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アカシックレコード(その4)

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 3月31日午後2時20分、蒼空そうくうナズナはアンテナショップでガジェットの調整を依頼していた。


 大和やまとアスナは気が付くと途中でいなくなっていたが、蒼空本人は気付かなかったという。


 その理由として、タブレット端末に集中していたというのもあるが――。


「ニュースはどこも超有名アイドル絡みの物ばかり――遊戯都市のニュースは、大きく取り上げていないのも気になる」


 蒼空はガジェットの調整をアンテナショップ側で行っている間、ロビーに設置されている液晶テレビでワイドショーを見ている。


 しかし、その内容は超有名アイドル絡みの物ばかり。他局を回しても内容は違うがニュースばかり。


 とあるテレビ局が洋画を放送していた位で、報道と言う部分で目立った動きはない。



 その一方で、大和やまとアスナは、竹ノ塚駅付近のARゲームショップ前にいた。


 ARゲームショップと言っても、パルクール・サバイバーも扱っている事もあり、そんなに狭い店舗ではない。


 サバイバーもそうだが、一部の大型ガジェットは宇宙服を連想するような物や、それこそSFのロボットクラスもある。


 そうしたガジェットが10万円を切る値段と言ったら、何人の人間が信じるだろうか?


 ARゲームで使用する物と言う事もあり、メインフレーム以外はARを利用したCG映像と言う物が多いのも値段が安い理由だ。


 彼女の装備は蒼空といた際とは異なり、右腕のアガートラームも装備している状態、それ以外のアーマーも別のARゲーム用だが、身に付けないよりはマシと考えている。


「アガートラーム――まさか、その実物を見る事になるとは」


 目の前にいる人物は黒い提督服を若干改造した物を着ており、それにARガジェットを装備、ARバイザーのシステムを持たないメガネという気配だ。


 この姿でも周囲が敵意を向けないのには理由がある。この場所は、ARゲーム専用のバトルフィールドだからだ。


「見た事のないガジェットに、未知の装備――一体何者?」


 大和の目の前にいる人物と大和には身長の差があり、向こうは189センチ位か。その割には体格はアスリート系を思わせる。


 アスリートと言うよりはバレーボール、あるいは格闘技をやっているような気配を感じたのは間違いない。


 しかし、黒い提督服とは別に異彩を放っていたのは、何かを隠すようなグローブを右手に着用している事。


 どうして、彼女は手袋をしないのか。提督勢が手袋を標準装備しているという考えが出る事次第、既に何かの罠にはまっている可能性も否定できない。


「私の名前は、桜崎未央――」


 彼女は桜崎未央さくらざき・みおと名乗る。若干含みを持たせたような喋り方だったので、別の何かを隠している可能性も否定できないが。


 そして、彼女が右手のグローブを外すと、手の甲が唐突に輝きだし、その光を鍵としてARガジェットであるブーメランが実体化したのである。


 一体、どのようなトリックを使ったのか。大和は若干の興味を持っていたが、それが無駄になる可能性をわずかに感じていた。


「あのガジェット、演出過多に見せかけてチート装備を持っていると思ったが――」


 大和の持つARガジェットであるアガートラーム、そのシステムでも無効化する事は出来なかった。


 これが意味するもの、それは一つしかない。桜崎の使うARガジェットはチートではない正規品と言う事だ。


「無駄よ。アガートラームで無効化出来るガジェットは不正ツールや違法改造された――全てのドーピングという可能性を潰す事のみ」


 桜崎の一言を聞き、さすがの大和も武者震いをしていた。向こうは、アガートラームの事をほぼ把握している。


 大和でも100%を把握したとは思っていないアガートラームの能力――おそらく、向こうは自分の知らない能力も把握済みだ。


 しかし、桜崎はブーメランタイプのARガジェットを実体化させた以外には大きな動きを見せない。


「そっちの狙いは? まさか、自分を潰す為――とは考えたくないが」


 その大和の質問に対し、桜崎は答える気配は全くない。しかし、別の何かを話そうと彼女は考えていた。


 その時である。突如として、アイドル投資家とは別の勢力が介入してきたのは。


 

