24. そして王となる?
「ミスリルの鶴嘴が出来たぞ」
朝一番にミスノからそんな報告を受け、早速金鉱ダンジョンへ行くことに。
ダンジョンはとても盛況で、ミスリルゴーレムの順番待ちの列も長く、ゴールデンゴーレムはすっかり狩られる側へと変わってしまった。
地下に行く際、順番待ちの人にいちゃもんをつけられたりもしたけど、銀の牛に横座りして移動するミスノの女王様感に魅了されて、しどろもどろになる姿は見ていて面白かったよ。
まったく、これだから男って奴は。
「隠し通路には私たち以外、入れないんだな」
「ミスリルゴーレムがその判断役になっているからな、楽はさせんよ」
そう、列から離れて別の場所へ行こうとする私達は当然のように不審に思われ、こっそり後を付いて来る人達もいた。
しかし、私達の後をつけていた人達は見えない壁に阻まれて、見事なパントマイムを披露してくれている。
ふふーん、此処に来たければ個性たっぷりのミスリルゴーレムをテイムすればいいさ!
そんな人達をあざ笑うかのように採掘を始め、悔しそうに見学人が去っていくのを眺めつつ、のんびりと鶴嘴を振るう作業を続けていく。
そうしてなんとか三人分の武器の量は確保できたんだけど、これ以上続けるとなんだか飽きてきそうだし、ここで終わりにしておこうかな。
出来れば刀以外にも短刀の分も確保したかったけど、ひとまず諦めよう。
武器を増やしたところで、いきなり二刀流が出来るほど器用じゃないし、投擲に威力は期待してないしね。
時間がある時にコツコツ採掘すればいいや。
目的も達成したし、さて帰ろうと奥へ行こうとして、ふとあることに気が付いた。
帰るだけなら、わざわざ奥へと歩いて行かなくてもメニューからの方が断然楽なんだよね。
はぁ、本当にトラップとして設置しただけなんだなぁ、と二人にもそれを話し、揃ってため息をついて呆れながらも、メニューからログハウスへと帰還する。
そして同じ様にログハウスへ戻っていたミスノにオリハルコンを託すと、その際私達の防具をミスリルで強化してくれた。
へぇ、作り直さなくてもいいんだ。そう言うのって結構便利かも。
「そういえば、アイアンキンギョってどんな金属を産んだの?」
「鉄と銅のインゴットを産んでましたよ」
朝はそのままダンジョンに行ったから忘れてたけど、どうやら先生が回収しておいてくれたみたい。
朝早くに産んだみたいだし、今度早起きして産むところを見てみようかな?
「昼まで双六でもやってるか」
今からでも産んで良いんだよ? と、水槽の中で泳ぐアイアンキンギョへ話しかける私にかけられるヨーナの声。
私も遂に、あの奇妙な双六をやることになってしまったのか。
何でも、新しくお金の要素が入った新作が追加されていたみたいなんだけど、それって人生ではないんだよね?
そんなリアリティが増した双六を、触手に絡まれつつクリアしたところ、ペットが増えすぎて借金だらけになりました。
やたらとエロ装備を買わされて借金まみれになったヨーナよりはマシだけど、億万長者になったサクラの一人勝ちと言う結果はとても悔しい。
運営さん、相手を陥れる要素の追加を希望です。
そんな黒い感情も味噌汁と共に飲み込んだお昼過ぎ、ログインしてリビングにでも行こうと部屋を出ると、丁度隣の部屋からサクラとばったりと遭遇して、再び黒い感情が湧き上がる。
「別荘のダンジョンへ行きませんこと?」
ほほう、あのランダムダンジョンね。これはチャンスじゃないかな? 運良く宇宙ステージに入ることが出来れば、サクラが無重力に戸惑っているところを笑うことが出来るはず。
当のサクラはタツノの実力が知りたいみたいなんだけど、ふふっ、それは相手をすることで知ればいいさ!
