12. モンスターは個性的
三頭の馬が仲良く草原を走る姿はなかなか絵になるけど、八本足や金色ドリル、翼は見ない振り。
そんな絵画というよりイラストっぽい光景を作り出す馬達だけど、偶にシャロウインパクトとユーマが空を飛んで、きなんだもちが悔しそうに地団駄踏んでるのがちょっと可愛い。
そんな光景を堪能した後、ログハウスに戻り紅茶で一息。
先生の淹れる紅茶はとても美味しく、適当に買っておいたティーバッグの物とは到底思えないほど。
そして手早く作ってくれたクッキーも美味しいときたのだから、バーベキューの買い出しの際にこういう細かい物も買って置いて良かったと、心の底から思ってしまうよ。
そんな料理上手な先生の為に、リビングに立派なキッチンを作ったから、これからの食生活も期待できそう。
でも、AIでもクラフトモードが使えるのは驚いたよ。こういうのはプレイヤーの特権ってイメージだからさ。
「なあ、先生。モンスターの一匹一匹にAIがあるんだろ? 融合進化はどうなるんだ?」
「二つで一つですよ。脳内会議をしてるような物と考えてくださって良いと思います。」
そんな和やかに始まる話題の中で、複雑な気分になる情報が。
もちは大丈夫かな? ツンデレの相手に疲れてないかな? うん、もちがそういうタイプでないことを信じよう。
「でも、AI的に倒されるのはどうなんですの?」
「私達も遊んでるようなものですし、楽しんでますよ。リポップもしますし」
お互いに遊んでるって、それはある意味良い関係性なのかもね。
それにAI独自のネットワークでは、こんなプレイヤーが居たとか、クソみたいなご主人様に反逆してやったなどと、盛り上がっているそう。
えっと、私の評価が心配なんですが。
「そのネットワークに私の話題は出るの?」
「ご主人様は、いつの間にかテイムされてしまう奴として話題ですよ。悔しい! でも……と、言った感じです」
なんかごめんなさい。
そんな複雑な気分を切り替える為に、気になっていたボスモンスターのテイムについても聞いてみたところ、それには称号が必要みたい。
その称号を手に入れるには、十体のモンスターを進化させることが必要。
十体かぁ、進化させるのが不安になるやつもいるんだけどなぁ。特にウサギ。
「あっ! そうだ、先生はミスリルっぽいゴーレムの倒し方知ってる?」
「ええ、勿論です。」
頭に不穏な奴が過ぎったのなら、切り替えるために話題転換。
モンスターにモンスターの倒し方を聞くのはなんか変だけど、答えてくれるからいいのです。
そしてその倒し方とは、物理攻撃と魔法攻撃を交互に繰り返すことで、二番目に出した攻撃が効くようになるというもの。
つまり、物理攻撃を最初に出せば次の魔法が効いて、逆なら物理がってことだね。
「あら、それなら私達は丁度いいですわね。サポート役も居りますし」
サポート役と良いながら、多分それって一番仕事量が多くなるパターンじゃない? そして、恐らくそのポジションは私のはず。
結局どちらの攻撃方法も必要ならば、MPが保つなら私一人でも出来そうだもん。
ただ、MPポーションの回復量が100なのがネックなんだよね。
序盤なら十分な回復量なんだろうけど、私達が育ちすぎたからか、これでは本当に微々たる量だし。
露店なんかで、プレイヤーズメイドの効果が高い物とか売っていたりしないかな?
「それじゃ、とりあえず昼まではゴーレム狩りをしてみるか。早速行こうぜ」
ま、案外やってみたらMPポーションなんて必要ないかもしれないし、物は試しも良いかもね。
他のモンスターを先生に任せ、きなんだもちを石に戻すと先ずはログハウスの中へ。
そして玄関からイーズの街に行き、馬でダンジョンへ向かうのだけど、これすらも面倒だと思えてきたのは、一気に暮らしが楽になったからかな?
はぁ、神速通で皆一緒に運べたら良いのに。
てか、ウォーセとキボリが明石をボール代わりにして遊んでたけど、明石も楽しそうだったから大丈夫だよね?
