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可能性という名の世界線

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 3月31日午前11時20分、谷塚駅近辺のアンテナショップで様子を見ている女性がいた。


「エントリー人数が50人を超えるのか」


 テーブル席に座り、ホットコーヒーを飲みながら菓子パンに手を付けていたのはビスマルクである。


 先ほどまでは草加市の方にいたのだが、レースの方で有名ランカーが出ると言う情報を入手し、谷塚駅までやってきた。


 その道中では超有名アイドル投資家等の襲撃を受けるのだが、あっさりと撃破し、アイドル投資家は遊戯都市のガーディアンへ突き出している。


「さて、どれだけのランナーが最終的に生き残るのか見ものだな」


 マラソンの選考レースと言う訳ではないのだが、世界大会への代表に選ばれる為に駆け引きを展開した結果、代表選考レースに無関係な選手が最高順位を取ったというニュースもある。


 ARパルクールはパルクールの世界選手権等への出場権利が得られるレースではないが、それでも熱狂するファンは多い。


 それがARゲームにはよくある事と言及されるのだが――。



 同日午前11時25分、スーパーの方が混雑してきた。


 一般客とシティフィールドの観客が一気に――というのもあるのかもしれない。


 それでも混雑でトラブルになる事はなく、それが逆にシティフィールドのギャラリーが紳士的だという評価が広まる結果となっている。


 他のARゲームでは観戦マナーが問題視されたり、超有名アイドルとの裏取引等がネット上で炎上するネタとしてテンプレ化していた。


 それ以外にもARゲームでトラブルが起こるケースも稀にあり、全てのARゲームがシティフィールドや一部作品の様に観戦マナーが良いというケースはないようである。


「あれがシティフィールドか。お手並み拝見と――」


 提督服にボロマント、右目に眼帯と言う異色の外見をしているのは佐倉さくら提督である。


 彼女も別の目的があったのだが、シティフィールドのレースがどのようなものか実際のレースを見たいらしい。


「シティフィールドとサバイバーでは――ランニングガジェットの様な大型タイプの使用制限がある事ね」


 佐倉提督の隣にいるのは、こちらも今回は白い提督服でガジェット未装備の夕立ゆうだちだった。


「夕立、お前はパルクールガーディアンの任務があるはずじゃないのか?」


 佐倉提督が気にしているのは、夕立の任務についてである。彼女は花江はなえ提督の救援依頼には応じたが、仮にもガーディアン所属だ。


 ガーディアン内でもサバイバー事件当時はトップランカーと言っても差し支えのない実力を持ち、別事件ではリーダーを担当した事もある。


 それを知った上での佐倉提督の発言だが、夕立の方は余裕そうな表情を浮かべている。


「ガーディアンの方は別の人物に任せている」


「ずいぶんと余裕だな。お前以上の実力者がいるとは――到底思えないが」


「超有名アイドルの様な金の力で得たような称号であれば、あっさりとピラミッドは崩壊する」


「夕立、言っておくが超有名アイドルの連中は――」


「自分が認めた人物でなければ、パルクールガーディアンは務まらない」


「つまり、自分が認めた人物だから金や物で釣られて、称号をあっさり譲る人物ではない、と」


「そう言う事だ。それ位の人物でなければ、コンテンツ業界の再生は出来ないだろうからな」


 2人が長話をしている間にスタート地点である新号近くには多くのランナーが集まっていた。



 同日午前11時30分、レース開始時刻となってもスタート地点にはランナーがまばらにしか集まっていない。


「また、時間の変更か?」


 あるプレイヤーの一言で、周囲も抗議する流れになると思われたが――ある人物の出現で、思わぬ方向へと進む事になる。


「悪いが、時間の変更はない。単純にチートプレイヤーを除外した結果だ」


 姿を見せた人物は黒い提督服に軍帽を深く被っている。その為か、この人物の目つきは確認できない。


 しかし、体格を見る限りでは男性――と思われたが、この人物が提督服を脱ぎ捨てた瞬間、周囲がざわめいた。


「私はレースに参加しないが、これ以上のARゲームが風評被害を受けるのは耐えられない――その結果として、このような手段を取った」


 その正体は、瀬川菜月せがわ・なつきだったのである。これには、夕立の方も驚きのあまりに声が出なくなった。


「アキバガーディアンが先手を取ると思ったが、第3勢力も動いていたとは――」


 佐倉提督の拳が震えている。自分としては、彼女を何としても阻止しようと考えていた。


 しかし、この場に出て行って、彼女を止めたとしても超有名アイドルファン等が炎上を誘導するつぶやきを流せば、ARゲームへの風当たりはさらに悪くなる。



 同日午前11時32分、この状況を変えるべく動いたのは蒼空そうくうナズナだった。蒼空の顔はバイザーで隠れている為、目つきは見えないのだが――。


「余計な手出しをするな――と言いたい目をしているな」


 瀬川は蒼空の表情を察している。しかし、それでもチートプレイヤーを走らせるわけにはいかない。


 これを覆せば、ドーピングをした選手を同じトラック競技で走らせるのと一緒だ。


「チートを使った人間――その人間全てが悪目立ちや超有名アイドルの宣伝が目的ではない」


 蒼空の言う事も正論だ。しかし、瀬川にも譲れない理由はある。


「ARゲームでチートを使うと言う事は――簡単に言えば、有名ジャンルのクラスタ人気に便乗してビジネスを行う様な連中と同じ事」


「その例えを持ちだすこと自体、ARゲームでは認められていないはず。ARゲームのフィールドでそれ以外の騒動を持ち込む事を禁止する――」


「そのガイドラインは――!?」


 瀬川の言う事に対し、蒼空はタブレット端末に最近改訂されたばかりのガイドラインを表示させ、該当項目を指差す。


 これに対し、瀬川の方は反論できなくなっていた。チート勢を排除するのは正しい事だが、それとこれとは話が違うと言う事だ。


「アカシックレコード、世界線、それに――」


 蒼空は他にも言いたいような気配だったが、レースの遅延行為はペナルティの対象になる。


 これ以上の発言を続けると、今度は運営がイエローカードを出しかねないと判断し、引き下がる事にした。

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