25. 厄介な人
「そろそろ、ビッグ達も進化させようかな?」
「ダメですわ」
ログハウスに戻り、先生の作ってくれたエッグタルトを食べながら思ったことを言ってみると、サクラにノーを突きつけられてしまった。
「なんか拘りでもあんのか?」
「姿が変わってしまったら、行事が楽しめないですもの」
イースターにクリスマスか。でも、進化してもそんなに姿が変わる面子じゃ無いと思うけどなぁ。
あ、クロと太郎は進化させないよ。あれは最強の癒しだから。
「ビッグの進化先は恐竜ですから、見た目が大きく変わってしまいますね」
「それは退化だろ」
おぉ、恐竜良いなぁ。玉乗り仕込みたいなぁ。
もう一匹位、テイムしてもいいかな? しちゃおうか。よし、行動開始です。
便利な神速通でコカブロイラートリスを速攻でテイムし、名前をキングにして直ぐにログハウスへ。
そして進化に必要なものを先生に聞くと、化石という答えが返ってきた。
また随分ストレートな物だね。
「化石なら、フクイ領に化石が掘れるダンジョンがあるそうですわ」
早速、行ってみよう! 早く進化させて、追いかけっこするのだ!
《目指せ! トレジャーハンター! チキチキ発掘大作戦! 化石もあるよ》
ダンジョンと言う話は嘘だったのだろうか。
先程まで、恐竜と聞いて上がりまくっていたテンションが急降下していくのを感じるよ。
フクイ領の山中にある洞窟、その洞窟の上にそんな文言の看板がつけられたそれは、絶対にダンジョンと言えるものではないと思う。
てか、フクイ領なのに化石がメインじゃないのは何故なのかと。
「化石は入って直ぐの広い空間で発掘できますわ。奥の扉を開けると、アスレチックのような場所があるそうですわね」
あぁ、だから化石もあるよ、なのか。
中に入ってみると広い空間が広がっており、奥にある扉には列が出来ているものの、大半の人はこの円形になった広い空間で採掘をしているみたい。
どうやら化石は、広い空間のどこを掘っても出てくるみたいだね。
それなら直ぐに終わるだろうし、アスレチックも気になるから行ってみようかな? 扉に向かう行列には男の人ばかりだし、それほどロマンが溢れるものなのかもしれないしね。
そういう映画って結構好きだから、気になっちゃうよ。
「なんでも全てのステージをクリアすると、特殊な水着が手に入るそうですわ。男女セットで」
「どう特殊なのかが問題だな」
ロマンはロマンでも、欲望マシマシなロマンだったよ。
て、この男共はそれを手に入れてどうするつもりなのかと。ま、まさか、この全てリア充か!?
なる程、これが破局の原因かぁ。
そう勝手な予想に勝手に呆れながらも化石を掘り出し、男だらけの集団に混じって列に並び、ゲームをしながら時間を潰す。
黄色いネズミが人気のゲームをチョイスして、先ずはヨーナと対戦なのです!
「むう。なぜ勝てぬ」
「お前、さては攻撃技しか覚えさせてねーな?」
「攻撃は最大の防御なのです」
だから早く起きるのです、私のモンスターよ。
そんな私の祈りも届かずやたらと眠らされ続けて見事に負け続け、列の順番もきたので仕方がないから勝負は諦める。
いつかリベンジして、絶対にボコボコにしてやろう。まぁ、機会があればこのアトラクションでそんな展開があれば良いんだけどね。
そんな願いすらも叶わないのか、扉を開けて中へ入るとそこは迷路だった。
「アオイの千里眼で何とかならねーか?」
「千里眼を使ったとしても、私が迷路が解けるとでも思ってるの? 迷路なんて、当たって砕ければ良いのです!」
そう言って、確認できたゴールに向かい最大出力のよんびーむを放つ。
無様だね、迷路は無傷だ。
「アオイさんは千里眼を使っていて下さいまし。私達でマッピング致しますわ」
悲しいね、強くなっても出来ないことがあるなんて。大人しく千里眼で迷路の構造を見て二人に伝えていくけど、頭がこんがらがったりとかってしないのかな?
私なんて、未だに東西南北がよく分からないんだけど。
そんな二人の活躍により迷路を攻略し、抜けた先にはターザンロープがあった。
ロープに掴まって滑っていくお馴染みのあれなんだけど、見た感じかなり長い気がするよ。ゴールにあたる部分がまったく見えないんだけど。
「さぁ出番だぞ、突撃隊長」
「当たって砕けなさいませ、突撃隊長」
「なった覚えはないよ、そんなの」
いやまぁ、行かないとクリアできないのなら、行くしかないんだけどさ。でも、見えないゴールよりも不安な物があるんだよ。
下は一面水が張ってあるから、落ちて死に戻りも無いだろうしそこは安心。でも、両脇にあるバレーボール発射装置は駄目だよ。
いや、私は物理無効だから多分効かないけどさ。
そんな自分の得た力を試す時だと言い聞かせ、垂れ下がるロープを掴み、颯爽と滑る私の体をバレーボールが通り抜けてく。
うん、痛くはないけど、ぶっちゃけ当たるより怖いんじゃないかな?
