18. 報酬は大事
只今、宗谷岬に到着しました。
夜空に輝く綺麗な星々をみていると、私達の長旅を祈る為に、そんな姿を見せてくれているのだろうと思えてしまう。
あの後、直ぐに帰ってきたトヤマさんに説明したところ、出発は何時でも良いとのことだったから直ぐに出発。
どうせなら最北端から行こうと言う、ヨーナの強い要望により先ずはサーポロの街へ向かい、途中夕食等の為のログアウトをしつつ此処まで移動してきて、今は九時過ぎ。
この後の予定としては、トナカイが出る場所があるというので、其処へテイムしに行く。
その後、温泉に向かいのんびりしてからログアウト。移動時間は合わせて二時間くらいかな?
「こんなに時間が掛かるとはな、やっぱり北の大地はすげーな」
まあ、スタート地点に行くまでにも時間がかかるからね。この領だけで、移動時間は十四時間くらいかな? 移動中はゲームしっぱなしだし、ちょっとだれるかも。
「それにしても、トヤマさんがこんなにゲームを購入していたとは思いませんでしたわ」
うん、確かにね。此処までくる間にもテレビゲームはしていたんだけど、豊富すぎるラインナップのお陰で、今の所飽きはきていない。
それほど、数があるんだよね。安そうな物が多くを占めているから尚更のこと。
安そうと言っても数が数だし、相当つぎ込んだのかな?
「ゲームが好きなのよ。彼もゲームが好きって言ってたのに、それもあってこのゲームも彼とやる予定だったのに、あんにゃろう!」
なる程、このゲームの数は愛情の量と比例していたんだね。
しかし、実はその彼、そんなにゲームが好きな人ではなかったらしく、トヤマさんがそんなにゲーム好きだとは思わなかった、と振られてしまったんだそう。
ひどい奴だなぁ、本当に。
そんな愚痴と共に酒に逃げたトヤマさんは放っといて、馬車に設置したテレビを使って三人でレトロゲームを続ける。
こうやって厳しい大人の世界に背を向けられるのも、子供の特権なのです。
「レトロゲームはシンプルで良いよな」
「シンプルだろうが複雑だろうが、テクニックが必要なのは変わりませんわ」
いや、二人がやってるのは協力してステージをクリアしていくのじゃないの? さっきからつぶし合いしてばっかなんだけど。
あ、魚に食われた。
そんな様々な思いを乗せ、グリンブルスティとペガサス、スレイプニルの引く見た目奇妙な馬車は順調に進み、一時間程でトナカイの居るであろう場所に着いた。
さて、早速テイムしに行く前に、少し癒やしを補充しておこう。
今回、この度に連れてきたのはベイとキボリだけなんだけど、そのキボリを連れてきたのは癒しの為なの。
なんせこのキボリさん、笹を食べさせてみたらパンダになったのだからね!
ササパンダといって、笹や何故か竹まで召喚して戦う謎の存在だけど、癒し効果はたっぷり。
今は頭を撫でるだけだけど、後で抱きつかせてもらうからね?
「やっぱ、トナカイは雪があった方が良いよな」
そうキボリに告げて馬車から降り、見えた光景は大きな角を持ったトナカイの群。
雪がないから少し物足りなさはあるけど、その大きな角はなかなか迫力のある物。うん、やたらと角がデカい。
トナデカイという名前は伊達じゃないらしく、普通のトナカイの二倍くらいはある。大きすぎて邪魔になったりしないのかな?
