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迷宮都市群(その2)

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 3月31日午前11時50分、ヘッドバイザーでコースを再チェックをしていたのは蒼空そうくうナズナである。


「コースに関しては、進入禁止ゾーンを使わなければ問題はないという事だが――」


 進入禁止ゾーンとは、一部の交通量が多い道路をARゲームで封鎖出来ない為、ARガジェットの通行を禁止しているエリアだ。


 このゾーンへの侵入も、基本的にはコースアウトと同じ扱いを取られ、失格処分を受ける。


 下手をすれば大事故になりかねない為、そうした事情を踏まえての侵入禁止でもあるので、入ってしまった場合の事故は――どう転んでも自己責任になるだろう。


 それだけではなく、文化遺産等に傷が付いたとしたら、ARゲームが環境破壊につながると言う風評被害を受ける事も避けられない。



 先頭グループは進入禁止ゾーンへの侵入を避けつつ、ルートの計算をしているメンバーもいた。


 しかし、1キロジャストを走ったとしてもタイムレースではないので――スコアの方は望めない。


 一方で制限時間と言う者も設定されている関係で、距離を稼ぐのも問題がある。稼ぎ過ぎてゴールにたどり着けない場合、これが意味するのはリタイヤだ。


 そうした極限とも言えるルールが設定されている事にも理由がある。ひとつはチートプレイヤーのあぶり出しだが、そこまで神経質になっている運営もゼロではないが、多いという訳でもない。


 もう一つ理由があるとすれば、ARガジェットのトライアルだ。ARガジェットやアーマー関係は日進月歩と言う程に進化のスピードが家庭用ゲーム機やスマートフォンよりも早い。