そんな若干の不安をログハウスに残し、イーズの街からダンジョンへ向かう道の途中、サクラからある助言を頂いた。
それは高威力の魔法を組んでおきなさい。とのことで、もしもの時にサクラの代わりを務められるようにって意味みたい。
ふむ、どうせなら格好いいのを組もうかな。
やっぱり、尻尾からビームを放つと言うのはロマンだよね。四本の尻尾からそれぞれ別の属性のビームを放ち、一度私の前で収束させて放つ。
ワンクッション動作を置くことで威力もアップさせられるし、うん、鉄板だけどそれが良いかな。
消費MPも2000位で様子を見ようか。これぐらいなら神速通の邪魔にはなんないだろうしね。
名前は、妖狐四元……、やめとこう。よんびーむでいいや。下手に名前を付けて恥ずかしい思いはしたくないもん。
私は学習したのです。
そうして魔法を組んでいるうちに時間も経ち、ダンジョンに着いてからは、きなんだもちに三人乗りをしてどんどん奥へと進んでいく。
馬上はそこまで広くはない為ぎゅうぎゅうで、その上ヨーナが恐怖で抱きついてくるのが苦しいとても苦しい。
そして、サクラの悲鳴は嘗ての自分を見ているようだよ。いやホント、慣れって大事だよね。
そんな二人の為に地下に下りたら休憩を、と考えていたのだけど、とてもじゃないけどそんなことをしている場合じゃないみたい。
なんせ、ゴーレムがサイド・チェストのポーズで待ち構えていたのだから。
「こいつはテイムしなくていいのか?」
はい、面倒な予感がするので遠慮します。
そんなナルシストの如くポーズをとるのに夢中なゴーレムに対し、早速ヨーナが攻撃を仕掛けて戦闘開始。
ヨーナは無効効果を無効化出来るから、この始め方が恐らくベストなはず。
少し離れた位置から確認していると、物理攻撃もしっかり当たり、そしてサクラの魔法攻撃もちゃんとダメージが入ってる様子。
それでも心配な事と言えば、HPがある程度下回ると攻撃方法が変わると言うこと。
先生が出掛ける間際にそう言っていたけど、まだそんな素振りは見せず、ヨーナに向かいボクシングのようなジャブとストレートのコンビネーションを繰り出している。
その攻撃にヨーナは受けるので精一杯な様子なので、ここは私が短刀を投擲して攻撃。
念の為、神速通は温存しておこう。
五分ほどその様な攻防を続け、サクラのビームが当たった際、漸くゴーレムの攻撃方法に変化が表れたのか、ゴールデンゴーレムの様に回転し始めた。
透かさずゴーレムの真上に神速通で移動。
そして回転するその中心に向かい短刀を投擲すると、直ぐに再び神速通で移動。
称号のお陰で外すことはないから安心だよね。
その直後、サクラが出した土魔法の槍によりゴーレムが砕け、時間はかかりつつもあっさりと言った感じで戦闘終了。
ラストアタックをしたサクラのアイテムボックスにミスリルが入っていたそうなので、やっぱりあのゴーレムはミスリル製だったんだね。
「あー、きっついわ! 【不屈の精神】持ってて良かったな」
「お疲れ様。よく、あんな連打を捌けましたわね」
「凄かったよね。大剣であんな器用に動かして」
「ああ、【大剣の心得】って称号の効果だな。武器が扱いやすくなるんだよ」
へぇ、そんな称号もあるんだね。
取得方法は比較的簡単で、武器による攻撃を繰り返していれば、使用武器に関したものが取得できるそう。
私も、もう少し刀で攻撃するようにしようかな。
そんな称号も目指しつつ、お昼になるまで刀を使うことを意識してゴーレム狩りを続け、私も【刀の心得】を手に入れることが出来た。
その際、試しによんびーむも使ってみたけど、一撃で倒せるような相手でもないし、ダメージが通っている感じが分かり易いモンスターではない為、結果よく分からなかった。
今度、キメラクラブあたりで試してみようかな?
