23. 流れに身を任せて
「修行しようと思う」
温泉にのんびり浸かっている時、ふと思い立ったことを口に出して言ってみる。
皆は何だいきなり、といった感じの表情をしているけど、神速通が通じない相手も出てきてるし、新たな力が欲しいんだよね。
「私達はまだこの村で遊んでいますわ。アオイさんは、思う存分やってきて良いですのよ」
遊ぶと言いつつ、多分まだまだサバゲーに挑戦し続けるんだろうなぁ。
もし私が修行を終えてもまだまだそれが続いていたら、颯爽と現れ助けてあげるのも格好良いかも。
それならとお言葉に甘えて、早速ログハウスへと戻ってきたら修行開始。
村へは他の街と同じように玄関からでも行けるみたいだし、移動のことは気にしないでガンガンやっていこう。
でもその前に、先ずは水槽を設置してアイアンキンギョを放さないとね。置き場所は後で考えるとして、今はテーブルの上に置いておこう。
もしかしたら、先生がやっておいてくれるんじゃないかなぁ、って期待を込めてね。
そんで、ハイパー合成君も家屋メニューのアイテムボックスに入れておいたし、これで修行に専念できるはず。
肝心の修行内容だけど、神速通の事を調べていた時に、いい感じのを見つけたんだよね。
このゲームだと、神速通の字も効果も違うみたいだったし、多分の私の考えているそれも何となくで出来ると思う。
その考えているというのは、簡単に言えば分身かな。ただひたすら分身を作る、ただそれだけなの。
ポーションでMPを回復しつつ、適当に組んだ分身を作り出す魔法をひたすら使い続けていく。言ってみれば、神速通が使えるようになった時の再現みたいなものだよね。
うん、称号ゲットだぜ!
手に入れた【意小身】の称号により組んだ分身の魔法が、自身の思考で自由に動かせる小さな分身を作り出す魔法に変化した。
しかも分身の能力は私の完全コピーで、MPは本体と共有。管理は大変そうだけど、作り出すのにMPは要らないからなかなか便利かも。
でも、その見た目がなぁ。何故、その分身の見た目が六歳頃の自分なのだろうか。あれか、今の姿から幼い頃を予測して再現した、みたいな無駄な技術を使っちゃったのかな?
できれば効果を変更してそこも変えられたら、なんて思ったのだけど、魔法が使えるようになる称号は効果を選択できないのかな?
称号の詳細ページを開いても選択肢が出てこないし……、まあ、それ自体が称号名になってるものだから仕方がないのかなぁ。
でも、この力ならサバゲーでも活躍できるんじゃないかな? 同時に複数を動かす練習してから、合流しに行ってみようか。
そして、そんな私の思惑はばっちりと当たってくれた。
やっぱり物量作戦って良いよね。千里眼を使えば離れた場所でも正確に動かすことができるし、何より分身は私と同じ力を持っているのだから、当然神速通も使える。
ならばやることはただ一つ、作り出した分身達をただひたすらに相手のフラッグの側へ送り続けるだけってね。
「懐かしいですわね」
「この頃は何も考えてない、アホだったよな」
だからさ、そんな功労者である私と私の分身に対して、もう少し良い扱いをしてくれても良いんじゃない?
ちゃんと見せて欲しいって言うから出してあげたのにさ、ぺしぺし頭を叩くわ脇を抱えて抱き上げるわ、もっと活躍を褒めてくれても良いんだよ?
「とりあえず、お昼にしましょうか」
もしかして悔しかったのかな? 私に簡単にクリアされて。ずっと頑張ってたんだもんね。うん、私は大人だからそっとしておこう。
それにしてももうお昼かぁ、私はそうだな、先にジュカスネークをテイムしてこようか。
そうしてログアウトしていくみんなを見送り、一人樹海へと向かいなんなくジュカスネークをテイム完了。
状態異常を無効化できるって素晴らしいよね。
そうしみじみ感じながらログアウトして、お昼を頂いた後にログインしてみると、丁度下りようとした階段の先に、みんなが集まっているのが見えた。
「何だよこのデカい水槽」
そんな私に対してヨーナが水槽を指差し聞いてきたんだけど、私としても、階段を下りた先に丁度水槽を置けるだけのスペースが作られているとは思わなかったから、ちょっと吃驚なんだけど。
多分、先生がやっておいてくれたのかな?
