16. 考えるのは大事なこと
朝、ログハウスのリビングで繰り広げられていたのは、殴り殴られの激しい熱戦。
まぁ、サクラと小豆がゲームしてるだけなんだけどね。
ログインした時に、運営からのメールでテレビに関する機能の追加、という知らせを見て、こうなることは予想出来てはいたんだけど、ここまで盛り上がっているとは思わなかったよ。
その機能と言うのは、テレビが設置された家屋に住む人の購入したゲームが、そのテレビでプレイできるといういうもの。
このログハウスには今は四人住んでいるから、四人分のテレビゲームが一台のテレビで出来るってことなんだよね。
それに小豆が大興奮。
格闘ゲーに関してはサクラが勝って終わったみたいだけど、小豆のゲーム熱はまだまだ冷めない様子で、既にRPGに切り替えて遊びだしている。
楽しいことを目一杯楽しむのは良いことではあるのだけど、食事くらいはちゃんとするようには言っておこうかな。
「おはようございますわ。ヨーナさんが来ましたら作戦会議を始めませんとね」
「詳しくは聞いてないけど、ダンジョンの謎解きに苦労しているそうじゃない。そんなに難しいの?」
そうサクラに促されてテーブルにつき、コーヒーを飲みながら熱戦を見ていたトヤマさんも会話に加わる。
詳しくは作戦会議の時に、と言われて詳しくは聞いていないみたい。
それでも、サクラと同じように謎解きという物に興味はあるみたいで、今日は私達と一緒に挑戦するとのこと。
「はよー。ムズいじゃなくて分かんねーんだよな」
「おはようございますわ。さあ、始めますわよ」
そんな私達の話に丁度良く階段を下りてきたヨーナも加わり、フレンチトーストとコーヒーが配置されたテーブルにつかせたら、作戦会議を始める。
サクラがトヤマさんに説明している間に私も少し整理しておくけど、たしか、フィナの話だと何かが必要なんだよね。
「やっぱ気合いが必要なんかな?」
耐久レースじゃないだよヨーナさん。
「先生ヒント!」
しかし、そんなヨーナを否定できるほど答えが導き出せる訳でもない。ならば聞くのが一番、てね。
流石に、サクラとトヤマさんもノーヒントでは思いつかないようで、私の質問に文句が飛んでくる事はなそう。
「構造、ですかね」
「構造か。たしか、碁盤みたいって言ってたか?」
「みたい、というより碁盤ですわね。格子も同じでしたわ」
へぇ、どうやらサクラは、漫画を読み込んで覚えた碁盤と照らし合わせていたみたい。
でも碁盤か、ゴーレムと対局でもするのかな?
「映画であったわね、自分自身が駒となってチェスをするなんて」
トヤマさんも、私と同じようなことをことを考えているみたい。
でもそうなると石が足りなくないかな? 囲碁ってさ、盤上にいっぱい石が置かれているイメージなんだけど。
「ああ、解りましたわ。ゴーレムで囲碁をしますのね。白黒ではなく金銀で」
そんな私とは違い、サクラは囲碁から何か感づいたみたい。
もちとフィナ、アトを連れて行きましょうか、と言うと直ぐに玄関の方へと歩き出すサクラ。
その後を追うように玄関脇にある窓を開けてアトを呼び、もちとフィナを連れてくならばと、小豆にも声をかけてみた。
「行かねーよ、バーカ」
はぁ、この子が心配だよ。
こうなったら梃子を使っても動きそうもない小豆は放っておき、ダンジョンへ着けば、二体のドリルケンタウロスがゴールデンゴーレムを蹴散らしながら、地下への階段があるところまで進む。
「先に進むのにゴールデンゴーレムが必要なら、何でこんなに強いんだ? テイム石って投げても使えるのか?」
「投げては駄目ですよ。近づけないなら、弱らせないといけません。ゴールデンゴーレムは本来、ミスリル製の武器で対処出来ます」
そう、もちに答えを求めるヨーナだけど、その返答にその顔が引きつることとなる。
なる程ね、ミスリルゴーレムは時間をかけて上手く立ち回れば、誰でも倒すことが出来るモンスターだし、急がば回れってことだ。
