14. 自由に飛びたい
ログハウスに帰ると、AI独自のネットワークで状況を把握していたのか、先生がホットケーキを作って待っていてくれた。
テーブルに置かれた三段も重なるホットケーキに目を奪われつつも、この場にいないトヤマさんのことを先生に聞いてみると、どうやら既に素材採取に向かったみたい。
その間にも、何時の間にか椅子に座って一心不乱にホットケーキを食べ進めるもちは、聞くまでもなく甘い物が好きなんだろうね。
早くも一皿完食しそうな勢いだけど、その小さな体のどこへ入っていくのだろう? うん、当たり前のようにおかわりを要求するもちを見て、心底そう思ってしまうよ。
「小豆とフィナンシェは何で喧嘩してんの?」
そんな熱心に食べる行為を邪魔するのは気が引けるけど、もしかしたら私でも仲裁できる喧嘩かもしれないので、理由くらいは聞いておきたいの。
「動きたくない派と役に立ちたい派の対立です」
しかし、私の考え以上に根が深いかもしれない。
「ご主人様もなかなか個性的な子を捕まえてきますね」
ごめん先生、それは私の所為じゃないと思う。
でも、こんなのでも座敷わらしが居るのは良いことなんだそう。
先生が言うには、座敷わらしはテイムしているとドロップ数アップの効果があり、それは融合進化しても消えないとのこと。
「他にも、宝箱の中身が良くなったりもしますね」
「ならダンジョンへ行きましょうか。エードの近くに良いところがありますのよ」
そんな訳で、初めての王都エード旅行です。
いやいや、目的はダンジョンに行くんだし、もち以外のモンスターも連れて行こうかな。うん、戦闘で役に立ちそうなウォーセにしよう。
けして、散歩気分になれそうだと思ったからではないので、あしからず。
あわよくば観光を、と期待を込めただけあって王都エードはとても目を奪われる街並みだった。
ドアから出て直ぐに見える王城の周りには、和風や洋風の家々が広がり、東京都の場所にあるだけになかなかカオスな感じに仕上がっていて、散歩するのも楽しそう。
そして王城と接し瓢箪の様な形を造っている広場の近くには劇場もあり、そこでは劇の他にも懐かしい映画の上映会が行われたりもしているのだそう。
サクラが言うにはその劇場では今日、プレイヤーが結成した劇団がゲームらしい演出の劇を上演しているそうで、かなり盛り上がっているみたい。
そんな色々と気になる王都だけど、のんびり観光をするなら目的を果たしておいた方が、と言うことで早速近くにあるらしいダンジョンへ。
なので何時も通り馬車で向かおうとしたけど、ふともちはもう馬車を引けないのでは、と未だにのおにぎり感覚でホットケーキ食べるもちを見て思ったのだけど、どうやら馬の特性はまだ持っているそうで、馬形態への変形が出来るみたい。
しかし、その見た目が凄かった。
下半身が馬で両腕がドリルな女の子、しかも馬体とドリルが金色というね。
本体の女の子部分が金ピカではないだけマシだけど、目立ち度ははるかにあがった気がするよ。
そんな奇妙な女の子に引かれる馬車は草原を颯爽と進み、私達をダンジョンへと運ぶ。
今回挑戦するダンジョンは天空の塔と言う名前だそうで、場所は名前からもお察しかな。
王都から三十分程で着くらしいのだけど、それなら王都から出て直ぐにでも見えてもおかしくないと思う。
しかし、目的の場所へ近づいても塔らしきものは見当たらない。まさか、天空だけに宙に浮いてるのかな?
「なぁ、全然見当たらないけど、どんなダンジョンなんだ? 階段上がってばっかなのは嫌なんだが」
そんな状況に疑問が吹き出したのか、唯一このダンジョンの事を知るサクラにヨーナが問い掛ける。
確かに階段登ってばかりなのは嫌だよね。しかも外階段だったら尚更嫌だ。だって高さが実感できてよりしんどい以上に、とても怖そうだもん。
「その逆ですわ。別名フリーフォール、落ちるんですの」
「「帰りたい」」
しかし、事実はそれ以上に怖そうなものだった。
私達は帰りたいと思っても、物欲に取り付かれたサクラは止まらない。というか、一人では挑戦したくないから私達は道づれなのだそう。
到着したダンジョンはぽっかりと空いた巨大な穴があるだけだし、これは気付かれないうちにサクラを蹴落として逃げるのが一番かな?
