11. 進化はいろいろ
朝、ログインした後にリビングから窓の外を眺めてると、黄金に輝く猪が元気に走り回っていた。
なにがあってこうなったのだろうと、確認するために外に出てみると、嬉しさを爆発させているかのような勢いで駆け寄ってきた。
いや、寸止めして止まってくれたのは有り難いけど、怖いからその駆け寄り方は止めて欲しい。現実だとニュースになりそうな勢いだったからね?
「ベイが立派な獣になってしまった。あんなにユーモアたっぷりな見た目だったのに」
「いや、先ずは金色に驚こうぜ」
「これはグリンブルスティかしら?」
知っているのかい、サクラさん!
そんなノリでこの子の事を知っているらしいサクラに聞いてみると、北欧神話に出てくるフレイと言う神様の乗り物なんだそう。
神話なら、なんとなく正解な気がするね。なんせここはゲームの世界だし。
見ただけで分かるようになるって言う称号が無いから、種族なんかが分かりにくいのはやっぱり不便かも。
図書館へは早めに向かった方が良いのかな?
というかさ、あんな神々しい神様の乗り物がモンスターで良いの? まぁ、それを言ったらお終いかもしれないけど。
「金ピカに進化なんて、アオイさん、餌に変なもの混ぜたんじゃなくて? サングラスとか」
「とっつぁん用に金の延べ棒置いといたけど、それかな? てか、サングラスよりノースリーブスじゃない?」
「なんか豪勢な使い方だよな。いや、仮面を捨てたんだから仮面だろ」
金ピカに纏わる話も交えながら考えてみるけど、理由としては、やっぱりとっつぁん用に置いておいた餌の金の延べ棒しか思い当たらない。
餌を置いておいた屋根だけの小屋、東屋を見てみても金の延べ棒は残っていないし、誰かが食べたのは確実なんだよね。
とっつぁんは食べなかったのかな? と、与えてみると要らないとばかりに首を振るから、多分これで正解なんだと思う。
そういえば、とっつぁんを出しても所持金減ってない気がする。いや、多すぎて分かんないけど。
「折角だから、今日の活動テーマはモンスターの進化にしないか?」
「そうですわね。私もシャロウインパクトを進化させたいですわ」
「そう言えば、鶏肉を食べさせてもペガサスにはならなかったね」
知らないところで勝手に進化する割に、色んな物を食べさせたバーベキューの時はどの子も進化しなかった。
もしかしたら、特殊な物を食べさせないと駄目なのかな?
「鶏は飛ばないからかもしれませんわ」
「飛べる奴狩らんとか? 雉や鴨か?」
「ヨーナとかが良くにゃ!?」
ごめんなさい。謝るから耳を引っ張らないで。
「はぁ、どっか行く前に試したいことがあるんだけど良い?」
「しょーもないことしたらど突くぞ」
うん、それなら耳を引っ張られた方がマシだから気を付ける。
気を取り直して魔法で氷を出し、ウォーセにあげてみるけど、ペロペロ舐めるだけで進化したりはしないみたい。
残念、氷を与えればゲームらしくフェンリルにでもなるんじゃないかと思ったけど、そう甘くはないみたいだね。
「駄目かぁ」
「もしかしてフェンリルか? あれは強そうだからそう簡単にはいかんだろ」
「でもそうですわね、手作りの料理なんてどうかしら? 愛情も関わってくるそうですし」
なる程。それなら早速と、神速通をフル活用して材料を揃え、作ってみましたいなり寿司。
項目を選んで完成の、通称クラフトモードとは違い、ちゃんとした手作り。酢飯にゴマを混ぜたのがポイントです。
幸せだぁ。
「お前が食ってどうすんだよ」
そうだった。残念だけど、これは先生の為に作ったものだもんね。
後ろ髪を引かれるような気持ちに耐えつつ、先生の前にお皿を置き、いなり寿司を大量に並べていると、置き終わるのを我慢できないと言ったようにガツガツと勢い良く食べ始めた。
するとどうでしょう!
