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パルクール・オブ・シティフィールド  作者: 桜崎あかり
ステージ5

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アカシックレコード(その2)

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 3月31日午後1時45分、報道バラエティーでは超有名アイドルのCDランキング操作に大手芸能事務所が動いていたという新事実も浮上した。


 当然のことだが、芸能事務所は作り話と否定する。まとめサイト等も関与しているのは芸能事務所ではなく、別コンテンツのファンによるつぶやきの拡散だというデマを流す。


 こうした流れが一連の事件を生み出したと思うと、アキバガーディアン側も心境は複雑である。


「あの人の姿がない」


「既に遊戯都市奏歌へ向かっているという話だが――」


 アキバガーディアンのスタッフが柏原隼鷹かしはら・じゅんようを探すのだが、その姿は見当たらない。


 会議室やスタッフルーム、更には何時も無人の社長室、更には資料室も探すが――結果は同じだった。



「この部屋はどうだ?」


 スタッフの一人が柏原がいると考えたのは、関係者以外立ち入り禁止という札はないが――明らかに立ち入り禁止な部屋である。


「サーバールーム?」


 別の男性スタッフがドアを叩こうとするのだが、ドアに少し手が触れた途端に警報が鳴り出した。


『サーバールームに不審者の姿を確認――』


 突如として警告の放送も流れ、どうやって止めるべきかスタッフも慌てている。


 その状況で姿を見せたのは、白衣を着た学者を思わせる男性だった。


 彼も提督勢に見えるのだが、該当する人物がいたかどうかも確認出来ない。


「この部屋は特定のプロテクトを持った人物でないと、ドアに触れるだけで警告が鳴る仕組みになっている。柏原から聞いていないのか?」


 白衣の人物の話を聞き、男性スタッフはかなり慌てているようにも思える。全く知らないのであれば、このような事はしない。


 しかし、このサーバールームに保管されている物を考えれば、産業スパイやアイドル投資家等が強奪を考えようとするようなシロモノが、この部屋には存在している。


「実は――」


 男性スタッフは一連の事情を白衣の人物に話す。そこで、彼も柏原がいない事を知った。どうやら、彼は柏原が不在な事を知らなかったようだ。


「しかし、この部屋のプロテクトを柏原は所持していない。この部屋に入ると言う事は考えられないと思うが?」


 白衣の人物の話を聞き、スタッフ2人は別のエリアへと向かう。しかし、その足取りに白衣の人物は疑問を抱いた。


 しばらくして、彼は2人の姿が見えなくなるのを確認して、改めて扉の非常警報を解除する。



「柏原がプロテクトを所持していないというのは――」


 白衣の男性は、白衣のポケットから1枚のIDカードを取り出す。そこにはサーバールームとはっきり書かれている。


「まさか、アキバガーディアンの内部にアイドル投資家や超有名アイドルファンが潜り込んでいるという話――本当だったのか」


 スパイの存在は噂だけをネット上で聞いていた。ガーディアン側は知っている上で泳がせておき、アジトにピンポイントで強制捜査をする為と言われている。


 実際、こうした手法で振り込め詐欺やオークション詐欺、大規模な転売屋等の情報を手に入れ、警察側に提供したという話もネット上では有名だ。


 アキバガーディアンが掲げるコンテンツ保護、それは海賊版やマフィアなどの資金源にならないようにする為の物――そう言われており、ホームページ上でもはっきり明記されている。


