7. 北で天使
それぞれの部屋を作り終わり、一度リビングに集まったら、水筒に残っていたコーヒーを飲みながら暫し休憩。
「ログハウスの感じは残したのですわね」
「うん、別荘って感じがして良いでしょ」
私の理想通りに出来たリビングを見回して言うサクラにそう返し、文句が出なかったことに少し安堵する。
壁には一切手を加えず、ソファーにテーブル、暖炉と棚を置いたシンプルなものにして、二階の部屋へと続く階段も木製にして壁と統一感を出す。
そんな感じでシンプルな感じにしてみたの。模様替えは何時でも出来るから、ベースはシンプルなものの方が良いと思ってね。
「それで、モンスターを集めるって?」
「うん。折角広い土地があるしね。先ずは羊か牛かな?」
「それなら北ですわね。北海道の方なら羊や狼、狐なんかが居るそうですわ。牛は南だったかしら。ビミブルっていうモンスターで、ドロップが美味しいらしいですわね」
ほうほう、魅力的なモンスターが多くて困ってしまうね。でも、そのビミブルが美味しいって言うのは、多分そのままの意味だよね?
まったく、不憫な名前だこと。
「ローストビーフかジンギスカンか、悩みどころだな」
「あら、ビフカツなんてのも良いんじゃなくて?」
「いやいや、それじゃあ目的が変わってきてるってば。北に行こ? 狐捕まえに行こ?」
「お前も目的変わってんじゃねーか、羊か牛じゃないのかよ」
いや、私も最初は牧場を作る感じでイメージしていたんだけどさ、狐と聞いてしまったらテイムせずにはいられないんだよ。
やっぱり狐は可愛いもんね。
そんな私の情熱を熱弁したお陰か、北に行くことに決まりました! やったー!
早速移動の為にスールガの街へ行くその前に、草原で草をはむはむしていた馬達を回収。
てか、きなんだもちは草を食べるんだね。
そんな突っ込みを背中に乗せてもらいながらしてみたけど、答えが返ってくることはなく、悶々とした移動を経てスールガの街に到着。
そのまま飛行便へ乗るために飛行場へとやってきたけど、飛行便は申し込みから十分後に出発するみたい。
この間に、同じ場所への希望者がいれば乗り合わせる形になっているそう。
そんなシステムもありタイミング的に良かったのか、私達が申し込んだ時に丁度良く五分後出発の便があったので、これはラッキーとそれに乗り込む。
中は箱型の大部屋で、乗り合わせたのは男女十人の団体さんみたい。
その人達に少し話を聞いてみたけど、北海道が元になっているホッカイ領で、街づくりに挑戦するらしい。
ホッカイ領には広さの割に街は一つしかないそうで、冒険や開拓に燃える人たちが多く集まっているんだとか。
その手の話題が好きなヨーナは、その話を聞くのに夢中になっているけど、行き先であるサーポロの街までは凡そ二時間の空の旅。
流石に一つの話題では間は持たないよね。
なので、旅も道連れとも言うし購入しておいた某レースゲームを皆で楽しもうか。
ちゃんとそのゲームに対応したコントローラーも出てくるので、現実としては変わらないようにプレイできるし、この手のゲームは人が多いほど楽しいもんね。
でも、私にキノコばかりが出るのは何故なのか?
輝くスターに憧れながらも、叶うことなく街に着き、団体さんと別れて道具屋へ向かうと、其処で大量のテイム石を買い込む。
大金持ちは金に糸目はつけないのです。
さて、準備はこれで万全だろうし、千里眼で羊の居場所を確認しておこうか。
道具屋の前に置かれたベンチに座り、視界をどんどん移動させて、街の外を眺めていると渦巻き状の角を持ったもこもこが二倍くらいある羊を発見。
うむ、狐が最大の目的なんだけど、この羊もなかなか可愛いではないか。
しかも群れが近くに居るみたいだし、一番可愛い子を選ぶことも出来そう。
角の大きさや毛皮の質感もそれぞれ違いがありそうだし、悩みそうだなぁ。いや、やっぱり第一印象で選ぶべきかな?
