122. 戦い開幕!
そのアナウンスが届いたのは、ヨーナ達の交代時間の十分前。十三時五十分の事だった。
『アオイ、直ぐに戻ってこい。客も居なくなったし作戦会議しようぜ』
そうヨーナから通信が届き、他の皆は交代時間近くって事もあって、既に店に着いているみたい。
私達がご当地焼きそばスタンプラリーをしていた屋上でも、行動を起こし始めた人達によって、先程までとは違った慌ただしさが見て取れる。
その原因となったのはさっきのアナウンス。内容は、簡単に言えば一発逆転の大チャンスだね。十分後の十四時から始まるみたいだから、そのための作戦会議なのかも。
アナウンスと共に届いた運営からのメールも届いたけど、それは皆で集まったときに見ればかり良いと思う。だから早く転移しようか。
ご当地焼きそばスタンプラリーで、スタンプを押すのを楽しんでいたフィナには申し訳ないけどね。でも、お店の人も焼きそばそっちのけで行動しているから仕方がない。事態が落ち着いたらまた来ようかな。
焼きそばとビールの組み合わせを楽しんでいた、アマテラスの事は気にしないけど。
「お待たせー」
「おう、お邪魔してるぜ」
店の前まで転移すると、出掛けるときにあった行列もすっかりなくなり、変わりに店の中ではジョンとメニド、そしてユイナを除くパルフェサンデーのメンバー全員が待っていた。
「ビルももうじき来るってよ。中で先に話を進めとこうぜ」
もう待ってられないといった様子のヨーナに促され店内に入ると、既にコーヒーが用意されていて準備万端と言ったところ。
思い思いの場所に座ると、先ずは運営から届いたメールを読むことに。
一発逆転の大チャンスは、私達も予想した通り売上の奪い合い。奪う方法は、レジに触れる事。自ギルド以外のレジを触れると、そのレジに入っている売上が、自動的に自ギルドのレジに移動するようになっているみたい。つまり、如何に店内に侵入するかが大事って事だね。
大チャンスは一時間で十五時まで。終わった後は再び通常の文化祭イベントに戻るみたいだね。売上を奪われたから、売上ランキングは諦めるって心配はなさそう。
一応参加は任意で、この大チャンスに参加しない人は、体育館に避難して戦いを観戦出来るみたい。誰でも楽しめるような配慮なのかな。
「てか、奪い合いは良いんだけどさ。俺逃げて良い?」
「男なら立ち向かえよ」
弱気なクイネさんに、ジョンが突っ込みを入れているけど、弱気になるのも仕方ないと思うよ。
その理由は、特別ルールにある。
一つは、チートプレイヤーはレジに触れても売上が奪えない事。私一人で突貫! なんて出来ないって事だね。悲しい。
それで、クイネさんが弱気になる要因である、二つ目。チートプレイヤーを倒した者には、特別な称号と豪華賞品、参加中の全ギルドの売上を全て徴収出来る。これは鬼ごっこな予感。
チートプレイヤーには、頭上に専用のアイコンが出るみたいだし、目立つことをすれば上手く囮になれるかもだしね。
その点、チートプレイヤーがチートプレイヤーを倒しても、何も得られないって言うのが悲しい。私なら、チートプレイヤー相手でも倒せるかなって期待もあったし。いや、慢心はしないけどね。
「アオイさんは大丈夫ですの?」
「多分。逃げるのは得意だと思うし」
「転けるなよ」
ヨーナが私を虐める。サクラに感づかれたらどうするのさ。
「悪い、遅れた」
「よし、作戦会議だ。各自頑張れ。以上」
ビルとモフラブが来たら、作戦会議が終わってしまった。ビルとモフラブなんて、入り口でポカンと立ち尽くしてるし。うちのメンバーとジョンとメニドが、のんびりコーヒーを飲んでいるのは、その事を事前に話していたのかな?