 しかし、一部の勢力は超有名アイドルの宣伝を妨害する為の行動とも考えており、こうした歪んだ憶測がネット上に拡散していた。


 こうした風評被害はアキバガーディアン以外の企業等にも行われている為、誤った風評被害への救済を目的とした組織も立ち上げが予定されている。


「しかし、サーバールームの扉は二重のプロテクトか。この鍵だけでは開ける事が出来ないとは――」


 結局、白衣の人物も今回は引き上げる事にした。彼が持っていた鍵はコピーではなく、本物なのだが……。


 ただし、何も得ないで帰還する訳にもいかない為、先ほど遭遇した超有名アイドル投資家と思われる人物の画像をアキバガーディアンへ提供した。



 同刻、遊戯都市奏歌ゆうぎとし・そうか、その谷塚エリアにあるアンテナショップ付近の道路で倒れている人物を見つけた人物がいる。


 警察が発見しては困る物と言うのはないが、先手を打って回収しようとアキバガーディアンは考えているようだ。


「成程。超有名アイドル勢力に対し、一人で立ち向かった逸話もある彼が――ここまで変貌するとは」


 倒れている人物は、先ほどまでビスマルクと交戦していた桜野麗音さくらの・れいねである。


 先ほどの戦闘で破損したARガジェット類も回収されず、散乱したままだ。散乱している破片もCGである為、しばらくすれば消滅するだろう。


 あくまでも消滅しないのはARガジェット本体のみ。破片に触れたとしても元がCGである為、怪我をする事はない。ノイズが多くなっているので、もうすぐ時間切れで消滅する可能性もある。


