アンリミテッドスピード(その2.5)
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4月1日午後1時12分、次々とスタートラインに準備を終えたプレイヤーがスタンバイを始めている。
「想い――」
右手を見つめていたのは蒼空ナズナ、こちらは既に準備も完了済。その一方で、他のプレイヤーは準備に戸惑っているようにも思える。
結局、有名所のプレイヤーは大和アスナのみで、他に名前の知れているプレイヤーはいない。
それでもレベルとしては平均でも8~12という上級クラスが揃っているが、その中で一番異色なのが蒼空のレベルだ。
「レベル平均を踏まえると、一番最弱は5番のプレイヤーか。確か、6ギリギリか」
「黒いガジェットは見かけ倒しと言う法則がある。テンプレ乙で終わるだろう」
「遊戯都市奏歌は異世界だったり、ましてや近未来都市とも違う。ARゲームを町おこしにしている一都市にすぎない」
「7や8もいるが、平均レベルを下げているのは彼で間違いないだろうな」
「大和のレベルが10だったような。一番レベルが高いので13か?」
「シティフィールドの最大レベルは15。レベル上限がそれ以上と言うゲームは、いくらでもある」
「さすがにシティフィールドでレベル100とか1000、53万のような数字を提示するような奴はいないだろう。それをやった途端、チートとスタッフに言及されるはずだ」
蒼空のレベルは大和とギリギリマッチングできるであろうレベル――と考えるのは、周辺のギャラリー。実際は、違う理由もあるらしいが。
結局、この上級クラスが固まるマッチングでプレイしようと言う挑戦者もいたが、10人には届かなかった。
「仕方がありません。これ以上待っていても、他のレースが遅れる影響も否定できない以上、ここでエントリーを――」
スタッフがエントリー打ち切りを宣言しようとした矢先、ある1人のプレイヤーが待ったをかける。
「これを――」
彼女がスタッフに見せたのは、ARゲーム用のライセンスである。ライセンスと言っても電子ライセンスであり、ARガジェットに表示された物だ。
本来、遊戯都市奏歌では提示義務もなければ、ARガジェットを使用するのにもライセンスが必須と言う訳ではない。
ただし、一部ジャンルはライセンスの提示義務がある。その癖が彼女にはあったのかもしれない。
「ライセンスは確認しましたが――レベルが規定より低いので、レースへのエントリーは――」
「それでも構わない! このARライセンスはARゲーム全般で使用可能な物だ。このライセンスがある以上、拒否権はチートのブラックリストに登録されていない限り――」
「しかし、ガジェットのチェックが――」
「それは不要よ。既に別のレースで審査済に加えて、該当レースからカスタマイズも行っていない」
彼女がチェック不要と言うので、一応は信用するスタッフ。その一方で、彼女が提示したARライセンスは本物である事も確認されたので、それを信じていると言うが。
午後1時14分、8番目のスタートポジションについた人物、その外見はかつて何処かで見た事あるようなデザインをしているガジェット――。
それに加え、一部装備は差し替えられているが、メット部分や一部アーマーが同じなので、おそらくは――。
「阿賀野菜月――サバイバー事件を起こした張本人が、何故?」
彼女の出現に反応を示したのは大和が先だった。阿賀野菜月、現在は花江提督を初めとしたパルクール・サバイバーの運営スタッフでもある。
『戦争はデスゲーム、核兵器はチートも同然。だからこそ、日本はデスゲームを否定し続けなくてはいけない!』
かつて、阿賀野は戦争をデスゲーム、核兵器の存在をチートとまで言い切っていた。
そして、日本はMMORPG等で見られるようなデスゲームを否定し、本当の意味でも平和を勝ち取らなければならないとも言及した事がある。
それを根本から歪めている存在、それがまとめサイト勢と手を組んだ芸能事務所――超有名アイドルとも言っていた。
どう考えても、阿賀野の言う事は『理不尽暴力ヒロイン』とも例えられたが、その一言では片付けることは不可能である――というのは、後のサバイバー事件後にまとめられていたサイトで言及された事だが。
大和は阿賀野を見つめたまま、動こうとしない。厳密にはスタートラインから動かないと言うべきか。
「大和アスナ――あなたも、榛名・ヴァルキリーの偽アキバガーディアンを見破っていた」
「!!」
図星である。大和は、既に榛名・ヴァルキリーが行おうとしていたとされる事も把握済みだった。
阿賀野の方も調べていく内に榛名の行う事に疑問を持ち始め、花江提督達とは別路線から情報を仕入れていたのだが――。
「それに、貴女の正体は夢小説やBL勢力とは違うにしても、別勢力の提督――」
「それ以上は言うな!」
大和は阿賀野が言おうとしていた事を全力で止めようと、つい叫んでしまった。
「それは今のレースには関係ないことだ。違うか?」
大和の言う事も一理あると考えた阿賀野は、これ以上の言及を止めた。




