榛名対ビスマルク(その5)
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4月1日午前11時43分、見るも無残なARガジェットのフレームに関しては回収班が回収をしている最中である。
その一方で、榛名・ヴァルキリーは思わぬ人物の登場に苦戦をしていた。
『八郎丸――貴様、裏切ったか!?』
目の前にいる黒服に斬艦刀を持った提督、それは八郎丸提督だったのである。
何故、彼がこのように暴走したのかは分からない。
しかし、別の場所で大和杏に敗北した事が変化の理由の可能性である事は否定――出来るかは不明である。
「我々は思い知った。超有名アイドルに反旗を翻すという事は事実上の不可能であった事に!」
彼が振り回す斬艦刀、その速度に榛名が違和感を持つ。あのサイズの大型剣であれば――。
『一体、何を超有名アイドル投資家に吹きこまれた? お前はアカシックレコードから何を読みとった?』
「アカシックレコード――その正体はネタバレで話せないと、先ほども言ったはず!」
『やはり、提督と言う人種はどの勢力でも同じと言う事か。信用した自分が愚かだったと認めるしかない』
「我々としても――貴女の様な音ゲーマーを担ぎあげようとしたのは失敗だった」
『言う事を欠いて、血迷ったか――八郎丸!!』
榛名のARガジェットであるヴァルキリーには武装が存在しない。厳密には殺傷能力持ちの武器がないだけである。
暴徒鎮圧用に用意されたスタンガン、フラッシュグレネード、チャフグレネード、ジャミング装置等は装備しているが――武装とみなされそうな形状の為、下手に使用すれば反則となるだろう。
「結局、今回の計画もお互いに利用しあっていただけの物――全てはアカシックレコードの記述を覆す為に!」
八郎丸が斬艦刀を榛名の頭上めがけて振り下ろす。しかし、それも間一髪で回避して見せる。それもご都合主義的なものではなく――。
『そのサイズの刀は存在しない――と言う事に気付かなければ、危なかったな』
実際、斬艦刀と思われていた刀は――CGによって大きく見せていただけの日本刀だったのである。
人間サイズの日本刀を、わざわざ巨大ロボットサイズの刀に見せかけていた――それも、CGの演出を利用する事で。
「チートガジェット、外部ツール等を利用すれば、それこそARゲームのアカウントを凍結される。そこに気付くとは――」
トリックが見破られてしまっては、武器の方も使い様がない。仕方がないので、両腕にナックルを装着して榛名に接近戦を挑もうとするが――。
午前11時44分、八郎丸のナックルは瞬時にして無効化され、消滅をしたのである。一体、どのようなトリックを使ったのか?
しかし、八郎丸は同じようなトリックを一度見た事がある。しかも、数十分前に。
「アガートラーム――だと!?」
八郎丸も驚きを隠せないでいる。その表情は顔芸と言っても差し支えがない。
「お前は別のアガートラームも目撃したらしいな」
ARガジェットに白衣の女性――シヅキ=嶺華=ウィンディーネである。しかも、今回は銃型ARガジェットであるクリムゾンバレットも所持していた。
それとは別に所持していたガントレット型ARガジェット、それがアガートラームと呼ばれている物だ。
「アガートラームはコピーできるような技術ではないはずだ。お前は、その理論に追いついたと言うのか? それこそ、あり得ない話――」
八郎丸は、もはや自分の思考ではどうする事も出来ないような現実に直面し、錯乱状態に陥っている。
「榛名・ヴァルキリー、お前はレースに復帰しろ」
八郎丸提督が話を続けている間に、シヅキは榛名にレースの復帰をアドバイスする。
『いいのか? 私もお前にとっては敵のはずだ』
榛名の方はシヅキの発言に関して疑問に持つ部分もある。今までの自分が行ってきた事を踏まえれば、間違いなく敵である認識のはずだ。
「ARゲームであろうと、途中で投げ出すような奴は――」
シヅキは多くは語らなかった。他にも言いたい事はあるのだが、早期に復帰して欲しいという思いのあったのだろう。
そして、榛名はシヅキのアドバイス通りにコースに戻り、レースへと復帰した。
午前11時45分、八郎丸も榛名を追いかけようとするのだが、それを妨害したのは彼が遭遇したくない人物だった。
『八郎丸、お前には聞きたい事がある』
小型ロボットにも見えるようなガジェット、これはパルクール・サバイバーで使用するランニングガジェット。
フレームに関しては旧式に近く、最新型と比べると能力は大きく劣る。その一方で、フレーム以外のARガジェットやメインシステムは新型に換装されている。
オレンジ色のARガジェット――スレイプニール。そのデザインを八郎丸はネットで知っていた為、乗っている人物が誰なのかも察しが付いた。
「花江提督――パルクール・サバイバー運営勢力の提督だと言うのか?」
八郎丸が気づいた時にはすでに遅かった。
花江提督、彼が来た段階でサバイバー側には一種の勝利フラグが成立していたと言っても過言ではなかったからである。
『超有名アイドル投資家――彼らが行おうとしていたまとめサイト信者育成プラン、通称強化人間プロジェクトの真相を聞かせてもらおうか』
花江提督の一言を聞いたシヅキは、言葉を失っていた。周囲のギャラリーも同じような反応だが、中には――。
「強化人間? それこそフィクションの世界じゃないのか?」
「現代日本でSFの技術? それこそWeb小説の見過ぎじゃないのか」
他にも花江提督の話を嘘だと思う人物がいる。それに加え、この発言を改ざんして拡散し、超有名アイドルの唯一神化を加速させようと言う動きもある。
超有名アイドル投資家には政治家とパイプを持つ人物もおり――。
『超有名アイドル投資家と政治家が絡んでいる話は、まとめサイト勢力が流しているデマだ。それが事実だとすれば、大手ニュースサイトでも取り上げる!』
『お前達はまとめサイトからしか情報を手に入れようとしないのか! 正確なソースのないような情報に踊らされ、それこそ超有名アイドルファンや悪目立ちする勢力の――』
花江提督の言う事は正論以上の物であるのは言うまでもない。彼も過去にサバイバー事件で、ネットの情報に踊らされた事もあったからだ。
彼としては、これ以上の被害者を生み出せば――アフィリエイト系まとめブログ等の反社会勢力に利益を流しかねない。
それこそ、違法カジノや振り込め詐欺、悪質な転売屋等の様な事例の繰り返しである。
ジャパニーズマフィアに変わって日本を影から支配するまとめブログの管理人やそうした勢力に資金を渡すのは――コンテンツ流通の観点から見てもタダ乗り勢力と同様に一掃すべきと考えていた。
『これ以上の歴史を繰り返すようであれば――こちらも奥の手を使う!』
花江提督は、あるプログラムをアカシックレコードを通じて送信する。