目蓋の裏の幻は
閲覧ありがとうございます。
目蓋の裏の幻は、いつも俺を苦しめる。
原田は笑っていて、俺はそれを見ているだけで。
だけどそれで満足だった。
それだけで、もう良かった。
目覚ましより早く起きて、薄いカーテンの隙間から洩れる朝日に目をつむる。
上体を起こして、ゆっくりと膝を抱えた。
心が弱っていると、いつも同じ夢を見る。
楓が並ぶ通学路。高校の時に好意を抱いていた原田が、振り返って微笑む。
それだけ。
ただそれだけなのに、目を覚ました時に酷い虚無感に襲われる。
声を掛けていれば良かった。
ただおはようと言うだけで良かった。
少しの繋がりで良かったのに、それすら怖くて出来なかった。
思い出が、幻になって。
歳を重ねた俺の心は、その幻を漂わせて苦しめる。