そして不意に訪れるゴールに体を揺らされながらも必死に堪え、下にあった足場に飛び降り着地したところ、気が付いたら椅子が置かれた休憩所のような場所にワープしていた。
ここで仲間を待てってことかな? それじゃ、しばしの休憩タイムといたしますか。
先生が持たせてくれた紅茶とクッキーを頂きながら二人を待っていると、二人からログハウスで待っているとのメールが届いた。
えぇ、ここから一人かぁ。大丈夫かな……、ってもしかしてヨーナはバレーボールにボコボコにされちゃったとか?
むぅ、それは対戦の憂さ晴らし的な意味も込めて是非見たかった。でも、この先自分にも似たようなことが起こるかもしれないと思うと、呑気に笑っていられる訳でもないかぁ。
さて、何時までもここに居たって仕方ないし、行くだけ行ってみようか。
どうせ二人が駄目だったんだから、私が失敗したところで責められないだろうし、気楽に行けば良いもんね。
そう軽くなった心でもって扉を開けると、そこは椅子とテーブルだけの簡素な部屋だった。とりあえずその椅子に座ってみると、どこからか声が聞こえてくる。
『チャレンジ! あなたの箸が進まないものは?』
なにその質問。これって、正直に答えて良いものなのかな? いや、でも裏をかこうとするとそのまま裏目に出るかもしれないし……。
ええい、ままよ!
「えっと、激辛料理」
『では、激辛麻婆豆腐をお召し上がり下さい。食べきれば扉が出現します。あ、残されてもスタッフが食べますので、心配しないで下さい』
そんな心配はしてないよ。てか、目の前に現れた麻婆豆腐は見事に真っ赤でどん引きなんだけど。
うわぁ、立派な唐辛子まで入っているよ。細長いのに丸っこいやつの二種類も。いや、これを食べるの? た、試しに一口いってみよう、かな。
「……かっらっ!? ギ、ギブ」
『では、さよーならー』
床が抜け、椅子ごと落ちて入水し、気付けば洞窟の外に放り出されていた。
あまりの辛さにその場にうずくまってしまいそうだけど、このまま此処にいると人目に晒されそうだし、頑張って耐えつつ、ログハウスに戻ろうか。
そうして震える指でメニューを操作してログハウスに戻り、待ちかまえていた先生からお手製のミルクセーキを受け取って、辛さの中和を試みる。
なにが起きたのかしった上で行動してくれていた先生には感謝しかないのだけど……、えっと、ミルクセーキってこんな味だっけ?
「箸が進まないものか、臭いもの言わなくて良かったな」
「好きなものを言えば良かったんですわね」
そんな私に対して、彼処で落ちて良かったぁ、とでも言いたそうに息を吐いた二人になにが起こったのかを説明してみると、サクラからあっさりと攻略法が明かされてしまった。
いや、私だって分かっていたんだよ。はぁ、やっぱり素直に裏を読めば良かったんだよねぇ。
「二人がいてくれれば良かったのに」
「バレーボールの衝撃、凄かったんだぞ」
「あれは、魔法で防御するものですわよ」
私の予想通りにバレーボールにボコボコにされたヨーナと違い、サクラはゴールで着地出来ずに、というか急に止められた勢いそのままに、吹き飛ばされてしまったらしい。
それって、まんまターザンみたいだね。
そうして話しているうちに辛さも落ち着いてきたし、キングに化石を与えてみよっか。
早速外に出て石からキングを出し、目の前に化石を置いてみる。
「化石によって進化先が変わるのですが、ご主人様にはまだそれは分かりませんよね?」
へぇ、そういう仕様なんだ。てか、称号の効果を使っても何の化石か分からなかったんだけど、もしかして化石専用の称号でもあるのかな?
何にせよ、こういうランダム的な物も楽しいから良いけどさ。
出来れば可愛い感じの子が良いなぁ、と願いを込めながら化石を食べるキングをみんなで見守っていると、徐々にその体から光が溢れ出してきた。
そしてその発せられる光が収まると、そこにいたのは頭に立派な角を持つ、トリケラトプスだった。
そんなごつごつとした頭が目立つ恐竜だけど、図鑑なんかで見るより、少し可愛らしい気がする。特に目とか。
「ちょっと可愛いな、こいつ」
「でも、角は凄いですわね。こんなと素手で戦う人の気が知れないですわ」
それはリアルじゃないよ。ここも違うけど。
でも、玉乗り仕込もうと思っていたけど、正直ここまで大きいとなると、そのサイズの大玉を用意するのは面倒くさいなぁ。
てな訳で、逆に私がキングに乗って楽しむとしますか!
