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10. 参りました

 ゲームを始めて四日目の朝です。


 昨日のバーベキューでご機嫌になり、調子に乗ってくれたヨーナが、明日は四日目だし四日市の辺りからお伊勢参りだな! 歩くぞ! あっ、狐の嫁入りもか? なんて言い出したので、先ずはミエ領のツーシの街へ行くことに。


「でも、このゲームに神社なんかはありませんことよ?」

「気分だよ気分! やることに意味があるんだよ」


 その気分が最後まで保つと良いのだけどね。


 そんな突っ込みは口に出したら面倒なことになりそうなので、大人しく物資を補充すると言うヨーナに従い、ツーシの街で飲み物と名物らしい餃子と天むすを買い、四日市市の辺りまで馬車で向かう。


 でも、同じ領内と言っても伊勢の辺りまでどのくらい掛かるんだろう?


 正直、四日市市の方ってツーシの街から見ると伊勢とは逆方面なんだよね。


「歩きで十五時間ほどですわね」

「そんな掛かんのか!?」

「知らなかったんだ。ホントにノリで言い出しただけだったんだね」


 なんでこの人はノリで修羅の道を行こうとするのだろう? 既に気分が下がり気味なヨーナは、しっかり反省して下さいな。


 それでも最後のプライドからか、言ったことは取り消すことはしないみたいで、四日市の辺りに着いたところで歩き旅開始です。


 因みに嫁入りはいたしません。てか、なんで嫁入りなのかもいまいち分かっていないもん。


 どうせ歩いている間は暇なのだし、ネットを使って調べようかとも思っていたけど、草原や森しかない緑の風景は以外にも目を楽しませてくれて、案外暇とは感じなかった。


 ただ、道と言ったものはないから少し歩きにくいかな。


 ミエ領にある街は、ツーシとオーワセの二つ。


 その二つを繋ぐ街道はあるのだけど、これから向かうのは街なんてないものだから、仕方がないと言えばそれまでなんだけど。


 もっと街が増えれば良いんだけど、基本的に一つの領には街が二つなの。


 でも、シズオカ領は始まりの地だから他よりも多いんだとか。スールガとヤーイズ、イーズは行ったから、まだ行ってないのはトートミの街だね。


 そんな状況もあってか、プレイヤーの間では地元を作ろうなんて企画も進んでいるんだそう。


「そう言えば、自分の地元を作ろうって企画もあったよな。もう出来た所ってあんのか?」


 ヨーナも同じことを考えていたのか、掲示板を見ていたらしいサクラにそう問いかけていた。


 でもさ、流石にこのゲームがリリースしてからそんなに時間は経ってないんだし、街ができるにはまだまだ時間が掛かるんじゃないかな?


「オオサカ領に新世界が出来たそうですわ」

「なにその、まさしく新世界な予感がぷんぷんする街」


 なんて言うか、謎の熱意が渦巻いてそう。二十歳以上なら課金でお酒が買えるそうだし、飲む場所は拘るんだろうか?


