表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/929

15. 大事なことは後から知る

 劇場に行くと言うサクラと別れ、小型犬サイズになったウォーセを右腕で抱え、左手でもちの手を引き図書館までやって来た。


 観光気分だからのんびりと、と考えていたんだけど、甘いものの匂いに惹かれるもちを連れて歩くのはなかなか大変だったよ。


 流石王都、誘惑が多い。


「中はログハウスみたいに広くなってるんだね」

「元々、ダンジョンに使うために用意したみたいなんですけどね」


 そんな魅力的な屋台や飲食店に耐えたのは、もちだけではなく私も同じ。


 それでも目的があるからと頑張って誘惑を振り切りやって来た訳だけど、まるで海外の国立図書館のようにそびえ立つ本棚は、来て良かったと思えるほどのインパクトを与えてくれた。


 しかし、その感動的な衝撃は長くは保たず、もちからこんなに広い図書館を作った理由を聞いて、逆に呆れるほどに残念な衝撃を受けてしまう。


 いや、本当になんなの? 自作の小説や自身の写真集などを置きたがる奴らが続出した為に、図書館を拡張しましたとかさ。


 どうせ図書館にも使うなら、プレイヤーの家屋にも使ってみようとかさ。


 やっぱりあれなんだね、便利と言う物は欲望と言う物が形になった物なんだね。


「いや、写真集とかどんだけナルシストなのさ」

「学生時代ボディビルをやっていたそうです」


 なる程、分かりました。ミスリルゴーレム作ったのそいつだよね!?


「図書館ではお静かに」


 そんな突っ込みを入れてしまった所為か、颯爽と現れた司書の人に怒られてしまう始末。


 これ、私が悪いのかなぁ、と少し責任転嫁したい気持ちにもなるけど、理由はどうあれ司書さん自ら来てくれたのなら、ついでに目的に関することを聞いておこう。


 今回図書館へ来たのは、サクラが話していたモンスターの種類などが分かる称号を取得するため。


 どうすればそれを取得出来るのかをそのまんま聞いてみると、単純にいくつかの本を読めばいいとのこと。


 早速、適当に選んだ辞書や図鑑を読むと言うより眺めた後、無事に頭の中にアナウンスが響き【知りたがり屋】の称号をゲットだぜい!


 この称号、モンスター以外にも生産素材の情報も知ることが出来るみたいだけど、そこら辺はあまり興味はないし、トヤマさんから手伝いを頼まれる以外には使わない気がするよ。


 そう、私の目的はモンスターだからね。


 試しにウォーセに使ってみると、種族がフェンリルと分かるだけの表示のみで、ちょっと思っていたのとは違うかな。


 HPなんかの数値が見れないのは本当に残念。プレイヤーと比較して、どのくらい戦闘に使えるのかも知りたかったんだけど……、これはモンスターとコミュニケーションを取りながらってことなのかも。


 もちの場合も素体となるゴーレムの種類と、融合されたモンスター名の表示だし、やっぱり詳しい能力は本人に聞くしかないんだろうね。


 ことゴーレムに関してはゴーレムコロシアムが実装されたらそれが重要になるだろうし、もっと強くしていかないといけないもん。


 やっぱりコロシアムと言うからには、勝ちたいからさ。


 さて、早々に目的は達成してしまったけど、此処にはまだまだ色んな本があるみたいだし、夕飯までの時間は此処で過ごすとしようかな。


 図書館で自分好みの本を探すのって、以外と楽しくて好きなんだよね。


 まぁ、それが失敗談みたくなるケースもあるのだけど。



 若干の後悔を引きずったままログアウト、そして夕飯を頂きログインしたところ、リビングには先生しかいなかった。


 サクラは多分、劇場でまだ楽しんでるだろうし、ヨーナが居ないとなると、順調なのかな?


