榛名対ビスマルク(その6.1)
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4月1日午前11時51分、ノイズが消えたARバイザーから見た光景、それは想像を絶するような光景だった。
「一体、何があったのか?」
「バイザーを外しても何も見える事はなかったが――」
「超高速なんてチャチな物ではない。瞬間移動の技術でさえ、発展途上だと言う世界で――こんな事があるのか?」
「バイザーがノイズで見えなくなって、外してみたら何も映らないって――」
「新幹線クラスのスピードならば、衝撃も半端ではないはずだが」
「一体、どんなトリックを?」
周囲のギャラリーでさえ、目の前の光景を目撃出来た者は皆無である。
基本的にARゲームの映像を見る為にはARメガネに該当するようなアイテムが必須であり、それを装着しないと雰囲気的にも色々と台無しだ。
監視カメラ等にはAR認識システムが内蔵されていない機種もある為、下手に事件を起こそうとすると少し情けない姿が警備会社等に目撃される事となる。
「これは、まさか――?」
ビスマルクもバイザー経由で表示されている映像に関して、疑問を持たざるを得なかった。
それは先頭グループのARガジェットが跡形もなく破壊されていた光景である。ただし、破壊されたのはAR映像としての部分だけで、ガジェットその物は無事らしいが――。
ARガジェットが無事だとしても周辺事情を知らないユーザーが、破壊された光景が最初に目にした場合に『ガジェットが破壊された?』とつぶやく可能性は非常に高い。
「チートプレイヤーはせん滅する!」
目の前の人物は、突如としてビスマルクに襲い掛かってきた。持っている武器は日本刀だが、ビーム刃の物であり――厳密にはビームサーベルの方が近いかもしれない。
しかも、この黒服提督はAR映像に対応したシステムを搭載したメガネ等でないと確認できない。当然のことだが、ビスマルクは確認出来ている。
一番性質が悪いのは、このAR映像で構成された黒服提督は――ARウェポンやARガジェットには当たり判定を持つ事だ。
当然、ビスマルクは当たり判定の事実を知っている為、攻撃をかわす事に全力を注ぐ。
しかし、ギャラリーは当たり判定に関して知らないユーザーもいる為か、何故にビスマルクが攻撃を回避しているのか――その辺りの事情を知らない。
午前11時52分、ビスマルクは背後から超高速でやってくる何かに気付いた。このハイスピードなのに衝撃波などの被害がないのは、ARゲーム故の演出だろう。
『アクセス!!』
ARメットに黒ベースのインナースーツは、瞬時にして蒼のクリスタルがデザインに組み込まれたARアーマーが装着される。
アーマーの装着時間は1秒未満。他のARゲームにおけるアーマー装着時間に比べると、そのスピードは非常に速く、特撮物の変身シーンと言われても遜色ない演出も使われていた。
アーマーデザインはエクスシアに類似していると思われたが、両肩アーマーの大型ブレードや両腕のガントレット――素人目から見ても明らかに違っている。
「まさか――榛名・ヴァルキリーなのか?」
ビスマルクも驚くしかない。その正体は榛名・ヴァルキリーだったのだ。
レース前のガジェットと形状が異なるだけでなく、その装備も別物――ARゲームでも非常事態にはガジェットの交換は認められている作品もある一方で、認めていない作品もある。
この辺りは大丈夫なのか――と若干不安になっていた。
榛名がフィールドに姿を見せた次の瞬間、黒服提督はターゲットを榛名に変更する。どうやら、榛名をおびき寄せる為の罠を仕掛けていた――と言うべきか。
『お前が来るのは分かっていた――興味本位でネットを炎上させ、超有名アイドル以外のコンテンツを完全排除し――唯一神信仰、それだけでなくデウス・エクス・撒きなとして超有名アイドルを利用し続けた!』
榛名の発言を聞き、周囲のギャラリーが震えた。今まで自分がつぶやいたコメントがアフィリエイト系まとめサイトに転載され、更には超有名アイドルに批判的なコメントが別コンテンツに対してのもに書きかえられ、更には――。
そうした状況は、全て芸能事務所の超有名プロデューサーが超有名アイドルと言う名のデウス・エクス・マキナを利用して作りだした――超有名アイドルが主演を務めるリアルドラマ。
『虚構とリアルの壁を破るという意味――それを自分のアイドルを売り出す為だけの道具として利用し、ありとあらゆる事件等をビジネスチャンスとして利用し――人々に不安と恐怖を与えた事、それはコンテンツ流通を完全に妨害する事に他ならない!』
榛名の展開したARウェポン『ギャラホルン』――その形状は光の剣と言うには形状が異質であり、ハルバートとも解釈できる。変形型のARウェポンだろうか?
その一撃は黒服提督を一刀両断ではなく――完全に消滅させた。どうやら、彼の正体はプログラムで構成されたアバターだったらしい。