そうしてキングに跨がり視界の高さを楽しみながらも、どうせなら他のモンスターも進化してみたいと、角ウサギとトナデカイの進化について先生に聞いてみる。
「トナデカイは飛べるようになるだけなので、むしろ進化させた方がいいかもしれません。ですが、角ウサギは……」
なる程ね。それならトナデカイは進化させることに決定として、問題は角ウサギ、つまりイースか。
見た目はウサギから離れることはない為、サクラのストップはかけられることはないだろうけど、どの進化も喋り、二足歩行になるらしい。
うん、イースを喋らせるのは危険だよね。なんせおっぱい魔神だし、何より禁則事項的ワードは効果音で消されてしまうらしい。
ピーピー泣くのは鳥だけで良いんだよ。
だからトナデカイだけでも、と思ったけど、その進化には雪が必要らしいし、今すぐには無理かぁ。
「タツノはもう進化出来るかな?」
「ええ、出来ますよ」
「称号ですわね?」
そうそう、後一体進化させれば、モンスターに関する称号をゲットしてボスモンスターもテイムできるようになるんだよね。だから、色んなモンスターを進化させたいのです。
だって、鵺が欲しいんだもん。レッサーパンダが欲しいんだもん。
「ゴッドテイム石使えばいいじゃねーか」
「あれは、緊急回避用です」
あれは今後も安定して入手出来るものかも分からないから、どうしても勝てないモンスターに対してのみ使うものなんです。
さて、そんな訳で白羽の矢が立ったタツノの進化には綿飴をあげるのが良いそうなので、どうせならみんなで作ってみることに。
「どこまでデカくなるかやってみよーぜ!」
「ちゃんと食べるのですわよ」
そして急遽始まった綿飴大会にて、ヨーナが上手いこと綿飴を巨大化させてく中、出来たての綿飴をタツノに与えてみる。
てか、もちよ。尻尾を引っ張らないで下さい。もちの分もちゃんと作るから、今だけは大人しくしていてね?
そんなもちとのやり取りの間にもタツノは徐々に光に包まれていき、その光が収まると、そこには羽衣を纏い天女のような服装をした、長い黒髪が美しい女性が立っていた。
だけどポーズがおかしい。左手を腰に当て、右手の人差し指を立てて天を指さしている。
「妾、見参! ふははっ、戦闘は妾に任せておくがいいのじゃ! ただ……、お主やモンスターの毛並みをモフモフさせてくれればだが、のう?」
厄介な人みたいだ、逃げよう。夕飯も近いし、ログアウトだ。
そして夕飯も終わり頃合いを見てゲームにログインすると、直ぐに行動を開始する。
タツノを進化させて【モンスター大好き】の称号も手に入れたし、これで鵺をテイムする為の準備は完了した。
部屋で千里眼を使い、領内を徘徊している鵺の居場所を確認してみると、今は伊豆半島の海沿いでゴロゴロしているみたい。
幸い今は戦闘中ではないみたいだし、辺りに挑もうとする人達もいないみたい。
これはチャンスだと、そのまま神速通を使い鵺の側へ移動する。
事前に先生に聞いていた話によると、ボスモンスターのテイムは普通とは違い、テイムポイントと呼ばれる体の何処かにある場所にテイム石を押し当てないと、テイムが出来ないのだそう。
テイムポイントはテイム石を握っている間にしか見えないそうだから、此方から襲うことはせず、空を飛びまわって探していこう。
それでも相手からの攻撃は当然来るもので、尻尾による打撃を避けながらも観察は続け、その尻尾の付け根に見つけたポイントへと近づき、テイム石を押し当てテイム完了。
んふふ、名前はぬーちゃんにしようか。可愛い子は名前も可愛くしないとだもんね。
鵺は戦闘時間によって様々な物に姿を変えるそうだから、早めにテイム出来て良かったよ。
人型になったら石も当てづらいもんね。
でも、テイムできたのならもうそんな心配ばかりいらない。ウキウキした気分のままログハウスに戻ると、そこはバーベキューの会場だった。
もしかして、歓迎会をやっているのかな? もしそうなら凄く申し訳なく思えてくるよ。うん、キングに対してだけ、ね。
タツノはミニシープを抱え、キボリをソファー代わりにして側に侍らすウォーセを撫でて満面の笑みだし、私が近付いたら面倒なことになるのは一目で分かる。
だって、ウォーセの反対側が空いているし。
それより、お待ちかねのぬーちゃんだ。出してみると、戦ったときの巨体から打って変わって普通のレッサーパンダのサイズになっている。
あぁ、抱きしめるのに丁度良い。でも気を付けなければならない。何故ならあいつが狙っている。
そんなぬーちゃんを狙うタツノとの攻防の末、やはりと言うか、最初からそれを狙っていたのか私の尻尾が捕獲されてしまった。
はぁ、きっと私がログアウトするまで放さないんだろうなぁ。