柏原準鷹の仕掛けた計画
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3月30日午前11時30分、昨日の一連の炎上勢力を一斉摘発したのは偽者のアキバガーディアンだと言う事が発覚する。
実は本物のガーディアンに関しては、密かに炎上勢力の探りを入れていた――という事らしい。
その真相を知っているような人物は作戦参加者以外には存在せず、ネット上にも情報が出回っていないので真実かどうかを確かめる手段もない。
「更に偽者の勢力が炎上勢力を一掃するとは――こちらも計算外だったが」
アキバガーディアンの本部指令室で指示を出していた柏原準鷹も、ここまでの展開になるとは思っていなかったのである。
彼は昨日の内に炎上勢力の情報を整理し、彼らの正体を見破る事を第一に動いていた。
「水面下で情報を探ったつもりが、向こうに利用される事になるとは――計算外と言うべきか」
しかし、偽者のガーディアンが本物の動きに関して動向を見極めていた事には柏原も気づいていなかった。
それが、昨日のアレに繋がったと言えるかもしれない。
「仮に向こうが動向を見極めていたとしても、こちらの真の目的には気づいていないだろうが」
例のプランに関しては向こうも気づいていないだろう。それでも、アカシックレコードを使用した事に関しては――。
昨日、柏原はコンビニから戻った足でタブレット端末の電源を入れる。この端末に関しては持ち出しNGという厳重管理された物だ。
厳重管理と言う割には、パスワードによるプロテクトのみだが――そのパスワードを知っているのは柏原だけ。
「向こうがアカシックレコードを悪用するのであれば、こちらも対抗策を使わざるを得ないだろう」
彼がパスワードを入力した後、タブレット端末が光る訳でもなく、普通にOSが立ち上がり、デスクトップ画面が表示される。
しかし、問題はここからである。柏原がブラウザソフトを画面のタッチ出立ち上げると、次の瞬間にアカシックレコードを取り扱うサイトが一発で表示された。
このサイトに関しては一般ユーザーが知っている物とは全く違い、アキバガーディアンでも一部の人物しか知らない物だ。
サイトのデザイン及びトップページが完璧に別物であり、それを柏原が知っている事にも疑問が残る。
「このアカシックレコードは、出来る事ならば使いたくはなかった。これはタイムマシンに匹敵する世界線変動を呼ぶ物――」
柏原がこのアカシックレコードサイトを使いたくなかった理由、それは別の世界線で閲覧されているアカシックレコードサイトだからである。
唯一の欠点と言える物があるとすれば、アーカイブデータとして閲覧が可能なだけ。自らがサイトに書きこむ、サイト内の記事を編集する事は不可能だが――。
それでも、十分のおつりがくるほどの価値があるデータなのは間違いない。
「この記述か――あの勢力に関係する記事は」
柏原が見つけた記事、それはまとめサイト勢に関する物であり、俗にいうアフィリエイトで利益を上げている勢力だ。
そして、この勢力に関する記事を自分達の世界にあるアカシックレコードにコピペした結果――予想以上の効果が生まれたのである。
悪目立ち勢力を含めたつぶやきサイトのアカウントが一斉凍結、関連性が薄いと思われたヴィジュアル系バンドの芸能事務所を家宅捜索、一部アイドルファンを緊急逮捕等――。
ある意味でも別世界のアカシックレコードがチートと呼ばれる理由も、ここからきているのかもしれない。
自分達の世界では強いだけの技術が、他の世界では世界を変える程のチート兵器へと変化する――アカシックレコードの悪用が招く末路を端的に表現したような出来事なのは間違いないだろう。
夢小説勢やフジョシ勢がアカシックレコードに対して無知と言う訳ではないはずだが、これほどの情報発信力を持つとは想像していなかったはずだ。
そのヴィジュアルバンド系の夢小説勢等は逮捕される流れとなり、事件を起こした理由が判明したのも昼頃だと言う。
最終的には他世界のアカシックレコードを使用した形跡を残さないように記事を編集し、何とかチートを使用した事は外部に発覚する事はなかったと言う。
他世界のアカシックレコードを使用すると言うのは、こういう事である事を柏原は何度も分かっている――はずだった。
「地球を消滅させるような程のチートを使うのは――Web小説の異世界転生系だけで十分な話だ。我々の世界で行うべきではない」
こうして、柏原の仕掛けた計画は見事に成功した。
しかし、今回の編集ログが密かに保存されていた事を彼は気づいていなかった。
「アカシックレコードの――別バージョン?」
別の調査をしている途中、不自然な記述変更を見つけたのは、改造軍服姿でタブレット端末を見ていたビスマルクだった。
「まさか――別世界の住人がこの世界への介入を始めている?」
ビスマルクは、とある懸念を今回のアカシックレコードで疑問に持っていた。
アカシックレコード、それが自分達の世界以外にも存在する事は過去の事件でも言及されている。
それは、フィクション的な何かという訳ではなく――メタ要素として存在しているとビスマルクは考えていた。
「どちらにしても榛名・ヴァルキリーの正体は――」
ビスマルクのタブレット端末に表示された人物、それは榛名・ヴァルキリーの正体でもあった。
「柏原が考えるアキバガーディアン、別の世界線上に存在するアキバガーディアン――この世界の住民はどちらを信用するのか」
そして、ビスマルクはあるエリアへと向かう。そのエリアとは――遊戯都市奏歌である。




