9. 金の亡者?
知りたいことがあれば冒険者ギルドに、てな訳で馬車のことを聞きに行くと、様々な馬車が載ったカタログを貰った。
一度ログハウスへ戻り、リビングで貰ったカタログに目を通していると、なかなか情報量も多くて読んでいるだけでも楽しくなってきた。
見た目や機能の違いもあるため値段もピンキリだけど、どの馬車もアイテムボックスにしまうことが出来るのは共通みたい。
こういう便利要素は大歓迎だね。
「そういや、さっきキボリが水場に鮭放してたぞ」
「釣りも楽しめそうですわね」
へぇ、それなら尚更、湖のような水場を用意したのは正解だったかもね。
ログハウスの隣に出来たそれは階段横の窓からも見ることができるため、眺めてみればジープがプカプカ漂っているのがわかる。
最初見たときは、いきなりの巨大なゴミが漂いだしたのかと思って吃驚したよ。
「テントの機能付きの車体もあるんだね。キャンピング馬車?」
「ホテルの部屋みたいだよな。内装カスタマイズ機能も付くと値段が跳ね上がるな」
「どうせならこれにしませんこと?」
そう言ってサクラが見せるのはログハウスの馬車版とも言える物で、拡張機能搭載のうえ、間取りや部屋数、内装も専用メニューから自由自在。
形も箱型で、屋根には取っ手のようなものがついており、今後の計画でもあるドラゴンに持たせるのにも丁度良さそう。
「一億か、安く感じる自分が怖いな」
「ここはみっちり稼いどいた方が良いかもしれませんわね。アオイさん、一時間ほど籠もってらっしゃい」
いや、簡単に言うけど私はサクラのメイドではないよ?
でも、もしかしたか活用場面があるかもしれないし、お兄ちゃんに服を用意してもらった方が良いかもしれないね。
やっぱり笑い物になりそうだからなしかな?
そんな自問自答を心の中で繰り広げながら、ダンジョンへ向かう前にテイムしてきたばかりのモンスター達を草原へ放していく。
そこで改めてテイムしてきたモンスター達をまじまじと見て思うのだけど、鶏が一番でかいってどうなのか。
あっ、卵産んだ。ありがとう。でも、卵のサイズは普通なんだね。
これはおやつを作るためにとっておこうと、アイテムボックスに仕舞うと、早速きなんだもちを石に戻して神速通でダンジョンへ向かう。
そして、洞窟をきなんだもちに乗り風のごとく駆け抜ける。
遮る金の壁も、迫り来る金の旋風も全て粉砕し駆け抜ける。
怖い、乗るんじゃなかった。
こうも恐怖体験をしていると、現実の自分は大丈夫なのかと心配になってくるね。変な感じはしないから大丈夫だと信じたいけど。
結局プライドが邪魔して途中で降りられないまま続いた恐怖の一時間、それを経て私の顔は、どうやらとても引きつったものになっていたらしい。
「ただいま」
「お帰り。まぁ、恐怖体験だっただろうな」
うんうん、経験者は同情してくれるってやつだ。
でも、今度は一緒に行こうと誘ってみれば、笑顔で首を振られて断られる始末。同乗してくれないのか、残念だなぁ。
「それで、どれくらいの額になりましたの?」
「数えることは諦めた」
そんな私の心情よりもお金の事を気にするサクラに軽く答えると、流石にやりすぎに思えたのか、若干顔が引きつっていた。
だって、きなんだもちが張り切るんだもん。それ故の恐怖体験だったのです。
まぁ、そんな調子で進んでいたら、途中で地下に続く階段があったから下りてみたの。
そしたら、其処に居たのは銀色に輝くゴーレム。
これもお金になるのではと、諸々な面で勇気を振り絞ってきなんだもちに突撃命令与えたものの、ドリル攻撃すら効かなかったため、一目散に逃げ帰ったけどね。
ゴールデンより強いとなると、多分ミスリルかなんかなんだろう。
「一階でお金を稼いで、地下で装備をってことかしら? それにしても倒し方が問題ですわね」
「魔法のドリルを作んなきゃな」
なにその魅力的なフレーズ。きなんだもちが進化したら追加されないかな?