 回収しようとしても、その重量や形状などの関係で持ち去れば即座に通報されるのは目に見えている。


 その為、ハイエナを狙おうとしていた勢力も手を出さなかったのかもしれない。


「散乱したガジェットは彼が使用していた物か――」


 着物に近いインナースーツとガジェットの複合装備、それに着物には似合わないような陸上用シューズ。


 その外見を持っている人物と言えば、柏原しかいない。もう一人、彼と遂になっている人物に出雲がいる話もあるが――。


「まとめサイトに強く影響を受けた人間を、ネット上では強化人間と揶揄する動きもあるが――それは風評被害と言うべきかもしれない」


 桜野が強化人間とネットで叩かれていた理由は、柏原もおおよそな部分を察していた。


「しかし、ここまでの実力者さえも情報の曲解や誤認を生み、別勢力にぶつけて同士討ちをさせる為の駒にする――。洗脳とか催眠術の様なレベルではない狂気を感じるが――」


 柏原はまとめサイト勢力に、これだけの人物を従わせる力はないと推定した上で、別の手段で別コンテンツ勢を倒す為に仕向けたのは間違いないと考える。



「とにかく、彼を回収して――!?」


 桜野を回収しようとした矢先、柏原の目の前に現れたのは蒼のARアーマーを装着した人物である。


 柏原は目の前の人物に関して見覚えがある。アーマーの形状や所持ガジェット、オプションやカスタマイズ――それを踏まえれば榛名・ヴァルキリーとは見間違える事はない。


 結局、オプションやカスタマイズからエクスシアと榛名を見破るのは相当の知識がないと不可能と言う事である。


 この辺りはARゲームの初心者か上級者かを見分ける為のテクニックの一つ――とネット上では言われているが、個人差がある見分け方なのは間違いないだろう。


「エクスシア――何が狙いだ?」


 柏原は着物の下に隠した巻物型ARガジェットを展開し、戦闘機型の式神をエクスシアに向けて放つが、エクスシアには全く効果がない。


 効果がないというよりは、式神がエクスシアのアーマーをすり抜けてしまい、攻撃も回避するまでもなく無効化されているのが現状。


「アキバガーディアンの柏原――柏原隼鷹だな?」


 エクスシアの方は、柏原に用があるようだ。そして、他のスタッフに桜野の回収を任せる事にしようとしたが、こちらも思わぬ人物に妨害される。


「彼には、こちらとしても聞きたい事がある。今のタイミングでアキバガーディアンに引き渡す訳には――!」


 思わぬ人物、それはパルクール・サバイバー運営の提督、夕立ゆうだちだった。


 彼女の装備はフルアーマーや全盛期のガジェットではないが、次世代型の試作バージョンをインナースーツの上に装着している。


 バーニアユニット、特殊タイプのビームシールド、両肩のパイルバンカーユニット……装備しているガジェットは過去に使用していた物の改良版と言うべきか。


 その夕立が、アキバガーディアンの重装備スタッフ等に対し、パイルバンカーで圧倒する。


 ある意味でも地獄絵図と言える光景なのだが、ガーディアンのスタッフは軽傷で済んでいるのは――最新型ガジェットのおかげなのかもしれない。


「サバイバー運営が、エクスシアと手を組むと言うのか?」


 柏原も、エクスシアが何をしようとしているのかの大まかな事は知っている。その為、彼女よりも先手を打って桜野を回収しようと考えていた。


「エクスシアと手を組むことはしない。ただ、今は目的が一致しただけ」


 夕立の方は至って冷静である。逆に、別の目的を向こうに悟らせないという意図もあるのかもしれないが。


 柏原の方は意地でも桜野を回収しようと、更に別の巻物型ガジェットを取り出す。こちらは本来であればいずもが使用している物であるが、今回はレンタル扱いで借りているにすぎない。


 出雲のガジェットと自分のガジェットによるダブル式神召喚――それで倒せるとは思わない。向こうの動きをかく乱出来ればよい方である。


 それを踏まえ、両方のARガジェットから式神を召喚しようとしたのだが――。


「式神の使い過ぎでストックが切れた?」


 遊戯都市奏歌へ向かう前の別勢力による襲撃でも式神を使った影響もあって、まさかのストック切れに柏原は驚きを隠せない。


 別のガジェットを呼び出せればいいが、遊戯都市のガジェット呼び出し方法は秋葉原の物とは大きく異なる為か、それも頼れない状況だ。


 万事休すと――誰もが思っていた、その時だった。



 戦闘から5分が経過し、柏原が苦戦している状況下で姿を見せたのは、予想外のArアーマーを装着した人物だった。


「レーヴァテイン!!」


 エクスシアは問答無用でARビームキャノンを速射し、直撃させようとするのだが――そのレーザーはジャミングで無効化されて命中しない。


 夕立の方はレーヴァテインがいる事に関して、違和感は抱かない。しかし、彼女が柏原を助けた理由が分からなかった。


『今は、こうした無駄な争いをしている場合ではない! アカシックレコードが――』


「アカシックレコードが書きかえられようとしている。今の我々がやる事は、どさくさにまぎれてこの世界のネットを炎上させようとしているアイドル投資家やまとめサイトの連中じゃないのか!」


 上条静南(かみじょう・しずな)は話の途中でARメットを脱ぎ、柏原を含めた周囲のメンバーに訴える。


 どうやら、途中でビスマルクも上条と遭遇し、事情の方を聞いたと考えられるのだが――本当にそれだけの理由があったのかは不明だ。


「まとめサイト――そう言う事か」


 柏原は桜野がまとめサイトの影響で人が変わったと考えていた。しかし、本当はまとめサイトを彼が見た理由は別にあったのでは――と。


 エクスシアの方は無言で退却、夕立はエクスシアとは別の方向に向かった。柏原の方は退却をする気配がなく、負傷していないスタッフに桜野の回収を命じる。


「柏原――あなたは、今回のシティフィールドの一件を知っていたの?」


 上条の一言に対し、柏原が回答をするようなことは一切なかった。しかし、柏原は上条のArガジェットにショートメールを送信する。


【アカシックレコードの改変、そのカギを握るのは――第4の壁】


 メールの内容を見た上条には心当たりがあった。アカシックレコードでも度々言及されていた者、それは第4の壁である。


 その壁とはメタフィクション的には、子の世界とは別の世界を意味しており、その勢力が介入してアカシックレコードの改変をしているという。


「第4の壁、もしかすると――」


 この事を花江はなえ提督に報告しようとも考えたが、ショートメールには他言無用とも書かれており、報告は取りやめる事にした。

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