 とりあえず、テイムしたアトは外に放しておこうと玄関から外に放ってみると、磁石に引っ張られたかのようにジープのもこもこへと頭から突っ込んでいった。


 うん、ジープも気にしていなさそうだし、モンスター仲は心配なさそうだね。


 そんな突っ込みどころは感じつつも、仲むつまじい姿に満足しつつ、玄関のドアを閉め、椅子に座ると先生が紅茶を入れてくれる。


 あぁ、至福の時間だぁ。

 

 図書館では探検みたいに色んな本を探そうと思っていたんだけど、ある一種類の本を見つけてしまったことでその計画はパーになってしまったんだよ。


 それは社員の人が書いた、こんなプレイヤーはイヤだシリーズ。


 漫画仕立てに実際に起きたことをユーモアに描いた物で、それがまた面白かったの。


 モンスターから見たプレイヤーの行動がメインの話で、ちょっとしたミスでも視点が変わるとこうも面白いのかと実感させられたよ。


 まぁ、偶に嫌みなご主人様へのモンスターの逆襲みたいな、ブラックな物もあってゾッとしてしまったけどね。


 うむ、読み過ぎて疲れたよ。結構な量があったから、また読みにいこうかな?


「あ、そうだ。先生、天空の塔で鍵を手に入れたんだけど、何か知ってる?」


 あぁ、リラックスし過ぎて忘れるところだった。


 これを聞いておかないと、今後の予定も立てづらいもんね。それこそ、特殊なダンジョンへ入るための鍵だったら、相応の準備はしないといけないし。


「鍵ですか? そうですね、たしかお伊勢参りで何か仕込んでいたと思いますよ」


 あの人はさ、どうしても最北端から参らせたいのかな?


「ホッカイ領からなら馬車を使っても一番いい称号を貰えますし、ドラゴンが孵ったらやってみたらどうです?」

「ドラゴン?」


 手っ取り早く終わらせたいのなら、ドラゴンに馬車を引かせて陸路を行けば良いんだそう。


 長時間飛んでも疲れないから、長距離を行くなら馬よりドラゴン。だだし、ドラゴンは急には止まれないから注意が必要だとか。


 それはなんというか、頭のいいドラゴンが必要だよね?


「でも、何でドラゴンのこと知ってるの?」

「その子と話してますから」


 へぇ、アイテムボックスにいてもAI同士は会話出来るんだね。


 先生が言うにはこの子は早く孵りたがっているそうで、卵は撫でたりすると孵りやすくなるとも聞いたので、早速卵を取り出して抱え込み、尻尾も使って撫でまくる。


 むふふっ、どうせなら格好いいより可愛い子がいいなぁ。


「先生、もちを呼んできてもらっていい?」

「ええ、勿論です!」


 もちとウォーセはログアウトするときに此処に置いてきた筈なんだけど、中に居ないとなると、もちは外で遊んでいるのかな?


 折角鳥モンスターを手に入れたのだから、試してみたいことがあるの。


 それは、自由の翼を手に入れること! もちに烏合を与えて融合進化すれば、もしかしたら飛べるようになるかもしれないからね。


 そして私に抱きついてもらえば、私も飛べるということになるはず。うんうん、飛べるというのは強いことなのですよ!


 先生に連れられてやってきたもちに、早速烏合が入った石を渡すと、何故だか凄く嬉しそうな顔を見せた。


 そこまで笑顔になるとなんだか怖くなってくるのだけど、ヤダカラスを取り込むと何か良いことあるのかな?


 そんな疑問も、取り込まれてさえしまえば答えは出るもの。もちが石を胸に当てて取り込むと、全身が金色になりグニグニと脈打つように動き出し、そして三体に分裂した。


 え?


