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黒のアキバガーディアン

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 3月某日、アキバガーディアンではある勢力の情報を入手していた。


 それは、一足先に潜入していた神埼ハル(かんざき・はる)から提供を受けた物である。その情報とは――。


「榛名・ヴァルキリーか――」


 ある幹部の一人は、榛名はるな・ヴァルキリーと名乗る人物がアキバガーディアンを名乗っている事に不快感を持っている。


「あの人物の宣言と思わしき動画を確認した。確かに我々と似たような目的を宣言はしている」


「しかし、我々の名称をそのまま使うのはまずいでしょう。商標を持つタイトルが勝手に使われているような――」


「アキバガーディアンの名称で印税を稼ごうと言う事ではないので、この話は終わりという方向で」


 着物とも受け取れそうな服を着た男性、彼がアキバガーディアンの支配人である。彼の一言を受け、周囲のざわついていたスタッフも静まり返る。


「あなたがそう言うのでしたら、我々は指示に従いましょう――」


「こちらとしては、向こうよりも政府系のコネを持ち始めた芸能事務所を中止すべきと考えますからね」


「ネット上のつぶやきでは、暴走した行為に出ている芸能事務所は確認出来るだけで10近く――」


「CDチャートの不正操作、一部コンテンツに対する炎上誘導は朝飯前――更には、不正ガジェットの流通という危険度の高い行為も確認出来ます」


「国会に発言権を持った超有名アイドルや芸能事務所は、自分達以外のコンテンツを潰そうと色々な手を使って印象操作をする――そう言う物だよ」


「それは、アニメオンリーの某テレビ局以外――という認識で問題ないですね」


「そうなるだろう。超有名アイドルコンテンツを賢者の石と勘違いしているのは、どの世界でも一緒だった」


「超有名アイドルの芸能事務所を取り壊せば終わり――という訳ではなかった。その点は過去の事例から学習すべき事だろう」


「我々は不特定多数の勢力を無差別に攻撃するような存在ではない。そうした無差別破壊行為は――ネットを炎上させようと言う悪意を持った連中と同じになる」


 午後の会議では榛名の一連の行動に関して対策会議が行われていたのだが、榛名に関しては様子見をするという事が全会一致で決まる。


 一部の出席者からは過激な発言も飛び出したのだが、それらは超有名アイドルの芸能事務所に対してのみで、今回の議題である榛名には向けられていない。


 もしかすると、出席者の中には榛名側に情報をリークしている人物がいる可能性も――というのはキリがないと思う。


「ただし、これはアキバガーディアン内のみに限定された話。他の勢力が遊戯都市へ侵入している場合、その限りではない事を覚えていて欲しい」


 最後に支配人でもある柏原隼鷹かしはら・じゅんようの一言で会議は終了し、参加したスタッフは会議室の出入り口から出ていく。



 同日午後1時20分、柏原は会議室の片づけを女性スタッフと行っており、その合間にARパルクールのレースを観戦していた。


「サバイバーはランニングガジェットの影響で、ホバー移動やロケットブースターと言う走っているかどうか判断しづらいアクションも多い」


 片付けが一段落し、柏原は右手に冷えたお茶の入った湯呑を持ち、会議室に置かれた大型モニターでレースの中継を観戦する。


 観戦しているのは榛名・ヴァルキリーもエントリーしていたレースで、トラック形式の2周コースだ。


「シティフィールドとサバイバーが違うのは、民家やビルにもARフィールドが展開されている部分か」


 サバイバーでは観戦中の事故を防ぐ為に観客席部分に、ARガジェット系の衝撃を防ぐバリアが展開されている。


 このバリアは太陽光及び謎エネルギーのハイブリッドだが、謎エネルギーが何なのかは不明とされていた。


 一時は太陽光と特殊エネルギーと言われていたが、世代を重ねる内に高性能なエネルギーへ変えた結果、現在は不明とされている。


「あの動きを再現するには――」


 ARスーツで柔軟な動き、それはアスリートがマラソンを走るような――サバイバーでは一部でしか運用されていない動きを可能としている。


 サバイバーの方が大型ガジェットでシティフィールドが小型ガジェットと言う理由もあるが――。