そう悩みながらも、何時の間にかソフトクリームを食べていたサクラとヨーナを連れて街を出て草原を歩いていく。
「ワタシープ。偶に風に飛ばされて、空をふわふわと舞うモンスターだそうですわ」
「随分ファンタジーだな」
「可愛いなぁ。家に放しておいたら飛んでっちゃわないかな?」
歩く内に悩むことも止めて、結局一番最初に目にした子をテイム。
直ぐに出してもふもふを堪能するけど、見た目以上の感触にもう大満足だよ。
名前は、大きく育ってほしいという意味も込めてジープに決定。
二人からはどうなんだと突っ込まれたけど、私としては皆で乗って移動できるくらい、大きくなってほしいんだよ。
そんな愛でる私とは違い、二人はワタシープと戦闘してみるみたい。
その結果、サクラは魔法駆使して余裕の勝利を見せたけど、どうやらこの子達は物理無効の能力でも持っていたのか、ヨーナの大剣を受けても気にする様子もなく草をはむはむ。
いや、反撃とかしないの? 可愛いなぁもう。
「こいつ! ぜってー大剣使って倒してやる!」
そんな残念な結果にめげず、ヨーナはムキになって剣を熱くしたり、振動させてみたりしてるけどなかなか上手くいかないみたい。
「私達、先に夕飯済ませてきますわよ!」
「頑張ってねー!」
そんなヨーナつき合っていられるほど私達のお腹は保たないので、ヨーナの苛立った返事を聞きながらテントを張りログアウト。
ログインした時には倒せてるかな? なんて思ったのは、どうやらフラグだったみたい。
夕飯とお風呂を頂きログインすると、月に照らされた天使がいた。
実際は、体育座りしたヨーナだったけど。
「どーしたの?」
「やっちまった」
うん、白い翼が生えているから、何かやったのは分かっているよ。
詳しく聞いてみると、何でもワタシープを倒した後にウィンドウが表示されたんだとか。
内容は《力天使より力が授けられます。いかが致しますか?》と言うもので、それはメリットしかないと思って許可したら、翼が生えたんだそうだ。
「称号はどんなの?」
「【力天使の加護】だとさ、敵の無効効果を無効にするんだと」
なんだ、結構良い効果じゃん。落ち込んでいたのは、私の時と同じ様な理由かな?
そう思ったけど、実際は違うみたい。
効果は良いのなんだが翼がなぁ、と残念そうに呟いているし、やっぱり本来ないものがあると邪魔だと思ってしまうのかもね。
私も分かるよ。流石に四本は多すぎる。
後から来たサクラには、これでゴールデンゴーレム狩りが捗るわね! と、言いながら翼をベタベタ触られていたから、余計げんなりするヨーナがなんだか可哀想に思えてしまうよ。
サクラもなんかしらあればいいのに。
「でも、どうやって倒したの?」
「あぁ、毒って便利だよな」
勿論、刃は通らないので、大剣を羊に咥えさせて毒にしたそう。
鬼畜すぎない、その所業。てか、それ自分で倒してないと思う。半ば諦めてるよ、それ。
それを言ったら余計落ち込みそうだから口には出さないようにして、夕飯に行くヨーナとの合流場所をログハウスに決め、私達は狐と狼を探しに行くことに。
光があると駄目かと思い、魔法で暗視を付与しながら辺りを歩いてみるけど、一向に見つかる気配すらない。
途中、サクラに同じ狐なんだから独りになったら寄ってくるんじゃない? と、冗談みたいに言われたので、ものは試しにと独りになり、おまけにルールルと言ってるとホントに来た。
これは独りになった効果だろうか、それともルールルだろうか?
そんな疑問を検証する気は到底ないので、早速テイム出来た子を可愛がる為に、可愛い名前でも考えようか。
と、言っても可愛い名前なんて早々思い付かないんだけどさ。
独りではなかなか答えが出なさそうなので、状況を見計らって迎えにきたサクラから、この狐のモンスターはトリックフォックスという名前だと聞き、半ば思い付きで先生と名付けた。
うん、この名前だと可愛くはないけど、多分いい子には育つと思う。悪戯はごめんだけどさ。
「そういえば、サクラはなんでモンスターの名前が分かるの? そんな表示無いよね?」
「私は掲示板で調べてますが、王都の図書館に行けば、分かるようになる称号が手に入るそうですわ」
へぇ、便利そうな称号もあるんだね。一度行った方がいいのかな?
まぁ、それより今は狼を探す時間なのです。
だって、その為に一番最初にワタシープをテイムしたんだもん。
飛行便での移動時間にサクラに調べて貰ったんだけど、狼は囮を使う方が遭遇率が上がるらしいの。
では、早速ジープを出して誘き出そうか。ごめんねジープ、こんな出番で。後で家の草をたっぷり食べさせてあげるから、それで許しておくれ。
でも、物理無効の子が餌になるのかな?
こんなもこもこなもふもふなら噛みつくのも大変そうだし、毛狩りした方がいいかなぁ、と考えながら撫でていると、ジープがズルッと羊毛を脱いでくれた。
いや、そんなに簡単に脱げるのか。体を見てみるとハサミでカットしたような跡もあるし、流石ゲームだね。
そんなスッキリしたジープを暫くウロウロさせてみると、大きな遠吠えが聞こえた直後、一匹の狼が襲いかかってきた。
他のモンスターとは違い、ウルフというシンプルな名前のモンスターだそう。
うん、どうしても手抜きのように思えてしまうんだけど。
そんなウルフの攻撃にもびくともせず、ジープが角で応戦している間に背後に回りテイム!
