本当の意味での黒船(その3)
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4月1日午後1時、榛名・ヴァルキリーとビスマルクのレース関連の熱狂が冷めない中、あるニュースが話題になっていた。
【芸能事務所から裏金を受け取っていたつぶやきユーザーが逮捕】
【超有名アイドルグループAとBの広告塔となっていた番組を打ち切り】
【超有名アイドルグループAに与党政治家との癒着疑惑。プロデューサーの政治進出を狙ってか?】
【超有名アイドルグループA及びアイドル芸能事務所に関して、海外でも黒い噂?】
【全世界を支配するというのは被害妄想ではなかった?】
【複数のつぶやきBOTを悪用し、超有名アイドル以外のコンテンツを潰そうと画策していたアイドル投資家を逮捕】
これらのニュースは、全てまとめサイトに載っていた物なのだが、その一部が虚構ニュースを扱うサイトからの転載だった。
こうしたニュースを見極める事が出来ず、RT数稼ぎや悪目立ち等を理由につぶやきユーザーが利用され、別コンテンツ潰しに利用される。
最終的には、こうしたニュースが超有名アイドルの人気上昇に利用されている。超有名アイドルが国家予算並みの利益をあげ、それこそコンテンツ業界の賢者の石と呼ばれるほどに。
こうしたニュースが話題となる事は、超有名アイドルにとっても風評被害なのではないか……と思う声もあるのは事実である。
しかし、逆に超有名アイドル側は『別コンテンツ勢が流した虚偽情報』と拡散し、それをまとめサイトやつぶやきBOT等が炎上するような記事にするのだ。
結論から言うと、超有名アイドルは国家予算以上の利益を上げているので正義、他のコンテンツは赤字ばかりを生み出すので悪と言う結論になり、これが悲しみの連鎖を生み出す事になる。
コンテンツ戦争とも言われるようなこの状態を、アキバガーディアンは黙って見過ごすわけにはいかなかった。超有名アイドルでは海外のコンテンツとは戦えない。わずかな投資家だけがコンテンツを消費するのではなく、アイドル人気を拡散する為だけに投資する――こうしたコンテンツ消費は大きな間違いと考えているからだ。
【超有名アイドルは日本の国債を全て焼却した英雄である】
【超有名アイドル以外のコンテンツは炎上させて、即刻退場させるべきだ】
【日本はアイドル国家、それも超有名アイドル勢力のアイドルアイランドである】
【国際スポーツ競技には超有名アイドルを開会式や閉会式を含め、ありとあらゆるところに目立たせて、超有名アイドル投資をアピールさせる】
【超有名アイドル以外のファンは――】
拡散されるつぶやきには、かなりの過激な発言も目立っていた。ただし、これらは他のコンテンツ勢力を炎上させる為のブービートラップでもある。
これらのトラップを踏んだ勢力から警察に通報して一斉検挙、それこそエクスシアが超有名アイドルを物理的に炎上阻止したような事と同じ事を行おうとしたのだ。
【日本は超有名アイドル国家である。世界を救うのは超有名アイドル以外に他ない】
まるで、ある24時間放送されている番組の宣伝に利用されそうなつぶやきである。
こうした発言は超有名アイドルファンが発信した物ではない、という扱いにされ、芸能事務所がつぶやいた人物に対して訴訟を起こす事も計算済み。
しかし、こうした炎上騒動を『コンテンツ災害』と認定し、レスキューを行う勢力がいた。
「本格的な作戦開始だ――」
花江提督を初めとしたパルクール・サバイバー運営である。今はガーディアンを含めて統合され、パルクール・サバイバーを通じて、正しいコンテンツ流通を訴える。
彼らの行動は、決してほめられた手段ではないだろう。事実、超有名アイドルコンテンツを完全駆逐する為にガレス提督がARゲームを利用した事――それは消える事のない事実だ。
一連のサバイバー事変、あるいはサバイバー事件はアカシックレコードに記されており、こうした事件が超有名アイドルを有利にしてしまうという声もある。
最終的に一連の事件を起こしたであろう人物は特定され、それが八郎丸と言う名前を利用していた超有名アイドルのプロデューサーである事も判明した。
この人物が逮捕されたのは事実だが、このニュースが広まる事はなかった。1京を稼ぎ出すとも言われるような人物が、コンテンツ業界に対して重大な犯罪を起こすとはあり得ないと考えていたからである。
その為か、この事実がニュースとして報道される事は一切なく、知っていたとしてもサバイバー運営や遊戯都市奏歌のごく一部に限られた。
花江提督達がどのようにして犯人を特定したのか、その詳細は全て非公開扱いにされた。この詳細が判明すれば、第4の壁の向こうでも同じような犯罪に悪用されると運営側が判断した為だろう。
「この作戦詳細が流出すれば、リアル世界の超有名アイドルにも転用出来てしまう。ARガジェットを大量破壊兵器に応用されるのと同じく、あってはならない事案かもしれない」
花江提督は、サバイバー事件で起きた事の反省を生かす形で、今回の非公開を決めたのだと言う。どのような方法で犯人の有名プロデューサーを追い詰めたのか――それは現状では明らかにされない可能性がある。