黄色だった毛が段々と白くなっていき、全て食べ終わると共に、ぽんっ! と言う音と煙が、先生を包むように現れた。
そして煙が晴れると、目の前に白い髪に白い着物を纏った美しい女性が現れましたとさ。
これ、なんという昔話なんだろう?
「美味しいご飯をありがとうございます。今度は私がご主人様のお役に立つよう、精一杯お仕え致しますね」
「は、はい! よ、よろしくいただきます?」
「おー、和風メイドか? 良かったな」
「モンスターの世話をお願いできるかしら?」
「はい、勿論です。家屋メニューより食料等入れて頂ければ、こちらで全て行います」
うわぁ、凄く有能そう。
でもさ、凄い美人でおまけに有能、なのに話しながらずっと私の尻尾を撫でているのは何故なのか?
「私も一応鳥料理作ってくるかな。じゃあな」
「私もそうしようかしら。」
あ、逃げられた。待って待って、なんか二人が居なくなったら撫でる手付きが凄くネチっこくなったのだけど!?
もしかして、先生は尻尾が好きなの? よし、ここはこれ以上エスカレートさせないために、本題を進めていこうか。
「ねえ、先生。フェンリルへの進化方法なんて知ってる?」
「ええ、存じておりますとも。右手を差し出して咥えてくれれば進化しますよ」
なにその謎の進化方法。なにか逸話でもあるのかな? フェンリルって存在は有名だけど、私は詳しくなんて知らないからなぁ。
「いや、そんな簡単に教えちゃって良いの?」
「勿論です。このゲームは知らないことは聞いてみるのが大事なんです。だからバイトだけではなく、社員のみなさんもここに入っていらっしゃるんですよ。基本何でも答えてくれます」
へぇ、それってゲームとしてどうなのって思ってしまうけど、先生が言うには運営はこの世界をただのゲームだと思って欲しくないんだとか。
うんうん、なんだか心底拘ってるのを感じてしまうよ。
「私達AIもそれはそれは大切に育てて頂きました。素晴らしいことも教えてくださいましたし」
そう言いながら、先生は尻尾だけではなく耳までも撫で始める。尻尾ではなく、もふもふが好きなのか。
あ、もしやあのドラゴンが犯人?
そんな先生の手は払いのけ、早速ウォーセに右手を差し出すと、嬉しそうに尻尾を振りながら右手をくわえ込み、はむはむと甘噛み。
するとウォーセの体が光り出し、思わず手を引っ込める私。そしてよろけた私を抱き留めつつ、尻尾を撫でる先生。
なにこの反応速度、ウォーセの変化よりも吃驚なんだけど。
そう内心で先生に突っ込んでいると、次第に光は収まっていき、収まった時には象ほどの大きさがある、美しい灰色の毛並みを持った狼が其処にいた。
いや、餌の量が心配なんだけど。
「戦闘の際にはもっと巨大になることも出来るそうですよ」
「小さくはならないの?」
戦闘時に大きくなるのは頼もしいけど、私として普段時のサイズの方が重要なのです。
それでも、懐いてくれているのか、顔にすり寄る巨大な頭を撫でながら先生に聞いてみると、それを察したのか、ウォーセ自らが大型犬ほどの大きさになってくれた。
うんうん、抱きつくには丁度いい感じで素晴らしいよ。
でもさ、ウォーセに抱きつく私の尻尾に抱きつく先生、といった構図はどうなんだろう? まぁ、毛皮が気持ちいいから今は許そう。
「あっと、そうだ。ペガサスにするにはどうすればいいの?」
「フライドチキンをあげればいいんですよ。ほら、飛びそうでしょ?」
それは意味が違うと思う。けどまぁ、一応二人に連絡しておこう。
「運営って結構しょーもないことするよな」
「フライドチキンだもんね。でもヨーナは良かったの?」
空を見れば、純白のペガサスに乗って空を駆けるエルフ吸血鬼。
互いに女性を求めるようなものだし、お似合いと言えばお似合いかな?