まあ、今は目的が違うのでそれはスルーです。
有り余り過ぎたお金で馬車も買っておいたし、早速草原に出してカスタマイズ。
サクラ主導で始まったそれは、どこかのリゾートホテルのスイートルームの様な豪華な仕上がりにとなった。
その最大の拘りは三人でも寝られるほどの大きなベッドで、どうやらみんなと一緒に寝たいらしい。
そんな色んな夢を乗せた馬車をアイテムボックスにしまい、いざ、サーポロの街へ!
そして到着したら直ぐに街の外にでて、石から出したきなんだもち達に馬車を繋ぐ。
なんていうか、三頭並ぶとより一頭が目立つね。
そんな目立ちまくりなきなんだもちに、頑張ってね、と言いながら首を撫でると、体に文字が浮かび上がった。
《勘違いしないでよ、あんた達のために引くんじゃないんだからね! この子達と一緒に走るのを楽しむためなんだからっ!》
まったく、この子はぶれないなぁ。
それからは馬車で四時間ほどの長旅。
豪華な部屋にいるものの、やっぱり移動時間と言うものは暇なもの。なので、ゲームをして時間をつぶすことに。
先ず選んだのはボードゲーム、人生の大変さが詰まってるのです。
「そういや、ここの徘徊ボスはどんな奴なんだ?」
「キメラクラブですわ。頭は熊で、体が蟹、狐の尻尾が生えたモンスターなんですの」
「何そのコメディ」
あれだよね、B級パニック映画にも出てきそうな見た目って感じ。
そんな見た目に反し、頭と尻尾にしか攻撃が通らないため、その巨体と相まってなかなかしぶといんだとか。
どのくらいの巨体かと言うと、東京ドームと同じくらいの大きさだって言うから、流石、でかい領土なだけあるよ。
思いの外熱戦を繰り広げたボードゲームに熱中していら、何時の間にか辿り着いた襟裳岬の周辺。
もう夜も良い時間だけど、途中で夕飯等も頂いたから準備万端。
だから直ぐに岬まで来てみたけど、凄い数のアザラシが海も陸も関係なく至る所に転がってるよ。崖を登ったりしてるのもいるし、意外とパワフルなモンスターみたい。
「ゲームだからって凄い数だな」
「こう見ると凄い迫力ですわね。此方から攻撃しなければ大丈夫だそうですわ。早くテイムしてしまいましょうか」
このアザラシ、ゼニスローといって、攻撃してきた相手に銭を投げつけ攻撃するんだとか。
その攻撃力は受け手の所持金によって変化し、一文無しだと逆に所持金が増えるらしい。
私は絶対に食らってはいけない。
そんなデメリットを抱えているため、恐る恐る近付きながらも、円らな瞳に目を奪われながらも無事にテイム完了。
アザラシの名前にちなんで、この子の名前はとっつぁんにしよう。
「でもさ、こいつ一匹で船を引っ張れるのか? 何匹か居た方が良くないか?」
「まぁ、聞いてみましょうか。アオイさん出してくださる?」
確かに、普通のアザラシサイズだとその心配はあるよね。
早速、サクラの言うとおりにとっつぁんを石から出すと、何故か出す際に消費されるのがMPではなく所持金だった。
まさか、こいつは三世の方だったのか?
そんな私の心を読んだのか、出てきたとっつぁんは私の尻尾に近づきぺちぺちと叩く。
でも、その顔はとても笑顔だから、単にこういう色が好きなのだけかもしれないね。
試しに金の延べ棒を取り出してあげてみると、鰭で大事そうに抱えながら勢い良くガジガジと食べ始めた。
大丈夫? お腹壊さない?
「凄い光景だよな」
「そうですわね。金塊を抱えるとっつぁんなんて」
「そっちじゃねーよ」
「あっ! なんか光り出したよ」
そんな私達の感想なんて気にする様子もなく食べ続けたとっつぁんは、眩い光に包まれた。
そして光が収まりそこに現れたのは、立派な牙と角を持った白い体のセイウチだった。
ワゴン車程の大きさかな? いや、確かにここはデジタルだけどさ。
「進化したな」
「やっぱり餌によって進化のしやすさが変わるのかしら? でも、この大きさならパワーは十分そうですわね。それにほら、アオイさんの望んだ白いのですわ」
「いや、確かに白いけど、思ってたのとちょっと違うかな」
うん、私がイメージしていたのは、もっと小さくて可愛らしい子だったはず。こんなでかいのは望んでなかったはず。
でも、まあ、でかくたって可愛い目は前と変わっていないから良いとしよう。
しかし、すり寄ってくるのは良いけど髭の感じがイマイチなのは残念。それに、進化しても名前変更のウィンドウがでないのは、融合進化が特殊だからかな?
