過去からの手紙
新年を新しく迎えた僕は、また一つ歳をとることにため息をついた。
あれから数年…あの事件からはずっと逃げてきた。けれども事あるごとに昔の自分を思い出す。
そう、その事件とは……こうだ。
子供の頃、ずっと仲が良かった友達がいた。
その友達がちょっとしたことからいじめられるようになり、ずっと悩んでいたのだ。
だけど当時の僕は何を言ってあげたらいいのかわからなかったし、変に関わり合いになるのが怖かった。
そのままその子は親の事情で転校して行ったと記憶しているが、会うことはなかった。
同窓会にも出てくることもなく、皆忘れていた。
そんなある日、僕の所に見知らぬ宛先からの手紙が届いた。
手紙の主はその子だった。
名前だけははっきりと覚えていた。
見ると県外になっていた。
そこに住んでるんだと頷きながら封筒を開けた。そこには新聞の切り抜きで書かれた手紙が入っていた。
【恨みは忘れない。】
「な、何だよ。僕は何もしてないじゃないか。何で僕の所に?他の奴らのところにも届いているのか?」
慌てて手帳を取り出すと懐かしいクラスメイトに電話をかけた。
出たのは母親で、当人は今はいないと言う。
何でもその子に手紙が届いた後に真っ青な顔をして何処かへ出かけたと言うのだ。
一体どこへ?
手紙とは?
母親に聞いてみたが、本人しか見ていないと言う。ならわからないか…。
焦る僕は、他の奴らにも電話をかけた。
繋がった奴らもいたが、今の時間は昼間なのでそれぞれが仕事等している場合が多い。
仕方がないので伝言だけ頼むときるという場合が多かった。
後から何人かの電話を待ち、順番に聞いてはみたが、郵便ポストを確認していない奴らがほとんどだった。
直ぐに行くように話し、電話をいったんきる。そして少ししてから電話をかけると震える声が帰ってくる場合が多かった。
そいつらは皆いじめていた奴らばかりだ。
本人達はすっかりとそのことを忘れていた。
「なぁ〜、お前、仲よかったよな〜?なのにお前のところにもくるってどういう事だ?お前も何かしたのか?」「バカ言え!何にもできなかったよ。黙って見てるしか…だから恨んでるのかもしれないだろ?」「なら何でだ?何で今頃になって…。」「そう、そうなんだよ。それがわからないから困ってるんだよ。あいつ転校してからの事何か知らないか?」「おま…転校したと思ってるのか?」「ああ、違うのか?」そう問いかけるとクラスメイトだった友達は黙り込んでしまった。
「…したよ。」
「??」「自殺したんだよ!そいつ。自宅で首吊って。」「そっ、そんな事聞いてないよ。ほんとか?」「あったりまえだろ?そんな事で嘘ついて何か徳でもあるのかよ。」
学校で聞いたのとは違っていた。確かに転校と聞いた気がしていたのだ。学校が隠蔽したのか?でも何で?
当時の校長はもういない。
2年前に亡くなったのだ。
心臓発作らしいとしかわからない。
当時の担任は今は別の学校の教頭をやっているらしい。ならその先生に聞けば何かわかるかもしれない。そう思った僕は連絡先がわからなかったので、片っ端からクラスメイトだった奴らに聞いてみることにした。
問題ばかりやっていた奴らの中の一人が知っていた。
当時、携帯を拾ったやつがたまたま中を見てわかったらしい。変わってなければ同じままだ。
直ぐに電話をかけてみた。
すると変わらない先生の声が聞こえてきた。
僕は直ぐに先生に話を聞いてみることにした。
「先生、覚えてませんか?10年前の事を。転校した子がいませんでしたか?僕らのクラスの子なんですが。」
「いや、覚えてないな。」そう言いながらも声が震えている感じがする。気のせいか?