まぁ、そんな事情は後で観察してみれば良いことだし、早速テイムしたトナデカイに彗星号と名付けて馬車に戻る。
トヤマさんが素材になるから何頭か倒しておきたいそうだし、それが終わったら温泉に向けて出発かな。
群れで居てくれたお陰か、トヤマさんの狩りは早々に終わり、キボリと戯れながらもテレビゲームを続け、何事もなく馬車は順調に進み無事温泉に到着。
やっぱり、乗ってるだけで目的地に着くのは良いよね。モンスター様々だよ。
「はぁ、温泉に浸かって月見酒。至福よねぇ」
「トヤマさん、あまり飲み過ぎては駄目ですわよ」
それでも、移動という物はそれだけでストレスが溜まるもの。
そんなストレスを洗い流すために温泉へと浸かるのだけど、大人と子供の温度差が広がっている気がするよ。
いいのよ、ゲームだもの。と、日本酒を飲み進めるトヤマさんだけど、この旅のお陰でこの人の印象も変わってしまった。
学校で接する限りでは、知的な大人の女性って感じだったのになぁ。
今日はここまでだけど、明日はダンジョンの攻略もあるし、そこでトヤマさんのイメージが再び変わることを祈ろう。
青函トンネルがダンジョンの様になっているみたいで、陸路で本州に行くにはそこを通るしかないみたいなの。
アトラクションとしても、人気がある所だという話だから楽しみなんだよね。
そして、早朝五時。
昼までにダンジョンに着くことを目標とした為に皆でこの時間にログインして、目を覚ます為にとトヤマさんの指示で始まったラジオ体操。
確かに夏休みの風物詩って感じだけど、まさか高校生になってやることになるとは思わなかったよ。
そうは思っても、なんだか懐かしい気持ちになって楽しめたラジオ体操も終わり、向かうはホッカイ領へと別れを告げるダンジョン。
今更なんだけど、草原でも難なく走る馬車も凄いよね。それに、宗谷岬からの道のりも馬車で走りやすくなってる節があるし、挑戦し易いようにはなっているのかも。
そんな安定して進めるのだから、移動中にやることと言えば専らゲーム。偶にキボリとじゃれ合ったり、お茶したりもすることもあるけどね。
先生を連れてくればその場で淹れてくれたりもしただろうけど、ログハウスに残してきた見た目幼女の三人が不安なの。
主にもちのストレスが。
連れてくれば良かったかもしれないけど、大所帯になりすぎるのもそれはそれで大変だから仕方ない
よね。
そんな我が家への想いも募らせつつ、今やってるのは自分好みにカスタマイズしたロボットで、四人対戦も楽しめるゲーム。
ふふーん、私の最速レッグとショットガンが火を噴くぜい!
「何故勝てぬ!」
「ボムなんかも使おうな」
うぅ、やっぱり私はゲームが下手なのかなぁ。もうこうなったらキボリに癒されよう。
いや、うん、そうだよ。私が下手なんじゃなくてこの人たち強すぎるんだよ。特にトヤマさんは容赦ないんだよね、流石持ち主め。
専らテレビゲームを見学する事がメインとなりつつも、所々で休憩しながら漸くダンジョンの入り口まで到着。
人によっては出口にもなるそこは、順番待ちも居るくらいの大盛況だった。
流石にこの三頭が引く馬車は人目を引くので、モンスター達を石に戻して直ぐにログアウト。昼食が済んだら早速挑戦だね!
