108. 陰の立役者
前後から迫り来る炎と雷の魔法。それを転移で避け、前に居た一体を矛の石突きでもう一体の方へと弾き飛ばし、ビームを放って同時に撃破する。
最初の頃から大分数が減り、広間を埋め尽くす程居た原初の澱みは既に居ない。原初の澱みは十分で二体増える様で、適度に休憩を取りながら殲滅し続けていたら、二時間程やっただけで既に欠片は千を越えていた。そもそも最初に殲滅した段階で千を越えたんだけどね。
「原初の澱みを一撃で倒す、そんな私が恐ろしい」
ちょっと中二っぽい台詞を言ってしまったけど、ヨーカンをテイムした時は多少は時間が掛かったんだけどね。私のインフレ力は戦闘民族を越えてるのかもしれない。
『武器の力と、称号のステータスアップの恩恵ね』
イザナミによれば、憑依した際に専用武器になる天沼矛の攻撃力は現段階で最強らしい。流石ラスボス。そして、依代の称号はステータスアップの上昇値が高く設定されてるみたい。
本来依代の称号は一つしか入手出来ないそうだけど、イザナミのはボーナスみたいなものなんだそう。そのお陰でこんな芸当が出来るんだね。
『まぁ、太極図でバフを掛ければ、誰でも出来る事なのだけれど』
私のアイデンティティは、あんまりないらしい。
十分待ちを繰り返すのも少し手持ち無沙汰なので、その間に温泉へ行ってみることに。
広間へ入った道とは反対側、奥へと伸びる道をのんびり進んでいくと4つの温泉がある広間へと辿り着いた。その先には道は無く、此処で行き止まりみたい。
『白濁、サラサラ、炭酸、ヌルヌル。四つの種類が楽しめる秘湯よ』
飲むならサラサラが良いけど、入るなら白濁が良いかな。普段から白い入浴剤使ってるし。こんなの見せられると、先に入りたくなっちゃうよね。
憑依と武器化を解除し、水着に着替えて三人揃って白濁温泉へ浸かると、心地良い温度に思わず声が出てしまう。けして、イザナミの山が放つ存在感に溜め息を着いた訳じゃないよ。だだ、イザナミだけバスタオルなだけに、水着とは違った凄さがある。
「飲むとステータスがランダムで上がるって言ってたけど、その項目って幾つあるの?」
「攻撃力、防御力、素早さ、運の四つよ」
随分シンプルだけど、その分上がるステータスは限られてくるし、そこは良かったかも。
「今の数値を教えてくれたり……」
「駄目よ」
結構頑なだった。何で教えてくれないのかと聞けば、プレイヤー自ら基準を作ったら面白そうって事だった。AIって、自分達が思う面白さ優先だよね。
「どうせ、フィナが居れば望むステータスがアップするのだし、あんまり気にしても仕方ないわよ」
このゲームで一番頼りになるのって、座敷わらしな気がしてきた。
「そろそろ、座敷わらし持ちのプレイヤーも増えてきたかな?」
「ええ、増えているわ。カジノのVIPルームでは、大層盛り上がっているそうよ」
見た目幼い子達がカジノに居るのは凄い光景だろうけど、娘、或いは息子自慢の場も兼ねているらしい。フィナを見ていると、その気持ちも分からなくはないかな。浸かる時に渡したタオルで遊んでいる姿は可愛いもん。
「それで、どのステータスをアップさせるのかしら?」
うーん、やっぱり選べるとなると悩むよね。防御力は個人的にないとして、残り三つ。攻撃力か素早さのどちらか、かな?
「運って、どんなメリットがあるの?」
「ドロップや宝箱で良い物が出たり、後はクリティカル攻撃ね」
やっぱり戦闘以外でも役立つんだね。でもドロップなんかはフィナが居れば良いし、クリティカルも素の攻撃力が高ければなんとかならないかな?
「素早さは移動の他にも、体の動かし方なんかにも影響するわよ」
その数値が高ければ、称号の戦闘行動アシスト効果もより感じやすくなるらしい。ふむ、【鬼の弟子】の効果で、戦闘行動超アシストがあるし、素早さを上げるのが良いかな。
そう決めて一人温泉から上がり、創った柄杓片手にサラサラ温泉へ向かう。
柄杓ですくって飲んだ温泉は、まろやかでとてもおいしかった。三回とは言わず何回でも飲みたいけど、今はこの上がったステータスが、どんな影響を与えているか確認しないとね。そんなに劇的に上がっているかは、分からないけど。
再びイザナミを憑依させ、フィナを籠手に武器化して広間へ戻り原初の澱み狩りを再開。上がったステータスの感触を試す為、転移を使わずに空を走ったりしながら倒していると、自分のスピードに反応がついて来ない様な感じがした。
ちょっと違うかな。【研ぎ澄まされる者】の効果のお陰か、体は完璧に、イメージ通りに動いている。その感覚が、どこかコントローラーで自分を動かしているようで、妙な感じがする。
『イザナミが何かサポートしてるの?』
『いいえ、私ではないわ』
私ではない。その言い方だとイザナミの他に、私の中に誰か居るように聞こえるね。
一通り、今出現している分の原初の澱みを倒し終えたし、温泉がある所まで戻って詳しく聞いてみようかな。
「プレイヤーの中には、サポート用のAIが搭載されてるのよ。自分だけの称号が出るのも、その子のお陰ね」
温泉に浸かりながらイザナミから聞いた話。普段から自分のアバターに同居人が居たのには驚いたけど、そのAIの所為で【おきつね巫女】が生まれたらしい。本当にあの場で聞いていたんだね。
「オリジナル魔法が使えるのも、そのAIがその都度プログラミングしているからなの。太極図も同じ様な感じね」
そうして作られた魔法や称号なんかは、逐一運営の方に連絡が行って、社員やアルバイトの人達にデバッグして貰うんだとか。一応、一通り作られそうな物は事前に作って置いて、デバッグしているそうだけどね。
そう言えば島で瞑想について教えて貰った時、社長が扮したアルバイトの人が、デバッグがどうとかって言ってたっけ。
その点、太極図は魔法の様に組むといったワンクッションが無い為、デリケートな物らしい。でも特に不具合とかはないから凄いよね、ってあれ? 最初の頃にとんでもスイーツが出来たのって、もしかしてその所為?
「その子と話しは出来ないの?」
「そうね、尻尾での意志疎通位は出来るんじゃないかしら。あなたがログアウトした後は密かに活動してるのだし」
何それちょっと怖い。でも、私の尻尾をタツノ達があまり触らなくなったのも、その子が注意してくれたお陰らしい。
言葉に出さなくても通じるのかと思い、心の中でお礼を言うと、尻尾をブンブンと振って答えてくれた。その反応にふと思う。最近、尻尾が感情豊かになったのはこの子の所為かもしれない。
「話を戻すわね。あなたが上手く動かせないと判断したAIが、ステータスや称号通りの動きをサポートしようとしているの。だから、そう言った感覚が生まれているのだと思うわ」
それって、慣れでどうにかなるかな? うーん、体の動かし方か。原初の澱みを相手に練習してみようかな。