「これで、お兄さんに武器を作ってもらいましょうか。アオイさん伝えておいてくださる?」
うんうん、良い素材を手に入れたら、やっぱり武器の充実だよね。
とりあえずお兄ちゃんにはメールを送っておくとして、お昼ご飯で顔を合わせるかもしれないからログアウトしておこうかな。
しかし、現実ではお兄ちゃんはもうお昼を頂いた後だったようで、私も手早く頂いた後にログインしてみると、スールガの街の喫茶店で待ち合わせしようとの返事がきていた。
そんな訳で、ゴーレム狩りを続けるというヨーナとサクラの二人と別れ、独りでやってきたスールガの街。
どうせ来たんだからついでにポーションの件を解決しようと、露天をふらふらと歩き回っているのだけど、なかなか見つからない。
MPは戦闘外なら自動回復するし、HPは魔法で回復出来る分、やっぱりポーション類は人気がないのかもしれないね。
「狐のお嬢ちゃん! 何かお探し?」
「あ! 水筒のお姉さん!」
それでも諦めきれずに露天をうろうろとさ迷っていると、フジヤマを登る際にお世話になった、水筒を売っていたお姉さんに話しかけられた。
あ、その時より商品が増えてるのは、やっぱりこの手の商品が人気だからかな?
「ポーション探してるんですけど、知りません?」
「あぁ、なるほどね。良いポーション作るのにはお金が掛かるから、多分でてくるまで時間掛かると思うよ? 私もそんな口だからね」
そう教えてくれるお姉さんは犬の獣人さんで、格好いい大人の女性な外見をしながらも、尻尾をパタパタ振り可愛らしい姿を見せてくれる。
アイテムを採取する際、鼻が効いて有利なんじゃないかと選んでみたけどそうだけど、今のところそんな機能は無いみたい。
そんなお姉さんにポーションの事を詳しく聞いてみると、今プレイヤーが作れる中で最高の回復量がMPポーションで300程。
その殆どが仲間内で消費してしまうため、露天には余り出回らないらしい。
そして、それ以上の効果を出すには各地に生える特殊な草や、専用の機材が必要らしい。お金がかかるとはその為なんだね。ふむ。
「ところで、お姉さんはソロの人?」
「そうよ。一人でのんびり薬売りでもって、思ったんだけどね」
「じゃあ、機材も足も提供するからポーション作って!」
「え?」
ログハウスの設置できる家具の中に、生産設備もあったんだよね。それなのに私達の中に生産をやろうって人はいなかったし、丁度いいや。
そんな勿体ない精神でお姉さんに私達の現状を教えると、尻尾をブンブンと振り回し、二つ返事で引き受けてくれた。
これからよろしくの意味も込めて自己紹介をすると、薬売りならコレでしょ! って意味で名付けられたトヤマと言う名前に思わず笑ってしまったよ。
そんな私の反応はこの人も望んでいるものだったのか、尻尾をブンブンと振り回してご満悦の様子。
なんていうかさ、ショートカットが似合う大人なお姉さんが尻尾をブンブンと振り回してるのって、なんだかギャップが面白い。
そんな光景を見ていると、ふと現実での担任教師の名字と同じだなぁ、と思い、そのことを話したらブンブンと振られていた尻尾がピンと立った。
あれ? 当たり? そういえば、髪型は違うけど見覚えがある顔な気がする。
「サボリですか?」
「失礼なこと言わないでくれる? 有給使ってるだけよ。それと、注意しておくけどよく知りもしない相手にペラペラと情報を教えない方がいいわよ」
色々と藪蛇だったのか、さっきまでフレンドリーだったにもかかわらず、私で良かったわ、と注意を受けてしまう始末。
この事を他の教師には言わないように、と約束を迫られると本当にサボっているんじゃないかと心配になるのですが?
なんて思いつつも、また藪蛇になっても困るので、大人しくそっと差し出された人差し指を合わせてフレンド登録。
そのままこの後の私の予定を伝えて、付き合うと言うトヤマさんを連れて待ち合わせ場所である喫茶店へ向かう。
うーむ、流れでこうなってはしまったけど、トヤマさんをお兄ちゃんと会わせて大丈夫だろうか。