榛名対ビスマルク(その5.6)
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4月1日午前11時43分、別のルートから先頭グループに追い付こうと考える人物がいた。
「確か、シティフィールドではコースアウト以外は認められるはず――だったな」
足を止めてARバイザーでマップの確認をしているのはビスマルクだった。
重装甲ガジェットでは追手を撒けないという事で、軽装甲仕様にフォームチェンジしている。
フォームチェンジと言っても、ビスマルクの所持しているARガジェットのデータを読み込ませ、それをフレームに投影しているのだが。
「まさか――?」
ビスマルクは周囲から何かの視線を感じていた。別のARゲームプレイヤーが乱入する可能性もあるのだが、それは同意が得られたときだけだ。
それに加えて、シティフィールドでは運営側が乱入を認めていない。レースゲームと言う事で乱入者を認めてしまうと、タイムの箇所で有利不利が出る為と思われる。
視線の先が空中にあると思ったビスマルクが上空を見上げると、そこには別のARガジェットが急降下してきたのである。
厳密にはハイジャンプと言うべきか――ARガジェットでは飛行システムが確立していないのと騒音対策があって、飛行ユニットは全面禁止。
それに加え、ネット炎上や超有名アイドルコンテンツを唯一神にしようと言うタダ乗りの炎上つぶやき勢力等の影響もあって――飛行ユニットの実用化は見通しが立っていない。
「鉄血のビスマルク――おまえを倒せば、超有名アイドルを神コンテンツにする事も現実に――」
しかし、不意打ちをしようとして叫んだ事が裏目に出た。せっかくの不意打ちが台無しだからである。
それに加えて、超有名アイドルを神コンテンツに――というまとめサイト信者によく見られるような発言は『負けフラグ』を意味していた。
「残念だが、人違いだ」
叫び声のした方角を向き、ビスマルクは思わずパイルバンカーを展開、ワンパン決着で終わる。
描写や演出もあった物ではない――それ位に場が盛り上がらないような決着方法だ。
それでも、一部のチートプレイヤーが活躍するようなWeb小説展開を求めるユーザーには受け入れられる可能性があるだろうが。
午前11時44分、撃破したモブのプレイヤーは超有名アイドル投資家と言う訳ではなかった。いわゆる、モンスタークレーマーだろうか。
それに構っている暇もない為、ビスマルクはマップに表示されたルートで先を急ごうとしていたが――。
「やはり――装備が似ている。これならば、あの人物が間違って襲撃したのも納得出来るな」
気絶しているモブプレイヤーの方角を向いていたのは、黒マントに提督服、伊達メガネと同じ感覚で眼帯をしていた女性である。
しかし、ビスマルクは彼女の服装に見覚えはありつつも――あまり覚えてはいない様子。
「貴女は何者なの?」
その質問に彼女が答える事はない。しかし、次の瞬間にはモブプレイヤーはアキバガーディアンに引き渡された。そこでビスマルクは何かを察した。
「アカシックレコードが起こした異変の数々――そろそろ気づくはずじゃないのか?」
佐倉提督は逆にビスマルクに対して質問をする。それは、超有名アイドルがアカシックレコードを何故求めるか――と言う部分に直結していた。
「アカシックレコード、その技術さえなければ戦争は起きなかったとでも?」
「そうではない。虚構と現実――その壁が破られようとしている事だ」
「虚構と現実――榛名・ヴァルキリーも演説で言っていた。その壁の正体こそがアカシックレコードの真実に辿り着くヒントだと」
「別の意味で言えば、第四の壁だ。2.5次元アイドルやコスプレイヤー、それにコラボイベント――そうしたコンテンツ流通が虚構と現実の壁を曖昧にしている」
「これは驚いた。第四の壁とはこの世界と現実を繋ぐものと思っていたが」
二人の会話は続く。その会話はあまりにも内容が超越しすぎていて、周囲のギャラリーは付いていけない。
むしろ、それ位の方が下手に炎上して風評被害を受けるよりは――と佐倉提督は考えていた。
「お前はアカシックレコードを何だと思っている?」
佐倉提督は再び別の質問をぶつける。その質問に対し、数秒の思考時間の後――。
「それぞれの人物が思い浮かべるバイブル――愛読書。それはライトノベル、漫画、アニメ――人によって異なるが」
ビスマルクの回答を聞いた佐倉提督は思わず腹を抱えて笑いだした。真面目に答えたはずなのに、この仕打ちはあんまりである。
「こちらとしては、『アフィリエイト系まとめサイト』とか答えてくれた方が――逆に都合がよかったのだが――そう来るか」
笑いをこらえつつ、佐倉提督は話すのだが――やはりフフフと笑い声は聞こえる。
その反応に対してビスマルクは不満そうな顔をするのだが、逆に攻撃されるよりはマシと考える事にした。
「あの連中はまとめサイト信者やモンスタークレーマーを生み出し、超有名アイドルという神コンテンツ以外を排除しようと動き出している」
佐倉提督は周囲の視線を気にしながら話している。挙動不審者と言われそうな予感もするが、その辺りのツッコミをしていると話が進まない事もビスマルクは分かっていた。
「虚構と現実が融合した時――それは、コンテンツ流通にとって大きな転換点となる。それに便乗して一億人一次創作活動等の様な計画を立ち上げ、超有名アイドルを神コンテンツにしようとする政治家は――」
やはり佐倉提督は途中で笑いをこらえているように見える。重要な事を話しているはずなのに、これでは台無しだ。