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仕組まれたレース(その4)

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 3月12日午前11時20分、スタート地点に設置されたランプが点灯し、ランナーが一斉にスタートする。


 一斉スタートと言っても、F1等のモーターレースと同様にポジションが決まった段階でのスタートではない。


 一般的なマラソンと同様に一斉スタート――と言いたい所だが、赤ランプが突如としてイエローランプに変化する。


『――スタートのチェックを行った結果、フライングが発生いたしました。ただ今、判定を行います。その為、スタート時刻が遅れます』


 放送を聞いたプレイヤーが一斉にどよめく程の展開になった。何と、フライングの発生である。


 陸上競技では、2回目のフライングで失格になる競技、1回目のフライングで一発退場という競技もあるのだが――。


「あれか――」


 ある選手が客席を指差すと、そこには順位表示のモニターがあり、そこには一斉スタートするプレイヤーの様子が表示された。


「これは、物凄い波乱になりそうだな」


「明らかなフライングもいる以上、欠場が複数人出るのは決定的か」


「10人以上のフライングが出たら、レースが成立しなくなるのでは?」


「例え1人になってもレースは成立する。その場合はタイムトライアルになると思うが」


「5人は確定だろう。おそらくは、周囲に外部チートを持っているプレイヤーがいて、焦ったという可能性もある」


 モニターを見て、裁定を待つプレイヤーも心配をしている。


 フライングの場合、シティフィールドでは一発で欠場となり、スコアにペナルティが追加、後のレースにも影響を及ぼす。


 さすがに競艇の様な返還欠場とは違うのだが、類似ケースとしてはそれに似たような物だろう。


「中には、ARゲームで違法ギャンブルを運営している連中も――という話だ」


「野球賭博や相撲の八百長等、イースポーツでも不正を行ったプレイヤーに厳重注意が――」


「ARゲームがルールに厳格と言われているのは、ネット炎上を防ぐ為と言うのもあると言う」


 周囲が、そんな話をしている間に判定が出たようだ。


『フライング該当者は5名、それとは別に違法ガジェットを発動していたプレイヤー10名を特定――失格の判定を下しました』


 フライングが5名、別件の違法ガジェットで10名――合計15名がリタイヤとなった。


 しかし、フライングはスコアペナルティだけで何とかなるかもしれないが、問題は違法ガジェットの方だ。


『なお、違法ガジェットと電波障害の因果関係は調査中ですが、フライングの原因に外部ツール等が関係しているのは事実です』


 その後もスタッフの説明が入り、それに応じる形でフライングに該当するプレイヤーが退場する。


 今回のフライングは運営の不手際等とは違う為、何らかのフォローはされるかもしれないが、フライング判定を受けたプレイヤーは驚くしかできない。


 その一方で、チートで失格判定を受けたプレイヤーは納得がいかず、運営に直接抗議も考えているようだ。



 直接抗議を考えているプレイヤーの手には、シティフィールドでは持ち込み禁止のARシューティングで使用されるガジェットがある。


「せっかくチェックを通過したのに、走れないとはどういう事だ?」


「こちらはレースを走れないと、報酬がもらえないと言うのに――」


 ある人物の言った報酬、それはイースポーツ的な賞金という意味合いではなく、喋り方からして明らかに八百長的な物と言える。


「ARゲームで八百長行為とは――」


「そうしたモラルブレイカーがゲームを終了に追い込み、超有名アイドルコンテンツの唯一神化を加速させる」


「お前達のやっている事は、詫び石騒動等で便乗して騒ぐ連中と同じだ」


「虚構の記事を本物と思わせるようなつぶやきを投稿し、それを利用してアフィリエイト系サイトに誘導するような手段を使う連中は――」


 観客とプレイヤーを巻き込み、ある種のリアル炎上騒動を思わせるような状態になりつつある。このままでは、レースどころではない。



 その状況下、蒼空そうくうナズナには周囲の音は全く聞こえていない。ミュートモードにしている関係もあるのだが。


 蒼空以外にも数人がバイザーをミュートにしており、外部のガヤをシャットアウトしている。


 それほどまでに、彼らのやっている事は超有名アイドル投資家やアフィリエイト系まとめサイトの管理人にネタを提供している物――。


「仕組まれたレース――おそらく、今回の騒動は仕組まれた範囲ではないだろう」


 蒼空はレースが仕組まれている部分に関して、また再燃しつつあった。今は考えるべきではないのだが……。


 蒼空以外にも、今回のリアル炎上は想定外の行動であり、本来は別の何かにあると考えている人物はいる。


 実際、あのフルバーニアンガジェットのプレイヤーはフライングをしていない。おそらくは、本命は向こうである可能性が高い。



 午前11時30分、騒動が暴動になる一歩手前、ある人物の介入で場の空気は一瞬で収まった。


「あくまでも、レースはレース。それ以外の手段を使ってのゴリ押しは――自分の技量が低い事をネット上に晒すのと同じだ」


 そこに現れたのは、身長189という長身、黒髪のショートヘアにメガネを着用した女性である。


 3サイズは不明だが、アスリート系の体格を思わせる。巨乳ではないようだが――。


 彼女の名前は桜崎未央さくらざき・みお、ネット上では変わり者としてマニアには有名だ。


「それ以外だと? ARガジェットを使っている以上、ARゲームではないのか?」


 ある1人のプレイヤーがARガジェットのロングスピアを桜崎に向かって振り下ろす。しかし、それを回避するような様子を彼女は見せない。


「分かりやすく説明してやる。そのガジェットは、シティフィールドでは持ち込みが認められていないメーカーのARガジェット――」


 桜崎は、振り下ろされたロングスピアを右手で受け止める。それと同時に、受け止められたロングスピアは映像が消滅し、フレーム部分だけが残った。


「つまり、このように本来のフィールドでパワーを発揮するARガジェットも、別フィールドではお荷物同然になると言う事だ」


 この光景を見た襲撃を考えていたプレイヤーは投降、アキバガーディアンが身柄を確保した。


「本来であれば、この姿を中継も行われている状況で晒したくはなかったが――非常事態ゆえに止む得ないか」


 周囲にカメラが回っていない事を確認し、桜崎は姿を消した。



 一連の騒動が終わり、レースの再会は10分後の午前11時45分になる事が改めて告知される。


 この騒動に関して、蒼空は周囲の環境音をミュートにしていた関係で耳に入っていなかった。


『まもなく、レースを再開します。該当するプレイヤーの方は、変更になった番号のスタートラインで準備をお願いします』


 放送のアナウンスが先ほどまでの声とは違う人物になっている。どうやら、仕事の引き継ぎが行われたらしい。

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