21. 島を買おう
「今日は、昨日寂しそうにしていたロダーンを融合進化させたいと思います!」
先生が作ってくれたサクサクのクロワッサン、それを食べながらのんびりと朝を過ごしていたみんなの前で、今日の予定が決まってしまう前に先手を打つように宣言をする。
「大丈夫か? ちゃんと育てられるのか?」
えっと、自信はないよ? だって、ゴーレムは特殊だもん。でも、一人だけ何も食べないってのも可哀想だしね。
何とかしてあげたいと思うのは、私なりの親心なのです。
「なら、ゴリゴリのマッチョな男性形モンスターは如何ですの?」
うん、確かにそれなら仁王像みたいに立ってるロダーンにはピッタリかもね。でも、そんなマニアックなモンスターなんているかな?
「ダメよ。いくらモンスターと言えど、女性ばかりのところに男性が入るのは不健全だわ。女性にしなさい」
それは、未成年の前で堂々とお酒を飲む人の言える台詞だろうか。てか朝っぱらからお酒って、どんだけ飲むのが好きなのさ。
「それなら、私が良いだろう」
そんな駄目な大人と違い、優雅に紅茶を飲むミスノが立候補。うーん、折角進化させたんだしちょっと勿体ないかなぁ。
「ご主人様、ロダーンに与えるならミスノがベストですよ。お互いの為になります」
えっと、先生までそんなこと言い出すと逆に少し怖くなってくるんだけど。
でもまぁ、二人がそこまで言うのならやってみようかな。早速ミスノを石に戻して外へ出て行き、門の側に立っているロダーンに石を手渡す。
てか、誘った私が言うのもなんだけど、皆ぞろぞろと私の後を着いてくるんだね。やっぱり、ゴーレムの変化は気になっちゃうか。
まぁ、多分フィナ達のケースから考えると、今のミスノの姿の色違いに変わる感じかな? うむ、私はそう信じているから、頼むから爆乳が萎んで胸筋にはならないでね。
そんな私の願いを込めた石を取り込んだロダーンはグニグニと動き出し、二つに分裂した。
それらがまたグニグニと動き、次第に形となって現れたのは、一つは銀髪に変わったミスノ、もう一つは銀色になったビミブルの姿だった。
「ふむ、頑丈になったな。これで接近戦もこなせるだろう」
「あれ? そっちがロダーンじゃないのか?」
「ああ、ロダーンは無口で自己主張のしないタイプだからな。牛になっていた方が、都合がいいんだ」
へぇ、だから丁度よかったんだね。
なんでも動物を象った黄道十二星座のモンスターは、ゴーレムに与えると人型と動物型に分裂できるようになるのだそう。
勿論、一つになることも出来るみたいだから、戦い方にも幅が生まれるんだとか。
もしかして、牛版ケンタウロスになったりしないよね? いやでも、バインバイン揺れそう。それはちょっと見たいかも。
「ロダーンが変な奴じゃなくて良かったな。で、終わったんなら私は行くぜ。ちょっとサクラ島に行きたいんだ」
「あ、それなら私もアバシリ流氷に行きますわ。それでは」
そっか、今日はバラバラで行動かぁ。ま、この件に付き合ってくれただけ良しとしよう。
それにしても、二人の目的はドラゴンかな?
サクラ島の事はこの前言っていたから憶えているし、アバシリ流氷に関しても学校で掲示板を見ていたサクラがドラゴンが言っていたしね。
なんでも、雪もないホッカイ領にあった謎の流氷の下にはドラゴンが住んでいて、スクール水着でその下へ潜ると卵を貰えるのだとか。
何故ドラゴンは、こうも変態なのだろうか。
「トヤマさんはどうするの?」
「私は……そうね、島が気になってるのよ。買いに行かない?」
それって、私がトンネルダンジョンで手に入れたやつだよね? うん、私も気になっていたし、それなら冒険者ギルドへ行ってみようか。
「なんだかお母さんとお買い物みたいだね!」
いや、ごめんなさい。私はただ小学生の頃よく先生をお母さんと呼んでしまっていたなぁ、ってことを思い出してつい言ってしまっただけなんだよ。
だから本当にごめんなさい。謝るからアイアンクローは止めて……。
そんなトヤマさんの怒りは直ぐに収まったようだけど、冒険者ギルド内に併設された酒場にて、私に対してミルクを注文してしまうと言うことは、まだ尾を引いているって意味だよね?