イメージがガラリと変わったから、名前も一緒に変えたかったんだけど。
「よし、目的も達成したし、さっさと帰るか。早くバーベキューしようぜ!」
「そうですわね。でも、ちゃんと野菜も買わなくては駄目ですわよ」
「モンスターも食べるかな? って、あれ? なんか騒がしくない?」
歓迎会にも丁度良いし、それには私も賛成なんだけど、周りにいたアザラシ達が一斉に鳴き始め、海へ向かっていくのがなんだか不穏すぎるのですが。
「おい! あのでかいのって!?」
「ええ。キメラクラブですわね。ふふっ、丁度いいですわ。吸血鬼の力見せて差し上げますわ!」
そんな現象の原因は、遠くから此方に向かってくる徘徊ボス、キメラクラブ。
距離があってもよく分かるほどの大きさの蟹はとても怖いけど、頭の熊がなんだか可愛らしくて、それも帳消しされている気がする。
あと、蟹なのに横歩きじゃないのはなんだかコメディっぽく思えてしまうよ。
いや、そう言う蟹がいるのは知っているけどね。
そんなキメラクラブに向かい、正面に立ちふさがるサクラがビームを放つ。
そのビームによって可愛い熊の頭は消失し、蟹は崩れ落ち光になった。
あれぇ?
「なんか、サクラ強すぎない?」
「当たり前でしょう? このゲーム強さはMP量なんですもの。それに、吸血鬼でなくとも五千も増えればフィールドボスくらい瞬殺ですのよ」
へぇ、じゃあ私も同じ様なことが出来るかもしれないんだね。
どうやらサクラはシズオカ領の鵺も倒していたそうだし、私も挑戦してみようかな?
「アオイさんだってちゃんと魔法を組めばこの位出来るのですわよ? 出来ないのはヨーナさんだけですもの」
「うっせーな。私は剣士だから良いんだよ!」
むふふ、ヨーナが拗ねてる。存分に羨ましがるがいいさ!
でも、そんなヨーナだって無効を無効に出来るんだし凄いと思うよ。
「ドロップはズワイガニと武装一式ですわね。ヨーナさん使います?」
「いらねーよ、どうせそう聞くってことはデザインやばいやつだろ? 性能良くても、それじゃーな」
まぁ、確かにそう聞くサクラの顔は笑顔だし、裏があるのは確実だよね。
でも、それより焼き蟹だな! と、嬉しそうに言うヨーナは、デザインを気にしつつもやっぱり食い気を優先する女の子なんだね。
「ボスモンスターはテイム出来ないの?」
「さぁ? どうなのかしら、社長に聞けば教えてくれるのではなくて?」
そんな素朴な疑問にあっけらかんと答えるサクラだけど、そんなに社長を便利な人扱いしちゃっていいの?
まぁ、いいのかな? 駄目なら言ってくるだろうし、今度聞いてみよう。
ていうか、ヨーナはもうバーベキューしたくて待ちきれないようなので、それぞれモンスターを戻しメニューから項目を選び、ログハウスへと戻る。
そして始まるバーベキュー!
道具や炭は家屋メニューに付いてたし、あとは焼いては食べ、焼いては食べさせの繰り返し。
これにはモンスター達も嬉しそうで良かったよ。
特にウォーセの喜びが凄いかな。流石狼、流石肉食。その点、先生は私用のいなり寿司を勝手に食べて夢見心地。
食事にもキャラクター性がでるのは、なんだか見ていて面白いね。
それにしてもヨーナの食べるペースが早い気がする。生焼けとか大丈夫なの?
「なぁ、知ってるか? 焼きながら肉を食べるのはバーベキューじゃなくて、焼き肉らしいぜ」
いや、言い出しっぺが何を言うのかと。