13. 苦労する人
「お兄ちゃん! お待たせ」
「おう。お前なんてメールしてんだよ。ミスリルを武器にしろって、いろいろすっ飛ばしてねぇか?」
なんかお兄ちゃん、いつも以上に飛ばし過ぎでないですかい? なんというか、色々と荒っぽいのですが。
少し前までは、年頃の妹と普通に話すのはなんだか恥ずかしいとか言って、ちょっとは大人しくしていた気がしていたんだけど。
「お兄ちゃん、はっちゃけ中?」
「おう。このゲームでのお前は、現実みたいな超絶プリティーでラブリーでキュートな妹じゃない。ただの狐だ。野生動物だ。そう思って接することにした。さぁ! だからその尻尾を触らせろ! 特に付け根の方を」
「アオイちゃん、この人大丈夫なの?」
「至って普通の変態です」
「おっと、これは初めまして。私はセバスチャンと申します。続きはベッドの中で、話しましょうか」
あぁ、お兄ちゃんのこの飛ばしように、トヤマさんがドン引きしてる。やっぱり連れてきたのは失敗だったのかな?
トヤマさんもトヤマさんで、こんな生徒を担当したことはないだろうしね。
そんなトヤマさんが顔を引きつらせながら自己紹介すると、お兄ちゃんは満面の笑みとなり、両手をあげて興奮しだした。女教師はお好きらしい。
こんなどうしようもないお兄ちゃんだけど、大学では猫かぶってるお陰で優等生らしいし、世の中分からないものだよね。
「で、ミスリルの話だ。どういうことだ?」
流石、切り替えは早いみたいだね。私なんてこのノリの所為で、一瞬アニメの話をしだしたんじゃないかと耳を疑ってしまったよ。
うんうん、ミスリル、素材の話だよね。
とりあえず今までの経緯を説明すると、お兄ちゃんは腕を組み、うんうんと頷きながらまたスイッチが入ってしまった模様。
「分かった。つまり女の園だな。百合の花は咲いているか?」
社長、出番かもしれないです。トヤマさんは大丈夫かな? うん、何時の間に注文したのか、静かにコーヒーを楽しんでいるみたい。
流石大人、スルースキルは高いみたい。
まあ、ここで話していても事は進まないし、危険な気もするけどとりあえずログハウスに向かおう。
サクラ達は連絡すれば直ぐに帰ってくるだろうから、先ずは私たちが着いてないとね。
あっと、折角喫茶店へ来たのだし、ついでに社長に聞いておこうかな? 海に出てみて少し気になったことがあるんだ。
「社長、海の先には何があるの?」
「そんなん決まってんだろ、大陸だ。まあ、現実と同じって訳じゃないがな」
そんな夢のありそうな大陸があるのは南側。
ヤーイズの街があるのはそのためだそうで、そこから海へでるのが一番安全らしい。
詳細は秘密で、始めたばかりで行くようなところではないみたいだけど、その話を聞いてお兄ちゃんの目に火がついた。
やっぱり、どんな男でも冒険心と言う物を持っているんだね
そんな今にでも海へと向かいそうなお兄ちゃんを引っ張りつつ、ログハウスに到着です。
二人とも馬を持っていたので、きなんだもちに三人乗りはしなくて済んだけど、偶に海の方へ視線を向けるお兄ちゃんを監視するのは疲れたよ。
この何とも言えないバイタリティ、恐らく目的は海にいるであろう水着の女性とみた。きっと、冒険心ではなくスケベ心から燃えていたんだろうね。
うん、尚更三人乗りじゃなくて良かったよ。私は兎も角として、トヤマさんに接触させるのは危険だからね。
そんな呆れた道中、トヤマさんは金ピカなきなんだもちに驚いていたけど、草原の光景にはそれ以上だったみたい。
そりゃあ、モンスター皆が巨大化したウォーセに乗って走り回ってれば、誰でも驚くってもんだよ。
てか、モンスターが乗っても落ちないんだね。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「私はセバスチャンと申します。同志よ、この後一緒に水あべふぉっ!?」
そんなもふもふモンスターに驚くトヤマさんとは違い、美人な先生に真っ先に反応したお兄ちゃん。
そんな変態に対し、先生の容赦のないボディーブローが決まった時は、思わず満面の笑顔で拍手をしてしまったよ。
「ご主人様、既にサクラ様とヨーナ様はご帰宅されていますよ」
「もう帰ってきてたんだ。じゃあ、トヤマさん行こうか」
お兄ちゃんは悶絶中だけど、中で待っていればその内来るよね。と私は考えていたけど、優しい先生はお兄ちゃんを引きずってきてくれるみたい。
こんな優しい僕をもつと、涙溢れそうになってくるよ。半分はどうしようもないお兄ちゃんとの対比の所為だけど。
そんなぐったりとしたお兄ちゃんの回復を待ちながら、トヤマさんの紹介と合わせてフレンド登録も行い、これからよろしくの意味も込めて先生の作ってくれたボンゴレをみんなで食べる。
心配だった毒もないし、とても美味しいしで大満足だよ。それに、トヤマさんを担任だと紹介したときのサクラとヨーナの驚きようったら、もうね。
そりゃあ、此処にいるとは思わないもんね。でもその反応はご飯を美味しくするってもんです。
そして、復活したお兄ちゃんとトヤマさんはそれぞれ食べながらも、ミスリルの加工や部屋を作ったりと自由にしてる。
トヤマさんもこれから此処に住むことにるのだからこその、このパスタパーティーなのです。
でもさ、お兄ちゃん。トヤマさんをチラチラ見るのは止めてあげて? そんな物欲しそうな顔で見つめるから、フレンド登録断られるんだよ?
