アンリミテッドスピード(その4)
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4月1日午後1時15分、草加市内のショップ前である人物が撃った一発のビーム――それが、全てにおいて悲しみの連鎖を生み出す展開を繰り返すきっかけとなる物だったのは間違いない。
今回の行動がきっかけで――音楽業界が同人音楽とアニメソング、音楽ゲーム楽曲だけとなり、超有名アイドルやビジュアル系が一気に衰退する――。
そのアカシックレコードに書かれていた記述が予言ではなく、現実の物に――という状態になっていた。
【これは、まとめサイト勢に書かれるな】
【ここまで来たのに、また金もうけしか考えていないような連中にタダ乗りされるのか】
【歴史は繰り返されるのか――超有名アイドルを神信仰する歪んだ一握りのアイドル投資家に】
【歴史は繰り返させない!】
【超有名アイドルは、国民的長寿番組の様な存在じゃない! 始まりがあれば――必ず終わりは来る!】
【超有名アイドルの暴挙は――政治や一部の投資家ファンが作りだしたコンテンツバブルに過ぎない】
【何としても終わらせるのだ! アイドルオタクの暴走としてマスコミが処理する前に!】
【超有名アイドル投資家のようなコンテンツを競馬や株式投資等と同類と思っている連中に――悪用させない!】
【おそらく、阿賀野菜月が訴えようとしたのは、コンテンツを犯罪に転用しようと言う勢力を一掃しようと言う事だったのだ】
つぶやきサイトには超有名アイドルが歴史を繰り返すと悲観的なコメントをする一方で、あがき続けようと言う勢力のコメントも存在した。
しかし、アイドル投資家やまとめサイト管理人としては超有名アイドルを神コンテンツにする為に、事実を捻じ曲げる可能性は非常に高い。
エクスシアの正体、それはARの映像部分がじょじょに消滅していくにつれて、明らかになっていく。
「まさか――」
佐倉提督は彼女の顔に見覚えがあった。黒髪のショートヘアにメガネ――身長も189と190に近い。
「そう言う事だったのね――佐倉提督。孔明と言うべきかしら?」
どうやら、向こうも佐倉提督の正体を把握済みらしい。かつて、佐倉提督は孔明と名乗って別勢力のスパイをやっていた事もあるのだが――。
「桜崎未央――」
エクスシアの正体、彼女の名は桜崎未央という。
「まさか、あの時の孔明が提督になっているとは予想外だったけど――」
桜崎の方は孔明が佐倉提督になった事情に関しては完全に把握していない。ただ、司法取引があったらしいという事だけは風の噂で聞いた。
「この状況をどうするつもりだ? まとめサイトで一山儲けようと言う勢力が事実を歪め、炎上するように仕向けるのは目に見えているだろう」
佐倉提督は桜崎の方に意思はなくても、今回の一件に関しては許せない部分があった。仮に、同名別人のエクスシアが仕込みを行ったとしても――の話である。
「無実を訴えようとしても、この状況はまとめサイト勢や炎上勢力にとっても都合がよすぎる! どう考えても、超有名アイドルを神コンテンツに押し上げて世界支配を考える人物が出てもおかしくはない!」
桜崎は、近くにあったガジェットコンテナにパスワードとIDを入力し、何かを取り出そうと考えている。
午後1時16分、一歩間違えれば一色即発――それは桜崎と佐倉提督の2人。
なお、エクスシアのガジェットは先ほどの損傷で起動しない為、スペアのアサルトライフル型ガジェットに持ち替えていた。
このアサルトライフルはバックパックに収納していた物であり、ガジェットコンテナから取り出した物ではない。
どうやら、ガジェットコンテナからガジェットを取り出すにしてもタイムラグがあるようだ。
「エクスシア! お前も榛名・ヴァルキリーと同じと言う事であれば――」
佐倉提督の方が先に仕掛けてきた。所持している武器は先ほどのビームサーベルではなく、ビームボウガンと言うべき武器とシールドビット、それにボロボロのマントの下には防弾型装甲のアーマーが見える。
「榛名の真意を――目先のまとめサイトだけで物事を判断するような勢力に!」
桜崎は腰のベルトに付けていた予備のフラッシュグレネードを投げつける。これは先ほどのARウェポン消滅の影響は受けておらず、そのまま使用出来た。
フラッシュグレネードの閃光はCG演出的な物と思い、佐倉提督は眼帯を外すのだが――それでも光の方は残っている。
光の強さがかなり高めにカスタマイズされたグレネードと言う可能性もあるが、それ以上に考えられたのはアキバガーディアン等が所持していたグレネードだった。
「まさか、ガチの対暴徒用フラッシュグレネード――!?」
佐倉提督が怯んだ隙に、桜崎はガジェットコンテナから射出された中型ARガジェットをハイスピードで装着し、その勢いでチェーンソーブレードを佐倉提督に突きつけた。
「勝負あったわね――」
桜崎が装着しているのは、ARロボットゲームで使用する人型パワードアーマーと言っても差し支えのない――下手をすれば軍事転用を行えそうな威力を持ったガジェットである。
実際は花江提督が使用しているランニングガジェットの改良版だが――それをARデュエルやロボットバトルに使用可能な仕様にしたカスタマイズ型。
しかも、これでも量産型ガジェットであり、ワンオフの様な種類ではない。これほどの軍事転用できそうなガジェットを隠し持っていた遊戯都市奏歌を――サバイバー運営は警戒していたのかもしれない。
「まだだ! まだ、敗北は認めたくない!」
佐倉提督は、その場の勢いでビームボウガンを連射する。しかし、桜崎の展開したバリアによって攻撃は無効化された。
ビームボウガンが無効化された直後、今度はビームサーベルをブーメランのように投げつけるのだが、それも弾き飛ばされて佐倉提督の手元に戻ってしまう。
「敗北とは――超有名アイドル勢力に降伏すると言う事――」
桜崎は周囲の便乗勢力が襲いかかってきた事で、ターゲットを変更した。そのターゲットとは、夢小説勢やビジュアルバンドの夢小説勢等である。
しかし、これらの勢力は実際には超有名アイドルファンがCDランキングの為に購入するCD台を確保する為のバイト――つまり、にわかファンだった。
「まとめサイトで強化人間を量産するだけでなく、にわかファンを自前で用意して炎上させようとするとは――超有名アイドルファンは、ここまで落ちたか!!」
この状況を見た佐倉提督は、完全に切れたと言っても過言ではない。隠していたビームザンバーを展開し、周囲のにわかファンを一掃する。
その所要時間は――わずか10秒弱。ザンバーの一振りだけで周囲の敵を全て気絶させたのである。
「これがスポーツチャンバラの様な物でなければ――既に命はなかっただろうな。ARゲームがデスゲームの類を禁止していた事に感謝するべきか」
その後、佐倉提督は別の場所へと向かった。桜崎の方は、気になる事があったのでシティフィールドのスタート地点へ向かおうとする。