「直接会ってもらえませんか?」「いや、私は忙しいからな。難しいよ。」「そう…ですか…。」
何かを隠している気がしたが、それ以上は聞くことができなかった。
しかしどうしても気になって仕方がなかった。そこで待つのもなんだからと仕事を早退して目的の学校まで急いだ。職員室はすぐにわかり、先生の名を出してどこにいるか聞くと指差す方に先生はいた。
先生は始め僕が誰だかわからなかったようだが、電話の件を話すと慌てて僕の服を引っ張り教頭室へと連れてかれた。
「困るよ。ここまで来られても私は何も知らないんだ。」「それはおかしいですね〜。担任だったのに知らないなんて…。」「担任だからってなんでも知ってるわけではないよ。知らない事もある。」「へぇ〜、じゃあこれはどう見ますか?」
そう言って僕のもとに来た手紙を先生に見せた。するとガタッと音がした。先生がフラついたようだ。
「先生、大丈夫ですか?」「ああ、大丈夫だ。これは警告か、予告か。警察に相談した方がいいと思うよ。」「でもこれだけで警察は動いてはくれませんよ。もっと何かなければ。」「そ、そうだな。その子の家は知ってるのかい?」「いえ、ただ住所は載っていたのでわかるかもしれません。」「なら行ってみなさい。そしたら何かわかるかもしれないよ?」
そう言われ、僕は一人では心細かったので何人か連れて休みにでも行ってみることになった。その住所は県外なので携帯ナビを使いながら歩く事に。
皆と会うのは久しぶりだったので話も尽きることはなく、わきあいあいと話しながら探していた。しばらく歩いたが、どうもわからない。仕方がないので近くの住人に聞いてみる事にした。
この時間なかなか外を歩いている人はいなかったが、たまたま散歩していた中年の男性に出会った。駄目元で聞いてみたら、その住所には以前は人が住んでいたが今は空き家になってると言われた。
とりあえず行ってみたいと行って場所を聞いたらここから近くの場所だとわかった。
「どうなってる?空き家?でも消印もここからだし…。」「とりあえず行ってみようぜ。何かわかるかもしれないしさ。」「ああ。」
僕はそううなづいたが、嫌な感じがしてならなかった。
引っ越したなら今はどこに?
それを知っている人はいるのか?
近くの家を聞き込みして分かった事は10年くらい前には確かに家族連れがいたらしいという事。子供はどういう理由かはわからないが亡くなった事を聞かされた。
なん年前かも覚えてはいないようだ。
その後、両親は家を売り払って何処かに引っ越して行ったという事くらい。他に知る人はいなかった。
「じゃあ何か?そいつの両親が送ってきたとか?」「何の為に?」「そいつが亡くなったのが俺らのせいかもしれないからだろ。」「お前らそいつにどれだけ悪いことやったきたんだよ。」「あ、ああ。いろいろやったな。みんなの前でズボンを下ろしたり、ノートに落書き書いたり…いろいろ、な。」「そりゃ怒るわ。僕だって怒るよ。」「だがあいつは何も言い返しては来なかったからな〜。俺らが怖かったんじゃね?」「それだとしたって両親には話くらいするんじゃね?」「あ、ああ、そうだな。そうかもしれない。だとしたら送り主は両親とか?」「まっさかぁ〜、俺らのこと知らないはずだよ?前にあった時に懐かしそうにしてたし…。」「でもよー、俺らの知らない何かがあったのかもしれないぜ?俺らと会ってからとか…。」「何かってなんだよ。遺書は無かったはずだぜ。」「遺書じゃなくて日記だったりして…。」「それ、…ありえるかも。とにかく行こうぜ!」
そう言いながら目的の場所についた。
みた感じボロくは無かった。
まだ誰か住んでいてもおかしくないだろう…。
チャイムを鳴らしてみたが誰も出ない。やはりさっき聞いた引っ越したという話は本当らしい。ならどこへ?知らないはずがない。きっと誰か知っているはず。そう思い、近所を聞いて回った。
ヒットしたのは30分位たってから。
少し離れた家の女の人が引っ越し先を聞いていた。
僕らは何とか説得して住所を聞き出すことができたが、意外なことに僕らが住んでいる町が引っ越し先だったことに驚いた。
お礼を言ってその場を後にした。
すぐに自分らの町へ戻り、目的の住所に向かったが、お世辞にも綺麗とはいえそうも無かった。庭は雑草が生え放題。手入れをしていないのがわかる。
表札は…出ていない。本当にこの家か?