 同刻、秋葉原某所――と言っても、上野と秋葉原の間にある雑居ビルの一室。


「アカシックレコード、解析完了まで1時間です」


「しかし、相変わらずの防御プロテクトの書き換えが早くて、パターンが次々と潰されていきます」


 男性スタッフと言うよりも黒服を着たハッカーとも言うべき集団がパソコンを起動させ、何かのプログラムを解析している。


 その解析している物とは、アカシックレコード。そのメインサーバーとも言うべき物だ。


 しかし、肝心の所在が不明という事もあり、彼らも直接乗り込む事を断線せざるを得なかったのだが――。


「まさか、情報提供者が予想外の場所から出てくるとは――感謝すべきか」


 黒服の総指揮をしている男性、彼は超有名アイドルのプロデューサーであるAと言う人物。


 下手に固有人名が判明すれば――こちらの命の危険性さえある。その彼が実行しようとしている事、それは――。


「我々がアカシックレコードに眠っている特殊コードを手に入れれば、特許や権利関係だけでも計測不能の大金が入り込んでくる。その資金を利用して――」


 彼の行おうとしていたのは、アカシックレコードの解析である。


 率直に言えば、アカシックレコードが入っていると思われるサーバーに対してのハッキングとも言うべきか。


 彼の言う情報提供者はつぶやきサイト経由だが、かなりの信頼が高いまとめサイトだった。


「やはり、プロテクトレベル6までは突破できても、レベル7に関しては書き換えスピードが速すぎます」


「向こうが速攻の書き換えをするのであれば、我々はチートで対応すればいい」


 既にプロテクトレベル6までが突破、レベル7も彼らの持つチートガジェットで突破、遂にはレベル8もチートの力で突破されてしまった。


 このままではレベル9の突破も時間の問題である。これが突破されれば、アカシックレコードのプロテクトは完全に突破され、その内容にアクセスされてしまう。


「これさえ手に入れれば、アキバガーディアンも恐れるに足りず! そして、全ての敵対勢力を消滅させ、地球は超有名アイドルに夜絶対支配が生まれる!」


 彼は、確信していた。アカシックレコードを手に入れれば、その無尽蔵とも言える力で地球を支配する事も容易であると。


『お前達は分かっていない。アカシックレコードが、どのような存在なのかを』


 突如としてパソコン画面に白衣の女性が姿を見せた。彼女の右腕にはアガートラームと思われるARガジェットも見えるが、若干のデザイン違いがあるように見える。


 彼女のいる場所は推測だが秋葉原のコスプレ喫茶、あるいはアニメコスプレ専門のARゲームセンターか?


 しかし、彼女の全体像が移っている訳ではなく、画面の影響で目は見切れていた。しかし、黒髪のロングヘアーは確認出来る。


「アカシックレコードは特許等の情報が眠るサーバー。それを手中に収めれば、全世界を征服する事も容易になる!」


『そこまで言うのであれば、お前達に見せるしかないようだな――アカシックレコードがもたらす――』


 女性の声が途中でノイズと共に途切れ、次に表示されたのはオンラインゲームと思わしきゲーム画面だった。


 そこには、ある特殊兵器を使用し、更地となった首都の姿が表示されている。


「これは、何の冗談だ? オンラインゲームにおけるチートと変わらないではないか――アカシックレコードとは、このような物だったのか」


 男性の方は納得がいかない表情で机を叩き、目の前に表示された可能性を否定する。これは、アカシックレコードの技術ではない、と明らかに否定するしかない。


 これではまとめブログや炎上サイト等の情報操作と同じだったのだが、彼がそれを否定すると言う事は――彼が行ってきた事も否定する事になる。



 次の瞬間だった。背後に人が入って来たような気配を感じたのは。それに気付かない程、彼らは映像に見入っていたと言ってもいい。


「動くな! お前達をハッキング、違法チート販売、禁止薬物販売などの容疑で逮捕する!」


「逮捕だと? アキバガーディアンでも我々は逮捕できない。何故なら、我々は政府にもパイプを持つ超有名アイドルの――」


「戯言を言うな! お前達の言う芸能事務所は既に破産し――今は警察が強制捜査を行っている頃だ」


「破産? 強制捜査? 一体、どういう事だ?」


「どういう事とは――我々が聞きたい所だ」


「それで逮捕しようと言うのか? 証拠もないのに?」


 侵入してきたのはアキバガーディアンではないのだが、事務所の人間と名乗る人物はアキバガーディアンと思い込んでいる。


 その段階で、既に敗北フラグなのだが――。


『証拠なら――お前達がプロテクト6を突破した段階で、並のチートを使用していないと証明している』


 警察官及び特殊部隊の連合部隊、それを指揮していた人物は彼が驚くべき人物だった。


 その外見は、どう考えても警察の機動隊やSPなどと比べても異質であり、一人だけSFアニメのパワードスーツで出撃しているのと同じ。


 実は、この段階で芸能事務所関係者は気づくべきだった。


 全てはある人物に踊らされていたコンテンツ流通を悪用した印象操作や情報戦、それに対する為のテストケースだと言う事に。


 そのテストケースで敵対対象として選ばれたのが、超有名アイドルを抱える芸能事務所だったのである。


「榛名・ヴァルキリー……だと言うのか?」

 

 その数分後、芸能事務所関係者は逮捕され、その護送車内であの時にいた人物の正体に気付く。


 しかし、その段階で気づいたのは後の祭りだった。

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