新たなる提督(その4)
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3月28日午前10時15分、佐倉提督と阿賀野菜月はある物に関して確信に辿り着く。
「なるほど。そう言う事か」
佐倉提督が引っ掛かるものを感じていたのは、榛名・ヴァルキリーがアキバガーディアンの紋章としていたデザインである。
これは、本来のアキバガーディアンの紋章を意図して真似た偽造物ではない。ある人物がアキバガーディアンと勘違いし、それが拡散した物という説も高い。
「そのエンブレムはアキバガーディアンの本来の物ではない。これが、その証拠だ」
佐倉提督は、目の前にいる大和アスナに対し、本来の紋章を見せた。それは、同じ隼をモチーフとした物だが、細部が色々と異なっている。
「どういう――事なの?」
大和は動揺をしていた。そのレベルは一般人レベルを若干超えている規模で。
それに加え、今まで襲撃してきた人物を撃退してきたが、それも本物ではないという説が有力となった。
その為、大和は自分が倒してきた勢力は本当にアキバガーディアンだったのか――という疑問も逆に浮上する事となる。
「おそらく、先ほどのアキバガーディアンは超有名アイドルファンや他コンテンツの暴走ファンが、アキバガーディアンの行動に関して印象操作をする為の物だろう」
逆に、阿賀野の方は冷静に分析をしている。今の様な事が繰り返されれば、不正な利益を得ようとしている勢力が超有名アイドルへ投資する事で――。
「不正な利益でCDやグッズを購入し、超有名アイドルの勢力を強化。そして、正規の利益で支えられているコンテンツを強引に潰す気か」
「そこまでの事をすれば、海外の反応も悪くなる。一歩間違えれば、日本が超有名アイドルが支配する国と言う認識を広める事になるだろう」
佐倉提督は超有名アイドル勢力が不正な利益で強化される事を懸念するが、それを否定するのは大和だった。
海外からも完全孤立する事になれば、超有名アイドル商法で国債を償却出来たとしても――不信感を広める事になる。
政府としても、日本が超有名アイドルの支配する国という認識を受け、観光客が激減すれば再び借金大国へ逆戻りだ。
「結局、あの時にやった事は無駄だった――?」
阿賀野はサバイバーの時に元凶とも言うべきアイドルプロデューサーの野望を打ち砕いたはずだった。
しかし、それでも同じ事は別の人物によって引き継がれていたのである。
結局、超有名アイドルとの戦いは終わらない。
それこそ、特撮ヒーローや戦隊ヒーロー、女児向けの変身ヒロイン作品で新シリーズが始まるのと同じ感覚。
あの時に止めたはずの世界線は誰かによって強制的に再起動し、同じようなテンプレで事件は起きていくのだろうか?
同日午前10時20分、ボーリングのピンが特徴的なアミューズメント施設に花江提督が姿を見せた。
本来ならば、もう少し早くに到着しているはずだったのだが、思わぬ妨害に遭遇して送れた形である。
「阿賀野――どういう事だ?」
花江提督は目の前の状況を見て、思わず問いかける――。
「何者かの襲撃があって、それに対応しただけ」
阿賀野はさらりと答えるが、それでも事情を説明出来たとは言えないだろう。
「ここの敵勢力は未確認事情もある――と言ったはず」
花江提督は他の提督等にも遊戯都市の勢力と接触する事は控えるように指示していた。
しかし、今回は花江提督も別勢力と遭遇、素の指示も無駄な物になってしまったが。
「まさか、サバイバーの提督勢まで一斉に来るとは――計算外と言うべきか」
唐突に姿を見せた白衣の女性、それはシヅキ=嶺華=ウィンディーネだった。
彼女としては別勢力が遊戯都市に姿を見せた事は連絡を受けているが、その勢力がパルクール・サバイバーのサバイバー運営とは想定外である。
「シヅキ? まさか、今回のアキバガーディアン襲撃は――」
状況がややこしくなったのは、大和のこの発言からだった。アキバガーディアン、サバイバー運営、更にはアイドル投資家等――。
「こちらでは把握していない! アイドル投資家やフジョシ勢、夢小説や――」
シヅキの方はARガジェットを取り出す事無く、大和に反論する。ARガジェットを抗争等で使用するのは禁止されているからだ。
「だとすれば、偽者の出現をどう考える!」
大和の方はアガートラームを展開し、シヅキに殴りかかろうとしていた。しかも、アガートラームの力で周囲の監視カメラ等を停止させたのである。
「歴史は繰り返す――とでも言って欲しいのか?」
シヅキは大和のアガートラームを素手で受け止めた。ARガジェット同士で衝突した場合、被害が相当なものと判断した為だろう。
一方で、阿賀野や花江提督は手も足も出ない。何故なら、2人のARガジェットはアガートラームの力で無効化されているからだ。
3分後、システムの方も回復したので花江提督も止める為に動こうとしたが、既に決着はついていた。
仮にバトルとなっていた場合、この勝負はシヅキの勝利である。
「アガートラームに対抗できるガジェット――それは、存在しないはず!」
大和は自分が負けたことを認めたくないのだが、拳を受け止めた右腕――その白衣に隠されていたのはARガジェットだった。
しかも、そのガジェットは銀色のガジェットであり、それを確認した大和の目は――。
「そのガジェットは……」
思わず大和の声が震える。この状況では、負けを認めなくてはいけないのかもしれない。
それほどのガジェットをシヅキは隠し持っていた――と認めなくてはいけないのだ。
「これは、決戦まで隠し通すつもりでいた。マスコミ連中やアイドル投資家、まとめブログの管理人等に情報を知られたくないからだ」
その時、シヅキの右腕に特殊な大型籠手が装着されるが――数秒後には大型籠手はCGが消えるかのように消滅した。
「その籠手は――アガートラームか」
花江提督はシヅキの使用したアガートラームに見覚えがあった。かつて、別の世界線上で使用されたアガートラームとデザインが酷似している。アガートラーム自体は、アカシックレコードに設計図が存在し、そこから自作する事も不可能ではない。
しかし、それを踏まえたとしてもアガートラームが同じ世界線上に複数存在することはあり得るのだろうか?
「俗にいうスターシステム――それが、アカシックレコードの秘密と言える」
その言葉を残し、シヅキは姿を消す。その頃には、監視カメラの方も動きだし、シヅキの使用したシステム制御が解除されたという事なのかもしれない。