19. 便利は良いね
アオモリ領にあるムーツの街で名物のラーメンを味わった後、馬車に揺られ続けもう直ぐミヤギ領へ到着といった頃。
キボリに抱えられながら卵を撫でていると、ある異変が起こった。
「あっ! 生まれそう!」
抱えていた卵が震えだしたかと思えば、そこら中にピシピシと入るひび。そして、室内から出るように促す警告が頭に響く。
「呼吸法も大事ですわよ?」
「私じゃないよ!?」
他人事なサクラに突っ込みを入れつつも、慌てて普段行くことのない御者台に行き、馬車を引く三頭を止めて外へ出る。
すると、既に卵全体に広がっていたひびから光が漏れだし、その光は卵を突き破って外に現れ、人の様な姿に形を変えた。
え、なんで人みたいな姿になるの? ドラゴンが生まれるんじゃないの?
光が収まった時に其処にいたのは、背中にドラゴンの羽を持ち、下半身が蛇の様になった女の人。
うん、まぁ、確かに所々にドラゴン要素はあるけどさ、思っていたのと違いすぎて、ちょっとリアクションが取りづらいよ。
「ヤッホー! ドラゴンメイドさんの誕生だよ!」
逆に、生まれたばかりのこの人のなんとハイテンションなことか。
思わずなにそれ、とサクラに聞いてみると、半竜半人の乙女のことをそう言うんだそう。
いや、それ卵からでてきて良いものなの?
「ご主人様が強欲の称号なんか取るからいけないんだよ。あたしだって格好いいドラゴンになりたかったのに!」
それは本当にごめんなさい。
でもそれってさ、強欲にはメイドさんが付き物ってことなのかな? それならある意味納得は出来るけどさ、肝心なこの人、服装ビキニのトップスだけだよ?
メイド要素全く無いじゃん! 名前だけじゃん!
そもそも、ドラゴンメイドってそんな意味じゃ無いだろうにさ、それに私だって格好いいドラゴンが生まれてくるつもりで名前を考えてたんだよ。
リュウキングカイザーとか。まぁ、そんな愚痴を言い合っても仕方ないだろうし、取りあえず名前はサクラ提案のジーヌにして、歓迎の握手でもしてみよう。
「まあ、姿は何だって良いさ。ドラゴンなら飛べるんだろ?」
「そうね。ジーヌならどのくらいで伊勢まで行けるのかしら?」
そんなトヤマさんの質問に、握った手をぶんぶんと振りながら六時間くらいかな、と答えるジーヌ。
なんて言うかさ、この握手から見るに元気が有り余ってそうな子だよね。ログハウスへ戻ったら草原を駆けずり回ってそう。
それはそれでウォーセ達の遊び相手が増えて良いかも、と思いながら、既に感化されて走り出しそうになっているベイを石に戻し、サクラとヨーナもそれぞれ自分の馬を石に戻す。
そして、ジーヌに馬車の屋根に付いている取っ手を使って押してもらい、早速出発する事に。
私達は中にいて見れないから分からないけど、ビキニのトップスだけを身につけた半竜半人の女が馬車を押す姿は、とても異様だと思う。
飛んでいればあまり目立たないだろうけど、これはお伊勢参りだから仕方ない、ってね。
途中、夕食等でログアウトしつつも、テレビゲームを続けながら移動時間を過ごすこと六時間。
ビンボーの王様に泣きながらも漸く辿り着いた神社の前で、満天の星空の下で必死に歓迎の文字が書かれた旗を振る人を確認した。
はぁ、なんだかんだ楽しかったけど、やっぱり長かったなぁ。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
泣きながら出迎えてくれた社員さんは、仲間内からもこの目標は絶対無理だろって、言われていたらしい。
いや、それを私達の前で泣きながら言うのは止めようか。逆に、そんな目標の達成を手伝った私達が馬鹿にされている気分になるからさ。
「それで、報酬は何ですの?」
「おお、そうだった。先ずは称号からだな」
そう、目元をハンカチで拭きながら言う社員さんが格好良く指を鳴らすと、頭の中にアナウンスが響き、同時に現れたウィンドウに表示されたのは【選び取る者】という称号を取得したという情報。
効果は書かれていないけど、これが強力な称号なのかな?