なんでヨーナが仕切ってるのかとか、突っ込みどころはいっぱいあるけど、それは多分、今の時間はヨーナが店の責任者だからって所だろうけど。
作戦に関しては分かりやすいし、それで良いと思う。問題はビルの所かな。ジョンの所は、お兄ちゃんがイザナギを憑依させられるから戦力は十分だけど、ビルの所は数が多いだけだからね。それも優位点なんだけどさ。
「ビルの所は大丈夫そう?」
「どうだろうな。困ったら連絡するから、その時は助けてくれ」
提携中だし、助けに行くのは当然なんだけどね。イベントが始まる前、提携したときにフレンド登録は済ませたし、何時でも行けるよ。そうだ、メニドも登録しておこう。ウミとミウは登録したしね。
「メニドはなんで来たの?」
「ジョンの監視。こいつ、この店にもヤマトの写真を張ろうと計画してたから」
黙って見守っていたメニドだけど、そんな目的があったんだね。それくらい許すけどなぁって思うけど、やってしまったら、コスプレ衣装貸出を諦めたお兄ちゃんが黙ってないらしい。この人、苦労人なのかな?
そして十分後。ジョンやビル達も自分達の店に戻り、私達も店の前にキングを呼び出し、各々憑依やリンクをして準備も完了と言ったところで、学園中に開始のアナウンスが響き渡った。
「そんじゃあ、アオイちゃん。行きますか!」
渦巻く風を纏い、気合い十分なムラマサと店を出て、真っ先に向かうのは校舎の方。そう言えば、ムラマサの神様を見せて貰う約束をしてたっけ。渦巻く風は憑依の証みたいだし、後でちゃんと見せて貰おう。
そんな私達が校舎に向かうのも、校舎を攻めるのが、私とムラマサの役目になったから。各自頑張れって言われたものの、一応少しは考えるんだよ?
店の守りはサクラとスラミ、トヤマさんにキング、フィナ、レンチ。正直、フィナとレンチだけでも十分な気がするけど、そこは念の為。それでヨーナとクイネさんは、売上奪取に駆け回る予定。クイネさんは囮も、だけどね。
「窓から突っ込むよ!」
「はーい!」
ムラマサが飛行したまま窓へ突っ込むのに従い、後ろをついて行く私も加速。転移を使わずに派手に進入するのも、私も囮の役割を持っているからなんだ。アイコンのお陰で目立つから、行動も派手にって訳。
ムラマサの振るう二本の刀と、私が手に持つ矛を振るい、派手に窓ガラスを割って教室へ侵入する。アクション映画みたいでワクワクしたけど、そんな気持ちもそこに広がる風景の衝撃には勝てなかったみたい。
「これは予想外だわー」
「あれ? ここメイドカフェだった筈、だよね?」
侵入した教室は、パンフレットで確認したレジがある店の教室だった筈。でも、そこに広がる光景は大草原。後ろを振り返っても、見渡す限りの草原が広がっている。
「はーはっはっはっ! ようこそチートプレイヤー! 校舎同盟のフィールドへ!」
そんな高笑いと共に、何もない空間から現れたのは無数のプレイヤー達。恐らく教室のドアから入ってきたんだと思うけど、これってやっぱり嵌められたかな?
『此処から転移で出られる?』
『勿論よ』
『天沼矛を使えば、元の空間に戻すことも出来るわ』
憑依しているアマテラスとイザナミに聞いてみると、出られない訳じゃないみたい。それなら囮の役割に徹しようかな? 校舎同盟って事は、校舎を使っていたギルドは殆ど協力しているって事だろうしね。
「どうする、アオイちゃん?」
「そうだね、先ずはこうする!」
術中に嵌める事が出来て満足そうな人たちに向かい、熱湯風呂くらいの熱量で光輪から放熱を始める。今は捕らわれの身? だもん。これくらいきっと許される筈。
「ぎゃぁぁぁ、熱い、熱いぃぃぃ!」
「無理だって、これ無理だって! 俺は逃げるぞ!」
「待て! そんな事言ったら」
「ぎゃぁぁぁ! 輪っかが迫ってくるぅぅぅ!」
「押すなよ! こっちにだってあるんだぞ!」
光輪は複製出来るんだよね。しかも、自動追尾のチップのお陰で、勝手に敵に向かって飛んでってくれる。なんて便利!
「むふん!」
「そのどや顔、うざ可愛いね!」
それ、ディスってると思う。




