20. ツチノコパニック
ツチノコパニック。
今日から三日間行われるこのゲーム初めてのイベントなのだけど、深夜に予定されていたメンテナンスをすっかり忘れていて、強制ログアウトになったのは秘密です。
まぁ、称号は間に合ったから良かったけどね。
そんな初っ端から複雑な思いをしてしまったこのイベントは、領対抗で行われるもので、突然大量に現れたツチノコを倒すことで得られるポイントで順位を競う。
その為、領土が広いところで人海戦術を用いた方が有利そうに思えるけど、他にもルールとして、原因を究明した場合高ポイントをゲット出来ると言うものがあるから、一概にどこの領土が有利かは決められない。
「大量って、ここまでとは思いませんでしたわ」
そんな面倒なルールはあるものの、初めてのイベントにワクワクしながらログインして窓から外を眺めたら、可愛らしくデフォルメされたツチノコが草原を埋め尽くす光景が広がっていた。
まるでツチノコの絨毯だ。こんなに多いと可愛くないよ。
そんなツチノコを、うちのモンスター達が総出で蹴散らしているけど、ツチノコが減ってる気がしないんだけど。
「問題は、原因究明のタイミングだよな」
そんなモンスター達の手伝いをしながら、サクラとヨーナと共に今後の行動についても話し合う。
これだけツチノコが大量にいるならポイントを稼ぐのも楽だけど、やっぱり大量に得れる要素を有効に活用したい。
だけど、原因を究明したらツチノコが消えてしまう、なんてことがあったら勿体ない為、そう簡単には手を出せないんだよね。
「フジヤマに行きませんこと? 街もツチノコで溢れているそうですし」
なんでフジヤマ? って思ったけど、サクラとしては社員の人から情報を貰っておきたいらしい。
街でもこんな状況ならば、どこへ行っても変わらない。ならばフジヤマのドラゴンのところへって訳だね。
それならうちのモンスター達に聞けば良いと思うけど、折角のイベントなのだから、色々と動いてみたいんだとか。
うん、なんとなくその気持ちは分かるよ。でも多分、後で面倒になると思うけど。
「それならアオイ、転移マーカーやるよ。フジヤマに設置しといてくれ」
早速パシリにされるとは、イベントでもお構いなしですか。まあ、玄関から行けるんだし、設置するのは住人なら誰でもいいのかもね。
早速、ヨーナから転移マーカーを受け取りフジヤマの山頂へ。
足元を埋め尽くす凄い数のツチノコの所為で、歩く度にグニグニとした感触が足を伝い、とても気持ちが悪い。
でも、何故か温泉には居ない様だったから、もしかしたらそこに原因究明の糸口があるのかも。
そんな何もない穏やかな温泉に浸かりたい気持ちもあるのだけど、どうせドラゴンと会うためには入らないといけないから今は我慢。
まるで錠剤の様な形をした転移マーカーを、ツチノコを掻き分けて地面に埋め込み、直ぐにログハウスに戻ったら二人と共に玄関から再びフジヤマの温泉へ。
「さあ、アオイさん。脱ぎなさいな」
そしたらサクラに両肩を掴まれ、そう詰め寄られる始末。
温泉なんだから脱ぐのは当たり前、それにドラゴンに会うのだから、獣人である私が湯気モードにならなければ話は始まらない。
だけどね、そう言う台詞を笑いながら言うのは止めようか。いや、真剣に言われたらそれはそれでドン引きだけどさ。
皆でやれば怖くない精神で二人にも湯気モードを誘ってみるけど、流石にイベントの所為か人気がないと言っても其処まで開放的にはなれないらしい。
やはり、湯気を纏うというのが余計に羞恥心を掻き立てられるのだろう。
『なんだ、またお前等か。もう卵はやんないぞ』
そんな分析をしながら気を紛らせ、温泉に浸かりドラゴンをフィッシング。
甘噛みの感じはやっぱり嫌だけど、情報源は大事だからね我慢しようか。
「今回のイベントについて、聞きたいことがあるのですわ」
『ああ、原因の事だろ。突きとめたってツチノコは消えないから、安心しとけ』
うん、あっさり聞けた所為か拍子抜けな感じだけど、知りたかった情報だけに良しとしよう。
それなら時間いっぱいまで倒しまくりつつ、原因を調べていくのが良いかもね。肝心の原因については鬼ごっこのようなものらしいし、のんびりやるのが一番だそう。
いや、それを言っちゃって良いの?
「そんな情報まで言っちゃって良いのか?」
『良いんだよ、そーゆー作りなんだから。他の奴からも情報聞いて、犯人を追うってな』
やっぱり、領土の広さによっての棲み分けなのかな? 広い領土だとツチノコは多く倒せるけど、その犯人を捜す為には長距離を移動しなくてはならないしね。
そして、その逆もしかりってね。
有り難い情報をくれたドラゴンに別れを告げて温泉から上がり、一旦山頂のツチノコを掻き分けつつ山小屋に避難。
此処って、カレーが美味しいんだよね。作戦会議には丁度良いし。
「教えて貰えた犯人について、イベント用に出来た領別の掲示板に書き込んでみましたわ。それで早速情報がはいったのですが、不審な奴が竜ヶ岩洞や寸又峡で目撃されているそうですわね」
いや、それただの観光客じゃん。それなら観光地を調べた方が良いのかな?
