榛名対ビスマルク(その5.8)
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4月1日午前11時46分、榛名・ヴァルキリーのいたのはアンテナショップに併設されたピットである。
このピットに止まらざるを得なくなったのには理由があった。それは、突如として奇襲を受けた事にあるのだが――。
その1分前、午前11時45分――。
「あとはアキバガーディアンの現地組に任せていいか」
シヅキ=嶺華=ウィンディーネは八郎丸提督の拘束後、別の場所に向かおうと考えていた。
その場所とは、スナイパーが潜んでいると思われるポイントである。実際にマップを更新し、その場所をさらに絞り込もうとした矢先――。
「鈍い銃声――まさか!?」
シヅキが銃声のする方角を向くと、煙らしきものが上がっているのが見える。その場所をARバイザーのズーム機能で拡大すると、そこにいたのは思いもよらない人物――榛名・ヴァルキリーだったのである。
榛名としてはやりきれない気持ちでいっぱいだった。まさか、自分が一部の超有名アイドル投資家などからも敵視されていたとは。
その話を聞いたのは、シヅキがその場に駆けつけてからである。
『その話は本当なのか?』
榛名はメットを外す事無く、重装備型のガジェットのみを応急修理している状況だ。今の姿は、ARメットと蒼のインナースーツという――レーサーを思わせる姿である。
「超有名アイドルのファンが別作品のにわかファンを気取り、ネット炎上や流通妨害、風評被害等を発生させ――最終的には全てのファンを超有名アイドルに集めようとしている」
『それを信じろと言うのか?』
「一億総活躍――そのような法案が存在していた事もあったが、その正体は日本国民を全て超有名アイドルファン及び投資家にして、国内消費だけでバブル崩壊から脱出したように見せかける事」
『それすらも怪しいだろう。超有名アイドルが行おうとしている事、それは唯一神になることだ。そう言った政治的事情は全てブラフに過ぎないのではないのか』
「政治的事情は週刊誌が売り上げを得たいが為、テレビの報道バラエティーでは視聴率獲得のためにでっち上げや事実のねつ造をしているに過ぎない――だからと言って、アカシックレコードが全て事実とも限らないが」
榛名とシヅキの会話もエスカレート化している。
しかし、一次期の榛名の様に勢いや周囲の煽りに踊らされるような事はないようで、あの時の自分は何か間違っていたと思う様な自覚もあった。
だからこそ、今はレースに集中して本当の意味での革命を起こそうと改めて誓っていたのである。
もう二度と同じような強化人間に代表されるまとめサイト信者を増やさない為にも。
『自分は一人だけで超有名アイドルの唯一神化計画を阻止しようとは思わない。だからこそ、コンテンツ業界が超有名アイドル無双を防ぐ手段を考えるべきだと』
榛名は右手をみつめつつ、新たな決意で挑まなければ――と考えていた。
「これ以上、超有名アイドルのコンテンツばかりが売れ続け、マネーゲームとなるような事は――繰り返すべきではない。過去に自分が体験した事は地獄その物だ」
シヅキは過去に自分もコンテンツ流通の為に様々な活動をしていた。
しかし、この時は超有名アイドルが握手券や選挙券、その他の超有名アイドル商法でブーストを続け、その売り上げが国家予算に匹敵する売り上げを記録した時代である。
今でこそネット上では3流のWeb小説等と笑い話になっている事なのだが、それが過去には現実化していた。
『どの世界でも超有名アイドルコンテンツがマネーゲームの標的となり、動く資金は国家予算や戦争を――』
「下手に戦争と言う単語を使うべきではない。ARゲームは、あくまでも虚構の世界であって、リアルを侵食する事はあってはならない」
『それはサバイバー運営も言っていたな。虚構とリアルの融合が進み続ければ、超有名アイドルコンテンツが全てのコンテンツを食らいつくすと』
「サバイバー運営のガレス提督――彼女は元アイドルグループのメンバーであり、超有名アイドル商法に対抗する為にARゲームをぶつけようとした」
『それこそ、第3者からすれば――!?』
榛名は途中で気付いた。自分が今までやってきた事、それは第3者からすれば本来の目的とは大きく違った意味で捉えている可能性もある――と。