はぁ、今日はもう余計なことは言わないように気をつけよう。
そんなため息をつきつつもミルクを一気に飲み干し、受付のお姉さんから貰ったカタログの中身をトヤマさんと確認していく。
「色々あるね。やっぱり、緑と白い砂浜があると良いかな?」
「ランダムダンジョンも魅力的ね。もしかしたら珍しい素材が手にはいるかもしれないもの」
カタログによると値段は規模や景観によって様々な種類の島があり、オプションとして様々な機能も付けられるみたい。
その中にある、中に入る度に構造が変わるランダムダンジョンはなかなか高い。それだけ、挑戦するメリットがある物なんだろうね。
その点、拡張機能付きで外装も自在な家が標準装備なのは嬉しいかな。
しかし、高いと言っても稼ぎまくった私の懐は暖かく、そのランダムダンジョンを付けたとしても手持ちで何とかなりそう。
だけど一旦ログハウスに戻って、フィナを連れてゴールデンゴーレムを狩りに行くことに。
お金は心の余裕なのですよ。
「ミスリルゴーレムは無理そうね。こんなに混み出すとは思わなかったわ」
そうして向かったお馴染みの金鉱ダンジョンだけど、其処に広がる光景は少し前までの見慣れたものではなかった。
イベントによって社員の人と話す機会があったお陰か、ゴーレムの倒し方も広がったみたいで挑戦する人が増えたんだろうね。
既にゴールデンゴーレムと戦っている人も結構いたし、今の内に稼いどかないと後で困るかも。
そんな訳でお昼までみっちり稼いで、島を購入。
そんなに規模の大きな島じゃないけど、森も川も白い砂浜もある素敵な島。勿論、ランダムダンジョンも付けたのです。
早速ログハウスの玄関を出て島に行き、それぞれ行動開始。
トヤマさんは、初期のあばら屋を立派な別荘にする為にウィンドウと睨めっこ。私はミスノとロダーン、そしてジーヌとフィナ、ウォーセを連れてランダムダンジョンへ。
森の中に佇む彫刻かと思うような豪華な門を開きその中へと入ると、そこは宇宙だった。
「うわっとと、凄いなぁ無重力」
「おお! 楽しいねー、これ!」
無重力だと、体勢を整えるのも大変だね。
楽しんでるジーヌは下半身が蛇の様になっているからか、すいすいとまるで泳いでいるかの様に移動しているみたい。
いや、泳いでいると言うより飛んでいるのか。それなら私も飛べるようになれば、もっと楽に移動できるようになるのかな?
「ご主人! 避けろ!」
試しに魔法でも組んでみようとメニューを開こうとした時、私にかけられたミスノの声に反応して神速通で彼女の側へと移動する。
すると、私の居た場所を高速で何かが通り過ぎていったのが見えた。
「あれは、龍星だ。実体のない魔法生物で、こんな序盤で倒せるような奴じゃない。運がいいな、ご主人」
ミスノの言葉を聞きながらも、龍星の吐き出したブレスを神速通で避ける。
ミスノはミスリルゴーレムの特性で無効化出来るから、心配しなくても大丈夫な筈。
そしてその避けた際に確認できた龍星の姿は、朧に見える東洋の龍。って、いやいやこの状況のどこが運が良いと言えるの? 今も高速で突っ込んでくるのを神速通で避けるのに必死なのにさ!
「ご主人様、良いの貰ったじゃんか。あれの使いどころだよ!」
あれって、ああ! ゴッドテイム石か! なる程ね、倒せないなら捕まえてしまおうと。
それなら動き簡単に。ブレスを吐き終わり、突撃してくるタイミングに合わせて正面からゴッドテイム石を投げつけ、テイム完了。
名前はタツノでいいや。それより此処にいても危ないから、いったん戻ろう。ジーヌなら何とか出来るかもしれないけど、私が危険なのです。
せめて、自在に動けるようにならないと。やっぱり飛行魔法は必要かな。
メニューを開き、ログハウスに戻ったら先ずは戦利品の確認、……あ、ウォーセ達を石に戻すの忘れてた!
