新たなる提督(その3)
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3月27日、この日も花江提督はボーリングのピンが特徴的なアミューズメント施設へ。
「あれは――?」
花江提督が目撃した物、それはランニングガジェットとも異なる軽装タイプの装着型ガジェットである。
装甲部分が特殊な物質で出来ており、AR画像と合成する事で巨大ロボットの様なデザインのガジェットも再現可能という物だ。
この技術は武器のフレームのみがARガジェット、それに装着する装甲部分はCG映像という合成技術を利用している。
まさか、あの技術を応用し、ここまでの物に仕上げているとは予想外の展開だった。
「そう言えば、あの時も――」
花江提督が思い出していたのは、大型ガジェット暴走事件だった。
その後、新型ガジェットを強奪しようとした小野伯爵が――というのもあった。
「小松提督が開発した物は、AR画像になるのはパネル部分と一部装甲だけだったが――ここまで可能になっているとは驚いた」
ARゲームを取り巻く環境も変わりつつあり、ARゲームで使用しているシステムとは別物がゲームショウ等で展示される時代になっている。
向こうがAR技術を開発しているという話は、アキバガーディアンにも遊戯都市奏歌にもとどいているはずだ。
さすがに、アカシックレコード経由の技術とは大きく異なるAR技術である事が判明するのは、ゲームショウのレポートがネット上にアップされてからである。
「それ以外にもARゲームの技術は進歩しつつある。下手に権利を独占しようとはせず、有効活用して欲しい物だが――」
今日は特に待ち合わせしている人物もいない為、そのまま自動ドアの前に立ち、施設内へと入っていく。
午前11時、花江提督が音楽ゲームをプレイしている頃、提督勢の何者かが施設の近くまでやってきた。
「サバイバーの運営が来たというのは本当か?」
「間違いない。昨日にも目撃しているというつぶやきがあった」
「八郎丸提督の間違いではないな?」
「向こうの勢力とは制服が違う。そこまでヘマはしない」
「では、突入を――」
提督服を着ている集団が施設の駐車場近辺に集まっていたタイミングで、何者かが姿を見せたのである。
『まさか、ここでも便乗して炎上しようという連中がいるとは――』
目の前に姿を見せたのは、青をベースとしたカラーリング、機械天使と言えるようなモチーフ、剣型のARガジェット――。
細部は微妙に異なり、胸も若干ある。ARアーマーのインナースーツもエクスシアとは大きく異なるのだが――。
「エクスシアだと!?」
「奴が複数人いると言う話は聞いていない!」
「何がどうなっているのか?」
提督の何人かがエクスシアと誤認識し、そのまま逃亡する者もいた。
しかし、逃走せずに偽者だと判断した提督は目の前の人物に攻撃を仕掛ける。
「エクスシアの海賊版が出回っているという話――まさか、あのサイトの情報か!?」
逃亡せずに攻撃を仕掛ける人物の中には、目の前の人物がエクスシアとは別人と考える者もいた。
それでも、抵抗をしようと言うのであれば容赦はしない――はずだったが、彼らは思わぬミスを起こしていたのである。
『やはり、貴様達もあの情報を鵜呑みしているのか――』
そして、エクスシアと思わしき人物は、ARブレードのビームエッジを展開し、その一振りで襲いかかって来た提督勢をあっという間に一掃した。
「あれだけの人数を一振りで? まさか、貴様のガジェットは外部ツールを使っている違法ガジェットな――」
一人だけかろうじて防御した人物もいたが、不用意な一言を喋ったことで更なる一振りを受ける事になった。
『レーヴァテインを違法ガジェットと――他エリアのARガジェットに関しても情報を仕入れるべきだったな――』
エクスシアと思われた人物、その正体はレ―バテインだったのである。このコードネームを使う人物は、遊戯都市奏歌では皆無だが、他のエリアでは一人だけいた。
「――しかし、この装備のままで歩きまわる事も可能だとは、想定外だったが」
バイザーをオープンして見せた正体、黒のロングヘアーで青い瞳、その顔を見た一部の提督は指を指して震えているようだ。
「上条――あのバウンティハンターが、遊戯都市に来ただと?」
彼女の名は上条静南、過去にレ―バテインという大型ガジェットを使用し、バウンティハンターとしてサバイバー事件及びAI事件で活躍した人物だ。