剣と走者とパルクール(その1)
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4月1日、別のエリアではARリズムゲームで人混みが集まっていた。
それがどのようなジャンルなのかは不明だが、普通に楽器を演奏するリズムゲームではないのは明らか。
「これは、大変な事になるか」
そのプレイ光景を遠目で見ていたのは、何を隠そう花江提督である。
この他にも同様の事例がネット上でも報告され、炎上とは違った形で思わぬ波紋を投げかける事になった。
その案件とは――。
同日午前11時30分、谷塚駅近辺で榛名・ヴァルキリーとビスマルクの対決が始まった頃、花江提督のいた場所とは――本来交わる事のないAR音楽ゲームのエリア。
「君は――サバイバーの提督か」
花江提督の姿を見て不正プレイヤーの類と考え、接近してきた人物――それは黒いコートに背広と言う怪しげな男性である。
その姿を見た花江提督は、自分の服装を見てから言うべきと考えていたが、それが無用のツッコミである事は分かっていた。
「そうだとしたら、どうするつもりですか?」
花江提督の一言を聞き、彼の提督服を確認するが――彼は思い違いであるという結論に達した。
「こちらの言いたい事は、ただひとつだ。こちらのテリトリーを脅かすようなことは避けてもらいたい」
予想外の回答である。自分達を不正プレイヤーと疑いをかけると思っていただけに、別の反応である事に驚きを隠せない。
そして、彼の方は足早に姿を消した。一体、何が目的だったのか? しばらくして、周囲が騒がしくなったので、その現場へと花江提督は向かう。
花江提督が駆けつけた頃には、不正プレイヤーは逮捕され、アキバガーディアンに引き渡される所だった。
「遅かったか――?」
花江提督は引き渡されていた人物の顔に見覚えはないのだが、服装や行動の傾向からして自分達が過去に戦った勢力とは違うと悟った。
「パルクール・サバイバーの提督? 遠路はるばる、遊戯都市奏歌に来た理由は何?」
花江提督の前に姿を見せたのは、身長160センチ位の黒髪セミロングの女性。
ARインナーにも似たようなスーツを装着し、右腕には白銀のARガジェットと思われるガントレットを装備していた。
ガントレットに関してはCGかもしれないが――その破壊力は未知数と言える。
「こちらとしては、下手に戦闘を起こすつもりはない」
花江提督はARガジェットを取り出し、そこからランニングガジェットを呼び出そうとも考える。
しかし、彼女は花江提督に戦闘の意思はないと考え、一応ガジェットの展開を閉じた。
彼女が大和杏であると分かったのは、ビスマルクのレースを見る為に駆けつける際につぶやきサイトのタイムラインを見てからである。