いや、それは後が怖いから駄目だよね。はぁ、大きな穴の先の青空の様に、せめて気持ちだけでも晴れやかに飛べるように覚悟を決めよう。
「この穴に飛び降りるんですの。そして、向かいくる敵を倒しながら塔への着陸を目指すのですわ」
へぇ、なんというかベルトスクロールアクションみたいだね。
そして一番肝心なのは、倒した敵の数によって着陸地点にある宝箱の中身が変わる事だそう。それに座敷わらしの効果を合わせて、より豪華にしようと言うわけだね。
しかし、それなら塔の中にもよりお宝がありそうな気もするけど、塔自体は入り口が見つからないため、ダンジョンなのかどうかも分からないらしい。
それを探すのも、今回の挑戦の目的と言っていいかもね。
「さあ、飛びますわよ!」
「うし、覚悟は決めた」
「よし、どうせやるなら、いい報酬を目指さなきゃね!」
ま、ぶっちゃけ覚悟を決めるのは私だけだと思うけどね。だって、みんなモンスターのお陰で空を飛べるんだしさ!
そんな私の心の叫びを飲み込むかの様な大穴へ向けて、みんなで一斉に飛び降りる。
浮遊感による恐怖は勿論あるのだけど、周りに広がる光景は雲一つ無い青空で、それ以外に何もないし、ゴールである塔すら見えない。
なんだか、この光景の方がより恐怖心をかき立てられる様な気がするよ。
せめてもの癒しにと、スカートを履く二人のパンチラでも見て笑ってやろうと思ったのだけど、サクラとヨーナは直ぐに馬に乗ってしまった為、それすらも叶わなかった。
はぁ、せめて板状の物でも持ってきていれば、波乗り気分でも味わえて爽快だったろうになぁ。
そんながっかりする私と違い、ウォーセは飛べない筈なのに、馬ほどの大きさになった体を巧みに動かして自由に動き回り、なんだか楽しそう。
でもね、浮遊感が嫌で乗せて貰った私が言えたことではないけど、酔いそうで怖いよ。
私の後ろに乗るもちは素直に楽しそうな声を上げていて、本当に羨ましく思います。
「アオイさん。始まるまでまだ少し時間がありますわ。簡単な魔法でも組んだ方がよろしくてよ」
しかし、そう沈んでいる暇はないらしい。
サクラが言うには、このダンジョンに出てくるモンスターは二種類。
ヤダカラスとヤリカモメと言う鳥型のモンスターで、ヤリカモメは少し厄介だけど、ヤダカラスの方は威力の低い攻撃でも、一撃で簡単に倒せる程度なんだとか。
余裕があればテイムしてみようかな?
でもそう言うことは最初に言っておいてよ、と内心で文句を言いつつ、多数に対処できるものが良いとの助言を聞いて、弾幕のように出せる火の魔法を組んでみる。
そして組み終えたところで、辺りに軽快な音楽が流れ始めた。
「来ますわよ! ヨーナさんは後ろで撃ち漏らしをお願いいたしますわ!」
そんなサクラの掛け声と共に、下の方から襲い来るカラスの群れ。えっと、ちょっとこのゲームが何なのか忘れそうになるね。
「まるでシューティングゲームだよな」
「シューティングしてない人が何を言うのか」
「ヨーナさんはバッティングですわね」
そう喋りながらも、攻撃の手は緩めずに弾幕を放ち撃墜し続ける。
でもサクラさん、ヨーナは打ち返したりはしていないから、バッティングは違うんじゃないかな?
そんな軽口を言い合っている間にも、ウォーセがヤダカラスを咥えて捕まえてくれたので、少し頭の方へと移動し、腕を伸ばしてテイムする。
名前は烏合の衆からとって、烏合にしよう。やっぱりカラスのイメージはこれだもんね。
その間にも当然、ヤダカラスの攻撃は止まる筈もなく、サクラ達の撃ち漏らしたヤダカラスの突撃攻撃を避けるウォーセの動きは激しくて、まるでロデオみたいな有り様。
これはもう、撃ち漏らしを減らさないと私が危ないよ! はぁ、弾幕を張れるキボリも連れてくれば良かったかも。
そんな攻防が続き十分程が経った頃、音楽が激しいものに変わり、ヤダカラスの中にヤリカモメが混じるようになってきた。
見た目は白くて可愛らしい鳥なのに、数は少ないものの真っ直ぐにしか飛んでこないヤダカラスと違い、縦横無尽に飛び回り突撃してくるのがなんとも嫌らしい。
ヤダカラスは魔法が良いけど、ヤリカモメは武器での方が対処し易いかな?