水槽の大きさは私がそうした物なんだけど、アイアンキンギョが産み出す金属の大きさが分からないから、とりあえず特大のを置いておいたんだよね。
「金属といえば、オリハルコンの加工はどうしようかしら」
「金属に関する生産なら、私が出来るぞ。道具と設備さえあれば、手作業でも」
そんなトヤマさんの疑問に答えたのは、水槽がなくなったテーブルで優雅に紅茶を飲んでいたミスノだった。
なんていうか、人型のモンスターはみんな有能だよね。ミスノは胸がデカいだけじゃなかったよ。
「それなら、アオイさん。ちょっと八重山諸島の方まで行ってくださらない? 黒檀が生えているそうなんですの」
何で黒檀、って思ったけど、そう言えばオリハルコンを採掘するための鶴嘴には、良い木材を使わないと駄目だったんだよね。
黒檀がどんなものかは私にはいまいち分からないけど、多分サクラが言い出したってことは良い素材なんだろうね。
そしてその黒檀は、木々の中にごく稀に生えてるものみたい。私ならそれをターゲットに移動すれば良いだけだから、簡単には簡単なんだけどさ。
しかしながら私には、やっぱり納得できないことがあるのです。
「褒めてくれないと、言うこと聞かないです」
「どこの島でも猫が出ますわよ」
行かねば! テイムしに直ぐに行かねば!
そう、サクラにまんまとのせられた自覚はあるものの、猫という可愛い存在には手を出さずにはいられない。
神速通を使い、辿り着いた場所にあった黒檀をサクッと切り倒しさて探そう、と意気込む私の足に何かが触れる感触。
それを確かめる為に下を向くと、其処には探す手間なく足にすり寄る一匹の黒猫の姿があった。
種族を見てみるとアンラッキーキャットと言うらしい。てことは、もしかして私の称号【不運】に引き寄せられたのかな?
急なことに若干戸惑いつつもテイムして、クロと名付けたその子を胸に抱きながら、折角だからと島を散策してみる。
もしかしたら山猫がいるかも、と思って西表島を選んで来たけど、居たとしても山猫がそう簡単に見つかる訳ないか。
どうせ私は不運だもん。でも、そのお陰でこの子と出会えたのはラッキーかな。
抱き抱えられても大人しくしている姿はリラックスしているかのようでとても可愛らしいし、さっき出会ったばかりだけど懐いてくれているのかも。
そんなクロと滝を見て、綺麗な砂浜をのんびり歩いたところで満足して帰路に就く。でも、その前にナーハの街に寄ってお土産にサーターアンダーギーを買うのは忘れない。
ふふっ、こんなお土産を持って行ったならば、喜ばずにはいられまい! つまり、私は褒められる以外の反応は受けないはず!
「サーターアンダーギー、買ってきたよ!」
「おお! サンキュー! 早く食おうぜ」
うんうん、やっぱりお土産って物は嬉しい物なんだよね。
ヨーナ達はやっていたテレビゲームを止めて、直ぐにテーブルに付いてくれた。あぁ、この瞬間が何となく好き。
だからもちよ、私の腰から離れなさい。もちの分もちゃんとあるから。てか、今さっきまで此処にいなかったよね? 何時の間にか現れたその嗅覚が恐ろしいんだけど。
そんなもちを椅子に座らせ、早速お皿の上に盛り付けて先生に紅茶を淹れてもらい、みんなで食べ始めるけど、その中にトヤマさんがいないことに今更ながら気が付いた。
「あれ、トヤマさんは?」
「素材の合成をしていますわ」
ああ、ハイパー合成君を試しているのかな? それならサーターアンダーギーは家屋メニューのアイテムボックスに入れておこう。そうすれば後にでも食べられるもんね。
ついでに黒檀も入れておこうかな。サクラが鍛冶用の部屋を作っておいてくれたそうだから、ミスノに頼んでおけば、後で鶴嘴にしておいてくれるだろうしね。
それで鶴嘴が完成したら、今度こそオリハルコンの採掘だね。今度は罠に引っかからないように気をつけないと。
「食べ終わったら、みんなで琵琶湖の方へ行きませんこと? 面白いダンジョンがあるそうですわ」
「何となく予想が付くな、どーせここの運営が好きそうなやつだろ」
湖と言うと、もしかして今の季節にはぴったりのやつかな? 海水浴ならぬ湖水浴みたいな。混んでなきゃ良いんだけどね。