 金色の刺繍が入った赤い振り袖を着た、それぞれ黒、茶、金色の長い髪を持った女の子三人組。


 黒髪の子はすぐさまソファーに寝そべり、金髪の子は茶髪の子の背中に隠れている。いや、行動はどうあれ分裂するとは予想外すぎて、思わず卵を落としそうになったよ。


「ヤダカラスを取り込むと、三体に分裂するんですよ。空も飛べるし、ドリルも飛ばせるようになりました。何より、問題児を弾き出せるのが良いですよね」


 そう説明してくれる茶髪の子は、もちだったみたいだね。


 うん、短い間に相当苦労していたんだね。頭撫でてあげる。


 そして、黒髪の子は小豆かと思ったんだけど、そうではなく烏合の方らしく、ソファーで横になっていることからも分かるように、寝るのが大好きなんだそう。


 そんな烏合は小豆と相性がいいそうで、ゲームの時間には交代して出てくるらしい。


 で、最後の一人であるもちの後ろに隠れてしまった子はフィナンシェ。


 なんでも恥ずかしがり屋なんだそう。内弁慶、いやネット弁慶かな? ゴーレムや馬形態なら、何時ものツンデレが発揮できるみたい。


「そんな子が喧嘩してたの?」

「泣き出して大変でした」


 あぁ、泣き声が響いていたんだね。まるで夜泣きをする子供に悩むお母さんじゃん。


 そして解放された喜びからか、先生にホットケーキを要求して椅子に座り、それを待っている姿はまさに、育児の合間に喫茶店でティータイムを楽しむ若奥様みたいだよ。


 そんなもちは放っておくのが一番だと思い、取りあえず近寄ってきたフィナンシェの頭を撫でてみると、両手を頬に当てて嬉しそう。


 可愛いなぁ、お兄ちゃんには見せない方がいいかもしれない。


 ホットケーキを作る先生に聞いてみると、分裂しても弱くはならないそうだし、むしろこの状態から合体すると逆に強くなるんだそう。


 まぁ、三人の息が合わないと合体は無理みたいだし、この現状でどうやっても出来ないだろうね。


 ちょっと見てみたかったけどなぁ。


 あれ? そういえば、名前の変更がないや。何時もなら融合させた時にウィンドウが出るのに、分裂したのが原因なのかな? 


 もしかしたら、合体した時にそれ専用の名前とか付けれたりして。


「これ、どういう状況ですの?」


 名前を付けられないなら勝手に呼ぼうと、フィナンシェの頭を撫でくり回していたら、階段を下りてきたサクラが私の頭を撫でながらそう聞いてきた。


 そんなサクラを見たフィナンシェは、撫でられることに夢中でその存在に気が付いていなかったらしく、私が撫でるのを止めたことで気付き、驚いたのかテーブルの下に隠れてしまった。


 そんなフィナンシェを抱き寄せて椅子に座るサクラは、なんと鬼畜なことか。


 抱きかかえられたフィナンシェはムスッとした顔をしているよ? 可哀想だから止めてあげた方が良いと思うよ?


「嫌がってない?」

「フィナンシェじゃ長すぎですわね? これからはフィナって呼びましょうか」


 いや、名前の件は良いけどさ、話を聞いてよ。むくれた頬をつつくのは止めようよ。


 あんたは好きな子をいじめたい小学生か!


「ただいま」

「おかえ、り?」


 そんな修羅場になりそうな現状にやってきた一陣の風、救世主のヨーナさん! と喜んで迎えるために玄関の方を向いてみると、その姿は随分と様変わりをしていた。


 頭にはねじれた角があり、翼の片方が黒くなり装備の色もまた黒になってる。


「【怠惰】って称号がでた。楽をしたがるあなたへ送るってさ、攻撃全部に毒の効果付くようになったよ。アオイも気をつけろよ」


 そのままヨーナは飯食ってくる、とログアウトしていく。


 いや、私も気をつけろってテイムのこと? 楽にテイムし過ぎていると何かあるの? この疑問に答えてもらおうと先生を見つめるけど、すぐに目を背けるだけ。


 えっ、私もやばいの!?