「二人だとミスリルゴーレム倒せなかったんだね」
「ええ、どうしても物理攻撃がネックになりますわね。ヨーナさんは受けるのに精一杯ですし」
「サクラが武器持ってないからな」
そんな二人の温度差を呆れたように見つめながらも、ゴーレム狩りに向かった二人の話を聞いていると、なんだか大変だったみたい。
うーん、ウォーセを連れて行かせれば役に立ったのかな? でも、モンスターの貸し借りは出来るのかはよく分からないし。
一応、先生に聞いてみようかな。
「モンスターが入ったテイム石自体の貸し借りは出来ませんが、モンスターだけなら出来ますよ」
ほう、それは良いことを聞いたよ。それなら、偶にシャロウインパクトに乗ったりも出来そうかな。
三人の中じゃ、私だけ空を飛べないしね。魔法を組むか、ドラゴンが生まれればいいんだけどさ。
「ほれ、武器出来たぞ」
そんな和やかに話す私達三人の前に、お兄ちゃんの声と提示される譲渡用のウィンドウ。
私の前に表示された物には、刀と短刀三本の詳細が書かれており、見た目はシンプルで私好みなんだけど、どのくらいの性能なのかが分からないのは少し不便かな。
まぁ、良いものを装備するに越したことはないから、そこまで気にすることはないと思うけど。
「なんで普通の剣もついてるんだ?」
「狭い場所なら大剣じゃやりにくいだろ」
「サクラもなんか作って貰ったの?」
「大鎌ですわ」
「「死神じゃん」」
「失敬な」
色んな面を考えて作ってくれたお兄ちゃんには当然感謝しかないのだし、折角だから何かお礼でもしたいところだこど、お兄ちゃんにはこれから行くところがある為、拠点に戻らないといけないみたい。
もしかして、忙しかったのかな? もし拠点が遠い場所にあったのなら、流石に呼び出したのが申し訳なくなってくるんだけど。
「お兄ちゃんの拠点って何処にあるの?」
「ヤーイズ。海を攻略してんだよ。良い情報も貰ったしやる気でるよな」
意外に近くにいたなぁと思いつつも、海に思いを馳せていたのは煩悩の所為だけではなさそうで、少し安心。
しかし、その安心も長くは続かなかった。
何故、お兄ちゃんが海への攻略に勤しむのかを聞いてみると、同志達と共に女性型モンスターを探しにあっちこっち島なんかを回っているんだそう。
人魚が目当てですか、そうですか。アカウント削除されるようなことはしないでね?
「女性型モンスターかぁ。ねえ、先生? ゴーレムの融合進化って一回だけ?」
「通常モンスターの進化は一回限りですが、ゴーレムの融合進化は何回でも出来ますよ」
ふむふむ、それならばウォーセやベイはもう進化しないけど、きなんだもちにはまだまだ先があるんだね。
何故そんなにゴーレムが特別の様になっているのかと言うと、先生によればゴーレムコロシアムという機能が今後追加予定の為、ゴーレムだけは拡張性が高いみたい。
それって、凄いネタバレだけどいいのかな?
「まさか、あいつを喋らすのか?」
「うん、怖いもの見たさってやつかな。あのツンデレがどんな風に発せられるか気になるし」
「なら、座敷わらしなんてどうかしら? イワテ領で偶に出るらしいですわ」
「ツンデレ幼女か! 最高だな! ふへへぇ」
「あんたはもう帰れよ」
拠点に戻らなきゃならないのに戻る気配を見せないお兄ちゃんには、報酬代わりに余っていたミスリルを持たせ、ドアに向かって押すように尻を蹴りつつさっさと帰らせる。
ていうか、何故きなんだもちがツンデレだと知っているの?
