表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/95

燃え続ける火種

###


 3月31日午前11時45分、遅れに遅れたトライアルレースは無事にスタートした。


 さすがにフライングは確認されなかったが、仮にフライングが出た場合には更にレースが遅れるだけにブーイングの可能性も――。


「タダ乗り便乗勢力に稼がせておいて、本家が苦しい思いをするという展開は――もう見ていられない。だからこそ、便乗勢や超有名アイドル投資家を排除しようと考えた」


 悔しい表情で会場を後にする瀬川菜月せがわ・なつき、彼女は過去に自分の好きだった作品で便乗勢力や悪目立ち勢力の影響を受け、ここでは言い表せないような惨状になったのを覚えている。


 だからこそ、ARゲームには同様の悲劇を起こして欲しくない。超有名アイドル投資家は、自分達が儲かれば他の勢力は切り捨てる――モラルブレイカーとも言われる人間なのだ。



 自分の時は超有名アイドル商法に関して告発し、追い詰める所まで行った。しかし、そこで思わぬ妨害が入って失敗した。


 その妨害とは、自称正義の味方とも言える集団。実際、彼らの行動実体は不明であり、後につぶやきサイトで集められたフラッシュモブや悪目立ちしたいだけの集団だと知らされる。


 その現実を知ったとき、自分は絶望した。彼らはまとめサイトの収入源とも言える芸能事務所が潰されては困ると言う事で、芸能事務所側に味方したのだ。


 極めつけは、テレビ局に根回しを行い、超有名アイドルが正義と言う事を徹底する事だった。


 ここまで来ると超有名アイドルと言う賢者の石コンテンツに縛られたディストピア――その一言が似合うだろう。



 その後、事件に関しては自称正義の味方を名乗った集団が未成年だったという事もあり、テレビで裁判の様子が報道される事もなく、うやむやに処理された。


 処理という言葉が不適切なのは百も承知だが――。



 これらの事件がどのような美談にされたのかは瀬川の知る所ではない。アカシックレコードにも、詳細を記したアーカイブは少数しか残されていないからだ。


 別のアカシックレコードを探れば、それなりの情報は出てくる。しかし、瀬川はその権限を持っていない。


「サバイバー運営は、超有名アイドル商法に関して何かを握っている。だからこそ、遊戯都市奏歌へ来たのではないのか」


 瀬川は思う。遊戯都市奏歌ゆうぎとし・そうかの目指すコンテンツ流通は、まだ未完成であると。


 だからこそ、過去の悲劇を繰り返さないようなガイドライン整備を急ぐ必要があるのだ。


「自分の妄想ばかりを押し付けるような二次創作を生み出す夢勢力――それを完全に駆逐するのは不可能だが、あの世界の技術があれば――」


 瀬川は自分にアカシックレコードへのアクセス権限がない事に焦り、最終的には夢小説勢の駆逐や悪目立ち勢力の排除と言った力技でコンテンツ流通の正常化を行おうとしていた。


 しかし、その彼女の前に姿を見せたのは予想外の人物だった。



「今のあなたは、過去の自分と同じ。それではまとめサイトの連中と言っている事が違っても、やっている事は同じよ」


 目つきは明らかに瀬川を憐れんでいるようにも見える。そして、その人物は――。


「レーヴァテイン――」


「今は、その名前を使っていない。私の名前は上条静菜よ」


 瀬川はバウンティハンターとしてのレーヴァテインで認識していたが、今の彼女は上条静菜かみじょう・しずなである。


 上条の方も私服と言う事もあり、この場で戦おうと言う事はしないようだ。しかし、瀬川にとっては逆にチャンスと思ってしまう。


「アキバガーディアン、あの得体のしれない連中とも戦ったお前が、私の理想を邪魔するの?」


 瀬川はロングスピア型のARガジェットを構える。先端の槍はCGであり、実際に上条の身体を突きさす事はない。


「悪目立ちする人間にも、ARゲーム勢や音ゲー勢等に対して不満を持っている人物もいる。その意見を無視して自分の言い分だけを――」


 上条の一言は瀬川に聞こえておらず、遂には瀬川が槍を振り回し、上条に襲い掛かる。

 

 しかし、上条が槍で切り裂かれたような事はなく、無傷で立っている事に瀬川は動揺していた。


「あの連中は自分と意見を同じにする人物としか繋がらず、自分の理想とするカップリング以外は否定しようとする――」


 気が付くと、瀬川はARスピアを落としていた。そして、手を地面に付けた状態で涙を流す。


「自分も過去に他の勢力を駆逐すれば全てが変わる――そう思っていた時もあった。しかし、アカシックレコードは予言書でもなければ、無類のチートでもない」


 上条は瀬川に対し、アカシックレコードが万能のチートアイテムではないと断言する。


「Web小説のチート――それさえあれば、全てを変えるのも思いのまま――そう思っていた時期もあったのに」


 最終的に、瀬川は自分のやってきた過ちを後悔していた。自分が中途半端な知識を振るった事で、周囲を炎上させているだけだったとは。


「チートは万能ではない。所詮、付け焼刃の能力では、本職のトップランカーに勝てるはずもない。観客もドーピングを使った選手がどうなるか――」


 上条は他にも何かを言ったような気がしたが、今の瀬川がそれを聞き入れたかどうかは定かではない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