不安はよぎったが、意を決してチャイムを鳴らす。ピンポーン。
誰もいないのか足跡一つ聞こえてこない。
不安はあった。
が、とにかく場所はわかった。
今後どうするかは後日改めてということでその場で解散となった。
皆喋りながらその場を離れて行く。
その日の夜、一本の電話がなった。
友人の一人が行方不明になったと慌てた仲間の一人からの電話だ。
その友人は一番のいじめっ子だった子だ。
今は真面目に働いているようだが…。
僕らは夜にもかかわらず、また集まっていた。亡くなった同級生の両親の住んでいる場所へ急いだ。何か胸騒ぎがした。
その予感は的中することに。
友人は玄関先で生き絶えていた。
真っ青な顔をして…。
慌てた僕らは狼狽えたが仲間の1人が警察を呼んだ。
つくのに10分ほどかかっただろうか、それでも僕らには早く感じた。
遺体は監視の為運ばれていった。
まずどうしてここにきたのかを聞かれた。
僕らは今までの事をかいつまんで話して聞かせた。
「ということは何か?ここの住人が怪しいと思ったからここにきたと。本当か?」「本当ですよ。僕らはここにきたのは今日が初めてだし。あいつもここにはきた事ないはずだ。」「う〜ん。ならその話していた封筒と紙は君達の自宅にあると。」「はい。あります。捨ててませんから。なぁ?」「ああ、捨てません。」「じゃあ後で署まで持ってきてくれるか?」「あっ、はい。」
警官との話が終わり、僕らは解散となった。
警官は亡くなった男性がいた玄関からチャイムを鳴らし、住人に確認するところだった。
さっきまでは誰もいない感じがしていたが、住人は出てきた。
年配の男性だ。
「ここに住んでいるのはあなた一人ですか?」「はい。そうです。」「奥さんは?」「家内は入院してまして…。」「そうでしたか。では聞きますが、この男性に見覚えはありますか?」そう言って差し出した写真は亡くなった友人の映ったものだった。
「知りません。」「そうですか?友人の話によるとここへはある目的を持って来ていたようですが…。」「知りません。」「奥さんはいつから入院を?」「かれこれ2年になります。」「そうですか。お宅にはお子さんが見えたはずですが…。」「はい。以前はいましたが、10年前に亡くなりました。自殺です。」「遺書とかはあったのですか?」「いいえ、特には何も…。ただ、日記らしきノートは見つかりました。NやS、TとFとかに虐められて耐えられないと書かれてました。それが誰なのかはわかりませんが…。」「そのノートお借りしてもいいですか?今回の事件と関係があるかもしれませんから。」「あっ、はい。どうぞ。」
男性は近くのタンスの中からノートを一冊取り出して持って来てくれた。
確かに頭文字しか書かれていないので誰かを特定するには時間がかかるかもしれない。
少し離れたところからやりとりを見ていた僕らはかたまって喋っているふりをしていたが、警官がその場を離れると僕らも離れた。
その場で解散し、自宅へと足を急がせた。証拠の封筒を取りに行く為に。
確認して警察署へと持って行ったが、他の奴らはまだのようだ。
待ってみる事にした。
しばらくすると4人、手紙を手に持って現れた。「なぁ〜、俺らも事情聴取っての受けないといけないのか?だとしたら昔の事…話さないといけないよな。」「いや、クラスメイトだったことは話してもいいけど他の事はなるべく言わないほうがいいと思うぞ?」「何でだよ。」「ったりまえだろ?自殺の原因が俺らかもしれないってバレたら今の仕事なくなるかもしれないんだぞ?お前らいいのか?」「それは…困る。」「だろ?だからさ。」「分かったよ。」「じゃあ、行くか?」
僕達は警察署内へと足を踏み入れた。
皆それぞれ同じ新聞で切り取られたものだった。大きさはバラバラだが全く一緒だ。
「この新聞はこの地方だけで販売しているもののようですね。だとすると…。」「何なんですか?」「君達の知り合いで君達に恨みを持ってる人はいないかい?全員にだよ。」「さっ、さあ〜?」「よく…分かりません。」「つるむ奴はいつも一緒だったからな。」「そうですか…ならあなた方の名前をお聞きしてもいいですか?」「はい。」そう答えて皆、自分たちの名前を言った。
警察官はどうやら僕らを疑っているようだ。
何故?って?それはそうだ。いじめていた子の頭文字が一致したからだ。他にも一致しているやつも何人かはいるが、直接関係しているのは僕らしかいないとすぐに分かったようだ。
だが何も言ってこなかった。何故だ?