もしかして宇宙に置き去りにしてしまったのかと心配になっていると、それが杞憂だと分かるような元気な遠吠えが外から聞こえてきた。
良かった。でも、私が家に戻ると同じ様に戻ってくるのかな? それはそれで便利だけど、もう少し早く知っておきたかったかも。
よし、安心したのなら確認作業と行きますか。外に出て石からタツノを出してみると、戦っている時とは違いその姿をしっかりと見ることが出来た。
五メートルくらいの体長に四つの足。うん、見た感じまんま日本の竜だ。幽霊みたいにうっすらとした感じでしか見られないけど、すり抜けずに触れることは出来るみたいで、出してからずっと私の尻尾に絡みついてる。
それを見たウォーセも真似しだしたけど、私の尻尾は玩具じゃないからね? てか、先生も混ざろうとしないでよ。あんた、さっき中にいたじゃん!
そんなモンスター達を引き離すのは、今は諦めるとして、ダンジョンアタックはひとまず中止にしておこう。ランダムって怖いもん。
だから、今はゴールデンゴーレムの強化でもしようかな。
タコナグリの明石と、ガスイカの黒部をフィナに融合させてみよう。もしかしたら、水中行動と爆発能力が得られそうだし。
早速、明石と黒部を呼び出して一撫でしてから石に戻し、何故かタツノ達と同じ様に尻尾と戯れていたフィナに二つの石を渡す。
あれ? しっかりと取り込んでいたはずなんだけど、見た目の変化はないみたい。
《今の姿が気に入ってるから変えないよ! べっ別にあんたに可愛がって貰う為じゃないからね!》
うん、フィナはもっと甘やかしてあげよう。こっそり後で食べようと思ってとっておいた金平糖もあげておこう。
それを美味しそうに食べるフィナの頭を撫で、その笑顔に満足すると、流石に尻尾を玩具にされるのがしんどくなってきた為、トヤマさんの様子を見に島へ逃走。
すると、凄い物が目に飛び込んできた。
プール付きで開放感のある庭を備えた、これぞ南国リゾートといった別荘。さっきのあばら屋の面影なんてないそれを見るに、トヤマさんの拘りが如何に半端ないかが伺える。
「あら、ダンジョンはもう終わりかしら? 早かったのね。丁度良いわ、部屋でも作ってらっしゃい」
いや、それはこっちの台詞だと思うけどね。
まあ、いいや。言われたとおりに部屋でも作ろうか。でもどうせ別荘だし、広い部屋にベッドを置くだけで良いかな。
その後はトヤマさんに誘われ、砂浜に椅子とテーブルを用意して蕎麦を食べる。この蕎麦、先生が何時の間にか此方にやってきていて、引っ越しならと今し方作ったものらしい。
うん、美味しいけど意味が違うよ。
「折角のプライベートビーチだし、何か海洋生物が欲しいわね」
そんなトヤマさんの言葉に共感して、一度ログハウスに戻りとっつぁんを連れてきたけど、それだけじゃ駄目みたい。
そういえばと思い、称号で種族を見てみると一角セイウチだった。やっぱり、セイウチではデカすぎて微笑ましさが足りないのかも。
「ヤリカモメに鱈のフライを与えれば、ペンギンに進化させることが出来ますよ」
何故、鱈のフライかは分からないけど、取りあえず作ってこよう。ついでにフライドポテトも。
「海を見ながらのフィッシュアンドチップスも良いものね。ビールも旨いし!」
うん、まぁ、肴になりそうな料理を作れば飲兵衛が出来るのは当たり前か。
そんな酔ってしまったトヤマさんはさっきの発言など忘れてしまったのか、砂浜をよちよちと歩くペンギンの可愛らしい姿には何の反応も示さない。
でも、そのペンギンが何故か空を飛んだりするのは、エスパーペンギンという種族だからだろうか?
矢のように尖った小魚を従えて自由に空を飛ぶ光景は、流石ファンタジーと言ったところか。
どうせなら、他のモンスターも連れてきてのんびりしようかな? でも、ミスノとはビーチバレーをせねばならんだろう。
揺れるだろうなぁ。羨ましいなぁ。
そんな欲望渦巻く砂浜で過ごしている間に何時の間にか夜になり、サクラとヨーナが大量肉と魚介類を持って帰ってきた為、タツノとアトの紹介も兼ねてバーベキューをやることに。
こうしていると、全てを忘れて夏を満喫している気がするよね。でも、忘れてはならない要素が一つだけ、私としては二人が貰ってきた卵から、どんなのが出てくるか凄く心配なんだけど。
ドラゴンは個性がありすぎると思うのは、私の思いこみであって欲しいのです。
だからタツノさん、尻尾じゃなくて肉を食べて下さいな。