もう一つの領域(その1)
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3月31日午前12時40分、運営側からの長話は5分ほど続いた。
そして、レースの結果も同時に発表され、そこには蒼空と10人のプレイヤーの名前が表示されていたのである。
『今回は、このような結果にはなりましたが、最終的には出来レースに絡んだとされる一部勢力を締め出す事に成功しました』
『我々はリミテッドを提唱し、超有名アイドルとのタイアップ強要を行う人物をリストアップしております』
『彼らはARゲームをソーシャルゲームの延長線と考え、廃課金が優位になると言うタイプのゲームバランスを提唱するでしょう』
『しかし、ARゲーム本来のゲームバランスは廃課金やチートプレイヤー等の一握りの富豪によって蹂躙されるべきではない』
『真の意味でARゲームを支えるファンであれば、我々の言う事の意味を理解できるでしょう!』
運営からの話は更に続き、マスコミが知りたがっている情報に関しても触れられた。
ARゲームのリミテッドルール、そこに隠された闇を彼らは密かに暴こうとしたのである。
しかし、それは思わぬ勢力に発見される事になった。その勢力こそが――。
『その人物の声に耳を傾けるな――一部は正しい事を言っているように見せかけ、自分こそが新の支配者にふさわしいと語る――Web小説でも典型的な小物だ』
運営スタッフの目の前に現れた人物、それはARガジェットのフル装備に加えてフルアーマー仕様の榛名・ヴァルキリーである。
『私が偽の運営スタッフとでもいうのか? その証拠があれば、見せてもらおうか』
運営スタッフが榛名に証拠を求めようとした矢先――榛名に襲い掛かる人物がいた。
それは黒マントに右目の眼帯、ロングソード型のARガジェットという外見の佐倉提督である。
このタイミングでパルクール・サバイバー運営に所属する提督が乱入するのか、その理由は周囲にも分からない。
実際、訓練された観客でもサバイバー運営を知っている人物は一握りしかおらず、ツッコミが間に合わないという展開なのだが。
同刻、ランキングを別の場所で確認していたのは蒼空ナズナである。
ナズナは順位繰り上げ等で3位となったのだが、今回に限っては充実感は得られない。
その理由は色々とあるのだが、ARゲームを巡っての利権争いや経済的な駆け引き――コンテンツ流通でも問題視されていた部分である。
ARゲームでも他のジャンルやコンテンツなどで言及されていた事を繰り返すのか――蒼空は苦悩していた。
「一次創作から二次創作が生み出されるケースではなく、一次創作から別の一次創作を生み出す流れ――アカシックレコードでも言及されていたテンプレの繰り返し――」
蒼空は何かのデジャブを感じていたのだが、それが何を意味しているのかは分からない。
アカシックレコードに記された事が全て真実ではないというのは分かっている。
しかし、あれが100%嘘であったのであれば、ARガジェットが実際に動作すると言うのは矛盾するだろう。
アカシックレコードが100%フィクションであれば、どのような理由があってもARガジェットがカタログスペック通りの能力を発揮するのはおかしい。
原理としては、変身ヒーローや変身ヒロインの玩具で『実際に変身できません』という注意書きがあるのと同じ――。
「そこに気付いてしまったら――後戻りはできなくなるわね」
蒼空の隣に姿を見せたのは、私服姿の大和アスナである。
今まで、彼女は何処に姿を消していたのか――という位には目撃情報がネット上に転がっていない。
一体、彼女は何を知っているのか?
「アカシックレコードは、一体何なのですか?」
蒼空の言う事に対し、大和はあっさりと答えた。
「諸説が多数あってネット上でも有力と言える物がない――という断りを入れた上で言うと、アカシックレコードは特許と言ってもいい」
大和の一言を聞いた蒼空は凍りついた。今まで何を考えていたのか、深く考えて過ぎていたのが嘘みたいな話である。
間違いなく、諸説ある中でもあまりにも真実からは遠い説だろう。