「何時か行ってみたい気もするな……、おっ! 角ウサギじゃん。どうせならテイムしとけば?」


 あ、本当だ。


 私達の行く手を遮るように佇む一つの影、小さな瞳で此方を可愛く睨むのは威嚇のつもりのようだけど、一切そんな感じがしないのがまたなんとも可愛らしい。


 そして、見つめ合えば素直にテイムするのが私流というもの。


 直ぐに神速通で背後に周り、意味もなく抱き上げたらお腹にテイム石を押し当てテイム完了。


 旅のお供と言えば犬や猿だろうけど、兎というのもまた良いかもね。


「名前なんにしようか?」

「うさ田」

「ジャビッツ」

「うん、イースにしよう」


 うん、真面目に考えない二人の案は当然却下だ。


 だって、変身したりオレンジになったりしたら困るもん。そんな訳で、けしてゲームではなくイースターから頂いた名前のこの子を早速出して、胸に抱いてみる。


 おお! なかなか、良い抱き心地ではないか。ふわもこだぁ、可愛いなぁ。


「あら、あのお祭りにちなんだのかしら?」

「うん、ビッグも卵産んでくれるしね」


 サクラって、たしかあのエッグチョコが好きだったよね。だから直ぐに気が付いたのかも。


 まぁ、こんな由来の名前の所為で嘘吐きになってしまったら、ちょっと困るけどね。


 それにしてもこのウサギ、なんだかもぞもぞと動きすぎじゃない? あ、私の胸に顔を擦り付けはじめた。


 うわぁ、嘘吐きではなくエロウサギなのか。仕方がない、戻しておこう。


 そんな残念なお供を仲間にした事を、少し後悔しながらもてくてく歩く。


 ビミブルを倒したら松坂牛のサーロインをドロップしてヨーナが喜んだり、海沿いに行き海水浴をしてみたりと、寄り道しながらものんびり歩く。


 海では二メートルほどの貝型モンスター、アッサリを倒したし、またバーベキューでもやれそうな程の成果はあげている気がするよ。


 てか、運営は疲れてるのかな? ドロップはあさりだったし、ネーミングがそのまんま過ぎる気がするのだけど。


 そんな見た目もそのまんまあさりな為に、貝類を愛でるというのはハードルが高いので、テイムをする事はしなかった。


 あれをテイムするとしたら、相当な貝マニアだと思うよ。


 そんな道中だった所為か、流石に昼までにツーシの街に戻れるはずもなく、一旦ログアウトして昼食を頂くことに。


 そして、ログインして再び歩く。なんだか飽きてきたけど、ひたすら歩く。


「あ、さっきお母さんにボンゴレの作り方聞いてきた」

「おう、そりゃ楽しみにしとくわ」

「流石に貝毒は無いですわよね?」


 いや、サクラは怖いことを言わないで欲しい。流石の運営もそんなことしないよね? 


 そんな疑問の所為で若干空気が淀んでしまったけど、きなんだもちを出してご老公ごっこをしたりしたりしながらなんとか明るい空気に戻していく。


 他のモンスターも、特にウォーセやジープがいれば散歩気分で歩けたんだけど、ヨーナが私たちだけで行く! お供はいらん! と張り切るから、四日市辺りまで行くのに必要な馬以外はログハウスに置いてきたんだよね。


 あの子達がどんな風に過ごしているかは少し気になるけど、餌はたんまり置いてきたから嫌われることは多分ないと思う。


 いやぁ、食べ物が腐らないって素晴らしい。でもね、この流れは素晴らしくないよ。


「ねぇ、ヨーナ。このままさ、きなんだもちに乗っていっていい?」

「駄目だ。ここまできたら最後まで歩く!」


 はぁ、もう折れても良いと思うんだけどなぁ。


 そんな強情なヨーナにきなんだもちから引きずり降ろされ、ふてくされながらもツーシの街へ着いたときにはもう夕暮れ近く。


 どうやら海水浴に時間を掛け過ぎたみたい。


「ねぇねぇ、馬車で三十分位の場所に温泉があるって! 行ってみようよ!」


 しかし、休憩のために立ち寄ったツーシの街にある喫茶店で、寄り道したいスポットの情報を仕入れてしまった。


 時間は掛かるけど、やっぱり移動の疲れを癒すためには温泉に行かなきゃだよね。


「そうだな、一旦疲れを癒すのも良いかもな!」

「これ以上の寄り道は後に響きますわ。今のままででも、到着はかなり遅いんですのよ」


 サクラの鬼め! 別に遅くまで歩く必要は無いのだし、続きはまた明日にでもすればいい。


 だけど、サクラはこの面倒な旅路は今回で終わりたいらしい。まぁ、確かに次の日まで歩き旅はしたくない気持ちは分かる。


 はぁ、仕方がないか。


 そう渋々ながら歩き続け、日が暮れる前にテントを張りログアウト。


 漸く一息つけると、夕飯やお風呂でリフレッシュをして、再びログインしたら夜道を歩く。


 もうさ、この旅で一生分の歩行をしている気がしてきたよ。車を発明した人は本当に偉大だよね。


 途中まではオーワセの街とを繋ぐ舗装された街道を歩く為、心底そう思ってしまうよ。


「しりとりって、しりとりから始まるだろ?」

「うん」

「その後、りで終わる言葉を言うと気持ちいよな」

「分からなくはないですが、大丈夫ですの?」


 あぁ、遂にヨーナがよくわからないことを言い出した。確かに、しりとりの話は分からんでも無いけどさ。


 そんなげんなりし始めた言い出しっぺの手を引きながらもひたすら歩き続け、時刻も深夜と言っていい時間帯になった頃に、買っておいた天むすと餃子を夜食にして休憩する事に。


