインゴットに変わっていった。


 うん、そんな産み方で良かったよ。


「銀が一つと、銅が四つですね」


 キッチンで料理をしていた先生も一段落ついたのか、産まれる瞬間を何時の間にか一緒に見ていた様で、そっと水槽に手を入れインゴットを回収してくれた。


「ありがとね」


 そうお礼を言うものの、ちょっと残念な気持ちもある。どうせなら、金やミスリルを産んで欲しかったなぁ、って。


 名前の如くバンバン産んでくれるのかと思っていたけど、現実はそう甘くはいかないらしい。


 甘い蜜でも啜りたいなぁ、と先生の作っていたパンケーキでも貰おうとしたとき、ふとあることを思いだした。


 そう言えば【成金】の称号、選べる効果の中に金の入手率アップというものもあったっけ。


 選んだ時はあまり必要じゃないかと思って、今は買い物時に割引という効果にしてあるけど、もしかしたらその入手率の効果がアイアンキンギョにも影響するのではなかろうか。

 

 今は金鉱ダンジョンも混んでるし、手軽に金が手にはいると嬉しいんだよね。


 ならば試しに変えてこよう、ついでにあの社員の人に聞けばいいと、天空の塔で手に入れた鍵を使ってみる。


 すると、玄関に触れることで表示される行き先の選択肢に、謎の神社というものが追加された。


 なんの謎があるんだろう、なんて疑問もあるけれど、どうせ深い意味なんてなさそうだからスルーしようか。


 それより今は称号のことだと、タツノを振り払うのに苦労しながらもなんとか引き剥がし、玄関を出て神社に来たのだけど、どうも周辺には誰もいないみたい。


 あれ、時間によっては居ないのかな?


「お待たせ。いやぁ、こんな朝から人が来るとは思わなかったよ」


 そうがっかりしていた私に背後から、何時の間にかやってきていた社員さんが声をかけてきた。


 なんだいるんじゃん。でも来るのが遅かったみたいだし、こんな時間でも忙しかったりするのかな?


「何かしてたんですか?」

「ああ、飲み会してた」 


 なにその駄目人間。てか、それなのにあんなに早く来たってことは、会社内でやっていたりとかしないよね? もしそうだとしたらフリーダム過ぎるのだけど。


 大人って皆こうなのかな? トヤマさんもお酒が大好きみたいでよく飲んでいるし……、いや、家の両親はちゃんと働いてる。騙されないぞ。


「成金の効果って、アイアンキンギョにも影響しますか?」

「するよ。一匹は確実に金を産むようになるかな」


 朗報です。私は何もしなくても、収入を得ることが出来るようになりました。


 運営のことを言えないかもしれないけど、楽が出来るっていいよね。でも、後で酷いことにならないよね?


 色々と不安はあるけど、とりあえず効果を変えておき、ログハウスに戻って小豆達に混じってテレビゲームを楽しみサクラ達を待つ。


 意外と小豆って優しいよね。弱いのが相手でも文句言わないし。


 そんなちょっとした優しさに嬉しくなり、小豆の頭を撫でるという名の妨害をしていると、何時の間にかログインしていたサクラとヨーナに白い目で見られていた。


 違うもん、優しさよりも勝利という二文字が欲しかったんだもん!


「サンドスキーに行かないか?」

「砂丘ですわね。いいと思いますわ」


 そんな私の言い訳はスルッと流され、ヨーナからの提案にサクラが答える。


 スキーがやりたくなったらしいヨーナだけど、このゲームに雪が積もっているところはまだないらしく、変わりにサンドスキーが楽しめるというトットリ領の砂丘に目を付けたみたい。


 面白そうだし着いていくのは良いんだけど、私はスキー自体やったことがないんだよね。それでも大丈夫かな? 


 まぁ、このゲームの中でなら転んだって怪我なんてしないし、心配ないか。あぁ、ゲームって素晴らしい。


 それならば楽しめるだろうと、意気揚々と二人に着いてイーナバの街へ。


 冒険者ギルドでスキーの板やスノーボードで使うものと同じボードを買い、砂丘へ向かうこと一時間ほど。


 馬を連れて来たってどうせ石に戻しちゃうだろうから歩いてきたけど、目の前に広がる光景は異様な物で、徒歩の疲れが増してきそうなほどの衝撃を与えてくれるものだった。


「砂丘自体が、サンドゴーレムというモンスターなんですの」

「これは、予想外なんだが」


 言い出しっぺのヨーナも知らなかったみたい。


 目の前に広がる砂丘全体が蠢き、それが波のような流れを作っている。その波をプレイヤーはボードで巧みに乗りこなし、片手間で襲い来る砂の手を倒しながら、思い思いに楽しんでいる模様。

 

 サクラからボードも買うように、と言われて初心者に何を言っているんだろうと思っていたけど、この光景を見てしまうと納得だよ。


 ボードを買ったのは、自由に武器を振るためだったんだね。完全に魔法オンリーならスキー板でも良いみたいだけど。


「いやいや、私は初心者だよ? これ転けたら絶対プチっとやられるじゃん」

「物理無効が何を言うか」


 そうだった。


 ならば私に怖い物はなにもない! そう意気込んで颯爽とボードで波に乗り、あっさりと転んで砂の手のひらをすり抜ける。


 確かに怖いものはないのだけど、これって楽しいのだろうか?