「その称号は、取得した称号の効果を自由に選択できるようになるものだ。自由と言っても選択肢の中から選ぶ程度だけどね」
あ、本当だ。確かにメニューを開いて確認してみると、【強欲の九尾の狐】の効果のMP増加は+5000に下がるけど、代わりに自動防衛用の狐火なんかの追加効果が設定出来る様になってる。
「これは便利ね。不要かと思う称号でも、役立つようになるかもしれないのね」
「行動範囲を広げるための物でもあるからね。やりたくないことでも、メリットがあるとやってみたいだろう?」
効果がないと思ってた【成金】にも効果の選択肢が増えたし、ある意味此処からが本当のスタートなのかもね。
あと、一度選択した称号の効果は、基本的に再選択出来ない。だけど、再びこの神社に来れば再選択出来るみたい。
つまり、変えたくなったら歩いてきなさいってことだね。ある意味面倒だから、選ぶ際は慎重に。
と思ったけど、あの時ダンジョンで手に入れた鍵を使うことで、直ぐにこの神社に来ることが出来るようになるのだそう。
思いの外便利な物で、座敷わらしに感動してしまいそうなんだけど。
一通り称号の効果を確認したら、念願のアバターの変更も終わらせる。
固定化も出来るみたいだから、四尾の時の状態に戻して固定しておこう。サクラとトヤマさんは今のままで固定して、ヨーナは装備の色の変更と角だけじゃなく、翼も無くしていた。
翼を消すのは勿体なくないかな? 私だったらアイデンティティを感じちゃうんだけど。
「それでは、わざわざ最北端から来てくれたお礼の報酬だ。これはゴッドテイム石、どんなモンスターでもテイム出来るし、投げても使える優れ物だ。ははは! どうだ凄いだろう!」
うん、良い物なんだろうけどさ、その名前の所為でちょっと複雑な気持ちになってしまうんだけど。
もしかして、それで神様でも捕まえろってことなのかな? ベイの種族名はたしか神様の乗り物だったし、やっぱりいるんだろうなぁ。
それはそうと、ヨーナは社員さんに投げつけてるし、サクラはジーヌに向かって投げている。
しかしテイムは出来ないようで、当然と言えば当然なんだけど、人や人の物はいくらゴッドでも無理みたいだね。
そんな私達の行動に笑っていた社員さんも何時の間にか帰ったようで、神社も消えてしまった。もう良い時間帯だし、私達もみんなでログアウト。
称号は追々やっていけばいいしね。ふふっ、これで心置きなくモンスターをテイムしたり、進化させたり出来るよ!
そして翌日。ログインすると、運営からイベント開催のお知らせが来ていた。
明明後日からの開催で、領対抗イベントになるみたいだね。どんな物なのか楽しみだなぁ、と階段を下りていくと、リビングではトヤマさんがわざわざ新しいソファーを設置していた様で、其処に突っ伏して涙を流していた。
休みは今日で終わりらしい。夜なら参加できるんじゃないかと思うけど、中途半端に参加すると仕事に行きたくなくなるんだとか。
大人の世界は世知辛いなぁ。
「ご主人様、また負けちゃったよー。こいつ強すぎない?」
称号の【竜の親】は、ドラゴンの呼び出しと持ち家に戻す効果があった。広い土地が必要って、こういうことだったんだね。
うん、昨日そのままログアウトしちゃって、あの場にジーヌを置き去りにしたんじゃないかと心配になって、一度ログインした時に試してみたの。
文句の一つでも言われるんじゃないかと思っていたけど、空を飛び回っていて楽しかったと言っていたから、ちょっと安心。
でも、これはポジティブなんだよね? アホの子ではないんだよね?
今思えば、フィナやキボリは大人しくて私の側でイチャイチャしていたから石に戻せたけど、ジーヌはチョロチョロと動き回っていたからなぁ。
あ、それは完全に私の所為か。駄目な母親でごめんよ?