名前は少しネットで調べながら考えて、ウォーセにした。立派な遠吠えをしてたしね。
目的も達成したから直ぐに帰ろうか、そうアイスを食べながら見守ってくれていたサクラと話し、その場でログアウト。
そして直ぐに再びログインすれば、復帰場所はログハウスに作った部屋ってね。
実際にやってみると凄い便利だよね。二時間がほんの数分だもん。
ただ、部屋を現実の部屋と似たような間取りにはしない方が良かったかも。これはちょっと混乱してしまうね。
そんな訳で軽く模様替えをして、ついでに部屋に設置した簡単なキッチンを見て、あるものを思い出した。
どうせなら、新築祝い的な感じで金目鯛の干物を焼こうかな? 家屋メニューの中には食器類もあったし。
それをリビングで待っていたサクラに話してみると、これまたメニューの中にあった七輪で焼いてみることに。
うん、思いの外ちゃんと焼けた。
身もしっとりしていて脂もジューシーだし、これは美味しいとサクラと共に夢中で食べていると、階段から足音が聞こえてきた。
「すげー良い匂いなんだけど」
「ヨーナも食べる? 美味しいよ」
「飯食ったばっかなんだけど……まぁ、いいか、貰う」
うんうん、この美味しさは食べないと勿体ないからね。残りもので悪いけど、そこはヨーナも特に気にしないから有り難い。
「今からどうする?」
「もう夜だしな、どうせなら遠くへ行くか? 今度は南」
「悪いけど、今夜は独りで行動させてもらいますわ。二人とも外見が変わったのに、私だけこのままって言うのも嫌だもの」
「なんか当てでもあんのか?」
「無いけど、色々やってみますわ」
んーそっか。いきなりの別行動はちょっと残念だけど、まさかサクラが私の考えた通りの行動を自ら起こすとは思わなかったよ。
そのままログハウスを出て行くサクラの背中を眺めながら、内心では満面の笑みを浮かべてしまう。
さぁて、どんな姿に変わるか楽しみだ!
「私達はどーするよ?」
「んーと、ゴールデンゴーレム行っちゃう?」
なんていうか、困ったときのゴーレム狩りになりそうな予感。
そんな軽いノリでダンジョンへ向かう前に、草原に今回テイムした三頭を放つのを忘れない。
あぁ、ジープの毛に纏わりつく狼と狐の姿にはとても癒される。
たしか、メニューの中にカメラがあった筈、忘れずに撮っとこう。あと、二頭の餌として帰りにお肉でも買った方がいいかな?
「これ、攻撃通るとか言う話じゃねーよ!」
そう叫ぶヨーナはとても必死そうだった。
ゴールデンゴーレムの攻撃は自身をコマのように回しながらの突撃で、魔法を放とうにも移動速度も速く逃げるので精一杯。
そんな回転をものともしないきなんだもちが凄すぎるよ。このドリル、私も使いたいし、腕に装備できるようになったりしないかな?
その後ももう一戦してみたけど、ヨーナが果敢に大剣を振るうも弾き飛ばされ壁に激突。HPが半減した為おとなしく帰ることに。
あ、因みに残ったゴールデンゴーレムは、ちゃんときなんだもちが後始末しました。
でも、もう少し攻撃力があれば、ヨーナでもいける気がする。
そう告げてみたら調子に乗ったのか、帰り道では翼があるから、とヨーナが飛行に挑戦。
ちゃんと飛べてはいたけど、パンツはバッチリ見えてたよ。面白かったからこれは言わなかったけどさ、そこまで再現されてるんだね。
そんな微笑ましい飛行を見守りつつ馬を走らせ、ログハウスに着くと三頭が近寄ってきた。
あぁもう、可愛いなぁ。奮発して買った高級肉をたんとおたべ?
そうデレデレと言いながら目の前に肉を置いてみると、皆仲良く頭を並べて食べ始めた。羊さんも例外なく。
どうやら、モンスターには肉食も草食も関係ないみたいだね。
それを眺めているだけで私は十分なんだけど、それだとヨーナが暇になるので、モンスター観察は独りの時にやることにして、今は二人でテレビゲーム大会といたしますか。
ヨーナが事前に購入していた、格闘ゲームをやりまくりなのです!
「何でお前弱攻撃しかやんねーの?」
「弱攻撃最強説ってあると思う」
しかし、弱い私の苦肉の策は、ヨーナに呆れられてしまうだけだった。
そんな相手じゃヨーナも楽しめる訳がなく、どうせやるなら三人で、と言うことで今日は解散。
この悔しい気持ちは、明日のサクラの姿で晴らすとしますか。