 第1世代がどの辺りなのかは不明だが、最低でも西暦2000年代後半か終盤辺りとされている。


 その後、第2世代、第3世代と積み重ね、現在は第7世代とネットでは言われているのだが――。


 第6世代が西暦2016年と言われている為、そのスピードが早いのは別の意味でも恐ろしいと別の業界人が経済雑誌で語っていた。



 蒼空はコースチェック後にガジェットのオプション画面を開き、マップのアップデートをその場で行う。


 マップのアップデートは午前11時に開始されたのだが、蒼空のガジェットは自動アップデートにしていなかった為、ゲームプレイ前には更新できなかったのだ。


「やっぱり――侵入禁止ゾーンが広がっている」


 一直線に進もうと考えていたのだが、コースマップをアップデートした結果、数百メートル直進したら、進入禁止ゾーン。つまり、失格になる所だった。


「この辺りはショッピングモールも作られているという話だが――」


 結局、蒼空は最短ルートを諦め、谷塚駅へ向かうルートを選び、若干の迂回ルートで距離を稼ぐ事にした。


 スピードレースではないのは百も承知だが、時間切れでリタイヤも怖い。それは他のプレイヤーも一緒のはず。



 午前11時55分、制限時間として設定されているのは午前12時30分――運営としては順調なレース進行に安心している。


「やはり、チートプレイヤーが使用していたガジェットは違法改造された跡があったようです」


 男性スタッフが運営責任者と思われる人物に没収したガジェットを見せる。見た目は純正品と見間違えるのだが、微妙な場所で正規ルートのガジェットと違う部分もあった。


「デジタルプリントの位置が違う、USBの存在、それに――スマートフォン連動か」


 実際には第3世代か第4世代辺りの仕様をチートで強化したようなガジェットであり、純正品と見間違えても仕方のない箇所はある。


 それでも、現状で使用されているのが第7世代及び第6世代である以上、あっさりとチート使用疑惑が浮上してもおかしくはない。


「どうしますか?」


「一応、運営には報告をしておこう。どちらにしても、これは許しておくべき所業ではない」


 運営側も今回の一件は許せる範囲を超えた行為であるという認識であり、今後のARゲーム運営にも影響を及ぼすのは避けられないとの事だった。



 午前12時、運営のテントに姿を見せたのはパルクール・サバイバー運営の提督服を着た人物だった。


 その人物はARガジェットも右腕に固定している。その形状を見る限りでは第7世代を超えた第8世代の試作型だろうか。


「パルクールシティフィールドの運営は、ここか」


 現れた人物は女性であり、シティフィールドの運営も知っている顔だった。


 その為、彼女が自己紹介をしなくても事情は即座に把握出来る。それ程に意思の疎通は出来ていた――と言えるかもしれない。


「阿賀野菜月――シティフィールドに対して、特許侵害でも訴える為に来たか?」


 阿賀野菜月あがの・なつき、サバイバーの一件ではさまざまな活躍をしたと言われ、彼女の武勇伝は遊戯都市奏歌ゆうぎとし・そうかにも届いていた。


「そんな些細な事で特許侵害を言うわけはない。さすがに夢小説勢やフジョシの悪目立ちする実在提督やプレイヤーのカップリング小説は――こちらが警告するが」


「冗談を言う為に来た訳ではないようだが、何の用だ?」


 スタッフの方も長話をしている余裕はなく、阿賀野の軽い冗談もあっさりとスルーしていた。


「では、率直に用件だけを言う。シティフィールド運営はサバイバー運営に情報開示をしてもらいたい」


 阿賀野はパイプテーブルに手を軽く叩き、スタッフに対して情報開示を求めた。運営としては内容によってはカイジをしているのだが、条件付き開示の物もある。


「何を求める? 内容によっては、こちらも正規の手続きを必要とするが」


 スタッフの一言を聞いた阿賀野は、ARガジェットのデータを手慣れた手つきで検索し、その情報をスタッフにも見せる。


 データに関しては一部黒塗り、写真に関してもNODATAと書かれた画像に差し替えられていた。


 該当するデータを立体映像の方式で表示し、阿賀野はスタッフの反応を試しているのかもしれない。


 書類らしき物には、遊戯都市奏歌とある企業の名前が見て取れるのだが――。


「芸能事務所が提示した内部告発と思われる書類――これは、まとめサイトやアフィリエイト欲しさの管理人がでっち上げた物という認識で間違いありませんね?」


 阿賀野の遠回し的な発言も気になるが、書類の内容は超有名アイドルとARゲームがタイアップをするという記事と、その契約に関する書類らしい。


「その書類自体が芸能事務所のでっち上げじゃないのか?」


 書類の存在を運営側は否定する。しかも、堂々と。普通ならば、この手の書類で動揺するはずだが。


「なるほど。この書類自体が存在しない――とでも言いたいのですか」


 阿賀野は、この段階で芸能事務所に関する情報が何らかの形で隠蔽されている可能性を考えた。サバイバー事件を含め、いくつかの事例と全く同じである。


 ここまでWeb小説並のテンプレ展開になるとは――と阿賀野は半分呆れかえるのだが、それでも何か引っかかる部分があると思う。



 同時刻、花江はなえ提督はゲームセンターにいた。丁度、今回のトライアルレースに参加しているランナーが目の前を通過した所だ。


「なるほど。そう言う事か――」


 花江提督も阿賀野の言っている超有名アイドルとARゲームのタイアップに関する問題を調べていたが、思わぬ場所で証拠を見つける事になろうとは思わなかった。


「ARガジェットのデジタルプリント技術――それに、ARゲームのCG演出を逆手に取るか」


 サバイバーでもゼッケンの番号をプリントする際、ランニングガジェットの装甲部分に番号を設定し、それをデジタルプリントする技術があった。


 それに、痛車の応用で痛ARガジェットと言う物も存在し、ネット上では流行しつつある傾向にある。


「別技術を利用した超有名アイドルの宣伝――。アカシックレコードの悪用が、また繰り返されるのか」


 花江提督は変わりつつあるアカシックレコードの記述に対し、超有名アイドル商法のテンプレが更新されていない事に懸念を持っていたが――全ては繋がった。

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