それに対し、ヨーナは翼持った奴がペガサス乗ってもなぁ、と作った鳥料理は自分用にしたらしい。
「なあ、先生。馬って他に何になるんだ?」
「蛸をあげれば、スレイプニルになりますよ」
「安易ですわね」
「それならタコパだね! たこ焼き用のプレートもあったし」
どうせ蛸を食べるのなら、美味しく調理した方がいいもんね。それに、蛸なら海に行くはずだからとっつぁんの初仕事には丁度良いだろうし。
問題は蛸の産地だよね。北に行くか、はたまた西に行くか。
牛のドロップは変化があったのだし、蛸も変わるかもしれないからね!
「いや、船持ってないだろ」
そうでした。なので買ってきました。うん、船もアイテムボックスに入るのは便利だよね。
冒険者ギルドに行って屋形船の見た目をした船を一目惚れして購入してしまったけど、普通の船よりは色んな用途で使えるだろうし、これで正解と言えると思う。
勿論、中の拡張なんかが出来る高性能なやつ。お金があるって素晴らしいよ、ホント。
「準備良し! 行こっか!」
「何がお前をそうさせるんだ?」
「蛸をテイムしてヨーナにぎゃ!?」
拳骨貰いました。冗談だったのに。
しかし、この蛸漁はそんな冗談すら生易しいものだった。
「おい、どういうことだよサクラ。お前絶対知ってたろ」
「ええ。タコナグリ、見た目通り大きい蛸ですわ。触手でパンチしてきますのでご注意を」
他のモンスターを先生に任せ、ヒョウゴ領にあるコベーの街へ向かいそのまま直ぐに近くの海へ。
其処でとっつぁんを船に繋いで初航海。
そう言えば、出発する前に半分忘れてたイースを外に出したんだけど、その際私の胸に飛びかかってきたところを先生がたたき落としていたのは、なんだかコントみたいで痛快だったよ。
うん、現実逃避は十分だ。
明石海峡を越えたあたりまではいい航海だったけど、いきなり海中から飛び出してきた奴のお陰で屋形船は転覆しそうな勢いに。
必死に船を支えてくれたとっつぁんは凄いや。
「これテイムして大丈夫なの? って言うか普通のモンスターなの? 多分家の水場ギリギリだよ」
「ええ、これで通常モンスターですわ。それだけ海は難易度が高いようですわね」
「サクラでも倒せんのか?」
徘徊ボスを一撃で倒せるのならば大丈夫、と思ったけど、そう簡単にはいかないみたい。
サクラが言うには、敢えてチャージ時間を付けて強化した魔法ならいけるらしいけど、このタコナグリと言うモンスターは、そんな時間をくれるほど甘くはないらしい。
そんな強者の驕りからか、先手は此方に譲ると言いたいのか、ヘイ、ヘイ! とばかりに触手をクネクネさせている姿にとても腹が立つ。
「倒したのは未だに一人きりだそうですわ」
「どんな化け物だよ、そいつは。よし、アオイ。許す、テイムしろ」
「いえす! まむ!」
蛸を愛でる趣味なんてないけど、この場を乗り切る為に泣く泣くテイムしました。名前はこの場所からとって明石にしよう。
いつか倒してやる! そんな挑戦状を叩き付ける為に早速出してみると、あら意外!
「やけに可愛くなっちゃって」
「膨らんでただけなのか?」
その姿は、殴打と書かれたはちまきを巻いたキャラクター風の可愛い蛸。
茹だったみたいに体は赤く染まり、足を丸めている姿はなんだか愛らしい。
うん、これなら愛でられるかも。
しかし、どうぞとばかりに足を切り離してこちらに差し出す姿は、可愛さもなく逆に怖いよ。
でも、有り難く頂きます。
とは言え、流石に何度も足を切ってもらうのは可哀想だし、タコパするのは諦めようかな。残念。