「天むすがあるなら、地むすがあっても良いんじゃないかしら」

「お前夜に弱いよな」

「わさびでも買ってこようか?」


 そしたら、今度は普段寝るのが早いサクラがよく分からないことを言い出しはじめた。


 こうなる恐れがあったから、別に無理して今日中に終える必要はなかったんだよ。


 いや、もう今日中って時間帯でもないけどさ。


 そんなサクラの目を醒ます為に、わさびだけじゃ可哀想なのでお寿司も用意したら、何故かロシアンルーレットみたいなのをやることに。


 はぁ、まさしく深夜のノリになってきたよ。


「「「辛い!?」」」

「って、お前、まさか全部山盛りにしたのか?」

「調子乗りました」


 うん、私も深夜のノリだった。


 

「お? なんかあるぞ?」

「あら? おかしいですわね。この辺りには何も無いと掲示板でも……」


 痛い目を見た事で早く終わらせようとする気持ちに火がついたのか、無言でてきぱきと歩き続け、漸く辿り着いた伊勢神宮の近く。


 しかし、其処には篝火に照らされた小さな神社の様なものがあり、事前にサクラから聞いていた話とは随分違う光景だった。


 あ、でもその神社の手前に旗を振る狩衣を着た人がいるし、なにか突発的なイベントなのかも。


「おめでとう! いやぁ、お伊勢参り本当にお疲れ様!」

「ど、どうも。いや、なんなんだこれ?」

「はははっ、説明しよう! ここはお伊勢参りをした人に称号を与えるイベントフィールドなのだ!」


 うん、確かにイベント事だったけど、どうやらこの人も深夜のノリみたい。ごめんね、こんな遅くに私達が来たからだよね。


 このゲームのNPCは社員の人だって話だし、もしかしたら残業なのかもしれない。本当に、ごめんなさい。


 それでも謝罪を口にしたら面倒なことになる可能性もあるため、大人しくハイテンションな説明を聞いていると、どうやらお伊勢参りの距離に応じて貰える称号が変わるのだそう。


「ふむふむ、君たちは距離は短くてもフジヤマでご来光を見ているね。それならこの称号だ!」


 ビシッと突き立てられたら人差し指と共に、頭の中に鳴り響く称号取得を知らせるアナウンス。


 メニューを開いてどんなものが貰えたのか確認してみると、貰った称号は【不屈の精神】と言うもので効果はたった一言、疲れにくくなる。


 あの、さ。まさかこれで再び挑戦しろ、と言うことなの? いや、流石に考えすぎか。


「距離によっては強力な称号もある。だから是非最長記録を出してくれ! 出来れば最北端!」

「随分と押しますのね。何かあるんですの?」

「ボーナスの為だ」

「ゲームになに持ち込んでんだよ!?」


 しかし、考えすぎる位が丁度良いみたい。


 なんでも、このゲームには社員達が設定した条件をプレイヤーが達成すると、特別ボーナスが支給されるというシステムがあるのだそう。


 それが給料の半年分という太っ腹な額のため、社員の気合いは並々ならぬものなんだとか。


 因みに、フジヤマのドラゴン役の奴は、湯気モードの獣人の尻尾に噛みつくことが出来たため、見事ボーナスをゲット出来たんだとさ。


 いや、ボーナスの為だったんかい!? 


「それじゃ! 期待してるぞ!」


 その言葉と共に、消えていく神社と社員。


「なんかもう疲れたな」

「ええ、もう落ちましょうか」


 本当に疲れたよね、と言うか道中よりこの神社での出来事の方が疲れた気がする。主にドラゴンの所為で。


 もうこのままゲームを続ける気もしないので、おやすみ、と声をかけながらログハウスへ戻ることはせずにその場でログアウト。


 今日は歩き続けたし泳いだしで、流石に疲れたので直ぐに寝るといたしますか。


 そして次の日の朝、その選択は正しかったと噛みしめる出来事が起きていた。


 ログインしてリビングへと下り、窓を覗いてみると、其処には草原を元気に駆け回る黄金に輝く猪の光景。


 あの後、ログハウスに戻っていたらもっと疲れていたかもしれないね。


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