 そんな疑問も湧き出すものの、何度かその行為を繰り返すと次第に波の動きにも慣れてきて、次第に人並みに程度には流れに乗れるようになってきた。


 うん、砂の中に閉じ込められる感覚はちょっと怖かったから、必死にもなりましたよ。


 そんなぐだぐだとした練習をしていた為、既に二人とははぐれてしまった様で、仕方なく一人で砂の手を倒しながら流れを進む。


 てか、私はスキー板で良かったじゃん。武器は浮かせて操れるんだし。


 それにしても、このモンスターって倒せたりは出来るのかな? 結構な数の砂の手を倒しているのだけど、ドロップもないし出なくなる気配もない。


 いや、倒したら倒したで砂が無くなったりしたら困るかも。


 それでも好奇心は抑えきれず、試しにとテイム石も押し当ててみたけど、無理だった。


 いや、おかしい。ゴッドテイム石でも試してみたけど、それでもテイム出来ないなんて、あり得るのかな? 


 称号で見て見てもちゃんとサンドゴーレムとモンスターの表示がされているし、モンスターであるならテイム出来てもおかしくはないはず。


 だから、この状況はなにかおかしい。


『ヨーナ、サクラ。おかしいよ、こいつゴッドテイム石でもテイム出来ない』

『は? いや、でもこいつモンスターだろ?』

『一度集まった方が宜しいですわね。ログハウスに戻りましょうか』


 二人にも通信でこの違和感を伝えると、一度ログハウスに戻ってじっくり話し合うことに。


 うん、ゲームらしく謎の予感がしてきました!


 そして戻ってきたログハウスには誰もおらず、外に集まっていたモンスター達も、私達が近寄ると蜘蛛の子を散らすように逃げ出す始末。


 これ、あからさまにおかしすぎるって。


「何かあるな」

「そうですわね」


 そんな状況もあって怪しさ抜群なサンドゴーレムの件、神社に行ってみてもあの社員さんは飲み会でも楽しんでいるのか居なかったし、紅茶で一服しながら、私達なりに答えを出すために案を出し合ってみる。


「アオイ、お前中に入って見ろよ。攻撃効かないんだし」

「無茶ぶりだよ!」

「転移マーカーを預けておきますわ。何かあったら、使って下さいまし」


 いや、なにこの問答無用な流れ。それにその転移マーカーは私に何かあったらじゃないよね、何かがあったらだよね。


 はぁ、仕方ないか。ゴーグルでも買って挑戦してみよう。


 そう溜め息混じりに、手を振る二人に見送られながらイーナバの街へ向かい、冒険者ギルドで売っていたスキー用のゴーグルを購入。


 おまけに水中でも自由に動けるような魔法も組んでおいたら、準備は完了かな。さて、行くか!

 

 神速通を使って砂丘へ移動したら、勢い良く空を飛び、その勢いそのままに砂に目掛けて飛び込んでいく。


 そんな私は、周りにどう思われただろう。掲示板なんて、絶対見るもんか。


 そんな自己嫌悪を抱えながら砂の中を猛スピードで突き進むと、砂が攻撃しているのか、ぎゅうぎゅうと押し潰そうとしているのを感じる。


 なんて言うか、視界が限られているところにこんな音を感じるととても怖いよね。


 そんな音に耐えながらも暫く進むと、砂を抜けたのか急に視界がパッと開けた。


 そして其処に広がる青空と、眼下にはビルが立ち並ぶ摩天楼。いや、なにこれ。こんなのまるで別の世界じゃん。


 そう呆然と空中に留まり呆然としていると、頭の中にアナウンスが響き、目の前にはウィンドウが表示された。


 それらは着陸場所を指示するもので、その場所は噴水があり、この島唯一の緑が広がる公園だった。


 折角だし、着陸する前に島の上空をぐるりと回ってみると、隅の方に空港のようなものも見える。


 このゲームの世界観であるファンタジーの欠片もないその光景は、むしろ現実世界と言っても良いかもしれない。


 それは降り立った島の景色を実際に見ても感じるもので、表示されるウィンドウに従い歩いていく街並みも、どこか東京や大阪といった都会を歩いているようにも感じる。


 そうして辿り着いた冒険者ギルドも、現代建築によって築かれた市役所とも呼べそうな建物だった。


 なんというか、田舎者が夢見た都会そのものって感じかな。


 とりあえず、ゴーグルは外しておこうかな。これだと田舎者と言うより不審者だし。


「ようこそ未来都市アトラへ。こちらでは、ロボット達との市街地戦や、戦闘機による航空戦、様々な車を使ったカーレースなど、様々なアトラクションが楽しめます。正直、こんなに早くプレイヤーが来るとは思わなかったです。ふふっ、ボーナスゲットよ」