そうしてどんなダンジョンなのかと期待しながら列へと並び、私達の順番になって入ったダンジョンは、まるで遊園地にでもあるかのような、そんな見た目をした物。
「トロッコだね」
「トロッコですわよ」
しかし、それこそが人気の秘密。歩く必要もなく進めるこのダンジョンは、トロッコで進むスクロールシューティングなの。
それ故に、スコアによって報酬が変わるのが魅力なんだとか。
そんな訳でピンチヒッター。宝箱がでる訳じゃないけど、念のためログハウスへ戻り、格ゲー勝負を見ていたフィナを連れてきました。
早速、八畳程の広さのトロッコに乗り込んで襲い来るモンスターを倒しやすい様に配置につく。
後方にヨーナとキボリ、前方にはサクラで左右にトヤマさんとフィナ。そして私は真ん中。
ヨーナは主に後ろから来る敵の対処で、私は全体のフォローといったところかな。
配置に付いたところで、先ずはゆっくりとトロッコが動き出す。
最初はゆっくりだけど、徐々に速度が上がってゆき、最終的に電車と同じ位の速度になったかな。風が感じられて、振動も相まって結構怖い。
でも、そう思っていられる暇もないかな。
トンネル自体は結構広く、三車線の道路くらいはあると思う。これだけ広いのなら、それだけ襲ってくるモンスターも多いはず。
そんな予想通りに、先ず襲い来るのは視界を埋め尽くす程のコウモリの群。
それを魔法とドリルの弾幕で倒していくと、背後からウルフが迫ってくる。これが基本パターンみたいだね。
後ろはヨーナと、キボリで十分かな? キボリの召喚した空に浮かぶ無数の竹槍が、次々とウルフに刺さり倒していく。
それ、爆発したら格好良いかも。
そんな状況が続いていき、トンネルも半分を越したといったところで、敵の中にウルフと同じ様に後ろから迫り、トロッコと併走してくるスケルトンライダーが混じるようになった。
骨の馬に乗った人骨で、弓矢を用いて攻撃してくる為、ヨーナに大剣で防いでもらいながら神速通で対処。
それでもその数は多い為、MPの消費は気になるところ。しかし、そこは頼れるトヤマさん。試作品だというポーションを事前に、それも大量に渡されていたんだよね。
バラつきはあるものの、大抵回復量は500程ある為、神速通はケチらなくても大丈夫。ポーションの使用にクールタイムがないってのもいいよね。
そのお陰もあって順調に進んでゆき、ゴールも間近に迫ったその時、トヤマさんが天井付近を矢で打ち抜いた。
見た目何も見えないその矢の先を称号の効果で見てみると、そこにいたのはボーナスカメレオンというモンスター。
そんなん惚れてしまうじゃん。格好良すぎて惚れちゃうじゃん! イメージアップしすぎでしょ!
「トヤマさん良く気づいたね」
「【識別の目】の効果よ。隠されている物に気付きやすくなるの」
なんでも、薬草採取の際手に入れた称号らしい。
フジヤマの樹海で採取を行う場合、予めジュカスネークを狙撃しておくのに役に立つみたいだね。便利そうで欲しくなってくるなぁ。
そんな感動もあった、凡そ二十分のダンジョン攻略。そのゴールは人によってはスタート地点になる為、順番待ちの人で一杯だった。
《島購入券を入手しました》
待っていた人達に場所を譲る為、トロッコから全員が降りたところでアナウンスとウィンドウが表示された。
うん、多分豪華な報酬なのだろうけど、ログハウスがある分反応に困るよ。せめて島を持つメリットが知りたいのだけど、別荘に使えばいいのかな?
「おお、転移マーカーだってよ。好きな場所で使えば、玄関から行けるようになるっぽいな」
どうやらこの購入券を手に入れたのは私だけみたいで、他の人は転移マーカーが報酬だったみたい。
私だけ違うのは、もしかしたら座敷わらしの効果なのかも。
皆にこの報酬のことを伝えると、いい場所があればいいなと、慰められた。羨ましがらないのは、土地が二つあっても宝の持ち腐れになりそうだからだろうね。
私だってどうしようか悩んでしまうもん。
フィナにどんな島があるのか聞いても、人差し指を口に当てて内緒のポーズだし、冒険者ギルドに行けば詳しく教えて貰えるのかな?
「それじゃあ、出発よ。今日はエードまでにしておきましょうか」
新たな悩みも抱えることになったまま進む、王都エードまでの九時間ほどの道のり。
最北端からのお伊勢参りも楽じゃないよね。でもさ、何でヨーナは最北端に拘ったんだろう?
アバターを変えたいだけなら別に歩く距離なんて関係ないのだろうし、近くから歩き出せばいいだけの様な気がするのだけど。
「フジヤマのドラゴンの事もあったからな。社員のボーナスが絡んでるなら、何か別の報酬があるかもしれないだろ」
それを本人に聞いてみると、意外とまともな答えだった。え? 皆もそう考えてたの?