そんなジーヌは帰ってきてからずっと、小豆と共にテレビゲームしてたみたいで、もちは付き合いきれなかったのか、私の部屋のベッドで寝てたよ。
モンスターも寝るんだね。ああ、フィナ達も外に出しとかないと。
「おはようございますわ! ついにイベントですわね、楽しみですわね!」
「羨ましいわね、この学生が!!」
本当に荒ぶってらっしゃるよ、この教師。その所為で、楽しそうに階段を下りてきたサクラが固まってしまったじゃん。
「休みが終わるんだってさ、そっとしといた方がいいよ」
そう忠告すると、サクラはコクコクと頷いて理解してくれた様だけど、その後に来たヨーナのハシャぎっぷりで、トヤマさんは泣きながら部屋に籠もってしまった。
昨日上がったイメージがまた崩れていく、もう学校で会ったらどう反応して良いか分かんないよ。
そんな残念なトヤマさんの事情をヨーナに説明した後、先生の淹れてくれたコーヒーを飲みながら今日の予定を話し合う。
「イベントも始まることですし、私達の弱点でも改善しませんこと?」
「弱点なんてあったか?」
一応、今の所躓いているところはないし、火力は過剰だから弱点があったとしても、どうとでもなるんじゃないかと思うけどな。
でも、サクラの話す弱点とはある意味火力では解決できない、HPの事だった。確かに全然増えないよね。増えたのは【闘争の目覚め】の効果だけだし。
「そこで、一気にHP増やすおすすめの称号がありますの!」
その称号、【備える者】を手に入れるには三日間室内から出ないことが条件らしい。
効果はHPが+5000されるみたいだけど、何に備えているんだろうか? そんな称号がありなら、引きこもりなんかもありそうだね。
そこで、称号取得の為万全に三日間を過ごせるよう、室内運動場やボウリング場など、様々な物をログハウス内に作った。
うん、ここまで出来ると二億がとても安いね。
「ゲームの中なんだから、すっげープレイとかも出来るかもな!」
そんなヨーナの言葉から、スポーツを中心に楽しんでいく。消える魔球とか楽しいね! それを難なくミットに納めるジーヌも凄いけど。
一応、こんな物を作ったと連絡しておいたトヤマさんも途中参加し、弓道場を作り足して継ぎ矢を連発していた。
新手のストレス発散かな?
そして、ヨーナが枕投げをやりたいと言いだした為、急遽宴会場を作り適当に広げるように布団と枕をセット。トヤマさんも呼んで、皆でやってみることに。
ルールはバトルロイヤルで、武器、攻撃魔法は無し。布団によるガードは可能で、枕は他にも宴会場の四隅に大量に置かれており、自由に使って良い。
「制限時間は無しだ。誰かが生き残るまで続ける。じゃあ、いくぞ!!」
ヨーナの掛け声で開始されると、すぐさま【強欲な九尾の狐】の効果を変更して得た、自動防衛用の狐火を展開。
九つあるそれは、三方から来る枕を一瞬で消し炭にした。
「やっぱ、それを使って来やがったか!」
ヨーナが言葉を発したその瞬間、風を纏い捻れながら高速で飛んでくる枕を、とっさに使った神速通で避ける。
射線の先には、四隅の一角を陣取ったトヤマさんが両手に枕を持ち、今まさにそれを放とうとするところだった。
「これも避けるのね! でも、まだよ!」
次々に投げられる枕は、私以外も目標とされていた。きっと、これはイベントの恨みなんだろうなぁと、布団を使いながら防ぎながら辺りを見回してみると、他の二人も布団で防いでいるみたい。
するとサクラと視線が合い、数回の瞬き。うん分かった、真っ先に潰す相手はトヤマさんだね。
それを理解した私は、神速通を使い皆の頭を枕でひっぱたいた。
うん、便利すぎてやめられないね。最早投げてないけど、投げなきゃいけないルールもないしね。
「やっぱ、こうなるよなぁ」
ヨーナもこうなることが分かってたみたいで、悔しそうな素振りは見せていない。
サクラも私の行動は予想はしていたみたいで、特に気にした様子はないけど、トヤマさんは畳に突っ伏したまま啜り泣いていた。
うん、放っておこう。触らぬ教師に祟りなし。
そんな呆気ない終わり方をした枕投げだけど、過ごさなきゃならない時間はまだまだたっぷりある。
次は何をやろうかな?