 なのに受付のお姉さんは欲望まみれ。いや、壊れた蛇口のように本音が漏れてるよ、このお姉さん。


 まぁ、ある意味それも都会っぽいからスルーしてあげよう。それに、この場所自体もどうやら欲望によって生み出されたものらしいからね。


 お姉さんによるとこの島はβテストの時、車を自由に走らせる場所が欲しいとの要望があった為に作られたもので、本来車で砂丘を走るとサンドゴーレムが誘導してくれるようになっていたみたい。


 はぁ、私の頑張りは何だったのかと。あぁ、だからボーナスなのか。てことは、だ。当然、私にも何かあるんだよね?


「ボーナスってことは、私にも何か貰えるの?」

「無いですよ。多分、お伊勢参りで勘違いしてませんか? あれは特別ですよ」


 え? だって、あれ?


 これはヨーナを問い詰めなければ! 私に期待を持たせる様なことを言ったヨーナには!


 そう悪しき感情に支配された私は冒険者ギルドを飛び出し、転移マーカーをそこら辺に叩きつけて直ぐに神速通でログハウスに戻り、ヨーナを無駄に羽交い締めにして問い詰める。


「え? ヨーナさん、自信満々で言ってましたわよね?」

「……いや、お伊勢参りだけじゃなくて、確かドラゴンの時もそうだっただろ? それで勘違いしてたかも。って、サクラも同意してただろ!」

「遊んでたでしょ、サクラ」

「お伊勢参りで貰えたのは予想外でしたわ」


 あの時のヨーナ、ドラゴンのメタ発言に思いっきり呆れてたもんね。それで勘違いしたのかな?


 でも、私は許さない。無駄に飛び跳ねてその巨乳をセクシーな感じにしてくれるわ!


「だあっ! もう! 私は琵琶湖に行く!」

「水に流すのですわね」

「そっとしとこうよ」


 しかし、鎧のお陰でそんな事態にはならず、本当に無駄に飛び跳ねただけというね。それでもその行動は鬱陶しかったのか、ヨーナは私を振り解いて逃げ出してしまった。


 てか、こんな黒いサクラに称号を。ガックリするような称号をお願いします。


「まぁ、ヨーナさんは放っておくとして、私達はそのアトラクションと言うものに挑戦してみませんこと?」

「良いかもね。偶にはファンタジー以外の刺激も味わいたいし」


 もしかしたら、祭り村のサバゲーで味わった恐怖が再び! って、感じになるかもしれないけど、私はそれを味わっていないからちょっと新鮮かも。


 でも、都会にでる黒い虫は森で見るより怖い気がするけどね。


「どういった内容になさいますか?」


 そんなことを二人で話しながら玄関を潜り、島の中心部にある冒険者ギルドに行き受付で市街地戦の申し込みをしてみると、どうやら複数ある戦闘内容から一つを選べるみたい。


 殲滅戦なんかもあるみたいだけど、今回は撤退戦にしてみようかな? 


 ルールは規定時間まで敵から逃げ切ること。こちらの攻撃は敵に効かないみたいで、本当に逃げ回ることしかだけしか出来ないみたい。


 ふっふっふっ、だがそれが良い。勝てない戦に興味があるのです。


 受付をすませ、ギルドを出れば直ぐに戦闘が始まるみたい。念の為、事前に狐火くらいは出しておこうかな。


 そして、サクラとどちらが長く逃げられるか勝負しよう、なんて話しながらギルドを出ると、待ちかまえていたのは数多くのドローンと、顔だけが機械の筋肉隆々のブーメランパンツマッチョマン。


 そして始まる苛烈な攻撃。ドローンからのマシンガンのように放たれる光弾に、マッチョマンが放つ謎の極太ビーム。


「アオイさん! 生き残れたらまた会いますことねおわっ!」


 語尾がなんか変になってるサクラはあっさりと見捨てて、直ぐに神速通で距離をとる私。ごめんよサクラ、私はこの力で生き残るから!



 なんて、友人を見捨てた報いなのか、只今背後からマッチョマンに抱き締められてます。ただし、ロマンスは無い。


 サクラはドローンに腰の当たりを吊されて、照る照る坊主の様にプラーンとしてるし。うん、見事に負けた。


 戦闘中はMP自動回復しないのを忘れてたし、ポーションも持ってくるの忘れるとかね。


 慢心ダメ、絶対。今日はもう、温泉で過ごそう。 

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[一言] 金魚をじーーーーーっと凝視するクロ(笑) これはもう、食べる気満々(笑)
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