123. 狡賢く行こう!
熱の対象から外しているムラマサと、右往左往するプレイヤーを眺めて十分程。ムラマサも飽き始めているから潮時かもしれない。
囮としての時間稼ぎにはぴったりなんだけどね、流石に熱湯風呂程の熱量に慣れてくる人も出て来たみたいだし、もうやめとこうかな? いや、試しにちょっと熱量を上げてみてもいいかな?
「ヤバい、気持ちよくなってきた!」
「滴る汗が気持ちいいぜ!」
「汗なんかかかないけどな!」
「もっと熱くなれよ!」
待って、そんな事言わないで! なんか、私を見るムラマサの目が怪しくなってきたから!
やっぱり放熱で攻めるのは、色んな意味で限界かもしれない。だってなんか称号出ちゃったし、私としてもこれ以上続けたくなくなってきたよ。
このイベント中、死に戻りの場所は自ギルド所有のレジの側になっちゃうから、敢えて倒したりはしなかったけどね。だって倒しても直ぐに此処に来るだろうし。でも、そろそろそれも潮時かな。
「そろそろ倒してこっか。ちょっと準備するから待ってて」
「鞭でも創るん?」
私はそんなキャラじゃないもん。ムラマサの事は軽く無視して、早速準備。準備と言ってもモンスターを転移させるだけなんだけどね。
『呼ぶよー』
転移させようと思ってるモンスターに簡潔に声を掛けていざ転移。私の周りに現れたのは、タツノと師匠、マオの三人。この三人はイベントそっちのけでお酒飲んでた筈だから、呼び出すのに丁度よかったんだよね。何より強いし。
「宴会を邪魔したんだ、面白い事じゃなきゃ許さんぞ」
「狩りは好き?」
「強い奴が居れば好物だな」
師匠がちょっと怖いけど、校舎の中に強い人が居るのを期待しておこう。タツノとマオは早速、光弾を放って攻撃してるし、さっさとやること始めちゃおっか。
「タツノとマオは、私を守ってね」
「偶には、こう言うのも悪くないかもな」
「そうじゃの、しっかり尻尾を抱えて守らねば」
人選ミスったかもしれない。何処の世界に、人の尻尾を抱えて人を守る奴がいるのか。此処はゲームだけどさ。後マオ、耳を弄るのは止めて。
「あたしもう突撃して良い?」
「やるなら早くやれ。待つのは御免だ」
ムラマサと師匠はもう待てないみたいだし、光輪からの放熱は止めて、天沼矛を床に突き刺す!
ふふん、これでこの校舎は私の物。天沼矛はオブジェクトに突き刺せば、自在に形を変えられるの。突き刺している間だけだけどね。その間、私は完全に無防備になっちゃうから、タツノ達を助っ人に呼んだって訳。
私の中にいるイザナミは、校舎をなくして更地にすることも出来るって言うけど、今回は大して変えずに、この大草原になっている魔法の解除と、壁を取っ払うくらいで良いかな。壁さえなければ、ムラマサと師匠は自由に動けるって言うメリットがあるしね。
それに私が無防備になっているこの状況なら、私に攻撃を集中させるチャンス。幻惑が使えるマオと、遠距離や広範囲に攻撃出来るタツノが居れば護衛は十分だもん。
「すっごいねー。それに壁がなければ本気で行ける! 師匠、どっちが多く倒せるか勝負しようよ」
「ははっ! いいな、それは。負けんぞ?」
「ムラマサはレジの事、忘れないでね」
ムラマサがやる気になっているのは良いけど、売上を奪うって言う本筋は忘れないでほしい。
そんな私の注意に頷き、渦巻く風を纏って、校舎の変化に動揺するプレイヤー達へ突っ込んでいくムラマサ。
そのスピードは体育祭の時とは大違いで、何より振るった二本の刀の軌道、それに沿うように発生する風の刃はムラマサの体を円を描くように回り、突撃するだけで周囲のプレイヤーを攻撃している。
そんなムラマサの戦いに師匠も満足そうで、両手に二本の刀を出現させ、嬉しそう笑いながらプレイヤー達に向かって駆け出して行く。
「ねぇ、しりとりしよ。しりとり、の、り!」
「暇そうじゃな。なら、倫理」
あ、それヨーナが言ってた気持ちいやつだ。
暇つぶしに始めたしりとり、ネットの操作が出来ない私に当然勝ち目なんてなかった。普段の生活を見ていたら到底そうは思えないけど、AIって基本頭が良いよね。
戦闘面では、マオの幻惑に掛かったプレイヤーをタツノが倒すというコンビネーションで、私の側へは寄せ付けない。偶に後ろの窓から攻めてくるプレイヤーは、マオの大鎌で光になる。やっぱり頼りになるや。
それでも邪魔にならない程度に、暇つぶしとしてタツノともふもふ話をしたり、マオとジャンクフードの話をして過ごした三十分。残り二十分になったところで、クイネさんから通信が届いた。
『ヘルプ! ヘルプ! 変な奴に絡まれた!』
『大丈夫? 頑張れ!』
『心配した後に励まさないでくれ!』
リラックスして貰おうと思ったけど、思ったより切羽詰まってそう。それでも話をする余裕はあるのか、ちゃんと状況を詳しく教えてくれた。