サクラはシャロウインパクトの翼もあって大鎌を振れないみたいだし、私達でフォローした方が良いかもしれないね。
「大鎌より槍の方が良かったかもしれませんわね」
「お兄ちゃんに頼んどけば?」
「だったら、ミスリルがもっと欲しいかもな。色んな種類を作ってもらって、ログハウスにでも置いとけばいいだろ」
なる程、確かにそうすればトヤマさんだって使えるね。
最初の恐怖心はどこへやら、戦闘に集中出来ているお陰で余裕が生まれたのか、今後の予定も決めながらも、ヤリカモメもテイム完了。
ウォーセがパクッと捕まえてくれるので、楽にテイム出来て助かるよ。
名前はアト。意味はよく分からないけど、鉄道関係でそう言うのがあるとサクラが教えてくれたので迷わず決定。
そんな喋っている余裕もあるにはあるけど、大鎌を振れないサクラのフォローもしなきゃならないから結構大変。
でも、こういうときに神速通は便利だよね。
神速通を利用した刀による斬撃と魔法を併用しつつ、鳥モンスターの撃墜を続けると、漸く塔の屋上が見えてきた。
というより、いきなり現れたような気がするんですけど。なかなか嫌らしい演出だよね。
「これどうやって着陸するの?」
「塔の位置から外れなければ、ストンと着陸するらしいですわ」
「外れたらどうなるんだ?」
「家に帰ると思いますわ」
つまり、死に戻りだね。家がなかったらスールガの街に戻されるとこだったよ。
ヤリカモメも着陸を邪魔するかのような動きに変わってきてるし、ウォーセが上手く動けなさそうなら、もちと一緒に石に戻して神速通を使って着地しようか。
そんな私の心配をよそに、ウォーセはなんなく着地成功。
サクラとヨーナも無事に着地出来たみたいで、早速周囲を見回して宝箱の捜索を始めている。
私も歩きながら見回してみると、塔の屋上は草花が生い茂る庭園のような場所で、なんだかとても癒されるよ。
そして、中心部分にはオブジェの様に飾られた石製の宝箱。これ、下手したら見落としちゃいそうな出来なんだけど。
そして、ついでにこの塔の入り口も探してみるけど、さがすまでもなく怪しいのは、縁の方にある一枚のドア。
でも、塔自体に繋がっているようなドアではないから、多分彼処がこのダンジョンの出口なんだろうね。本当に入り口がなさそうで残念だよ。
「さあ、アオイさんが開けてくださいまし。何がでるか楽しみですわね」
「あんま期待しない方がいいんじゃねーの? ボス戦なんかもないんだし」
早々に入り口捜索は諦めて、宝箱の前で待ってきた二人と合流。
ヨーナの言う通り、ボス戦もなにもないダンジョンの宝箱だから期待は出来ないかもしれない。でもね、そんな概念すら覆す力を座敷わらしは持っていると、私は信じたい。
てな訳で、オープンです! 地味に初体験な宝箱にドキドキしつつも、勢い良く蓋を開ける。
そして、目の前にアイテム入手のウィンドウが現れた。
《鍵を入手いたしました》
「鍵だって」
「何処のだよ、此処のか?」
「見て回ってみましょうか」
結果、良いのか悪いのか分からない物が出たことに困惑しつつ、鍵を入手したことで表れる扉があるかもしれないと、この塔をもう一度くまなく調べてみることに。
しかし、空を飛べる二人が塔の壁面を、私が屋上を探してみるけど、それらしいものは一向に見つからない。
試しにウォーセに鍵の匂いを嗅がせてみたけど、何の反応も示さない。
こうなったら帰った後に先生に聞くのが一番だろうと、縁にあったドアを開けて外へ出ると、そこは王都エードの近くだった。
うん、観光してからでも遅くはないよね?
先ずはお疲れ様会も兼ねて腹拵えしてから観光しようと、広場近くのもんじゃ屋さんへ。
名前に影響されているのか、もちは餅入りが好きみたいだね。
「ホント、このゲームってなんなんだろな。RPGであの戦闘がラスボス戦だったら、ネタにもされそうだしさ」
「だから、体感シミュレーションなのですわ。きっと」
「戦闘と言えばさ、ヨーナって毒を与える魔法組んだんだよね? それって、ゴーレムと戦うのにも良いんじゃない?」
さっきの戦闘でも魔法なんて組まずに大剣で倒しまくっていたし、この人が組んだ魔法ってワタシープを倒した時の毒だけなんじゃないかと不安になってしまうよ。
でもさ、そんな毒の魔法でも触れただけで毒を与えれるように改良すれば、あのミスリルゴーレムも倒せるんじゃないかなって思うんだよね。
ヨーナなら無効効果を無効に出来るんだし、毒が効かないことはないだろうからさ。
「ちょっと行ってくる! MPポーション買い込むから金くれ!」
そんな私の言葉にヨーナも察したのか、要求通りにヨーナにお金を渡すと直ぐに店から出て行った。
「遂に言ってしまいましたわね」
「遂にって、サクラは気づいてたの?」
「ええ。あえて言わなかったのですわ。だって、毒なんかで倒しまくれば変な称号出そうですもの」
あぁ、それがあった。
ごめんねヨーナ、私には謝ることしか出来そうにないや。