「はぁ、トヤマさんも一緒に行く?」
「いいえ。私はもう少し部屋を吟味した後、材料を集めに行くわ」
そっか、早速皆で旅行と洒落込みたかったところだけど、やりたいことがあるなら仕方がない。
そんなトヤマさんはどうやら部屋への拘りが凄いみたいで、チラッと覗いたウィンドウの中の部屋はモデルハウスの様なお洒落な感じだった。
そんなトヤマさんをログハウスに置いて、先ずは外に出しておいたきなんだもちを石に戻し、再び中へ戻ってメニューを開き、行き先を設定した後に玄関から出てイワテ領のモーリオカの街へ。
其処から馬車で移動を始め、向かうのはイワテ領の各地に点在するというあばら屋。
座敷わらしは其処に出没するらしいけど、出現条件は不明だし、見つけても直ぐにいなくなってしまうんだとか。
「醤油だんご美味しいね」
「それ、餌付け用に買ったやつだろ?」
「まだあるから平気」
先ずはその出現条件を調べる為に、色々と試してみようと買ってみたお団子や和スイーツの数々。
相手は子供だし、おやつで釣るのが一番だと思ってね。本命はおはぎかな? サクラの調査だと、座敷わらしは小豆飯が好きらしいし。
それでも余るほどある財力を使って買いまくったそれらは大量にある為、馬車に揺られながら食べ進めていると何時の間にかあばら屋へ到着。
早速、中に入って団子やおはぎ等を並べてはみるけど、一向に出てくる気配はない様子。
富を呼ぶものだし金も置いたら? と言うことで試しに金の延べ棒も置いておく。
「出ませんわね」
「そうだね。ゲームでもして待ってようか」
それでも出てこない為、暇を持て余した私達はテレビゲームをする事に。
どうせなら金に関したものでもやろうと言う話になり、そうして始まるのが懐かしのFPS、金の目なやつです。
「ああ、また負けたぁ」
「お前面白いように死んでくよな」
「一体何故なのか」
「猪突猛進だからですわ」
しかし、二人と違い普段この手のゲームはあまりやらない私が勝てる筈もなく、なにも出来ないまま死んでいく事もしばしば。
そんな現状に悔しがっていると、袖をクイクイ引かれる感覚が。
それがなんだろうと見てみると、隣にはいつの間にか赤い振り袖を着た、見た目十歳程のおかっぱな髪型をした女の子が座っていた。
もしかしたら一緒にゲームがしたいのかと思いコントローラーを渡してみると、小さな手でしっかりと握りしめ、早速やり出す女の子。
「なんだよアオイ、やけにいきなり強くなってないか……、って誰だよそれ」
「ピンチヒッターです」
「いや、早くテイムしなさいよ」
うん、サクラに言われて気が付いたけど、この子どっからどう見ても座敷わらしだよね。
楽しそうにゲームをしている時に悪いけど、私達もこれが目的なので、テイムです。名前は小豆にするとして、早速外に出してみよう。
「邪魔すんなよな! もっとゲームさせろよ! 一日二十三時間ゲームさせねーと動かないからな!」
そして直ぐに戻します。
見た目と反しかなり過激そうな性格に内心驚きつつも、そのまますっと立ち上がり外に行き、当初の目的通りきなんだもちに渡す。
さぁ、この子をゲームをしていなくても動かせる様に、早いところ融合進化してくださいな!
「この子を与えて、大丈夫か心配ですわ」
いや、サクラもこの子の事を言えない部類だと思うよ。
そんなやりとりの最中でも、石を取り込んだきなんだもちの体はグニグニと動き、段々と人の形に変化していく。
そして変化が止まった時に現れたのは、身長は小豆と変わらないくらいだけど、長い金髪に白く綺麗な肌、金の刺繍が入った赤い振り袖を着た可愛い女の子。
良かった、全身金ピカじゃなくて良かった。
そして普通の進化とは違い、名前の変更が出来るウィンドウが出たけど、それを真剣に考えられない程に、この子の様子がおかしいのがどうしても気になる。
「なんか、この子眉間にしわよせて考え込んでるんだけど」
「腹でも壊したか?」
「……ああ、すいません。大丈夫です」
おおっ、ツンデレじゃない! てか、雰囲気が凄く変わってしまったんじゃない? さっきの小豆みたいなぐーたらでもないし……、あっ! もしかしてこの子。
「もしかして、もち?」
「そうです。あの二人が喧嘩を始めてしまったので僕が表に出ることになりました」
うん、名前はもちにしておこう。
喧嘩は今も続いているそうだし、頭の中で喧騒が続くって相当しんどいよね? 帰ったら美味しいものでも食べさせてあげようかな。