 ヨーナが再びログインしてきたところで、先生お手製のミルクレープと紅茶で夜のお茶会です。


 ヨーナには意味深なことについて根掘り葉掘り聞かねばならないからね、今度は逃がさないよ。


「それで、ゴーレムは倒せたの?」

「倒せたさ、多少時間はかかったがな。そのお陰でこの様だよ。金もミスリルも手に入ったのに、あげて落とされた気分だ」

「堕ちたのですわね」


 なんか妙にリアルだよね。でも、私もこうなるのかもしれないと思うと怖すぎるんだけど。


 うん、怖くて逆に聞きたくなくなってきた。


「お前はあれだな、強欲」

「色欲もありですわね。いっそコンプリートしてみては如何かしら?」

「サクラは完全に人事じゃんか!?」


 でも、強くなるならそれも良いかもって思えてくる不思議。MP+5000の効果もあるみたいだし、夢の即死魔法とか出来るかもしれないし!


「外見が変わるのが嫌でしたら、お伊勢参りをすればある程度なら変更することが可能ですよ」

「おっ、ホントか? なら行かないとな」

「ドラゴンが孵れば、移動も少しは楽になるみたいだよ。それからじゃないかな?」


 あの社員の人も、昨日行ったときに教えてくれたら良かったのに。


 ああ、最北端からを促すためか。今は私の言葉に納得してるけど、ヨーナが待ちきれなくなったら直ぐにでも行くことになるんだろうなぁ。


 長旅面倒だなぁ。


「あっ、そうだ。あのダンジョンの地下より先は無いみたいだぜ」

「え!? もう探索し終わったの!?」

「ああ、毒にした後はユーマで駆け抜けたからな」

「非道ですわね」


 本当に後先考えず毒責めしてたんだね。でも、先がないってことはミスリル以上の素材、オリハルコンとかは無いのかな? 


 まぁ、ミスリルの強さを実感してるってわけじゃないから、必要かどうかは分かんないんだけどね。


「ダンジョンは謎解きがあるのも醍醐味ですよ」

「謎解き? 隠し扉でもあるのか?」

「先生! 教えてくれたりは?」

「ダメですわよ、アオイさん。謎解きは自力で解いてこそなのですわ! さあ、行きますわよ!」


 テストじゃないんだから攻略本くらい見ても良いじゃん! とは思うけど、こうなったサクラは梃子でも動かないから、急いで追いかけ玄関へ。


 取りあえずサクラから受け取ったフィナだけでもを連れて行こう。この子も何だか、拳を握ってやる気十分って感じだしね。


 そして通い慣れた道中を進み、やってきた金鉱ダンジョン。そして馬で駆け抜ける洞窟。


 でもそれはサクラとヨーナの二人だけで、何時もと違うのは私の行動。


 フィナに腰にしがみついてもらい空を飛び、フィナの髪の毛が変化して出来たドリルで敵を貫く。


 これぞ、グレートドリルブースター! 私は金色の城となるのです! 


 そんなはしゃぎすぎた道中には少し後悔しているけど、今はダンジョン攻略に集中しよう。


 金鉱ダンジョンの地下、前は特に気にしてはいなかったけど、碁盤のようになっているみたい。


 ミスリルゴーレムが自由に動き回れるぐらいの広さと高さがあり、ミスリルゴーレムはヨーナに任せて、色々な進み方を試してみる。


 ヨーナはもう吹っ切れたみたいだね、私もあんな風に吹っ切れたら良いなぁ。なんだよグレートドリルブースターって、一時のテンションって怖い。


「進み方以外でも考えた方が良いかもしれませんわね」

「ミスリルゴーレムを誘導してみるとか?」

「なら、攻撃は無しか? 道塞がれないようにとか考えなきゃならんな」


 そんなうじうじとした後悔を引きずりつつ、それからはゴーレム誘導したり走り回ったり、鶴嘴で壁を掘ってみたりと、四時間ほど頑張ってみたものの何も進展がなかった。


《何か攻略には必要な物があるのかもしれないね。べっ、別にあんた達のために言ったんじゃないんだから! 私がもう疲れただけなんだから!》


 あの、フィナさんや。わざわざ元のゴーレム形態となったと思ったら、それですか。胸にヒントの掲示板ですか。


 もうちょっと早く言ってくれたら良かったのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さ さすが ツンデレ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