そんな黒い感情はバレないように、平静を装いつつタツノを連れて行こうとしたとき、ジュカスネークをフィナに与えていないことを思い出した。
ついでに今のフィナの実力も見ておいた方が良いかな? そうすれば、今後増やすべき能力も見えてくるかもしれないからね。
リビングで私達を待っていたヨーナを連れ、先に別荘へと向かうサクラを見送り、丁度テレビゲームで小豆にバットで吹っ飛ばされて敗北したフィナにジュカスネークが入った石を与え、タツノと共に別荘へと連れ出す。
そして、フィナと手を繋ぎ、タツノに尻尾を弄られながらランダムダンジョンの扉へと歩きながら内心ほくそ笑む。
さぁて、宇宙ステージになってくれると良いんだけどなぁ。
しかしそんな私の願いも虚しく、森にある門を開いたその先は和風の城がそびえ立つ草原だった。
城はよく見る日本のそれその物だけど、堀や門なんかはなく、あるのは五階ほど天守のみ。
そしてそれを守るかのように私達の前に立ちはだかるのは、トロールとゴブリンで形成された軍団。
いや、称号の効果で見てみると名前が違う。
「あれ、トロールとゴブリンか? すげー数だな」
「違うよ。ドトロールとゴブリンドだよ」
「アオイさん、この後社長の所でコーヒーを飲みませんこと?」
うん、コーヒーとロールケーキの組み合わせも良いかもね。
でも、状況はそんなことを言ってる場合じゃないみたい。我先にと襲いかかってくるモンスター達は正直、とても怖い。だって顔がさ。
仕方がない、宇宙ステージではないから私の計画はまた今度ってことにして、今は私のモンスターの実力判断の時間といたしましょうか!
さぁ、先ずはタツノの出番だよ!
「いけっ、タツノ!」
そう声をかけた瞬間に、一筋の閃光に貫かれ消滅していくドトロール達。
流星のように降り注ぐ無数の光弾により、儚くも消え去るゴブリンドの軍勢。
悲しいね、これが戦なんだ。
「こんな奴と戦いたくねーよ」
「宇宙へ行くときは、アオイさん一人でお願いいたしますわ」
うん、私もここまでとは思わなかった。
もしかして龍星ってラスボスなんじゃない? こうなったら、フィナに与える為にゴッドテイム石をなんとしても確保しなくては!
そんなこのダンジョンとは関係のない決意を固めながら城へと足を進めるも、辺りに敵の姿は見当たらない。
周囲にいないのなら、城の中かな?
次は私の出番だ、とばかりにフィナがケンタウロスモードとなってやる気を出しているのだから、居ないなんてことにはならないで欲しい。
フィナのケンタウロスモードも前とは違い、馬体と繋がる腰の部分に金色の蛸のような触手がスカートの様に生えていて、髪の毛もメデューサみたいに無数の蛇になっている。
いや、これはこれでちょっと怖いよ。あと、その差し出している触手は手を繋ごうって意味? 出来ることなら、甘えるときは元の姿に戻って貰いたいのだけど。
それでも、その姿を自慢したいらしいフィナにそんな事を言えるはずもなく、フィナの触手と手を繋ぎ城の扉を開けると、十体ほどのゴブリンドと目があった。
そしてその直後に響く美しい旋律。
それを聞いたゴブリンド達はふらふらと地面に倒れ込み、そんな隙だらけの奴らに向かい、フィナが触手を鞭のようにしならせ、打ち倒していく。
うちのモンスター達は、城攻めくらい簡単にこなしそうだよね。フィナが順調に育っていて、私は嬉しいです。
「私達は、モンスターより強くなれるのかな?」
「将は兵に任せるもんだ、そう思え」
「見限られないよう、気を付けるのですわよ」
ゴブリンド達を倒し終えたフィナが、通常状態に戻り駆け寄ってくるのを抱き留め、頭を撫でる。
可愛いなぁ。視界の隅で揺れるツンデレな看板もいつものことだし、いつまでもこのままでいてね。
「タツノは室内でも戦えるのか?」
そゆな私達を後目に質問をするヨーナに対し、タツノは親指を立てて首を縦に振っているから、多分大丈夫なんだろう。
てか、意外に器用なことをするんだね。
「タツノとフィナに任せるつもりなんだね」
「私達は城の観光に来たんだ、そーだろ?」
「流石、怠惰ですわね」
そんなヨーナの言葉に同意できてしまう程、あっさりと倒されていく襲いかかる敵モンスター達。
うん、遮る敵はタツノとフィナに任せて、のんびり天守内を見学しながら上へと進もうか。
