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榛名対ビスマルク(その4)

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 4月1日午前11時40分、右折の電光掲示板が設置されている道路及び該当エリア、そこへようやくビスマルクは到着した。


 このエリアを通過していない他のプレイヤーもいるのだが、それもごく少数なのでビスマルクは総合順位としては下の方だろうと自覚している。


 この他にもこのルートを通過するプレイヤーがいたが、実はシティフィールドとは違うARパルクールでもコース変更で、このルートを使っていた。


 ただし、右折してから数百メートルのエリアで別の道を通るので、別のARゲーム作品同士で乱入対戦が発生するような事にはならない。


 ピンポイントのコース変更はレースゲーム系等でも日常茶飯事だが、こちらは運営側があらかじめ予告している場合もある。


 しかし、今回のシティフィールドにおけるコース変更は想定外の物だ。


 一連の接触事故が原因かどうかも実際は正式発表をしておらず、これに関しては超有名アイドルファン等が炎上のネタにしようと動いている節もある。


「仮に乱入が成立したとしても――それは両者合意と運営側が了解した時だけ。シティフィールドで乱入システムが機能する事はシティフィールドのマニュアルにも書かれている」


 ビスマルクは背後から追いかけてくるプレイヤーを何とかして撒こうと考えていた。順位は10位と言う事だが、相手が11位と言う表示はされていない。


【本ゲームに非参戦のプレイヤーです】


 日本語でこのように表記されているが、英語ではノットプレイヤーである。つまり、シティフィールドにとっては部外者と言う意味だ。


「今は先頭グループに追いつく事を――」


 ビスマルクが前方を振り返ると、そこには先頭グループとは雰囲気が違うARガジェットを使う集団が現れた。


 先ほどまでは姿を見せていなかったので、文字通りに唐突に現れたのだ。


「ARゲームでもステルス迷彩は制限されているはず――1位を取る為には手段を選ばないという事か!」


 ビスマルクが肩アーマーのランチャーを展開するが、ふとマニュアルの記述を思い出す。


「――シティフィールドでの戦闘行為は運営が認めた例以外は禁止だった。今は、逃げ切る事を考えるしかないか」


 例え、それが別のARゲームプレイヤーによる襲撃の類であったとしてもシティフィールドでの戦闘行為は禁止されている。


 このルールがなければ、ビスマルクは肩アーマーだけではなく両腕のレーザー砲も撃っていたかもしれない。


「あの連中は本来であれば、こちらのコース変更が理由で発生した物。私に任せてもらおう」


 脚部装甲、肩アーマー、バーニアユニット、ガントレット型ガジェット――それに、メット型ではない別のバイザー、緑色のツインテール。


 その姿を見た時、ビスマルクは驚きのあまりに声を出せずにいた。


「貴様は――夕立!?」


「サバイバー運営め、遊戯都市奏歌の超有名アイドル支配計画を邪――」


「そこでその名前を出すな! 反ARゲーム勢力や夢小説勢に炎上のネタを提供する事に――」


 モブのARゲームプレイヤーは気づいた。この発言自体がサバイバー運営にとって『勝利フラグ』を象徴する物――つまり、自分達にとっては『負けフラグ』を意味する。


 気づいた時にはすでに遅く、夕立のガントレット型ガジェットに搭載されたパイルバンカーで一撃KOされる事になる。ボディをダイレクトに掴んで放った一撃もあれば、頭部に対してピンポイントで放った物もある。


 メタ的な事を言えば、パイルバンカーの杭に関してはCGの為、実際に相手プレイヤーを突き刺すような演出があったとしても、そこから血が噴き出したりはしない。これがARゲームが万人受けするようなアトラクションではないとネット上でも言及される由来だ。


「ARゲームは、いわゆるWebのVRMMO小説みたいにデスゲームと言う訳ではない。それがなければ――お前達の命は既に終わっていた」


 夕立の活躍をビスマルクは目撃していない。この時には既に先へ進んでいたからだ。



 午前11時42分、先頭グループにいた榛名はるな・ヴァルキリーだったが、こちらも想定外の展開に苦戦をしていた。


 何と、先頭グループのARガジェットが見るも無残な姿で放置されていたのである。実際にはARアーマーを投影するフレーム部分が破損し、ARフレームが露出した状態で放置されているのだが。


 ARフレーム自体はショップでも見かけるので、これ自体がグロ指定になるような光景ではない。


 しかし、これが複雑骨折の様に腕がへし折られている状態で放置されていたらどうなるだろうか?


「これはひどい――」


「ARフレームがここまで壊れるって、AR格闘ゲームで言えばTKOじゃないか」


「意図的でない衝突であれば問題視されないというガイドラインがあるとはいえ、これはやり過ぎだ」


「超有名アイドルファンは、ARゲームを使い捨てコンテンツと同じように――」


「下手に何かを発言すれば、それも炎上勢力に利用され、サイト管理人の利益に貢献すると言う事になるのか?」


「過去にあった超有名アイドルが唯一のコンテンツで認められた世界を扱ったディストピア――Web小説サイトで、二次創作の夢小説以外で話題になっていた作品と同じ事が起こるのか?」


「フィクション作品の世界が、そのままこの世界でノンフィクションとして再現されるのか? 性質の悪い冗談だ」


 これは周囲のギャラリーの声だが、榛名の気持ちを代弁しているとも言える。榛名は、この光景を見て言葉を失っていた。


『アカシックレコードはデウス・エクス・マキナの様な万能の神ではない! あのアカシックレコード、その正体は――』


 榛名がアカシックレコードの正体を言おうとした、その矢先である。突如として、黒服の提督が姿を見せたのである。


 軍帽を深く被り、その目つきは正面からでは確認できない。持っている武器はARガジェットによる斬艦刀であり、その大きさは彼の身長よりも高い。


 それでも軽々と振り回しているのは、その刀がARシステムが生み出したARウェポン、つまりCG映像である事を意味している。


「今、そのネタバレをされると――こちらも困るのです。ご都合主義とメタ的な部分で思いたければ、そう思ってもらって結構ですが」


 その声を聞き、榛名は歯ぎしりをしたくなるような感覚に襲われた。


『八郎丸――貴様、裏切ったか!?』


 目の前にいる黒服の提督、その正体は八郎丸はちろうまる提督だったのである。

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