 どちらにしても、ここまでの動きを可能にしたパワードスーツと言うのも例がない。これだけの技術があれば、軍事用に転用出来てもおかしくはない。


「榛名・ヴァルキリー……お前は、ARゲームコンテンツを何処へ導くつもりだ?」


 柏原は榛名がARゲームで革命を起こすという部分は理解しつつも、アキバガーディアンとは違う道へ進もうとしている事に対し、疑問を持っていた。


「黒のアキバガーディアンと言うべきなのか――あの勢力は」


 柏原達を白と例えるならば、榛名は黒と言うべきかもしれない。結局、光と闇、表と裏は片方だけでバランスを保つことは不可能なのだ。


 

 3月31日午前12時16分、最初のゴールにたどり着いたランナーが休憩に入り、その間にも3人がゴールをした後の事――。


「今の所、リタイヤした人物はガジェットの反応を見る限りでは問題ありません」


 男性スタッフの報告を受け、責任者も一安心である。他のスタッフも、このまま何も起こらなければ――と思っていた。


「しかし、予想以上に制限時間よりも速くゴールしている人物が多い。コースパターンが漏れているのか?」


「攻略法が確立されるのは、どのゲームでもあり得ますが――ここまで時間が似たりよったりはおかしいです」


 女性スタッフの一人は、ゴールしたランナーのタイムと走った距離を調べており、距離がほぼ1キロ~2キロ弱で統一されている事に疑問を抱く。


「チートが使われていなければ、反則と判定できないが――一応、調べて欲しい」


 運営責任者は特に問題なしと考えているが、万が一という事も考慮してコース上に何か異常反応を示す物がないか確認を急がせる。


 

 同日午前12時20分、蒼空そうくうナズナはガジェットの緊急メンテの為にコンビニに止まっていた。


 ガジェットが謎のエラーメッセージで緊急停止し、サブシステムが起動、その後にコンビニで応急修理を兼ねたメンテを行っている。


 なお、シティフィールドではエリア内に存在するリペアフィールドで修理する分には反則判定を取られない。


 外部勢力による妨害や自然災害でも同じ対応となり、反則及び失格にはならない。災害の場合はレースその物が中止になる可能性もあるが。


「一体、何が起こったのか――」


 メットを脱ぎ、ベンチに座って蒼空は待機をしている。応急修理を行うランナーも中に入るのだが、蒼空はそこまでのスキルを持っていない。


 そうした事情もあって、蒼空はスポーツドリンクを口にして落ちつこうとしていた。


「ゴール間近だったのに、どうしてこんな事になったのか」


 焦ってもレースに勝利出来るとは限らない。そう考えた蒼空は――目の前を通過する人物が目に入った。


「やはり――あの時の連中は芸能事務所側だったのか」


 蒼空の姿を発見した人物、それは花江はなえ提督である。


「お前は――アキバガーディアンの提督か?」


 蒼空は提督服を見たと同時に、ベンチに置いていたARガジェットをロングソード型に展開して花江提督に向ける。


 しかし、ロングソードを向けられても花江提督は全くひるまない。逆に弾き飛ばすような行動も取らず、そのまま立っているだけだ。


「自分はアキバガーディアンとも違う。しかし、それを議論している時間もないだろう」


 無抵抗の人物に対し、ガジェットを向けるのもARゲームのガイドライン違反につながる。花江提督が反撃をしなかったのは、そこに影響しているだろうか。


 それに加え、シティフィールドは武器使用可能ルール以外でのウェポンモードは禁止されている事もあり、蒼空は剣を下げるしか選択手段がなかった。


「今回妨害してきたのは芸能事務所と言っていたが、それは本当か?」


 蒼空も襲撃してきた勢力に関しての事は知らない。向こうもランナーだった事もあり、攻撃をしてこないと思ったのが仇となったのか?


「それが特定出来たかどうかは不明だが、襲撃してきた連中のガジェットからは特殊な電波が発信されていた」


「つまり、不正チートを使っていたと?」


「不正ツールであれば、水際で阻止できるだろう。問題は、その電波を受信したガジェットは――」


「それが本当だとすれば――どのガジェットも超有名アイドル勢力によって操られる危険性がある事に」


 花江提督の一言、それは蒼空にとっても衝撃的な物だった。

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