新たなる提督(その3.5)
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3月28日午前10時、ARゲームのゲリラロケテストの噂を聞いた大和アスナは、その場所へと向かうのだが……。
「まさか、ここになるとは」
その場所とは、花江提督がここ最近出没しているボーリングのピンが特徴的なアミューズメント施設である。
「あの人物は――?」
施設の入口へ向かおうとした大和だったが、駐輪場に何処かで見覚えのある人物が見えた。
その人物は、黒髪ロング、眼の色は黒、身長170センチでぽっちゃりと言われそうな体格の人物。服装が地味な気配もして、誰なのか即座に思い出せない。
「――誰か見ている?」
先ほどの女性が大和の視線に気付く。しかし、その頃には大和は店内に入っていた為、すれ違いになった。
5分後、待ち合わせ中の女性のスマートフォンが鳴りだし、彼女の方も何かと思って取り出す。
『――今、何処にいる?』
声の主は男性だ。そして、彼女にとっては聞き覚えのある声でもある。
「指定されているボーリングのピンが見える――」
『それならば問題ない。こちらは少し非常事態が起こって、若干だが遅れる』
「非常事態? また超有名アイドルなの?」
『今回は相手が違う。あの勢力――ネット炎上勢は知っているだろう』
「サバイバーの時も名前は出てこなかった、あの組織ね」
『その通りだ。こちらの方を――?』
途中で声が途切れるのだが、電波障害の類ではない。それならば、ノイズが入るからだ。
「どちらにしても、店内入らずに待つしか方法は――」
彼女が店の前で待ち合わせをしようとした矢先、何かの音が聞こえた。
その音と言うのはビームライフル的な何かであり、彼女が耳に装着している特殊ヘッドフォンでしか聞き取れない。
それが意味している物とは、ひとつしかない。それはARゲームである。
「遊戯都市という話は聞いていたけど、ここまでの物だったなんて――」
次の瞬間、彼女はヘッドフォンを外し、鞄に収納していたARメットを取り出す。
そして、メットを被ると同時に、彼女の私服は瞬時にしてARアーマーへと変化した。まるで特撮の戦隊物やメタルヒーローを思わせる。
『待ち合わせは向こうも遅れる以上、まずはあちらを――』
彼女の名は阿賀野菜月、かつてサバイバーの一件でコンテンツ流通と付き合い方の歪む定義を変えようと動き出した人物であり――アカシックレコードを知る人物でもある。