榛名対ビスマルク(その6)
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4月1日午前11時47分、先頭グループを追跡していたはずのビスマルクは違和感を感じていた。
何と、数百メートルは全力疾走をしたにもかかわらず――先頭グループを発見できていない。
ARバイザーのマップには、確かに先頭グループを示すマーカーは点滅しており、リタイヤはしていないはず。
仮に先頭グループがアクシデント等でリタイヤした場合、速報として情報が流れるはずだ。
自分の走行距離は既に他のメンバーよりも上で、トップなのは間違いない。しかし、それでもトップのスコアには届かない状態である。
「何時まで経っても追いつかないのは――どういう事なの」
ビスマルクは若干焦り出していた。ゴールの見えないマラソン程、焦りを感じる事はないだろう。今が、その状況とも言える。
しかし、背後には別の選手が姿を見せ始めている為、レース自体が中止になった訳でもないらしい。
それでも、先頭グループの表示が消えないと言う事は――ビスマルクにとっても焦りの象徴になっている。
午前11時50分、榛名・ヴァルキリーがガジェットの換装を行っている頃、ビスマルクはようやく先頭グループを発見した。
「見えた――先頭グループが」
ビスマルクの方も安心をしていた。ARバイザーの方でも先頭グループのマーカーを表示しており、それに自分のマーカーが接近している。
それを踏まえると、ようやく順位としても首位に並ぶ事になる――そう彼女は思っていた。
次の瞬間、ビスマルクに画像ノイズらしき物が発生する。他のメンバーには発生していないのだが、似た現象が発生していたのは――。
「まさか、お前の正体は遠藤提督――ビスマルクだと言うのか?」
その現象が発生していたのは榛名・ヴァルキリーであり、その時に少し見えた素顔を見て、シヅキ=嶺華=ウィンディーネは質問を投げた。
その外見は緑色のセミショートであり、髪型は遠藤提督と一致しないはずだが。質問に関して榛名が答える事はないと思われた。
『勘違いしないで欲しい。私の名前は榛名ハヤト――提督とは別人だ』
しかし、榛名は身の潔白を証明するかのように名前を名乗った。ただし、これが本名かどうかは判断できない。もしかすると、ハンドルネームかもしれないだろう。
それでも、現段階ではシヅキも信用する事にした。
午前11時51分、ガジェットの換装が完了した。換装と言っても、ARガジェットの換装作業は携帯電話のSIMを差し替えるレベルの単純な物だ。
これがランニングガジェットや特殊タイプのガジェットであれば、複雑化している所だったが。
『シヅキ――これだけは言っておく。超有名アイドル商法を憎いとは思った事はあっても、そう言ったビジネスがあると言う事で思い込んでいた――アカシックレコードを知るまでは』
そして、ニューガジェットに換装した榛名はアンテナショップから出ていく。周囲から車等の車両が出てこない事を確認し、左側の道路を走って行く。
「ARガジェットでも交通ルールの様な物は存在する。しかし、ルールが存在したとしても固め過ぎれば――ルールを知らずに破っていたユーザーからは不満が出る」
シヅキは、ふと以前のARゲームにみられたモラルブレイカーの一例を思い出していた。悲劇を繰り返さない為にもリスク回避方は存在するのだが、100%防げるわけではない。
結局、悲劇を繰り返さないようにするためには、ARゲームをプレイするにあたって、ルールを覚えて正しくプレイする事が重要なのかもしれないだろう。
それでもごく少数がルールを破る事で、様々な事件が発生し、更には超有名アイドルの炎上マーケティングやタダ乗りビジネス等に悪用される可能性があるだろうか。
「私が出しゃばるのもここまでだな。後は――」
シヅキが取りだしたタブレット端末には、アキバガーディアンのホームページが表示されていた。