もちにアイテムボックスにあるものは食べないように、と言い聞かせたらオーツの街へ出発。街を出て直ぐにあるみたいだから、移動は楽で良いよね。
準備が必要というサクラに連れられ立ち寄った冒険者ギルドには、浮き輪を始め、様々なグッズが販売されていた。
完全に遊ぶ気満々だよね。仮にもダンジョンらしいのに、こんな調子で大丈夫なのか、ちょっと不安もあるのだけど。
そんな私と違い、ノリノリなヨーナは浮き輪の他にサーフボードも買ったみたい。
私とサクラは浮き輪だけ買ったけど、バナナボートも買えば良かったかな? うん、グッズを見ていたら私もノリノリになってきたみたい。
そのまま徐々に上がっていくテンションに身を任せながら歩いて琵琶湖に直行したけど、其処は私が思っていたものとは少し違い、川のように音を立てて流れる湖、そう、流れるプールだったの。
そして流れも川のように速い為、バナナボートなら本当に爽快だっただろうなぁ。買わなかったのはちょっと勿体なかったかも。
「複数の水の流れから、正しい流れを選んで島を目指すダンジョンですの。夕食の時間までは、此処で時間を潰しましょうか」
なんでも最短で七時間程はかかるため、攻略目的なら忍耐力が試されるのだそう。琵琶湖丸ごとだから当たり前かな。
むしろモンスターが出ない事から、遊び場として人気があるみたい。ログアウトしたり、持ち家があれば直ぐ帰れるからね。
その所為か、大きめの浮き輪に乗るカップルが多い気がする。爆発してしまえ!
そんな嫉妬の感情を洗い流す為に、早速水着に着替えてお尻に浮き輪を当て、みんなで一斉に湖に飛び込む。
おお! やっぱり流れが速いなぁ。これは別の流れに移るのも一苦労だね。
「私はこっちの流れに行くから! じゃあな!」
ヨーナは私達に合わせて最初は浮き輪にしてくれていたのか、直ぐにそれを仕舞い、サーフボードに乗り換えてサーフィンの様巧みに流れを乗りこなしながら移動して、別の流れに移っていった。
良いなぁ、格好いいな。乗れる自信は全くないけど、私も買えば良かったかも。
「これって空を飛んだり、流れを突っ切ったりして島に行ったら駄目なの?」
「やった人は、死に戻ったらしいですわ」
なる程。ルールはちゃんと守らなくては駄目なんだね。
あ、丁度二人の間で流れが変わってしまったみたいで、サクラが違う方向へ流されて行っちゃった。
まあ、はぐれてどうこうなるものでもないし、のんびり行こうか。
でも、一人で流されるのはちょっと寂しいなぁ。
そんな寂しさを紛らわす為にテレビゲームをしながらも流れ続け、夕食には丁度い良いタイミングになった為、そのままログアウト。
流されている間に、トヤマさんから夕飯の後にでも祭り村へ花火を見に行こうとメールで誘われていたし、門の所で待ち合わせらしいから、ログインしたそのまま玄関を出て祭り村へ。
その際チラッと見かけた、水槽の前でアイアンキンギョの動きを目で追うクロの姿は凄く可愛かったなぁ。やっぱりテイムして正解だったよ。
そしてそんな感動以上の感動をもたらしそうなのが、其処に広がる光景。
光る提灯に聞こえる祭囃子、そして空を彩る満開の花火。雰囲気たっぷりで気分も上がるよね!
門の側で待っていたみんなと合流した後は、再びゴッドテイム石を狙ってみたりしたり、焼きそばや綿飴なんかを買い込む。
そんな風にそれぞれ楽しみながら通りを歩いて広場へ向かい、盆踊りで盛り上がる其処を眺めながら隅に設置されたベンチに陣取る。
「花火が綺麗よねぇ。明日からまた仕事なんて、憂鬱だわ」
いやいやトヤマさん。焼き鳥片手にビールをグビグビ飲む姿は、とても憂鬱には見えないよ。
でも、現実にはないような派手な花火は見ていて楽しいよね。
「この村に買える家とかねーかな? その方がのんびり見れるのにな」
「なら、後でギルドに行ってみませんこと?」
でもさ、それって買うのは私だよね? はぁ、別に文句はないのだけど、別荘がどんどん増えていきそうで管理に困りそう。
でも、どうせ買うのならもっと色んな場所にも欲しくなるよね。冬になって雪なんかが実装されたのら、雪国にも買いに行きそうだもん。
そんな訳で、広い庭付きの小さな平屋を買いました。これでモンスター達も連れて見れるね!
いや、一部のデカい奴は無理か。