肝心なのは、ゴールデンゴーレムに気付かれないように進むこと。
「マジかよ!? じゃあ、私は毒なんか使わなくても倒せたのか!?」
だから、何が何でも倒すというのは脳筋というものなんだよ、ヨーナさん。
毒を勧めたり、ドリルで倒しまくるワタシに言えたことではないのだけど。
そんな落ち込むヨーナを励ますこともせず、逆に詳しく聞こうとするトヤマさんに弄られながら、階段を下りて地下に進む。
そして階段を下りた時、まさかまたポージングするミスリルゴーレムがいるのではないかと思ったけど、それはいらぬ心配だったみたい。
やっぱり、モンスターにも個体差があると言うことなのか。
「それでは、アトを出してくださいな。このフロアにいるゴーレムの数を調べて貰いますわ」
言われた通りに石に仕舞っていたアトを外に出すと、直ぐに私の頭を止まり木代わりにして落ち着いてしまった。
そこがお気に入りになったのかな? 指示を出すとちゃんと飛んでいくけど、戻ってきたらちゃんと頭に止まってしまう。
あ、止めて、耳をつつかないで。
「そういうことね。一体しかいないなら囲んでしまえ、そうでないなら減らせるのか」
「ええ、そうですわ。前回調べたときには、ミスリルゴーレムを複数同時に相手をすることはありませんでしたもの」
へぇ、色々考えていたんんだね。
私はあの時、ポージングがうざいなぁ、としか思わなかったよ。ヨーナも一人で倒しに来たこともあるのに、気にしてなかったみたいだし。
やはり、私達は脳筋なのかもしれない。
そんな脳筋にもサクラ達の考えが分かったところで、早くもアトが戻ってきた。
「一体しかいないようですね」
「喋れるモンスターが居ると楽で良いよな」
「では、誘導は私に任せてくれないかしら? 弓を使うから、こういうのは得意なつもりよ」
うんうん、もちを連れてきたのは良かったと思いつつも、悔しそうにもちを睨むフィナの馬体を撫でておく。
その間にも、トヤマさんは道案内役にとアトを連れてミスリルゴーレムのいる場所へと向かい、私達は誘導されてくるであろうそれに対処するためにスタンバイ。
まぁ、二人の話を聞いた限りじゃ、活躍するのはもちとフィナだけだと思うけどね。
《しっかりやるんだから! ちゃんと見てなさいよね!》
さっきはもちに良いところを奪われたと思っているのか、フィナは馬体に文字を表示してやる気を出しているし、任せても大丈夫だろう。
でもさ、この子は喋るつもりは無いのかな? もちに対抗心を燃やすなら喋るのが一番だろうに。
擽れば笑い声くらいは出せるのかな? と実践してみるけど、こんな姿でも流石ゴーレムなのか、口角すら上がらずきょとんとして私を見つめるだけ。
結局、トヤマさんがミスリルゴーレムをこの洞窟の角まで誘導し終えるまで、何の反応も引き出すことは出来なかったのが悔しい。
あ、止めてアト。頭に止まるのは良いけど、耳はつつかないで。
そんな頭の上の動きに葛藤している間にも、二体のゴールデンゴーレムはミスリルゴーレムを取り囲み、それが正解だったと言わんばかりにある変化が表れた。
ミスリルゴーレムが、考えてるようなポーズで固まったまま動かないのだ。
いや、そこはボディビルなんじゃないの? あえて空気を読まない作戦なの? それともこの子はボディビルに興味がない子なの?
答えは出たのだろうけど、逆に私の疑問は尽きないよ。
「さて、後は取るだけですわね。さあ、アオイさんよろしくお願いしますわ」
「倒すんじゃないのか? 取るってテイムか?」
「囲碁なら取るんでしょうね。倒すにしても駄目なら二度手間なのだし、やってみたら良いじゃない」
いや、何で私がテイムすることになってるの?
テイムするなら私以外でも良いじゃんと思い、周りを見つめるもさっと視線を逸らされてしまう。
駄目なようですね。
サクラとヨーナはボディビルのイメージがついているから避けているのだろうけど、トヤマさんは何故だろう?