単純に、同じチートプレイヤーに絡まれているだけだったけどね。でもそのチートプレイヤーが問題だった。そいつは、ゴーレムコロシアムでも体育祭でも戦ったあの男の子。名前は忘れたけど、うざい感じだったのは覚えてるよ。
『パスで。ヨーナなら、なんとかしてくれるんじゃない?』
『断られたよ! うざいからって!』
それなら仕方ないか。ムラマサに連絡して、ここは切り上げよう。ちょっと思い付いた事があるんだよね。
『クイネさんは私の所に転移して。どうせあいつも追ってくるんでしょ?』
『分かった! 頼む』
よし、次はムラマサと師匠に連絡して、先に校舎の外へ移動して貰う。そうすれば、皆私の方に来るはずだしね。
「もう直ぐいっぱい攻めてくると思うから、もう少し頑張ってね」
「頑張る程手こずってないがな」
「そうじゃのう。尻尾を堪能する余裕はあるしの」
タツノは本当に尻尾を離さなかったよ。私も守ってくれたら文句は言わないけどさ、でももふもふに抱きつくってちょっと羨ましく思う。イベントが終わったらキボリに抱きつこうかな。
「待たせた! 振り切れればって思って、転移を繰り返してた」
「ありがと! 時間を稼げるのは好都合だよ」
チートプレイヤーが二人も居るのは、壁もないからアイコンで直ぐに分かるだろうし、後は引きつけるだけ。この場に居ても、遠くからプレイヤーの集団が迫ってくるのが見える。
「待て待て、悪化してない? 大丈夫かよ、これ」
クイネさんは心配そうだけど、作戦が上手く行けば私達の大勝利だからね。ここは耐える時だよ。
五分程、タツノとマオ、クイネさんの力でプレイヤー達の猛攻を凌いでいると、遂に本命がやって来た。ここからはタイミングとよく見る事が大事。
「見つけたぜ。へっ、お前も一緒かよ」
男の子に関してはとりあえず無視。校舎同盟のプレイヤー達を見てみると、転移してきた新たなチートプレイヤーに興奮気味な様子。その勢いで頑張ってくれると嬉しいや。
そう願いを込めて天沼矛を引き抜き、私達の店、スイーツクイネまで転移で逃げる。勿論タツノとマオ、クイネさんも忘れずにね。
「結局逃げんのかよ!」
「いきなり来てどうしましたの?」
「しっ! 静かにして」
戦わなかった私を不思議がるクイネさんと、店の中で休憩していたらしく、いきなり現れた私に驚くサクラを制し、直ぐに【プロビデンスな目】の効果で視界を飛ばす。
タイミングはギリギリだった。其処で見える景色は、大草原で校舎同盟のプレイヤー達の猛攻に耐えきれず、男の子が倒された場面。学園中に、チートプレイヤーが倒された事を告げるアナウンスが響いているみたいだし、倒されたことは確実だね。
流石のチートプレイヤーも、多数には勝てなかったって事か。でも、それにしたって早すぎると思う。よっぽど強い人でも居たのかな? 後で師匠とムラマサに聞いてみよう。
こんな結果を見ると、私も油断しないようにしないとって思っちゃう。でも、今はそんな事考えてる場合じゃないんだよね。トドメを差したプレイヤーの顔はしっかり覚えたし、直ぐ行こう。早く行こう。ゴーゴー!
透かさずその場に転移し、チートプレイヤーを倒して喜ぶ対象を天沼矛で一閃。倒した事を確認して、直ぐにスイーツクイネに戻り再び視界を飛ばすと、対象の捜索を始める。
むふふーん。計画通りってやつだ。何もない筈の草原に呆然としている対象を発見。って事はこの側に目当てのレジがあるって事だね。よし、ここからは時間との戦いだ。
先ずは森との境、塀と校舎の間に転移。そして直ぐにムラマサへ通信を繋げる。
『ムラマサ! 直ぐに転移させるから、近くにあるレジを触って!』
『え、っと、よしきた!』
ムラマサとの通信を切り、直ぐに彼女をレジがあるであろう場所へ転移させると、手早く校舎の壁へ天沼矛を突き刺し、大草原に見せられていた魔法を解除。ふぅ、後は待つだけ……。
「あっ! チートプレイヤー!」
うわーん! こんな早く見つかるとは思わなかったよ! 上の階の窓から顔を出すプレイヤーは、手に持つ槍に炎を纏わせだしたし、フィナを武器化させてない今だとダメージ受けちゃうよ。下手したら死に戻りだよ! 急いでムラマサに確認しないと!
『ムラマサ! 触った!?』
『おうよ! バッチリ奪ったよ!』
よし! ギリギリ! 天沼矛を引き抜き、寸前まで迫る槍の穂先を回避して直ぐにスイーツクイネへ転移。
危なかったよ、ここで私が死に戻ったら計画がパーになるとこだった。窓から槍を外に出すのに、苦戦してたプレイヤーのお陰だね。おっと、ムラマサも転移させないと。あんな所に放置したら、流石に死に戻りは避けられないし。
ムラマサもスイーツクイネに転移されたのを見て、ほっと一息。ふう。これで一仕事終えたかな。怪訝な視線を発するクイネさんとサクラへの説明は後にして、自分達のレジに触れ、売上を確認。ふふっ! 笑っちゃうくらいの大金が入ってたよ。
ちょっと慌てちゃったけど、作戦通り全てのギルドの売上と、チートプレイヤーの討伐報酬の売上をゲット! やったね!




