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剣と走者とパルクール(その2)

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 4月1日午前11時33分、レースは先頭を強豪ランナーが走っている。


 その装備は軽装であり、走るのに必要最低限のガジェットしか装備していないように見えた。パルクールであれば、軽装でも問題はないだろう。


 しかし、これはシティフィールドであり、重装備必須とも言われるようなルールも存在するARゲームだ。


「重装備必須の環境で、軽装備で挑むのか――無茶にも程がある」


 先頭グループの様子を見ていたのは、榛名はるな・ヴァルキリーである。


 軽装備に関してシティフィールドでは規制がないというのもあって、装備を軽くすれば速くなるという単純な考えで流行っているのかもしれない。


 しかし、ARゲームで軽装備と言うのは命綱なしの崖登りをする位に無謀な行為なのである。下手をすれば、命を落としかねない。


 軽装備と言ってもARガジェット側で認められた最低限の装備であれば問題視はしないが、先頭グループの装備は不正改造で軽量化したガジェット。


 軽量化に関しては不正ツールやチートと言う扱いにはならない為、運営側が気づかなければ素通りされてしまう現実がある。


「その慢心が命取りになる事を――身を持って分からせるしか――」


 榛名は肩アーマーを変形・分離させてソードビットを飛ばそうと考えるのだが、今回のレースでは武器使用は認められていない。


 シティフィールドの場合はARガジェットを変形させた武器やARの拡張現実技術で展開した武器であれば、特殊条件付で認められているのだ。

 

 その特殊条件と言うのが、レース側で使用可能ルールになっていることだ。しかし、今回のレースでは武器使用は認められていない。


『このレースでは武器使用は認められていない。失格になりたくなければ、ここはこらえるしかないだろう』


 聞こえてきたのは、八郎丸はちろうまる提督の無線だ。本来、八百長及びイカサマ防止の観点で無線は禁止されているが――。



 午前11時34分、八郎丸提督が無線を行っていた場所、それはコンビニ前だった。実際は、無線と言う訳ではなくARゲームでも認められているチャットアプリだが。


「細かい指示を出せば、失格処分も免れないだろう。下手に夢小説や超有名アイドル等の勢力が悪目立ちするような話題を提供する必要性は――」


 八郎丸は榛名に指示を出している途中で、アプリをログアウトする。どうやら、近くに何者かが接近しているのが理由らしい。


 その動きに対して不信感を抱いたのはサバイバー運営でもなければアキバガーディアンでもない。


 シティフィールドのスタッフがこのエリアを管轄外にしているのは、事前につぶやきサイト等の情報で裏を取ってある。


 その人物は、八郎丸も想定していなかった人物だった。


「大和――杏だと?」


 目の前にいた人物、白衣姿ではあるのだが――その顔には自分も見覚えがあり、思わず恐怖を表に出してしまう。


「誰かと思えば――最近になって動いていた提督勢か」


 大和杏やまと・あんず、彼女は眼を鋭くして睨みつけるようなことはしていない。


 下手に相手を威圧して逃げられるのも逆効果と考えているのだろうか。それに加え、彼女はARガジェットである白銀の腕を展開していない。


「お前はシティフィールドには無関係のはず。それが、どうして」


 八郎丸は大和がシティフィールド関係で動いている訳ではない事を調査済みだった。


 それを踏まえても、彼女がARパルクールに興味を持つような要素があるのかも――裏を取っている。


「アカシックレコードの記述が――変化していた」


 大和の一言を聞き、八郎丸の表情は更に変化する。アカシックレコード、その存在を知っているのはごく少数のはずだ。


 それも、まとめサイト等で名前が出てくるようなクローンではなく――オリジナルとなると更に人数は絞り込まれる。


 そのわずかな変化さえも知っているとなると、一大事なのは間違いない。


「それを知っているという事は、お前もアカシックレコードにアクセス出来るという事か?」


「答える義務はない。仮に答えたとしても、それをネット上のつぶやきサイトで拡散して混乱させるのは無駄な話」


「それを行うのは、超有名アイドル投資家や悪目立ちするような勢力だ。我々とは違う」


「その発言、お前達の行動も同類であると認めた上での発言か?」


 八郎丸も万事休すとなっている。もはや、手詰まりと言えるだろう。まさか、予想外の人物からブーメランとなる発言が飛ぶとは。



 その状況で、遂に八郎丸提督の方が動き出した。何かのARシステムを起動させ、周囲にコンテナを召喚したのだ。


「我々が同類? 日本のコンテンツは超有名アイドルだけだと断言し、それ以外をかませ犬としか思っていないような連中と――同じにするな!」


 そして、八郎丸はARガジェットのハンドガンを撃ちまくる。しかし、これが特にペナルティとして判定される事はない。


 その理由は、周囲に発生したコンテナにある。既に半径500メートルはARデュエルのフィールドとして成立しているからだ。


 当然のことながら、大和の方も事情は把握している。こうなったからには、自分もガジェットを使わざるを得ない。


「コンテンツ産業を変えていくのは、一握りの投資家ファンや権利屋、大手スポンサーや超有名アイドルの芸能事務所ではない――」


 大和が展開した白銀の腕、それは八郎丸提督が発生させたARウェポンを瞬時に消滅させた。


 八郎丸提督は、自分に起こった事が全く理解できていない。自分のガジェットは不正ガジェットや違法改造、ツールを使った物ではないからだ。


 それなのに消滅した事には納得できていない。思わず、地面に腕を叩きつけようとする。しかし、そんな事をしても無駄なのは分かっているので――八郎丸提督は行わないが。


「大和杏――お前は、一体何者だ? 瞬時にARウェポンを無効化出来る存在、それは――!?」


 ようやく、八郎丸提督は自分の言った事を途中で把握した。


「アカシックレコードを知っているお前ならば、分かるだろう。ありとあらゆるチートを瞬時で無効化するARガジェット――アガートラームを」


 大和が発動させた白銀の腕、それはアガートラームと呼ばれるアカシックレコードでも禁断の技術と言われる存在だった。

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