「トヤマさん、ゴーレムがいれば素材集めに役立つかもよ?」
「生憎、石を持っていないのよ」
あ、これは絶対に断り続けるパターンだ。この手の台詞が出たら、私が折れるしかないやつだ。
仕方がないから、動かなくなったこの子は私がテイムしてあげようか。もしもポージングばかししている様なゴーレムだったなら、東屋の隣にでも飾っておけばいいしね。
名前はそうだね、ロダーンでいいや。
「何も起こらんぞ?」
「ロダーンを出してみてはいかが?」
これで何も起こらなかったらどうしよう、と言う心配もあるけど、それはサクラの言うとおりに外へ出したロダーンによって、粉々に打ち砕かれた。
文字通り、にね。
ロダーンを出してみると、私達に会釈をした後に壁へと振り向き、パンチを繰り出して壁を崩壊させたのだ。
色々と驚く事態だけど、私としてはロダーンが礼儀正しそうな子で良かったよ。
「どうやら正解だったみたいね」
「そうですわね。進んでみましょうか」
「なあ、もち。先にミスリルゴーレムをテイムしてたらどうなってたんだ?」
あ、そうだよね。ヨーナの言う通り、あの時私がミスリルゴーレムをテイムしていたら、こんな手間を省く事が出来たんじゃないかと思うと結構徒労感があるのだけど。
「行程を踏まなければ何も起こりませんよ」
うん、よかった。あの時テイムしなくて本当に良かったよ。
そんな安堵のため息と共に砕かれた壁の向こう側へと進むと、そこはまだ先へと続く洞窟だった。
広さは一階と同じ位だから、ゴーレムでも十分に歩けそう。
試しに何処まで続いているのか歩いてみると、五分ほどで行き止まりにぶつかり、その壁には文字が書かれている。
《お疲れさまでした。またのご利用、お待ちしております》
その文字を読むと視界が真っ白に染まり、視界が戻ると目の前にはログハウス。
呆然と立ち尽くしていると、草原でモンスター達を撫でていた先生が駆け寄り、こう告げた。
「もしかして、引っかかっちゃいました?」
「何かの罠でしたの?」
「あの文字は帰還用の物で、目で追うと自動で帰還してしまうんですよ」
なにその罠。
奥さえ行かなければ好きなだけオリハルコンを採掘出来たそうだし、初見殺しもいいとこだと思う。
見てよ、張り切っていたサクラのガッカリようが凄いんだよ? 地面に手を付いて頭を下げてうなだれているし。
「意地きたねーな、運営は!」
「それとオリハルコンは、ミスリルと良質な木で出来た鶴嘴でしか、採掘出来ないようになってるんです」
なにその二度目の初見殺し。もう初見じゃないって言うか、何故それを先に言ってくれないのか。
先生もそうだけどさ、そんなに罠に引っかけたいのか! 引っかけたいんだろうなぁ、笑ってる運営が目に浮かぶよ。
先生も平静を装いつつも、口角が少し上がっているし。
「なんか、どっと疲れたわね。ジープちゃんで癒やされてくるわ」
大人は切り替えが上手いのか、トヤマさんはそこまで落ち込んだ様子も見せずに、モコモコに癒しを求めに行った。
それなら、私は水に流すために先生に紅茶でも入れて貰おうかな? うん、ヨーナもサクラと同じくガッカリし過ぎでグッタリし始めたし、取りあえず一息入れようか。
あぁ、紅茶と一緒に出してくれたプリンがとても美味しい。
もちが椀子そばみたいに食べてるから、二個目は譲ってあげようかな? なんていうか、物凄く真剣な表情で食べ進めているし。
その点、出かける前と変わらずテレビゲームに熱中している小豆の、なんと平和なことか。
「昼まではもう此処から動きたくねーや」
「そうですわね。ゲームでもしていますわ」
「なら、落ちゲーで勝負しよう! 私の連鎖を見せてやるぜい!」
そんな小豆に触発されて、私達もテレビゲームと洒落込もうか。
選んだゲームは勿論、スライムみたいのを消して邪魔しての定番物です。これが案外熱戦になるんだよね。
それに、これには結構自信があるのです! そう簡単には負けないよ!
「お前、適当に積んでるだろ」
「落ちゲーは運も大事だと思う」
「アオイさんは本当に、ゲームを楽しんでらっしゃるのね」
ふんだ。一、二回は勝ってるから良いんだもん!




