壮絶なるブラフ
###
3月31日午前10時、おとといの炎上事件に関してはマッチポンプだったという説が浮上した。
その理由として、炎上の流れが他のコンテンツで炎上するようなパターンとは違った事、フジョシ勢や夢小説勢が大量摘発された事が挙げられる。
これに関しては敵対勢力や炎上する可能性のあるコンテンツを排除する為――というのは単純過ぎるだろう。
そこまで簡単であれば、ニュース番組も視聴率争いとしてのコンテンツに利用するはずだ。
「やっぱり。そう言う事か――」
少し前に芸能事務所がARゲームとタイアップを組む為に遊戯都市奏歌へ――というニュースを見た。
それに関して若干冷めた反応になっているのは、このニュースしか取り上げないような視聴率稼ぎのワイドショーに飽きているからだろう。
アキバガーディアンやARガジェットのチート問題――他にも触れるべき話題はあるはずなのに。
テレビで情報を仕入れるはずが、視聴率争いに巻き込まれた事について、ビスマルクは自室で頭を抱えていた。
「アカシックレコードの編集ログ――あれもブラフだとすれば、柏原の狙いは何だ?」
結局、テレビ番組からは情報が手に入らない為、別のチャンネルを回す。丁度、ある商品を宣伝する所だったのだが。
『次の商品は、ARガジェットとも連動できるコンパクト充電器のご紹介です』
ARガジェットは基本的に太陽光等を電力に変換し、その電力で動いている。詳細な構造はトップシークレット。
アンテナショップでも大まかな説明は可能だが、細かく言及されると企業機密の一言。
太陽光発電のシステムを利用しているのは事実であり、そちらの技術が他のARガジェットやアンテナショップの発電システムにも活用されている。
それなのに、コンパクト充電器が通販番組で宣伝されているのは――何かおかしいと感じていた。
「企業機密が外部にリークされるとも考えにくいが――」
特定会社にのみ情報が提供されているとは思いたくないが、そう感じ取られても仕方がない状況になっている。
まさか、テレビの通販番組で明らかに鳴るとは予想外の結果であり――ネット上の反応も想定の斜め上と言う感想が多かった。
同日午前10時30分、八郎丸提督は草加市の方にいた。あるつぶやきを受けての事だが――。
「してやられた――」
先日の北条提督への電話、それ以外にも複数の人物に連絡済み。それは竹ノ塚駅での一件のみ。
しかし、今度は草加市で同じような事件が起きた事である。こちらの方も特定勢力を釣り上げる為の囮と否定できないが。
「どちらにしても、これで芸能事務所がARゲームのタイアップを強引に進める事は確定か」
芸能事務所がゴリ押しに近い超有名アイドル商法を行った事で、日本経済的には救われたが、他のコンテンツにとってはディストピア同然だったというのは有名なコピペだ。
今回もコピペを悪用した別勢力潰しと考えていたのだが、アイドルファンが使う様な物ではない物が使われた為、コピペと見せかけた抗争に持ち込む可能性もある。
八郎丸提督が発見した物、それはARゲームに使用する特殊ドローンである。
厳密にドローンと言うには、操縦する為のリモコンが発見されていない為、ビット兵器を何者かが迎撃したとも言えるのだが――。
「ARガジェットでSFアニメにあるようなビット兵器を再現した事例は、公式サイトでも確認されて……?」
八郎丸提督は冷静に考え、ある人物が類似兵器を使っていた事を思い出した。丁度、フルバーニアン事件の前後なので、記憶に新しい物である。
「どちらにしても、事態をややこしくしているのは超有名アイドルなのか――それとも、サバイバーの運営なのか?」
サバイバーの提督であれば、サバイバーで使用する大型ガジェット――ランニングガジェットの様な物も運用している。
それを踏まえれば、遠隔操作型ドローンやビット兵器の類もロケテストしていても不思議ではない。
しかし、ドローンに関しては過去のドローン事件が関係して規制が厳しくなっているはず。ビット兵器として転用するには、法律をクリアした物を作るのは難しいだろう。
同日午前10時40分、遊戯都市奏歌に属する草加駅エリア、その近くにあるコンビニで肉まんを食べていたのはビスマルクである。
「結局、昨日は情報を得られず――今日も同じパターンになるか」
昨日、奏歌の方で色々な場所へ訪れたのだが、榛名・ヴァルキリーの情報を得ることは出来なかった。
正確に言えば、ビスマルクが調べていたのは榛名の正体に関する情報である。ここまでやって収穫ゼロとなると、どれだけの秘密主義を貫いたのかが分かるだろうか。
「唐突に姿を見せて『私がラスボスだ』みたいな事を言われても――と思うけど」
ビスマルクが懸念していたのは、ARゲームのタイアップ問題もだが、榛名の目的も謎のままだった。
アキバガーディアンと類似した考え方を持っているとネット上では言及されるも、それを周囲は否定する。
否定と言っても本人が言った訳ではないので、悪目立ちしようとする人間による悪意を持ったつぶやきなのは明白か。
「そう言えば、ここ最近になって勢力を伸ばしているクランがあると言う話――本当かしら?」
改造軍服の上着を直し、他にも購入した菓子パンやドーナツは後で食べる分として、持ち帰る事になった。
結局、コンビニの前で食べたのは肉まんとペットボトルのお茶だけである。
同日午前10時45分、榛名・ヴァルキリーは草加駅の近くで蒼空ナズナと会っていた。
草加駅と言っても、ビスマルクがいたエリアではなく、草加市エリアに該当する草加駅――草加市役所近辺である。
『君の走りを動画等で確認させてもらった。あの走りであれば、アキバガーディアンに――』
「その話であれば、断ると言ったはず」
『今の状況、分からない訳ではないだろう。芸能事務所によるゴリ押しタイアップ――莫大な金と言う名のチートを振り回す存在、それをアキバガーディアンは許さない』
「確かに、ここ数日のARパルクールは政治的とも読み取れる駆け引きが行われているのは知っていますが――」
『そこまで知っていて、クランに所属せず――フリーのままに走ると言うのか?』
2人の言い争いにも似たような議論は平行線をたどっている。あまり騒がないのは、榛名、蒼空共にARバイザーを使用している為だ。
会話の内容が内容の為、外部に漏れないようにシステムを変更して会話をしているのだが――。
このゲームはARパルクールと呼ばれているジャンルよ。それに、このARゲームは草加市の地域振興対策として行われている――。
会話をしている最中、蒼空は大和アスナが言っていた内容を思い出す。何故、このタイミングで思い出したのか。
「自分は、遊戯都市奏歌としてのコンテンツ流通も、草加市の地域振興としての側面も――どちらが正しいとは決められません」
この一言を聞いた榛名は、結局は平行線であると考えたのだが――。
『そこまで言う以上、お前の走りを見せてもらおうか』
榛名は何を蒼空に求めているのかは不明だが、今の走りを見て見極めようとしていた。