あれこれ考えてもラチがあかないのでその場で皆解散した。
それから数日後、また事件が。
仲間の1人が変死体で発見されたからだ。
驚いた顔をして怯えも見て取れる。警察官は僕らにはそのことを伏せて1人づつ聞いて見ることにしたようだ。
仲間が順番に部屋へ通されて何時間か部屋から出てこなかった。最後に僕の番だ。
僕はいじめていた側ではないので名前は合わなかったようだ。簡単に聞かれてすぐに解放された。
これで亡くなったのはいじめていた2人になる。あと残り2人だ。2人は怯えてしまい、外出も避けているようだった。電話には出るが怯えた声が電話越しに聞こえてくる。
「なぁ〜、俺ら大丈夫なのか?亡くなった2人みたいに死ぬのか?」「そんなわけ…。」「怖いんだよ。恐怖で死んでくのは怖いんだ。」「ならさ、塩盛っとけ。部屋の四隅だぞ。」「それでどうにかなるのか?」「わからないがやらないよりはいい。」「ああ、分かった。すぐするよ。」
電話に出た友人たちはそれぞれ部屋の四隅に盛り塩をした。僕は神社に行ってお肌を人数分買ってきてみんなに渡した。
「いいか?肌身離さずだぞ?」「ああ、分かった。」
皆真剣だ。
部屋にいる間は何事もなく普通に生活できたが、一歩外に出ると誰かに見られてる感がハンパないと言っていた。なのですぐに部屋に戻ってしまい…親にも話はできていない。
しかしどうしても部屋から出なくてはならない時があった。
そう、トイレに行く時だ。
こればかりは何ともならない。なので、部屋中の四隅に盛り塩をして親に怒られたと言っていたな。
僕は包み隠さず本当の事を言った方がいいと思うようになったのは僕自身も体験したからだ。恐怖というものを…。
それは…。
今目の前に子供の頃の僕と同じ位の男の子が立っている。そう、仲が良かった子だ。いじめられるまでの間だが。
その子の顔は無表情で…でも笑っていた。口元だけだが。
それがかえって不気味さを増長させた。
その子が徐々に近づいてくるのだ。フワフワと浮いてる感じがして足元を見て見たら確かに宙を浮いていた。
そしてガシッと僕の首に両手を。
首を締めてきたのだ。
「許さない!許さない!」と言いながら。
僕は必死になって手を振りほどこうとしたがとても子供の力とは言えないほどの力で僕の首を締めてくる。頭の中で何度も謝った。謝り続けながら何とか両手を振りほどいて僕はその場から走って逃げる。
その事を友人に話して聞かせることができたのでしたのだが、逆に友人を怖がらせることになるなんて思わなかった。 その後友人2人にも不可解なことが起き、友人を問い詰めたが、2人とも黙ったままだった。
僕は自殺した子の父親を見張ることにした。何かありそうな気がしたのだ。
深夜、自宅から出てきた男性は歩いてどこかに行こうとしている。
乗り物を使われなかっただけありがたい。
ついてくと何処かの神社に着いた。
そして木々の中を歩いて行き、手に持っていた袋から何かを取り出した。
そして、コーンコーンと音が鳴り始めた。
何かを打ち付けているようだ。木を回り込んで行くと何かを打ち付けているのが分かった。人形だ。
「よくも私の息子を。返せ〜!10年の時間を返せ〜!」
鬼のような形相で呪っていたのだ。
2人が死んだのはもしかして?
僕の頭を一瞬よぎった。
ありえなくない。
怖くなった僕は音を立てないようにそっとその場から逃げ出した。
僕は自分のことしか頭になかった。
しかし、立て続けに残りの友人2人にも不可解なことが起こった。
1人は原因不明の高熱が。もう1人は事故に。
高熱を出している友人は意識が朦朧としている。事故にあった友人は重傷だ。
警察は何をしているのかとイライラしたが、話してしまったらどうなるかが怖くて喋ることができない。日々がビクビクの連続だ。
そんなある日自体は進展した。
男性が警察に自首したのだ。
2人を殺したと。
殺害に使った凶器を手にしていた。
他の2人は呪いをかけたという。
話を聞いた警官は同情はしたがそれだけだ。
殺人は殺人。
逮捕された。
なぜ今になってそんなことをしたのかと問い詰めるとこう答えたそうだ。
「妻が…亡くなったから。気にする人もいない。」と。
悲しい事件だ。
元を辿れば10年前の子供の自殺が始まりなのだ。それさえ無ければもっと違ったかもしれない。
僕は自首した男性の元へ足を運んだ。そして全てを話したのだ。
男性は泣き出していた。
そして「ありがとう。話してくれて。」そう一言だけ言って僕の目の前から去って行った。
僕は今亡くなった友達のお墓に来ている。友人のぶんもお祈りして来た。
その後僕は怖い思いをする事はなくなり、友人達も意識を取り戻した。
亡くなった2人には墓前で話して聞かせた。
今は気持ちは落ち着いている。