見学と言っても、建築の事は分からないから感想に困るけどね。これが国宝とか文化財だったら、謎の感動が沸き起こるっていうのに。
「次で最上階か、ボスとか楽しみだな」
「観戦する気満々ですわね」
段々と狭くなっていく室内が緊張感を醸し出していく様で、対して苦労もしていないのに心拍数が上がっていく気がする。
それに合わせるかの様にその階段を上がっていくと、上がりきった先には豪華な鎧を着た、ゴブリンドキングの姿があった。
しかし、その手に持つ立派な刀を振るうこともなく、タツノのブレスによって消滅してしまった。
あぁ、なんだかとても可哀想。
「おっ! 宝箱あんじゃん。よし、これはアオイに譲ろう」
「アオイさんのモンスターの手柄なんですもの、当然ですわよ」
そんなゴブリンドキングの哀愁により産み出されたかのような宝箱は、ヨーナの顔を引きつらせるほど、どす黒く染まっている。
なんか呪われそうだし、出来れば私も開けたくはないけど、座敷わらしの効果で良いものが出るかもしれないし、勇気を出して開けてみよう。
そう決心して宝箱を開けてみると、頭の中にアナウンスが響き、それと同時にウィンドウが現れる。
《王威の刀を入手いたしました》
なんでもこの刀、装備していると従えている者を強化する効果があるみたいです。
「私達も強化されるのか? アオイ様」
「どうか恩恵を与えて欲しいですわ、女王様」
「それはやめい!」
様付けはむず痒いし、それに女王様はミスノの方が似合うと思う。
それにしても刀かぁ、やっぱり二刀流が出来た方がいいのかな? でも、アニメやゲームみたいに格好良く扱える自信はないし……、いや待てよ。扱えないなら、使えばいいのか!
早速、魔法を組んでみよう。王威の刀は装備するとして、他の刀を浮かせて使えばいいんだよね。
よし、出来た! 短刀と刀を出してっと、後は練習あるのみだ!
「なにしてんのかいまいちわかんねーけど、そっちの方が難しいんじゃねーか?」
「見守るのも大事ですわよ」
皆が見守る中、自在操れるように練習に励み、そして聞こえるアナウンスと得る称号。
得た称号は【念動力者】と【空狐】で、【念動力者】は今組んだ魔法が念動力に変わり、【空狐】はMP+5000と物理攻撃無効のセットを選んだ。
ふふっ、私はもう、完成されてしまったんじゃないだろうか。
「後は火力だな、頑張れよ」
「娘の成長を見守るようですわ」
うん、なにもこんな場所でやらなくても良かったよね。二人の生暖かい笑顔が切ないし、拍手をするモンスター達にはなんとなく申し訳ない。
てか、何故ゴブリンド達も輪になって拍手をしているのかと。あんた達は私のモンスターじゃないでしょうが!
はぁ、でもこれで一つ光明が見えた気がするんだよね。後は彼処に行って、やってみよう!
そうしてログハウスに戻り、サクラとヨーナを先に社長の喫茶店に向かわせ一人やってきたのは、祭り村のとある屋台。
「おう! 嬢ちゃんまた来たか。ゴッドテイム石はそう簡単にはやれねぇぜ?」
「ふん! 余裕ぶっこくのも今の内だよ!」
そう、あの時苦汁をなめたテイム石すくいに、再び挑戦するのです。
でも、言葉の通りにすくう私ではないよ?
だって前やった時、ゴッドテイム石は動く気配すら見せなかったからね。そう、ならば動かせばいいのです!
てか偉そうなこと言っちゃったけど、本当に上手くいってくれるかな? 若干弱気になりつつも、祈るような気持ちで念動力を使ってみる。
するとどうでしょう! そこにはドーナツの様に浮かび上がる、三つのゴッドテイム石の姿があったのです。
「かぁーっ、こりゃあ参った! 良いぜ、三つとも持っていきな。ここまで成長した餞別だ」
「ありがとう、おっちゃん!」
上手くいって良かったぁ。これで三つのゴッドテイム石を確保できたし、早速天空の塔に行こう。
フィナの為に龍星をテイムしに行かなくちゃ!
「それで、上手くいったのか?」
「うん、フィナのケンタウロスモードに立派な角が生えました」
天空の塔では敵を倒さず、避け続けるのに苦労したけど、宇宙ステージではゴッドテイム石のお陰でテイムが楽だったからね。名前はタツにした。ごめんよ、適当で。
でも、ゴッドテイム石はまだ二つあるから、これで何をテイムするか楽しみだなぁ。