「犯人は現場に戻るって言うし、その二つに行ってみるか?」
「それより、ツチノコを倒しながら近場を巡った方が良くないかしら?」
お、サクラも同じ様に考えているのかな? 此処から近場って言うと、白糸の滝あたりか。あそこならログハウスから歩いてでも行けそうだしね。
其処へ行こうと二人にも話してみると、どうせ居るかどうかは行ってみないと分からないからとあっさり決定。
予定としては、ログハウスに戻り白糸の滝に行ってみて、其処に居なければ同じ様に観光地であるフジヤマで張り込むことに決まった。
「で、いつまでカレー食ってんだよ。置いてくぞ」
「待って!? もう食べ終わるから!」
まったく、予定が決まったのならのんびりしたって良いと思うの。
しかし、結果的にヨーナが急かしてくれたことが正解という事態になってくれた。
白い糸のように落ちる綺麗な滝の側に佇むのは黒い陰、服も髪もなく有るのは目と口だけの、真っ黒な人型。
「まんま、犯人じゃねーか」
「アオイさん、とっ捕まえてしまいなさいな」
うん、紛れもなく犯人だよね。これ以上もない程に怪しさ満点だよ。
そんな不審者に対して神速通を使って背後に移動し、捕まえようとするけど、寸前でひらりと躱されてしまう。
そして、犯人はそのまま綺麗なフォームで川に飛び込み消えてしまった。
「ああ! 逃げられた!?」
「水を使って移動しているのですわね。確かに、目撃場所には水がありますわ。掲示板に情報を書き込んだ方が宜しいですわね」
むぅ、犯人についての情報を得られたのは嬉しいけど、逃げられたのは悔しいなぁ。
でも、これならフジヤマで張り込むのも当たりなのかもね。一応水がある所だし。
「対策も考えねーとだな。水から引き離すか?」
「一度ログハウスに戻らない? モンスターも役に立つかもしれないし」
滝の音は癒されるから良いのだけど、何時までも此処にいたって、直ぐに犯人が戻ってくるとは限らない。
それに戻ってきたところで捕まえられるとは限らないし、それならログハウスに戻ってしっかり作戦を練らないとね。
そんな訳で、先生に紅茶とクッキーを用意してもらい作戦会議開始です。もちがクッキーを貪り食ってるのは、気にしないでおく。
「やっぱ、魔法だよな。水を凍らせるか」
「陸上にいるときなら、土魔法で動きを封じるのも良いですわね」
うん、神速通で無理ならそうなるよね。素早い奴だったし、逃走経路と動きを何とかしないと。
「土魔法なら、ミスノ太郎を進化させたらどうですか?」
なんでミスノ太郎? と思ったけど、先生が言うにはビミブルに金平糖を与えると、金牛宮と言うモンスターに進化するんだとか。
そして、その金牛宮の戦闘スタイルが土魔法を用いた物なんだそう。
なんで金平糖なのかというと、星みたいだから。
まあ、安易なネタに安易に突っ込みを入れるのは止めておくとして、早速調理専用の部屋を作り、先生の指導の元で金平糖を作り始める。
専用の機械も色々と設置したから、色んな進化に対応できるようになっていると思う。
もうアバターの事を気にしなくてもいいし、気に入った進化先がありそうならどんどん進化させてもいいかもね。
先に温泉へと見張りに行ったサクラとヨーナの分も、作っておこうかな?
いや、どうせ見張ると言いながら温泉に浸かっているだけだろうし、金平糖に似た氷でも作って投げ込んでやろうか。
うーん、でもそれは温泉に対する冒涜な気もするしなぁ。仕方がない、とびっきり甘くして驚かせてやろう。
私だって早く温泉に浸かりたいんだもん!
そんな私の思いの結晶でもある出来立てホヤホヤな金平糖を、早速ミスノ太郎にあげてみる。
すると盛大な音を立てながら勢いよく食べ進めていき、サクラ達の為に多めに作っておいた物までも食べ尽くしたところで、ミスノ太郎は光り輝き、眩しくて思わず目を閉じてしまう。
そして目を開けたときには、白い布を巻き付けたような服を着た、長い黒髪の爆乳な女の人がいた。
そう、爆ですよ爆! 現実では早々見られないような、でもそれでいて奇乳とも言えない美しい爆乳を持った美女が現れたのです!
良いなぁ、私もそのぐらいのが欲しかったんだけど、身長の所為でアンバランスに見えて諦めたんだよね。
でも、身長を伸ばすのは胸囲以上に負けた気がするし、その落としどころが今の私の丁度良い巨乳。
でもやっぱり羨ましいなぁ。
「ご主人よ、金平糖感謝する。これからもよろしく頼む」
それにしても、モンスターの性別の概念が分かんないよね。ブルは牡じゃなかったかな? いや、それにしてもデカい。
「ふむ。増やしては如何か?」
私はこのままで良いのです、丁度良いのです。
そんな嫉妬さえも感じてしまう爆乳に突撃してきた、エロウサギのイースをはたき落とした後、ログハウスに戻りフジヤマへ。
後は私が氷魔法組むだけで準備は完了かな。神速通があれば射程は気にしないで良いから、効果を重視してサクッと組んでしまおうか。
「おー、やけにでっかくなったな」
それも終わり漸く温泉へと浸かることができた私は、さっそく体を湯の中で伸ばしながら温泉堪能しつつ、温泉を漂う二人と合流してミスノを紹介。
二人の反応を見ても、もう名前に太郎はつけれないよね。
なんせ、モンスターも水着を着れるみたいで、セクシーな牛柄の水着を着て一緒に温泉を漂うミスノ太郎は山を浮かべているし。うん、これはもうミスノさんだね。
てか、サクラが風魔法を使ってるみたいで、流れる温水プールみたいになっていてなんだか楽しいんだけど。
「そう言えば、どんな魔法を組んだんですの?」
「カチコチコオリ、触れた物を凍らせるのです」
「駄洒落でも言うのか?」
いやヨーナさん? 私は確かに触れるって言ったんだよ。まるで私の駄洒落が寒いものかの様に言わないで頂きたい。
私の駄洒落はね、ほっと一息つける暖かい物なんだよ。
そんな駄洒落を本当に口に出してしまったからいけなかったのか、奴は来なかった。
あの後も、二日目も。
のんびり温泉に浸かりつつも、偶に出てはツチノコを倒していたんだけど、夜になって浄蓮の滝で捕獲された、という報告が掲示板に書かれた。
私の駄洒落は誰も寄り付かなくなるほど寒いのかと、若干ショックを受けてそのままふて寝。
そして迎えた三日目は、海岸線でも歩きながらのんびりとツチノコを倒して過ごすことに。自動防衛用狐火が凄い勢いで倒してるから、楽で良いなぁ。
「機嫌直せよ。あれだ、ツチノコをテイムしたらどうだ? イベントモンスターだし、貴重だぞ?」
あ、ごめん。機嫌が悪いのではなくて、真剣に寒くない駄洒落を考えていたよ。でも、確かにツチノコは貴重だよね。
一匹だけ見れば愛嬌があって可愛いし……、狐火解除して、よし! テイム完了! 名前は太郎にしよう。ミスノ太郎は、太郎と呼べない体になってしまったからね。
早速出して持ってみると、触った感触は爬虫類と違ってぷにぷにしてる。おお、くすぐったいのか首を振る姿もとても可愛い。
「ここかぁ、ここが良いのかこいつめ!」
「ホントチョロいですわね」
良いのです、このぷにぷにで全てを許そう。
それにしても結構倒してきたけど、ポイントってどの位なんだろう? 運営は数字を隠したがるからね、ひたすら倒すしかないかな。
「各地で、大型のツチノコが出ているそうですわ」
「ボスモンスターか、ポイント高そうだな」
「ゴッドテイム石使っちゃいなよ!」
そうヨーナに要求してみるけど、流石にノリで使えるタイプではないみたい。デカいぷにぷにも良いかもしれないと思ったんだけどなぁ。
こうなったら私が……、うん、流石にもったいないか。ちっこいので我慢しよう。
それにボスも出てきたと言うことはイベントも終盤だろうし、ボス討伐に混ざって最後の追い込みと行きますか!
張り切った割にあっさりと倒してしまったボス戦も終わり、ひたすら散歩しながらツチノコを倒して回って迎えたイベント終了時間。
深夜という時間帯だけど、初めてのイベントも無事に終わったし、モンスター増えてきたことだからと、歓迎の意味も込めてバーベキューをやる事に。
ボスにMP全消費版よんびーむをお見舞いして注目を浴びたり、ツチノコを倒すついでに肉目当てで狩りに行ったり。
色々あったけど楽しめたなぁ。
「結果が出ましたわ。シズオカ領は十位、ギリギリ報酬圏内ですわね」
あ、もう結果がでたんだね。そう言うのって翌日の日が明けてからってイメージだったから、ちょっと吃驚。
でもバーベキューをやっている最中なら、丁度良かったかな。話のネタにもなるし。
肝心の報酬は参加賞とランキングの二種類があって、参加賞は蘇生薬だった。まだ生産報告がない物だから、トヤマさんは残念がるんだろうなぁ。
そして、ランキング報酬は十位まで共通な物が一つで、三位から先は報酬の種類が一つずつ増えるみたい。
その共通の報酬が、カジノ先行体験チケット。一週間後から使用可能らしいのだけど、このゲームのカジノはどんな感じになるのかな?
「一位は何処だったんだ?」
「オキナワ領ですわ。やっぱり、人気なのですわね」
人の多さが勝利の要因かぁ。
天気が変わらないこのゲームじゃ、あそこは天国だもんね。一度泳ぎに行ってみたいなぁ。
それより、ずっと門のところで仁王像の様に立っている、ミスリルゴーレムのロダーンが気になる。
やっぱり、ゴーレム状態では物は食べられないよね。何とかしてあげた方がいいかな?




